ククサ作りにおいて、最も基本的かつ重要な道具が「ナイフ」です。特に、一般的な木工ではあまり使用されない特殊な形状のナイフが必要となるため、選び方には注意が必要です。ククサの滑らかな曲線を削り出すためには、直線の刃を持つ「カービングナイフ(スロイドナイフ)」と、湾曲した刃を持つ「フックナイフ(スプーンナイフ)」の2種類を揃えることが推奨されます。
まず、カービングナイフですが、これはククサの外側や持ち手の部分を成形するために使用します。農業で使用する接ぎ木ナイフやカッターナイフでも代用は可能ですが、刃の厚みと剛性が全く異なります。ククサ作りでは、硬い乾燥した木材(白樺のコブなど)を相手にすることが多いため、刃厚が2mm以上あり、力を入れても刃がたわまない専用のナイフが理想的です。特に「モーラナイフ(Mora knife)」のモデル106や120は、世界中のウッドカーバーに愛用されており、刃の長さとハンドルの握りやすさが絶妙なバランスで設計されています。刃の長さが約60mm程度の短いモデルの方が、細かいコントロールが効きやすく、初心者には扱いやすいでしょう。
次に、カップの内側をくり抜くために不可欠なのがフックナイフです。このナイフは刃が「J」字型や「U」字型に湾曲しており、手首を返す動きで木材をえぐるように削ることができます。選ぶ際のポイントは「カーブの半径(ラジアス)」と「刃の向き」です。ククサのような深さのある器を作る場合、カーブが緩やかなものと、急なものの両方があると便利ですが、最初の一本としては、万能に使える標準的なカーブ(半径13mm〜20mm程度)のものを選ぶと良いでしょう。また、フックナイフには右利き用と左利き用、あるいは両刃タイプが存在します。両刃タイプは押しても引いても削れる利点がありますが、親指を刃の背に添えて力を加える「サムプッシュ」という技法が使えないため、初心者には片刃タイプ(右利きなら右利き用)を強くおすすめします。
材質に関しては、炭素鋼(カーボンスチール)とステンレススチールの2択になります。炭素鋼は非常に硬く、鋭い切れ味を持続させることができますが、水分や樹液ですぐに錆びてしまうため、使用後のオイルメンテナンスが欠かせません。一方、ステンレススチールは錆びに強く、メンテナンスが容易ですが、研ぎ直しに少しコツがいります。農業の現場で刃物の扱いに慣れている方であれば、切れ味重視の炭素鋼を選ぶことで、硬い木材でもストレスなくサクサクと削り進めることができるでしょう。
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手作業ですべてを削り出すことはククサ作りの醍醐味ですが、カップの内側をすべてフックナイフだけで掘り下げる作業は、非常に時間と握力を要する重労働です。特に乾燥した硬い木材を使用する場合、この「中掘り」の工程だけで数日を要することも珍しくありません。そこで、農業用の小屋や納屋に眠っていることが多い「電動工具」を活用することで、作業時間を大幅に短縮し、体への負担を軽減することができます。
最も役立つ電動工具は、電動ドリルドライバーまたはインパクトドライバーです。これらに「フォスナービット(座ぐりカッター)」や「木工用ドリルビット」を装着することで、カップの内側の不要な木材を一気に取り除くことが可能です。通常のドリルビットは先端が尖っており、底面に円錐形の穴が空いてしまいますが、フォスナービットであれば底が平らな穴をあけることができるため、ククサの底面の厚みを均一に残す調整がしやすくなります。
具体的な手順としては、まずククサの飲み口となる部分に円を描き、その内側に沿ってドリルで複数の穴をあけていきます。この際、重要なのは「深さの管理」です。ドリルビットの軸にマスキングテープを貼って目標の深さをマーキングしておき、底を突き抜けてしまわないように慎重に掘り進めます。蜂の巣状に穴をあけた後、残った壁の部分をノミやフックナイフで崩していけば、手作業の数分の一の時間で荒削りが完了します。
また、ディスクグラインダー(サンダー)も強力な助っ人となります。木工用の研磨ディスクや、チェーンソーの刃がついたカービングディスクを装着すれば、外側の不要な部分をバターのように削り取ることができます。ただし、ディスクグラインダーは回転数が非常に高く、切削能力が高すぎるため、一瞬の操作ミスで作品を台無しにするだけでなく、重大な怪我につながるリスクもあります。使用する際は、必ずククサ材を万力(バイス)やクランプで強固に固定し、両手でしっかりと工具を保持してください。農業用手袋の中でも、防振機能や切創防止機能がついたものを着用することをお勧めします。
