モモの「シンクイムシ類」は、幼虫が果実に食入して商品価値を大きく落とすため、被害が見えてからの対処では間に合いにくい害虫です。発生が増える前に“入口”を塞ぐ、つまり「産卵〜ふ化直後〜食入直前」を狙う発想が基本になります。現場では防除暦が出回りますが、あれは“地域の平年”を前提にした地図のようなものなので、年の気温や園の環境で前後します。
行政が示す防除の考え方として、モモの主要害虫(ナシヒメシンクイ等のシンクイムシ類)では、農薬散布の重点時期が複数回あること、さらに袋かけや越冬虫対策など農薬以外の手段も併記されています。例えば、重点防除時期の例として「3月下旬」「4月中旬〜下旬」「6月上旬」「7月上旬」「7月下旬」「8月中旬」など複数の山が示されており、単発の散布では“谷間の世代”が抜けやすいことが読み取れます。ここを理解しておくと、防除暦を見たときに「この散布は何世代目の入口を狙っているのか」が言語化でき、天候で散布が遅れた場合のリカバリーもしやすくなります。参考として、愛知県の資料ではナシヒメシンクイに対して袋かけ・新梢切除・粗皮削り・バンド巻きなどの非農薬対策と、重点防除時期を明記した上での農薬散布が整理されています。これは“モモのシンクイムシ対策を組み立てる骨格”として、そのまま転用できる考え方です。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/09c2fdc4c9d8a453dc04b0e0bdc3f11fa705409c
一方で、現場の防除暦(民間・JA等)には、病害と同時防除の形で「シンクイムシ類」が落弁期〜袋掛け前後に組み込まれていることが多く、混用や同日散布の判断が増えます。混用は便利ですが、目的が曖昧になると散布の質が落ちます。散布の目的を、(1)初期密度を下げる、(2)食入させない、(3)被害果を出さない、のどれに置くのかを先に決め、そこから薬剤・時期・散布範囲(樹冠のどこまで当てるか)を決めると失敗が減ります。
農薬で最も危険なのは、「効くかどうか」以前に“使い方の条件を外す”ことです。特にモモは収穫期が品種でズレ、さらに直売・観光・出荷ロットの都合で収穫日が動きます。すると、収穫前日数の制限がある薬剤は、暦どおりに散布したつもりでも実際は制限ギリギリ、あるいは超過になり得ます。防除暦の表に載っている「前日/回数」のような欄は、単なる注意書きではなく、散布計画そのものを縛る“設計条件”です。
公的資料でも、病害虫防除の説明では繰り返し「収穫前日数に注意」と明記されています。シンクイムシ類の防除は複数回が前提になりやすいので、なおさら「いつまで使えるか」を先に固定し、逆算で散布日を確保する必要があります。収穫前が詰まってきたら、農薬に頼るよりも袋かけ・被害果の早期除去・園内外の発生源を減らす方が安全に間に合う場面が出てきます。
もう一つの落とし穴が、同じ系統(同一RACコード相当)の連用です。ハダニ類の欄ですが、公的資料で「同一(RACコードが同じ)農薬の連用は抵抗性がつきやすいので注意」と明記されており、これはシンクイムシ類でも“考え方は同じ”です。効いていた薬が急に効かなくなると、散布回数を増やしても結果が出ず、コストも労力も増えます。現場では、薬剤名より「系統のローテーション」をカレンダーに落とし込む方が、数年後に効いてきます。
シンクイムシ類対策で、意外に効くのが「袋かけ」と「新梢の食入初期対応」です。袋かけは単に病害を防ぐ作業と思われがちですが、シンクイムシ類の“果実への到達”という経路を物理的に遮断でき、農薬散布の失敗許容度(1回抜けたときの被害の出方)を下げられます。さらに、袋かけは園全体の“被害果の発生源化”を抑える点でも価値があります。被害果が園内に残ると、次の世代を呼び込みやすく、翌年の初期密度にも影響します。
公的資料でも、ナシヒメシンクイ対策として「袋かけをする」ことが非農薬対策の筆頭に置かれています。また「食入初期の新梢を切り取って内部の虫を殺す」や、越冬虫を減らすための「粗皮削り」「秋期のバンド巻き」など、樹体・園内で“虫が生き残る場所”をつぶす手段が具体的に挙げられています。ここが重要で、農薬散布は“飛んできた成虫・ふ化幼虫”に強い一方、樹の隙間や粗皮下の越冬虫には限界が出やすいからです。農薬の効きが年によりブレる園ほど、実はこの「越冬虫・初期密度」側の手当てが不足していることがあります。
