袋かけしても卵が産みつけられます
ナシヒメシンクイの卵は扁平でほぼ円形をしており、乳白色の特徴的な見た目をしています。大きさは直径約0.9mmと非常に小さく、肉眼での発見は困難です。1円玉の直径が20mmですから、その20分の1程度の大きさということになります。
産卵場所は果実の場合、主に底部の凹み(梗窪やがく窪)や果実同士が接触する部分に集中します。通常1つの果実に1卵が産みつけられるのが基本です。
有袋栽培を行っている場合でも油断はできません。袋の表面や果柄部、さらには袋の破れ目や袋と果実の接触面にも産卵されることがあります。つまり袋は完全な防御にはならないということですね。
葉裏や新梢にも産卵されるため、果実だけを注視していても見逃す可能性があります。特に越冬世代成虫は4月頃から発生し、ウメやサクラなどの新芽に産卵する習性があるため、ナシ園周辺にこれらの樹木がある環境では注意が必要です。
産卵は成虫の羽化後から始まりますが、ナシヒメシンクイの場合は羽化1~2週間後が産卵盛期となります。これはモモシンクイガの産卵盛期(羽化2日後頃)と比較すると遅いタイミングです。
埼玉県の病害虫診断資料(PDF)では、卵の形態や産卵部位について写真付きで詳しく解説されています
卵期間は気温によって大きく変動します。生育適温である25℃では約7日で孵化しますが、気温が低い早春では長くなり、高温期には短縮されます。
野外の気温条件下では、第1世代卵で9~15日程度、第2世代卵と第3世代卵で4~10日程度と推定されています。第1世代は気温がまだ低い時期のため卵期間が長く、夏季の第2世代以降は高温により孵化が早まるわけです。
この卵期間の違いが防除タイミングを複雑にしています。7月以降は世代が入り混じって発生するため、単純な暦日だけでは防除適期を判断できません。
孵化した幼虫は直ちに果実へ食入します。果面に産下された卵から孵化した幼虫は、果底から果実内に侵入するため、外部から幼虫の姿は見られません。
この時点で防除は困難になります。
したがって防除適期は、卵から幼虫が孵化する直前のタイミングということになります。成虫発生最盛期より7~10日後が目安とされるのは、この産卵から孵化までの期間を考慮しているためです。
近年の高温傾向により、卵期間がさらに短縮される傾向にあります。2023年や2024年のような高温年では、各世代の雄成虫誘殺盛期が平年値より大きく前進したという報告もあります。
殺虫剤の系統によって卵に対する効果は大きく異なります。すべての殺虫剤が卵に効くわけではありません。
卵に対して高い効果を示すのは、ピレスロイド系、有機リン系、ネオニコチノイド系殺虫剤です。青森県りんご研究所の試験では、これらの系統で補正死亡率が高い結果が得られています。
逆にジアミド系とスピノシン系殺虫剤は、卵に対する効果が低いことが確認されています。これらは孵化幼虫には効果を示しますが、殺卵効果は期待できません。
ナシヒメシンクイと近縁のスモモヒメシンクイでも、有機リン剤やピレスロイド剤の殺卵効果が低いという報告があり、種によっても薬剤感受性が異なる可能性があります。
防除戦略を立てる際は、卵期と孵化幼虫期の両方をカバーする必要があります。卵に効果が低い薬剤を使用する場合は、孵化前に散布するタイミングがより重要になります。
フェロモントラップで成虫の発生消長をモニタリングし、発生ピークから逆算して防除時期を決定する方法が推奨されます。埼玉県の発生消長データによれば、重点防除時期は7月中旬、8月中旬、9月上旬です。
青森県産業技術センターの研究報告(PDF)に、各種殺虫剤の卵およびふ化幼虫に対する効果試験結果が詳しく掲載されています
卵は非常に小さいため、目視での発見は熟練を要します。
虫眼鏡やルーペを使った観察が実用的です。
果実を観察する際は、底部の凹み(梗窪部分)を重点的にチェックします。果実同士が接触している部分も見落としやすい産卵場所です。
がく窪付近は拡大して見る必要がありますね。
有袋栽培の場合は、袋の表面や果柄部も確認対象です。袋に小さな破れがないか、袋と果実が密着している部分がないかも点検します。
新梢の食入被害(心折れ症状)が見られる場合は、その周辺の葉裏も調べる価値があります。新梢先端が萎れたり枯れたりしている症状は、幼虫が新梢内部を食害している証拠です。
産卵調査は、フェロモントラップによる成虫発生消長と組み合わせると効率的です。成虫発生のピーク後1~2週間が産卵盛期ですから、その時期に集中的に観察します。
モモ園では上段の果実ほど産卵数が多い傾向があります。結果部位が高い果実から優先的にチェックすると効率が上がります。
ただし現実的には、広い果樹園で全果実の卵を探すのは困難です。そのため防除は予防的に、成虫の発生消長から逆算したタイミングで実施するのが基本となります。
化学農薬だけに頼らない総合的な防除が重要です。複数の手段を組み合わせることで、より確実な管理が可能になります。
交信攪乱剤(コンフューザーN、ナシヒメコンなど)は、成虫の交尾を阻害して産卵数自体を減らす効果があります。成虫発生初期から使用し、ナシ園周囲を含めた広範囲での設置が効果的です。多目的防災網と併用するとさらに効果が高まります。
耕種的防除として、冬季の粗皮削りは越冬場所を減らす基本対策です。老齢幼虫はナシやモモの粗皮の下や間隙に薄い繭を作って越冬するため、これを物理的に除去します。
被害新梢や被害果は発見次第すみやかに摘除し、園内の密度を下げます。ナシ園付近のウメ、サクラ、スモモなどの新梢折れも同様に処理してください。
袋かけは物理的防除として一定の効果がありますが、完全ではありません。袋が果実に接すると加害される可能性があるため、薬剤防除との併用が必要です。
常発園では4mm程度の目合いのネットで園全体を覆い、成虫の侵入を物理的に防ぐ方法もあります。初期投資は必要ですが、長期的には農薬使用量を削減できます。
フェロモントラップによる発生予察は、適期防除の基本となる情報源です。各都道府県の病害虫防除所が公開する発生消長データを参考にしましょう。
薬剤抵抗性の発達を防ぐため、同一系統薬剤の連続使用は避けてください。卵に効く系統と孵化幼虫に効く系統をローテーションで使用する戦略も有効です。
農家webの梨の防除ページでは、シンクイムシ類に使える農薬と耕種的防除を組み合わせた総合的な管理方法が紹介されています
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