より繊細な作業には、ルーターやトリマーといった回転工具も有効ですが、これらは騒音が大きく粉塵も大量に発生します。農作業用の防塵マスクとゴーグルは必須です。電動工具はあくまで「荒削り」までの使用にとどめ、最終的な形状出しや表面の質感作りは手道具のナイフで行うことで、手作りならではの温かみのある仕上がりと、効率の良さを両立させることができます。
OFF CORPORATION - 木工用フォスナービットや特殊な切削ビットの種類と用途が詳しく解説されています。
ククサ作りを始めるために、必ずしも高価な専用道具をすべて買い揃える必要はありません。特に普段から農業に従事されている方であれば、納屋や軽トラックに積んである「農具」や「山林道具」の中に、ククサ作りに驚くほど適した代用品が眠っていることがよくあります。ここでは、専用ツールを買う前に試してほしい、身近な道具の活用法を紹介します。
まず、原木の切り出しや大まかな成形に活躍するのが「剪定用ノコギリ」です。木工用の精密ノコギリ(胴付き鋸など)は、乾燥した板材を切るために設計されており、繊維の詰まった生木や丸太を切ると刃が詰まりやすい傾向があります。一方、果樹園などで使われる剪定用ノコギリ(特に「ゴムボーイ」などの折りたたみ式)は、刃のピッチが大きく、水分を含んだ木材でもザクザクと切断できます。この「アサリ」が大きく、切粉の排出が良い特徴は、ククサのブロック材を切り出す際に最適です。また、直刃よりもカーブソー(曲刃)の方が、丸太への食いつきが良く、少ない力で切断できるため、体力的な負担も軽減されます。
次に注目すべきは「手斧(ハンドハチェット)」や「鉈(ナタ)」です。これらは枝打ちや薪割りなどに使われますが、ククサ作りにおいては「ハツリ作業(荒削り)」で最強のパフォーマンスを発揮します。ナイフでちまちまと削るよりも、斧の重さを利用して不要な角を叩き落とす方が圧倒的に早いです。日本の伝統的な「海老鉈(エビナタ)」や「剣鉈」は、刃が厚く重量があるため、正確なコントロールには慣れが必要ですが、しっかりと研ぎ上げられていれば、カービングアックスの代わりとして十分に機能します。使用する際は、切株などの台の上で作業し、刃の軌道上に自分の手足を置かないよう細心の注意を払ってください。
さらに、「彫刻刀」も侮れません。小学校の図工セットにあるような安価なものではなく、本職用やDIY用のしっかりした鋼(ハガネ)の彫刻刀があれば、フックナイフの代用として内側の掘り込みに使えます。特に「丸刀」の幅が広いもの(15mm〜20mm程度)は、スプーンやククサの内側をさらうのに適しています。フックナイフほど深くえぐることは難しいですが、浅めの広口カップを作る場合や、電動ドリルで穴をあけた後の整形作業には、彫刻刀の方が小回りが利き、安全に作業できる場合もあります。
意外なところでは、「万能ハサミ」や「剪定鋏」も、薄い板材や仕上げ前のささくれを除去するのに役立ちます。専用のウッドカービングツールは魅力的ですが、まずは手元にある「切れる道具」を見直し、それらを研ぎ直して使うことから始めるのも、道具への愛着を深める良い工程と言えるでしょう。
Silky(シルキー) - 剪定用ノコギリの刃の種類や、生木切断に適した「アサリ」の構造について学べます。
ククサの形状が完成しても、それで終わりではありません。口当たりを良くし、木材を保護するための「仕上げ」の工程こそが、作品の品質を決定づけます。この段階で主役となるのが、サンドペーパー(紙やすり)とフィニッシュオイルです。農業で使う道具は機能重視で粗い仕上げのものも多いですが、ククサは唇が直接触れる食器であるため、極めて滑らかな表面処理が求められます。
サンドペーパーは、目の粗さを表す「番手」を段階的に上げていくのが基本です。まずは荒削りで残ったナイフの跡や傷を消すために、#80〜#120程度の粗いペーパーから始めます。この段階で深い傷を完全に取り除いておかないと、後でどれだけ細かいペーパーをかけても傷が消えず、仕上がりが台無しになります。次に#240、#320、#400と順に番手を上げていきます。一般的にククサであれば#400〜#600程度で十分にスベスベになりますが、より光沢を出したい場合は#800や#1000まで磨き上げます。
