土壌燻蒸剤 d dのセンチュウ防除効果とガス抜きの注意点

ネコブセンチュウ対策の定番である土壌燻蒸剤 d d。正しい注入方法や処理後のガス抜き期間を誤ると、深刻な薬害や近隣トラブルの原因になります。冬場の処理や臭い対策など、現場で役立つ知識を確認しませんか?

土壌燻蒸剤 d dの効果的な使い方

土壌燻蒸剤 d d の要点
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センチュウへの卓効

ネコブセンチュウやシストセンチュウなど、土壌深くの害虫にガスが浸透して防除。

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ガス抜きの徹底

ガス抜けが悪いと確実に薬害が発生。土壌水分や温度に応じた期間設定が必須。

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低温期の処理

冬場でも使用可能だが、ガス化が遅いため放置期間を通常の2〜3倍確保する必要あり。

土壌燻蒸剤 d dのセンチュウに対する特効的な防除効果

 

土壌燻蒸剤 d d(D-D剤)は、長年にわたり農業現場で信頼されている「対センチュウ」の切り札です。主成分である1,3-ジクロロプロペンは、土壌中に注入されるとガス化し、土の粒子と粒子の隙間(孔隙)を縫って深く広く拡散します。

 

この薬剤が特に優れている点は、土壌深層に潜むセンチュウまでガスが届く「浸透力」にあります。

 

  • ネコブセンチュウ類:根にコブを作り、養水分吸収を阻害する厄介者。
  • ネグサレセンチュウ類:根を腐らせ、地上部の生育不良を引き起こす。
  • シストセンチュウ類:殻(シスト)に守られ、長期生存する難防除センチュウ。

これらに対し、D-D剤のガスは直接接触して殺虫効果を発揮します。クロルピクリン剤が「殺菌(病気)」に強いのに対し、D-D剤は「殺虫(センチュウ)」に特化しているという住み分けが重要です。土壌病害(青枯病など)も併発している場合は、クロルピクリンとの併用や、最初から混合された「ダブルストッパー」などの薬剤が選択肢に入りますが、純粋にセンチュウ密度を下げたい場合はD-D剤がコストパフォーマンス面でも選ばれることが多いです。

 

ただし、D-D剤には除草効果(雑草の種子を殺す力)はほとんどありません。ここがバスアミドやクロルピクリンとの大きな違いであり、誤解しやすいポイントです。雑草対策も兼ねたい場合は、体系防除を組む必要があります。

 

参考リンク:製品の基本特性や適用害虫についての詳細が記載されています。

 

テロン/旭D-D | 土壌くん蒸剤 | 製品一覧 - 日本化薬

土壌燻蒸剤 d dの正しい注入と被覆の手順

D-D剤の効果を最大限に引き出し、かつ安全に使用するためには、丁寧な「注入」と迅速な「被覆」がカギとなります。適当に散布するとガスが空中に逃げてしまい、効果が半減するだけでなく、近隣への悪臭被害に直結します。

 

基本的な処理手順:

  1. 耕起と整地

    薬剤を処理する前に、土壌をよく耕しておきます。土の塊が大きいとガスの浸透が妨げられるため、なるべく細かく砕土します。ただし、土壌水分が多すぎる(握って団子ができるレベル)とガスが拡がらないため、適度な湿り気の状態で行うのがベストです。

     

  2. 注入
    • 深さ:15cm〜20cm。浅すぎるとガスが逃げ、深すぎると表層のセンチュウが生き残ります。
    • 間隔:30cm間隔(碁盤の目状、または千鳥状)。
    • 器具:手動の注入器や、トラクター装着型の土壌消毒機を使用します。
  3. 被覆(マルチング

    注入後は「直ちに」ビニールやポリマルチで被覆します。ここでのタイムラグが効果を左右します。被覆を行うことで、ガスを土壌内に閉じ込め、長時間センチュウに曝露させることができます。

     

被覆を行わない場合のリスク:
一部の地域や慣行では、被覆を行わずに鎮圧(ローラーなどで土を踏み固める)だけで済ませるケースがありますが、データ上、防除効果は被覆した場合の1/3〜1/20まで低下すると言われています。また、ガスが大気中に漏れ出しやすくなるため、住宅地が近い圃場では被覆が「必須マナー」となります。

 

参考リンク:被覆の有無による効果の激減についてのデータが示されています。

 

土づくり編(7) 土壌消毒 -ガスと粒剤を中心とした消毒方法

土壌燻蒸剤 d dのガス抜き期間と薬害を防ぐテクニック

D-D剤を使用する上で、農家が最も恐れるのが「ガス抜け不足による薬害」です。成分が土壌に残ったまま定植播種を行うと、作物の根が焼けたり、発芽不良を起こしたりして、最悪の場合は植え直しになります。

 

標準的なガス抜き期間:
通常、注入から7日〜10日程度放置した後、被覆を除去し、土を耕起してガスを抜きます。さらにそこから3〜4日おいて作付けするのが一般的ですが、これはあくまで「好条件」の場合です。

 

ガスが抜けにくい条件(要注意):

  • 土質粘土質や有機質の多い土壌はガスを吸着しやすく、抜けにくい。
  • 水分:雨が続いたり、地下水位が高いとガスが滞留する。
  • 温度:地温が低いと揮発が進まない。

