過マンガン酸カリウムが酸化剤になるのはなぜ?農業での活用法

農業現場で耳にする過マンガン酸カリウム。なぜ強力な酸化剤として働くのか?その仕組みから、水質改善や鮮度保持といった意外な活用法までを解説します。色はなぜ消える?
過マンガン酸カリウムが酸化剤になるのはなぜ?農業での活用法
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色の変化が合図

赤紫色が消える現象は、相手を「酸化」し終えた証拠です。

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水質改善の切り札

井戸水の鉄分を除去し、ドリップチューブの目詰まりを防ぎます。

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鮮度保持の秘密

エチレンガスを分解し、果実の貯蔵期間を延ばす資材に使われます。

過マンガン酸カリウム 酸化剤 なぜ

過マンガン酸カリウム(KMnO₄)が農業や化学の現場で「最強クラスの酸化剤」として扱われる理由は、その分子構造の中にいる「マンガン(Mn)」が非常に不安定な高エネルギー状態にあるからです。

 

参考)過マンガン酸カリウムの性質と酸化還元反応について解説

具体的には、マンガンの酸化数が最高値である「+7」の状態にあり、周囲から電子(e⁻)を奪い取って、より安定した状態(+2など)に戻ろうとする性質が極めて強いためです。

 

参考)【高校化学】化学反応の色を理論部分から説明してみる。|塾講師…

この「電子を強引に奪い取る力」こそが酸化力の正体であり、相手の物質(汚れ、菌、有機物など)から電子を奪うことで、その物質を分解・無害化したり、性質を変えたりします。

農業現場においては、単なる消毒薬としてだけでなく、この電子のやり取りを利用して、目に見えないガスの除去や水質の改善など、非常に精密な化学反応コントロールに使われています。

 

参考)酸化還元滴定(実験・計算問題・指示薬・硫酸酸性にする理由など…

酸化反応で色が消える仕組みと中和滴定との違い

過マンガン酸カリウム最大の特徴は、反応の進行を目で見て確認できる「自己指示薬」としての性質です。

水溶液の状態では鮮やかな赤紫色(パープル)をしていますが、相手を酸化させて自身が還元されると、マンガンイオン(Mn²⁺)へと変化し、色がほぼ無色透明(条件によっては淡いピンクや褐色)になります。

 

参考)滴下する過マンガン酸カリウム水溶液の赤紫色が残りはじめるとは…

  • 反応前(酸化剤として待機中): 赤紫色(MnO₄⁻)
  • 反応後(電子を奪った後): 無色(Mn²⁺ ※酸性条件下)

これは、中和滴定でフェノールフタレインなどの指示薬をわざわざ入れるのとは対照的です。

「色が消えた=反応相手(汚れや還元性物質)がまだ残っている」あるいは「色が残った=反応相手がいなくなった」という判断が瞬時にできるため、農業用水の汚染度合いを簡易的にチェックしたり、土壌分析の現場で重宝されています。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/66/4/66_192/_pdf

農業用水の除鉄・除マンガンによる配管閉塞防止

施設園芸、特に養液栽培やドリップ灌水(点滴灌水)を行っている農家にとって、過マンガン酸カリウムは「配管詰まり」を防ぐ守護神となり得ます。

 

地下水や井戸水に含まれる「溶存鉄(二価鉄)」や「マンガン」は、そのままでは水に溶けていますが、空気に触れたり時間の経過とともに酸化して固まり、チューブの微細な穴を詰まらせる原因になります。

 

参考)https://www.monotaro.com/s/q-%E6%B6%B2%E8%82%A5%20%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%B3/

過マンガン酸カリウムをポンプの手前やろ過装置(マンガン砂ろ過装置など)で適切に使用すると、以下のような効果があります。

 