ここでプロのような仕上がりにする裏技が「水引(みずひき)」です。#320程度まで磨いた段階で、一度ククサの表面を水で濡らし、乾燥させます。すると、水分を含んで寝ていた木の繊維が毛羽立ってきます。この毛羽立ちを細かいペーパーで削り落とすことで、実際に飲み物を入れた際にザラつきが出るのを防ぐことができます。
仕上げのオイルに関しては、必ず「乾性油」を選ぶことが重要です。乾性油とは、空気中の酸素と結合して固まる性質を持つ油のことで、木材の内部に浸透して硬化し、耐水性と強度を高める効果があります。代表的なものは「クルミ油(ウォルナットオイル)」「アマニ油(亜麻仁油)」「エゴマ油」です。これらは食用として販売されているものを使用できるため、口に入れても安全です。特にクルミ油は、特有の香ばしい香りがあり、色付きも良く、アレルギーがない限りククサの仕上げには最適とされています。
一方で、オリーブオイルやサラダ油などの「不乾性油」は、いつまで経っても固まらず、木材の中で酸化してベタついたり、嫌な臭いを発したりするため、木工仕上げには不向きです。絶対に塗らないようにしましょう。また、より強固なコーティングを求める場合は、「蜜蝋(ミツロウ)」をオイルに混ぜたワックスを使用するのもおすすめです。蜜蝋は保湿力が高く、上品な艶を出すことができます。養蜂を行っている農家の方であれば、自前の蜜蝋を使って自家製ワックスを作るのも素晴らしいストーリーになります。
オイルフィニッシュの方法は簡単です。たっぷりとオイルを塗布し、数十分置いて木に吸い込ませた後、余分なオイルをウエスで拭き取ります。これを数日かけて2〜3回繰り返すことで、深みのある飴色のククサが完成します。
和信ペイント - オイルフィニッシュの仕組みや、乾性油と不乾性油の違いについて専門的な解説があります。
最高のナイフや斧を手に入れても、使っていれば必ず切れ味は落ちてきます。特にククサ作りで使われる広葉樹(白樺、桜、カエデなど)は硬度が高く、刃先への負担が大きいため、頻繁なメンテナンスが不可欠です。切れない刃物で無理に作業することは、仕上がりが汚くなるだけでなく、余計な力が入って刃が滑り、大怪我をする最大の原因となります。農具の鎌や鍬を研ぐのと同様に、カービングナイフの研ぎも日々のルーティンに組み込む必要があります。
カービングナイフの日常的なメンテナンスには、「ストロップ(革砥)」と呼ばれる道具を使用します。これは板に革を貼り付けたもので、革の表面に「コンパウンド(研磨剤)」を塗り込み、その上で刃を滑らせることで、目に見えないレベルの刃先の捲れや微細な欠けを整えるものです。砥石で研ぐのは「刃を削って形を作る」作業ですが、ストロップは「刃先を整えて切れ味を戻す」作業です。作業の合間、30分に1回程度ストロップで数回撫でるだけで、驚くほど切れ味が復活し、常にカミソリのような鋭さを維持できます。フックナイフの内側を研ぐために、丸い棒に革を巻いた専用のストロップを自作するのもおすすめです。
刃こぼれしてしまったり、ストロップでは切れ味が戻らなくなったりした場合は、砥石(オイルストーンや水砥石)の出番です。カービングナイフの多くは「スカンジグラインド」と呼ばれる、刃の側面に角度(ベベル)が一つしかない単純な形状をしています。この広いベベル面を砥石にベタっと密着させ、角度を変えずに研ぐことがポイントです。農具研ぎで慣れている「二段刃(小刃合わせ)」にしてしまうと、木への食い込みが悪くなるため、基本的にはベタ研ぎで鋭角に仕上げます。
フックナイフの研ぎは難易度が高いですが、耐水ペーパーを丸い棒や木の枝に巻き付け、それをヤスリとして使う方法が初心者には簡単です。内側のカーブに合わせて棒を動かすことで、複雑な曲面も研ぐことができます。粒度を#400から#2000くらいまで上げていけば、鏡面のような刃先に仕上がります。
また、長期保管する際の錆び防止も重要です。特に炭素鋼のナイフは、湿気の多い納屋に放置すると一晩で錆びます。使用後は椿油や刃物用油を薄く塗り、湿気を吸う革シース(鞘)に入れっぱなしにせず、通気性の良い場所で保管するか、新聞紙などで包んでおくと良いでしょう。道具を慈しみ、常に最良の状態に保つこと。この精神こそが、美しいククサを生み出す最大の秘訣と言えるかもしれません。
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