作業の段取りとしては、次のように“散布の外側”を固めると、農薬の回数が同じでも被害率が下がることが多いです。
シンクイムシ類は、フェロモントラップで発生消長(いつ飛んでいるか)を見ながら防除するのが理想ですが、ここに現場特有の難しさがあります。近年、性フェロモン剤(交信撹乱剤)を導入する園が増えたことで、園内に通常のフェロモントラップを置いても捕獲数が出にくくなり、従来どおりの調査が難しくなる場合がある、という指摘があります。つまり「トラップに入らない=発生していない」とは言い切れない状況が起き得ます。
この課題に対して、石川県の資料では“新しい調査の考え方”が紹介されています。ナシヒメシンクイでは、園地付近のサクラ並木にフェロモントラップを設置する方法が有効であることが示され、園内と発生時期・消長が一致することを確認した、とされています。これが意味するのは、交信撹乱をかけている園でも「園外の指標場所」を使うことで、発生の波をつかめる可能性があるということです。モモ産地で、周辺にサクラがある地形は珍しくないので、地域の指導機関と相談しつつ“見る場所”を変える発想は価値があります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/529be6497db3e5bd39d9db40404cd7bfa786ad97
また、モモシンクイガについては、多発条件下では交信撹乱剤を設置した園から5〜10m離れた位置に複数のトラップを設置することで、初発時期を調べることが可能だが、少発生やトラップ数が少ないと調査が困難、という現場的な条件も明記されています。これは「トラップは万能ではなく、密度と設置設計が効く」という、知っているようで曖昧になりがちなポイントです。トラップを“置いた事実”ではなく、“読めるデータが出る設計”にする(複数基、設置場所、園外指標)ことが、農薬の適期判断の精度に直結します。
参考:交信撹乱剤普及でトラップ調査が難しいときの新しい調査法(サクラ並木設置、モモシンクイガのトラップ設置距離の目安)
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/noken/noushi/boujositsu_dayori/documents/bojositsudayori2016-03.pdf
国内出荷だけを前提にしていると見落としがちですが、果樹のシンクイムシ類は“品質問題”だけでなく“物流の条件”になることがあります。石川県の資料では、モモシンクイガが台湾向け生果実などの輸出検疫の対象であり、台湾に輸出することになれば、産地には発生調査や防除の徹底が求められる、と明記されています。これは、単に「防除を頑張る」ではなく、「記録(いつ・どこで・何頭)」「証明できる調査」「地域としての統一手順」まで含めて求められやすい、という現場の未来を示しています。
ここで意外に差が出るのが、“ゼロを作る”ではなく“ゼロを説明できる”体制です。交信撹乱を入れるとトラップに入らず、数字が出ないことがありますが、そのときに「だから大丈夫」と言うのか、「だから園外指標や複数設置で初発を拾う」と言うのかで、後の信頼が変わります。輸出を今すぐやらない園でも、共同選果・産地ブランド・特別栽培など「説明責任が強い販路」に寄せるほど、この考え方は役に立ちます。
現場でできる“将来のための一手”としては、次の3つが堅実です。
参考:シンクイムシ類の非農薬対策(袋かけ・新梢切除・粗皮削り・バンド巻き)と重点防除時期の整理、収穫前日数の注意点
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/517172.pdf

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