フォトニクスと植物工場とLEDとPPFDとLD

フォトニクスを軸に植物工場の「光の質・量・測り方」を整理し、LEDとLD、センサー活用まで実務目線でつなげます。光を変えると生産性と品質はどこまで伸ばせるのでしょうか?

フォトニクスと植物工場

フォトニクスと植物工場の要点
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光は「照度」よりPPFD

植物の光合成は人の明るさ感覚と別物なので、PPFD(400〜700nm)で管理するのが基本です。

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LEDだけが正解ではない

レーザーダイオード(LD)の狭帯域光は、クロロフィル吸収に合わせやすく、成長促進の報告も出ています。

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センサーで「見えないズレ」を潰す

棚内の光ムラ、スペクトルの偏り、葉の反応の変化を測って、環境制御を再現性ある運用に落とし込みます。

フォトニクスのPPFDと光合成の基本


植物工場の現場では「明るい/暗い」を照度(lx)で語りがちですが、照度は人間の視感度(特に555nm付近の緑)を基準にした指標で、光合成の評価には直結しません。文部科学省の解説でも、植物栽培では光合成有効光量子束密度(PPFD)が重要で、光合成に有効な400〜700nmの光子量を、単位時間・単位面積で扱う必要があると整理されています。さらに、クロロフィル吸収は青(約450nm)と赤(約660nm)にピークがあり、スペクトル設計の「狙いどころ」が見えるのがフォトニクスの強みです。参考になるのは、フィトクロムの赤/遠赤の反応や、強光反応としての青光が形態形成(節間伸長、葉緑素合成など)にも関わる点で、単に赤を増やせば良いという話ではありません。


実務に落とすと、まず「PPFDの目標値を作物・生育ステージで定義→棚面での実測→ムラの是正→調光の運用ルール化」が王道です。PPFDは“平均値だけ”を追うと失敗しやすく、棚の端や段間で光子密度が落ちると、収穫サイズの不揃い、硝酸態窒素の傾向変化、収量のブレにつながります。そこで、フォトニクスの観点では「分光(どの波長がどれだけ)+空間分布(どこが何μmol/m²/sか)」の二軸で管理するのがコツです。工場化を狙うなら、PPFD計測を定期点検の手順として固定し、照明更新や反射材変更のたびに“同じ手順で再測定”できる体制が収益に効きます。


光環境を語るうえで意外に重要なのが「単位の混同を減らす教育コスト」です。現場では「W(消費電力)」「lm(光束)」「lx(照度)」「PPFD」「DLI(日積算光量)」が混線しがちで、判断が属人化します。文科省資料でも、人間の明るさの単位と植物の単位が違うこと、青は人には暗く見えやすいが植物にとっては意味があることが示されています。こうした“見た目と生理のズレ”は、まさにフォトニクスで解消できる盲点です。


光と植物(PPFDやスペクトル、LED/LDの基礎)を体系的に把握する参考。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/attach/1333537.htm

フォトニクスのLEDとスペクトル設計の実務

植物工場でLEDが普及した背景は、熱放射が少なく近接照明ができること、波長を選んで光質を設計できること、長寿命で制御しやすいことが大きいです。文部科学省の資料でも、LEDはクロロフィル吸収ピークや形態形成の作用スペクトルに合わせやすい点が利点として挙げられています。一方で、LEDは「多波長を混ぜれば万能」というより、作物の目的(収量、葉色、形、栄養価、味、機能性)に応じて“狙う波長と比率”が変わります。特に葉物では、赤中心で光合成を稼ぎつつ、青で形態と品質を締める、遠赤で形態を動かす、といった考え方が基本になります。


現場で効くのは「スペクトルを固定する」より「スペクトルを動かす」設計です。育苗期は徒長防止や健苗化を重視して青の比率を上げる、収穫前は色・食味に関わるストレスを軽くかける、など、フォトニクスの“調光・調色”をレシピ化していくと差別化できます。加えて、棚内の反射材や照明配置の工夫は、投入電力を増やさずにPPFDを底上げできることがあり、ここは「装置を買う」より「設計と測定で詰める」ほうが費用対効果が出る場面が多いです。文科省資料でも反射板(反射材)の工夫が実際的に重要だと述べられており、照明更新だけに投資が偏るのはもったいないポイントです。


もう一つの落とし穴は「平均PPFDは同じでも、スペクトルが違うと反応が変わる」ことです。たとえば同じPPFDでも、波長幅が広い光(不要な帯域も含む)と、狙い撃ちの帯域では、光合成の“有効利用率”が変わり得ます。ここでフォトニクスの考え方(吸収スペクトル、作用スペクトル、反応系の飽和)が効いてきます。照明メーカーのカタログ値に依存しすぎず、できれば自社の棚条件でPPFDと分光を取り、栽培データと突き合わせる運用が安全です。


フォトニクスのLD(レーザーダイオード)と植物工場の新潮流

最近の話題として、レーザーダイオード(LD)を栽培光源として活用する研究が一気に現実味を帯びています。東京大学の発表では、赤色LDは極めて狭い波長帯で照射でき、クロロフィルの吸収ピークと高い一致性を持つ光を供給できることが示され、LEDより高い光合成効率や成長促進が複数植物で確認されたとされています。具体的には、同程度のPPFD条件下で、LD照射がLEDより光合成速度が高い観察(約19%)や、連続照射時のストレス症状(黄化・光阻害)がLEDより少ないという報告があり、植物工場への応用が強く期待されています。これは「PPFDを上げる競争」ではなく、「同じPPFDでも無駄の少ない光を当てる」方向の技術進化で、フォトニクスらしい発想です。