  1. 強制酸化: 水に溶けている鉄分を瞬時に酸化させ、水に溶けない「酸化鉄(赤サビの粒子)」に変えます。
  2. ろ過分離: 固形化した鉄分を砂ろ過機などで物理的にキャッチして取り除きます。
  3. 目詰まり防止: 結果として、ドリップチューブやエミッター内部での沈殿を防ぎ、均一な灌水を維持します。

このプロセスは、単なる塩素消毒では取りきれない頑固な金気(カナケ)を取り除くために非常に有効な手段として知られています。

 

参考)https://kinki.chemistry.or.jp/pre/a-416.html

鮮度保持のエチレンガス分解除去と貯蔵技術

これが検索上位にはあまり詳しく書かれていない、しかし農業収益に直結する独自視点の活用法です。

 

収穫後の果物や野菜が出す「エチレンガス」は、追熟を早めて腐敗の原因となりますが、過マンガン酸カリウムはこのエチレンを化学的に分解する能力を持っています。

 

参考)野菜や果実をエチレンガスから守れ!ガス発生のデメリットと対策…

鮮度保持触媒 (エチレン除去) - 日本ユニカ株式会社
このリンク先では、過マンガン酸カリウムを利用してエチレンを酸化反応させ、二酸化炭素と水に分解するメカニズムが解説されています。

 

具体的な活用シーンは以下の通りです。

特に海外輸出や長期貯蔵を狙う高付加価値作物の農家にとって、この「酸化分解力」は鮮度維持の生命線となります。

 

土壌の可給態窒素を推定する簡易分析法

土づくりにこだわる農家にとって、土壌中に「作物がすぐに利用できる窒素(可給態窒素)」がどれくらいあるかを知ることは重要ですが、従来の培養法は4週間もかかりました。

ここで活躍するのが、過マンガン酸カリウムを使った「COD(化学的酸素要求量)」の原理を応用した簡易分析法です。

 

参考)https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030911407.pdf

この方法のポイントは、「過マンガン酸カリウムが分解できる有機物 = 土壌微生物が分解しやすい有機物」という相関関係を利用している点です。

 

  • 原理: 土壌抽出液に過マンガン酸カリウムを加え、一定時間反応させます。
  • 測定: 消費された過マンガン酸カリウムの量(色の変化)を測定します。
  • 解釈: 消費量が多いほど、分解されやすい有機物(=将来的に窒素を供給源となる成分)が多いと推定できます。

これにより、迅速に土壌の「地力」を判定し、元肥の量を調整する精密な施肥設計が可能になります。

 

参考)https://www.kinkiagri.or.jp/activity/Sympo/sympo51(100921)/kato.pdf

危険性と保管・廃棄における厳格なルール

過マンガン酸カリウムは非常に有用ですが、取り扱いを間違えると火災や爆発の原因になる「危険物(消防法 第一類 酸化性固体)」です。

 

参考)過マンガン酸カリウムとは?特徴や保管方法を解説

農業用倉庫で保管する際は、以下のルールを絶対に守る必要があります。

 

  • 混合厳禁: 有機物、硫黄、金属粉、あるいは可燃物(ガソリンや軽油、木材、紙など)と接触させないでください。混ざると衝撃や摩擦で発火・爆発する恐れがあります。

    参考)http://www.showa-chem.com/MSDS/16441950.pdf

  • 遮光保存: 光によって分解が進むため、必ず遮光性のある容器に入れ、冷暗所で保管します。透明なペットボトルなどへの移し替えは厳禁です。​
  • 皮膚への付着: 皮膚につくと酸化作用で黒色のシミになり、火傷のような炎症を起こします。取り扱い時は保護手袋と保護メガネが必須です。​

また、不要になった廃液をそのまま水路に流すことは環境への負荷が大きいため(マンガンは重金属です)、専門の産業廃棄物処理業者に委託するなど、適切な処分が求められます。

 

参考)https://www.mutokagaku.com/dcms_media/other/0.5%25%E9%81%8E%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%B3%E9%85%B8%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E6%B6%B2_%20%E5%AE%89%E5%85%A8%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%88(SDS)_24.7.8.pdf