ゲノム編集遺伝子組み換え違いと食品安全性メリット技術

ゲノム編集と遺伝子組み換えの違いを整理し、安全性評価や表示制度、農業経営への影響まで農家目線で解説するとどう見えてくるのでしょうか?

ゲノム編集と遺伝子組み換えの違い

ゲノム編集と遺伝子組み換えの要点整理
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技術の違い

ゲノム編集は自前の遺伝子を狙って変える技術、遺伝子組み換えは外来遺伝子を組み込む技術という違いがあります。

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安全性と規制

外来遺伝子の有無によって、日本の安全性審査や表示義務の扱いが大きく変わります。

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農業への影響

収量・病害抵抗性・作業性を高める一方で、市場評価や消費者イメージへの配慮も求められます。

ゲノム編集と遺伝子組み換えの技術的な違いと仕組み


ゲノム編集は、CRISPR/Cas9などの「分子のハサミ」を使ってゲノムDNAの狙った場所を切断し、その修復過程で突然変異や配列の書き換えを起こさせる技術で、もともとその生物が持っている遺伝子を精密に変える点が特徴です。
一方、遺伝子組み換え技術は、細菌や他の植物など別種の生物が持つ有用な遺伝子を、目的の作物のゲノム中に導入して新しい形質を付与するもので、外来遺伝子がゲノム内に残ることが基本になります。
この違いは農家から見ると「何をどこまでコントロールできるか」という点に直結します。ゲノム編集では、標的とする遺伝子をピンポイントで壊したり弱めたりするSDN1型の利用が育種で主流になっており、自然突然変異と同程度の変化を狙った位置だけで効率的に起こせるため、品種改良のスピードを大きく短縮できます。


参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9789915/

遺伝子組み換えは、目的遺伝子を組み込む場所を細かく指定しにくく、導入された外来遺伝子がゲノム上のどこに入るかはランダム性が残るため、その影響評価や安定性確認に時間とコストがかかるという側面があります。


参考)「ゲノム編集作物」は遺伝子組み換えなのか? 日本・世界のあり…


























項目 ゲノム編集 遺伝子組み換え
改変の対象 元々その生物が持つ遺伝子を狙って変異・改変 他の生物由来の外来遺伝子を導入して新しい機能を付与
外来遺伝子の残存 SDN1型では外来遺伝子を最終的に残さないのが原則 導入した外来遺伝子がゲノム内に残る
改変の精度 狙った塩基配列を切断するため、標的精度が高い 挿入位置は原則ランダムで、周辺遺伝子への影響評価が必要
育種スピード 特定形質を短期間で付与でき、世代短縮に有利 導入・選抜・安全性評価に時間とコストがかかりやすい

あまり知られていないポイントとして、日本ではゲノム編集でも外来遺伝子を一時的に導入して作業し、その後の世代で外来遺伝子を完全に除いてから品種として利用する「トランスジーンフリー」の作物開発が進んでおり、この最終産物が規制上は従来の突然変異育種に近い扱いを受けるケースがあります。


参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6908812/

その結果、ゲノム編集は「より精度の高い突然変異育種」として制度設計されている面があり、技術的には高度でも、農家に届く最終的な品種は従来育種と見た目や性質が区別しにくいという点が重要です。


参考)『ゲノム編集食品』ってなに?『遺伝子組換え食品』とはどう違う…

ゲノム編集技術の原理や、遺伝子組換えとの違いを図解で説明している農林水産省の解説ページ。


参考)ゲノム編集~新しい育種技術~:農林水産技術会議

農林水産技術会議「ゲノム編集~新しい育種技術」

ゲノム編集と遺伝子組み換え食品の安全性評価と日本の規制

日本では、遺伝子組み換え食品については、食品衛生法や食品表示法に基づいて、上市前に厳格な安全性審査と表示義務が課されており、外来遺伝子の有無やその働きに応じて評価が行われます。
一方で、外来遺伝子が最終的に残らないSDN1型などのゲノム編集食品は、自然突然変異と同程度のリスクとみなされ、安全性審査の義務付けは行わず、厚生労働省への届出制度によって情報を把握する仕組みになっています。
届出制度のもとで、GABAを高めたトマトや、成長の早いマダイ・トラフグなど複数のゲノム編集食品がすでに日本で通知され、市場流通が始まっている点は、海外と比べても先行した動きです。


参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9258185/

また、環境影響についてはカルタヘナ法による規制対象になるかどうかが議論され、外来遺伝子が残らないゲノム編集生物の多くは、従来育種と同等として、同法の規制対象外と整理されています。