では、農業従事者の実務でLDがすぐ置き換わるかというと、そこは慎重に見るべきです。LDは光が鋭く、照射ムラや安全面、照射配置(光ファイバー利用など)を含めて“設計の自由度”と“設計の難しさ”が同居します。東京大学の発表でも、光ファイバーを用いた柔軟な照射配置が可能とされており、照明の置き方そのものを変える余地があります。つまり、LED時代の「面で照らす」発想から、LD時代は「光を運ぶ・配る」設計が価値になり、工場レイアウトや多段化の思想まで波及し得ます。


意外に面白いのは、LDの狭帯域性が“研究の道具”としても強いことです。現場の課題(徒長、葉焼け、着色不足、苦味、収量の頭打ち)が出た時、どの波長帯が原因に近いのかを切り分けるには、狭い帯域で条件を振れる光源が役に立ちます。LEDでもできますが、帯域の幅や混色の影響が残ることがあります。LDが普及すると、工場のトラブルシュートが「経験」から「光学的な切り分け」に寄っていく可能性があり、ここは現場スキルとして先行者利益になり得ます。


LDの最新研究動向(LEDと比較した光合成・成長促進の要点)。
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20250520-1.html

フォトニクスのセンサーと環境制御(光ムラ・葉の反応)

植物工場は「環境を制御できる」ことが売りですが、実際に儲かる工場は“測って制御して再現する”ところまで落とし込めています。文部科学省資料でも、植物栽培では光強度の単位を明確にすることが大切だとされ、PPFDのような植物側の単位で評価する必要が述べられています。つまり、センサーは単なる監視ではなく、栽培レシピを成立させる計測基盤です。光のフォトニクス計測(PPFD、分光、空間分布)を定期運用に組み込めば、「照明の劣化」「反射材の汚れ」「棚の増設による影」「調光設定ミス」といった地味な損失を早期に発見できます。


センサー運用で大事なのは、数値を増やしすぎず、意思決定につながる指標に絞ることです。たとえば、日々の運用は「DLI(積算光量)の狙い」「昼夜の点灯戦略」「棚ごとの最低PPFD」を押さえ、週次・月次で「棚面のPPFDマップ」「波長比の逸脱(赤/青/遠赤など)」「均一性(最大/最小)」を点検する、のように階層を作ると回ります。さらに、栽培ベッドの位置や空調の風向が変わると葉面温度や蒸散も変化し、結果的に“同じPPFDでも”光合成が伸びないことがあります。フォトニクスの光計測と、温湿度・CO2のログを同じ時間軸で見られるようにしておくと、「光が悪いのか、ガス交換が詰まっているのか」を切り分けやすくなります。


もう一歩踏み込むなら、センサーは“植物の反応”を測る方向へ進みます。光合成速度そのものは簡単には測れませんが、葉色、葉の蛍光、反射の変化など、光学的に推定できる指標が増えています。ここでの意外なポイントは、工場内の“標準葉(基準株)”を決め、同じ株・同じ位置・同じ時刻に測る運用です。センサーを高級にしても、測り方がブレると意味が薄れます。フォトニクスは装置の話に見えますが、結局は「測定手順=品質管理手順」を作れるかが勝負です。


フォトニクスの独自視点:パルス照射と夜間電力の運用設計

検索上位では「LEDの種類」「植物工場の定義」「コスト課題」が中心になりやすい一方で、現場の利益に直結しやすいのに見落とされがちなのが“光の出し方(時間構造)”です。文部科学省の資料では、LEDやLDはパルス照射が可能で、光合成反応の中に「光が不要な時間」がある点に着目し、間欠(パルス)照射で成長率や光合成速度が増大した例が紹介されています。さらに、周期400μs(パルス幅200μs)で成長が著しく、連続光より成長率・光合成速度が20〜25%増大したという記述もあり、単純な“点灯時間×PPFD”だけでは語れない可能性が示されています。これは設備更新よりも、制御ソフトと運用で改善余地が出るタイプのテーマで、農業従事者にとって実装価値が高い領域です。


また、工場経営の現実として、電力単価の影響は非常に大きく、夜間電力の活用は古典的ながら効きます。文科省資料でも、完全制御型では昼夜逆転で安価な夜間電力を使うことが必須と述べられており、「電気代を下げる」はそのまま利益改善になります。ここにパルス照射や調光制御を組み合わせると、同じ日積算光量を確保しながらピーク電力を抑える、空調負荷と同時最適化する、など“電気の使い方”の設計に踏み込めます。照明は熱源でもあるため、照明制御の工夫が空調制御の自由度を上げる点も、現場では効きます。


実験的に試すなら、いきなり全棚でやらず、リスクを抑えた検証設計が安全です。


  • 小区画で「連続照射 vs パルス照射」を同一PPFD・同一DLIで比較する
  • 収量(重量)、形状(徒長)、葉色、食味(簡易糖度・苦味官能)を同じタイミングで取る
  • 同時に、電力量(kWh)と空調稼働(稼働時間・温度偏差)をログで取る
  • “省エネできたが品質が落ちた”の逆もあり得るので、売り先(業務用/小売)基準で判定する

フォトニクスは「高価な照明を買う技術」ではなく、「光を狙って、測って、制御して、再現する技術」です。植物工場の工場化を進めるほど、栽培者の腕は“経験の勘”から“光とデータの設計”へシフトします。LED、LD、センサー、パルス、夜間運用まで視野を広げると、同じ設備でも出せる利益の上限が変わってきます。




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