確実なガス抜きテクニック:

  1. 2回耕起:被覆を剥がして一度耕し、その2〜3日後にもう一度耕すことで、土壌深層のガスを追い出します。
  2. 簡易発芽テスト(生物検定)

    最も確実な確認方法です。処理した土の一部をコップに取り、コマツナダイコンの種を蒔きます。同時に、未処理の土でも同じように種を蒔きます。両方の発芽状況を比較し、処理区の発芽が遅れたり、根が茶色くなっていなければ安全と判断できます。

     

  3. 臭気確認

    耕起した土の匂いを嗅いで、特有の甘酸っぱい刺激臭が残っている場合は、まだ定植してはいけません。

     

特に、ハウス栽培など閉鎖環境ではガスが充満しやすいため、換気と耕起を念入りに行う必要があります。「予定日が来たから植える」のではなく、「ガスが抜けたのを確認して植える」姿勢が収益を守ります。

 

参考リンク:ガス抜きの具体的なスケジュールと、失敗した際のリスクについて解説されています。

 

D-D | グリーンジャパン

土壌燻蒸剤 d dの低温時(冬期)の処理と注意点

多くの土壌消毒剤(特にクロルピクリン)は、地温が低いとガス化・拡散が悪くなるため、冬場の使用が難しいとされています。しかし、D-D剤は比較的蒸気圧が高く、地温が5℃〜7℃程度あればガス化して効果を発揮するという特性があります。

 

これにより、「冬の間に処理をしておき、春一番で定植する」という作型が可能になりますが、ここには大きな落とし穴があります。それは「ガスの分解・消失も極端に遅くなる」という点です。

 

冬期処理のポイント:

  • 放置期間の延長

    夏場なら1週間で済む被覆期間を、冬場は3週間〜4週間(約1ヶ月)確保する必要があります。低温下ではガスの動きが鈍く、土壌粒子への吸着も強くなるため、短期間ではセンチュウを殺しきれない上に、ガスも抜けきりません。

     

  • ガス抜きの徹底

    春の作付け前には、念入りな耕起が必要です。地温が上がってくると、冬の間土壌に吸着されていたガスが一気に放出されることがあります。これを「再ガス化」現象のように感じることがあるため、被覆を剥がしてすぐに植えるのは厳禁です。

     

  • 降雪地帯での注意

    被覆の上に雪が積もると、土壌が過湿状態になり、さらにガスが抜けにくくなります。雪解け水を考慮し、排水対策を行ってから処理するか、あるいは無理に冬期処理を行わず、春の地温上昇を待つ判断も必要です。

     

「D-Dは冬でも効く」というのは事実ですが、「冬でも夏と同じ工程で終わる」という意味ではありません。時間の余裕がある休閑期だからこそできる、じっくりとした消毒計画が必要です。

 

参考リンク:低温期における処理期間の延長や注意点について、公的な指導指針です。

 

土壌消毒及び施設ならびに資材消毒 - 鹿児島県

土壌燻蒸剤 d dの臭い対策と近隣トラブル回避

D-D剤を使用する上で避けて通れないのが「臭い」の問題です。1,3-ジクロロプロペンには特有の甘ったるい刺激臭があり、風に乗って住宅地に流れると、住民から「ガス漏れではないか」「気分が悪くなった」といった通報が入るケースが後を絶ちません。

 

都市近郊農業では、効果よりも「低臭性」が優先され、他の薬剤(ダゾメット微粒剤やキルパー液剤など)へ切り替えられることもありますが、コストと効果の面でD-D剤を使わざるを得ない場合、以下の対策を徹底しましょう。

 

具体的な臭気対策:

  1. 風向きと時間帯

    住宅地へ風が向かっている日は作業を中止します。また、夕方は大気が安定して臭いが滞留しやすいため、午前中の作業完了を目指します。

     

  2. 即時被覆の徹底

    「注入してから1列終わるまで待つ」のではなく、注入機の後ろに自動被覆装置(マルチ展張機)がついている機械を使用するか、数メートル進むごとにすぐに手作業で土を被せる・マルチを張るなど、土壌が露出している時間を秒単位で削る意識が必要です。

     

  3. 近隣への事前周知

    「○月○日の午前中に土壌消毒を行います。一時的に薬品の臭いがする可能性があります」とビラを配ったり、看板を立てたりするだけで、トラブルの発生率は劇的に下がります。不審な臭いに対する不安がクレームの根源だからです。

     

  4. 保護具の着用

    作業者自身も高濃度のガスを吸い込むと危険です。活性炭入りの防毒マスク、不浸透性の手袋、保護メガネを必ず着用してください。衣服に液剤が付着した場合は、皮膚から吸収される恐れがあるため、直ちに着替えて皮膚を洗う必要があります。

     

最近では、刺激臭を軽減した製剤や、油膜で蓋をするタイプの製剤も開発されていますが、基本的には「臭いが出るもの」として、最大限の配慮を行うことが、地域で農業を続けるための生命線となります。

 

参考リンク:住宅地周辺での使用制限や、混用時の危険性(クロルピクリンと混ぜると危険)について言及されています。

 

主な土壌消毒剤の種類と特性 - JA全農

 

 


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