参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fbioe.2019.00387/pdf


  • 🧬 遺伝子組み換え食品:外来遺伝子の導入が前提で、食品安全委員会による安全性評価と義務表示が必須。

  • 🧬 ゲノム編集食品(外来遺伝子残存なし):厚生労働省への届出は求められるが、安全性審査や表示は「義務ではない」枠組み。

  • 🧬 ゲノム編集+外来遺伝子残存:規制上は遺伝子組み換え食品として扱われ、安全性審査・表示義務の対象となる。

意外な点として、ゲノム編集食品については、どこにどのような変異が入ったかを正確に把握していても、外来DNAが残らない場合は分析による識別がきわめて難しく、従来の遺伝子組み換え食品のような検査体制をそのまま適用できないという技術的な課題があります。


参考)https://www.mdpi.com/1660-4601/17/8/2935/pdf

そのため、日本の制度は「科学的に検出困難であること」と「リスクが従来育種と同程度であること」を前提に、届出と情報公開、事業者の自主的な説明責任を組み合わせた柔軟な枠組みを採用しているのが特徴です。


参考)ゲノム編集食品、食品表示義務なし 流通制度固まる - 日本経…

日本のゲノム編集食品の安全性評価や届出制度の全体像を整理した食品安全委員会の総説論文。

Japanese Regulatory Framework and Approach for Genome-edited Foods

ゲノム編集と遺伝子組み換え作物が農業経営にもたらすメリットとリスク

農業現場にとって、ゲノム編集・遺伝子組み換えの一番のメリットは「欲しい形質を短期間で付与できる」点で、収量アップ、病害虫抵抗性、耐倒伏性、品質の均一化など、収益に直結する改良が期待されています。
ゲノム編集技術を使えば、例えば倒れにくく茎の太いイネや、裂果しにくいトマト、高温に強い葉菜などを、在来品種の特徴を残したまま短期間で作出することが可能とされ、大手企業や大学も育種パイプラインを整備しています。
一方、リスク面では、価格プレミアムがどこまで付くか不透明なこと、輸出先や取引先ごとに受容度や規制が異なることが、経営上の悩みどころになります。


参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsbbs/advpub/0/advpub_23046/_pdf

特に遺伝子組み換え作物は、EUなど一部地域では厳しい規制や消費者の拒否感が根強く、日本国内でも生協・生活クラブなどが排除方針を掲げるなど、販路が限定されやすいのが実情です。


参考)遺伝子組換えとゲノム編集


  • 🌱 メリット例:少ない農薬で栽培できる病害抵抗性品種や、収量が安定する多収性品種は、労力・資材コストの削減につながる可能性が高い。

  • 🌱 メリット例:ゲノム編集により栄養成分(GABAなど)を高めたトマトのように、付加価値の高いブランド化が狙える作物も登場している。

  • ⚠️ リスク例:消費者や取引先が慎重な場合、「ゲノム編集」「遺伝子組み換え」というだけで仕入れを見送られる可能性がある。

  • ⚠️ リスク例:品種切り替え後に規制が変わると、輸出が難しくなったり、表示コストが増えたりすることも想定される。

あまり知られていない視点として、企業側ではゲノム編集育種を「種子ビジネスの新たな収益源」と位置づけ、既存の品種ラインナップにゲノム編集版を追加していく動きもあり、今後は「同じ系統で通常版・ゲノム編集版のどちらを選ぶか」という選択が農家側に迫られる可能性があります。


参考)農業にもAI革命。品種開発ベンチャーが示す日本農業の突破口と…

その場合、単に種子価格だけでなく、販路・契約条件・収量や栽培リスクの変化を総合的に比較し、自身の経営スタイルに合った方を選ぶことが重要になります。

ゲノム編集作物が育種や収量・耐病性向上にもたらす影響をわかりやすく解説した農業向け記事。

SMART AGRI「『ゲノム編集作物』は遺伝子組み換えなのか?」

ゲノム編集と遺伝子組み換え表示制度と消費者対応のポイント

遺伝子組み換え食品については、大豆・トウモロコシなど特定7作物と、それらを原材料とする加工品を中心に、一定条件を満たす場合は「遺伝子組換え」等の表示が義務付けられており、主原料かどうかやDNA・たんぱく質の残存状況で細かなルールが決まっています。
これに対して、日本のゲノム編集食品は、外来遺伝子が残らないものについては表示義務がなく、消費者庁は「任意表示」を基本としつつ、事業者にはホームページなどでの自主的な情報提供を促すというスタンスを示しています。
このため、店頭で「ゲノム編集」と明示されている商品はごく一部にとどまり、実際には届出された品目が市場に出回っていても、消費者は通常の品種との違いをラベルから判断できないケースが多いのが現状です。


参考)遺伝子組み換え対策|生協の食材宅配 生活クラブ生協

一方で、自治体や消費者団体の中には「ゲノム編集食品にも表示を求めるべきだ」とする意見書運動を展開しているところもあり、今後の制度改正や任意表示の広がりは、社会的な議論次第で変化する余地があります。


参考)ゲノム編集食品の取り扱いに関するルール


  • 🧾 出荷先のルール確認:生協や特定の量販店は、遺伝子組み換えだけでなくゲノム編集にも独自基準を設けている場合があるため、契約前に確認することが重要。

  • 🧾 任意表示の活用:ゲノム編集を使っていないことをあえて示す「不使用表示」や、逆にゲノム編集のメリット(高GABAなど)を前面に出した説明など、差別化戦略も取り得ます。

  • 🧾 説明ツールの準備:直売所や産直ECでは、店頭POPやリーフレットで、ゲノム編集と遺伝子組み換えの違いや安全性評価の仕組みをかみ砕いて説明すると、消費者の不安軽減につながります。

意外な点として、若年層を対象とした調査では、「遺伝子組み換え食品」よりも「ゲノム編集食品」の方がまだイメージが固まっておらず、説明の仕方によって受容性が変わりやすいことが指摘されています。

つまり、農家や産地が主体的に情報を発信すれば、単に「怖い」「よく分からない」で敬遠されるのではなく、「どういうメリットがある品種なのか」を納得して選んでもらえる余地が大きいとも言えます。

遺伝子組み換え・ゲノム編集食品の表示制度や、消費者への説明ポイントをまとめた国立研究機関のQ&A資料。


参考)https://www.nihs.go.jp/dnfi/pdf/GMGE_QA_PDF.pdf

国立医薬品食品衛生研究所「遺伝子組換え食品・ゲノム編集食品」Q&A

ゲノム編集と遺伝子組み換えを踏まえた中小規模農家の戦略的な品種選び

中小規模の農家が、ゲノム編集や遺伝子組み換えをどう経営に組み込むかを考える際には、「技術そのもの」よりも「自分の販路と顧客層に合うか」を基準に選ぶ方が現実的です。
例えば、輸出向けや加工用契約栽培が中心で、取引先がゲノム編集・遺伝子組み換えに前向きであれば、高収量・省力化を重視してこれらの品種を積極的に検討する価値がありますが、地域の直売所や産直ECが主戦場なら、消費者の価値観を丁寧に探りながら導入タイミングを見極める必要があります。
戦略として考えられるのは、あえて「在来品種+ゲノム編集品種」のポートフォリオを組み、リスク分散と差別化を同時に図る方法です。例えば、従来から人気のある在来トマトをメインに据えつつ、一部の圃場で高GABAトマトなどのゲノム編集品種を試験的に導入し、収量性や病害虫抵抗性、価格プレミアムの出方を複数年かけて比較する、といったアプローチが考えられます。


参考)外来DNAをもたないゲノム編集植物の作出を大幅に効率化−ゲノ…

その際には、種子の調達条件だけでなく、契約書にゲノム編集・遺伝子組み換えの取扱いがどう書かれているか、規制変更時の対応がどうなるかも事前に確認しておくと安心です。


参考)https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/tetuduki/attach/pdf/201225_sympo-15.pdf


  • 📊 品種導入前に整理したいポイント例

    ・主力販路(実需・輸出・直売)と、その顧客層の受容性はどうか。
    ・3〜5年後に想定される規制・表示の方向性が、自分の作目や販路にどう影響しそうか。
    ・同じ目的(多収・耐病性など)を、従来育種品種で達成する選択肢とのコスト比較はどうか。

もう一つの独自の視点として、ゲノム編集や遺伝子組み換えは「技術」そのものだけでなく、「ストーリー」をどう語るかで価値が変わるという点があります。例えば、「温暖化で増える高温障害に備えるために、高温耐性を強めたゲノム編集品種を導入している」といった説明は、単に技術名だけを示すよりも、地域農業を守る取り組みとして理解されやすくなります。

農家自身が、自分の圃場や地域にとってのメリット・リスクを言葉にし、消費者や取引先と共有していくことこそが、ゲノム編集と遺伝子組み換えの「違い」を生かしながら、現場の選択肢を広げていくための鍵と言えるでしょう。




医学のあゆみ ゲノム編集医療ー最先端ツールからモデル,創薬,遺伝子治療へ 2025年 292巻5号 2月第1土曜特集[雑誌]