有機肥料で「効かない」「効きすぎる」を減らす最短ルートは、圃場ごとに土壌診断を先に置くことです。ECは主に窒素の見立て、可給態リン酸はリン酸、交換性カリはカリの見立てとして整理すると、施肥設計が一気にブレにくくなります。実際、肥料コスト低減の技術マニュアルでも、土壌分析(pH、EC、可給態リン酸、交換性カリ、CEC等)を行い、(pH→石灰、EC→窒素、可給態リン酸→リン酸、交換性カリ→カリ)として施肥量を加減する考え方が示されています。
特に注意したいのは「リン酸は土に溜まりやすい」という性質です。園芸品目では、可給態リン酸が一定以上なら大幅減肥や施肥中止まで踏み込む目安が示されており、可給態リン酸が50mg/100g以上で50%減肥、100mg/100g以上で施肥中止という基準例もあります。
参考)https://www.mdpi.com/2504-3129/4/1/6/pdf?version=1675940121
有機肥料中心だと「地力がつく=何でも増やして良い」と誤解されがちですが、リン酸が過剰にある土では、リン酸を入れ続けるほど経費もリスクも積み上がります。まずは土がすでに持っているリン酸を“使い切る設計”に切り替えるのが合理的です。
カリも同様で、交換性カリとCEC(塩基置換容量)を一緒に見ないと判断を誤ります。マニュアルでは「カリの肥効は塩基飽和度と関連するため、CECと交換性カリの値を考慮して減肥を行う」ことが明記されています。
施設栽培や連作では、堆肥・有機質資材の“善意の上乗せ”が、PとKの過剰蓄積や塩類集積の引き金になることがあるため、数字で止めどころを作ってください。
有機肥料(堆肥等)を三要素に換算するときは、「含有量」ではなく「有効成分量(=含有量×肥効率)」で考えます。マニュアルでは、堆肥には利用可能な窒素・リン酸・カリが含まれ、その分だけ化学肥料を減らせるとした上で、窒素肥効率が畜種や炭素率(C/N)で変わる点を強調しています。
具体例として、一般的な牛ふん堆肥の窒素肥効率は10〜20%、豚ぷん堆肥は20〜30%、鶏ふん堆肥は40〜60%程度、リン酸肥効率は50〜60%程度、カリ肥効率は90%程度という目安が提示されています。
ここで現場で事故が起きやすいのが「窒素だけ合わせようとして、リン酸・カリが先に過剰になる」パターンです。堆肥は窒素が思ったほど効かない年がある一方で、リン酸とカリは“代替できたことになりやすい(=土に残りやすい/利用されやすい)”ため、連用でP・Kが積み上がります。マニュアルにも「堆肥の成分含量、肥効率の違いで化学肥料代替分が異なる。窒素に比べて、リン酸、カリの代替分が多い」と明記されています。
計算の軸はシンプルです。マニュアルの考え方では、堆肥の施肥代替量は「堆肥施用量×成分含有率×肥効率」から計算します。
つまり、袋や分析表の「全窒素○%」を見て終わりではなく、圃場に入る“効く窒素”は別物だと捉える必要があります。さらにC/N比が高い堆肥・作物残さ系では、窒素飢餓リスクも出るため、施用タイミング(作付け直前に入れない等)と熟度の確認が重要です(完熟堆肥を基本とする旨も示されています)。
施肥設計で最初に決めるべきは、「今年、どの要素が制限要因か」です。多くの圃場で現実に起きるのは、窒素は不足しやすい一方、リン酸・カリは過剰になりやすいという非対称性で、ここを整理しないと“全部入り有機肥料”が最適解になりません。マニュアルでも、リン酸は吸収量が少なく土壌に蓄積しやすいこと、カリはCEC等も踏まえて減肥することが繰り返し示されています。
実務では、次の順で設計すると破綻しにくいです。
「低PK肥料」や単肥を組み合わせる発想は、有機を否定するものではなく、P・K過剰を是正して“必要な窒素だけ入れる”ための道具です。マニュアルでも、土壌診断や堆肥利用でリン酸・カリを減肥する場合に、窒素単肥や低PK肥料を利用するとしています。
また、少し意外ですが「堆肥をペレット化」することで、散布の省力化や保管性の改善が見込めるという現場向けの知見も紹介されています。含水率を下げて散布量を減らし、ブロードキャスター等で散布しやすくなる、臭いが少なくなるといったメリットが整理されています。
有機の継続性は“成分設計”だけでなく、“作業として続くか”でも決まるため、省力化の視点は侮れません。
有機肥料は「どれを入れるか」だけでなく、「どこに、どう入れるか」で効き方が変わります。マニュアルでは、局所施肥は根の周辺部に肥料を施すことで利用効率が良く、少ない肥料で生育量を確保しやすく、流出や揮散が少なく環境負荷も小さいと説明されています。
この考え方は有機・化学の区別を超えて有効で、特に窒素の“ムダ打ち”を減らしたい場面で効きます。
さらに、施肥位置と肥料タイプで窒素利用率が大きく変わる例が示されており、水稲では条件によって窒素利用率が9%〜83%に変化するとされています。
この数字が示唆するのは、同じ施肥量でも「効かせ方」で結果が変わり、結果的に窒素の投入量を減らせる余地があるということです。堆肥や有機質肥料をベースにする場合でも、局所施肥や分施(追肥設計)を組み合わせると“遅効きの穴”を埋めやすくなります。
有機肥料でよくある失敗の一つに、元肥に寄せすぎて初期生育が鈍り、その後に追いつかせようとして追肥が増えてしまうケースがあります。局所施肥は初期の根域に効かせやすいので、この失敗パターンの回避に役立ちます。
検索上位では「おすすめ有機肥料」「NPKの基本」で終わる記事が多い一方、現場でじわじわ効いてくるのが“制度と表示の読み方”です。有機肥料を買う・配合する・委託散布する場面では、袋や規格のどこを信じるかで施肥設計の精度が変わります。その鍵になるのが「保証成分量」という考え方で、肥料取締法では、保証成分量を「普通肥料について、含有しているものとして保証する主成分の最小量を百分比で表したもの」と定義しています。
この定義のポイントは「最小量」であることです。つまり表示は“だいたいこのくらい入っている”ではなく、“最低でもこれだけはある”という性格を持ちます(だからこそ設計に使える)。一方で、堆肥などの特殊肥料や自家製資材は、同じ感覚で扱うとズレることがあります。購入資材なら、保証成分量の有無、分析値の出し方、ロット差を確認し、現場では「前年の土壌診断+資材の成分把握+生育診断」で三段構えにすると、施肥設計の事故が減ります。
参考)肥料取締法 - 日本語 - 日本法令外国語訳DBシステム
もう一つの新しめの論点として、マニュアルでは「混合堆肥複合肥料」という言葉が紹介されています。堆肥(特殊肥料)と普通肥料を配合した肥料を作れるようになり、土づくりと施肥を同時に行えることで省力化が期待できる、という現場視点の“新しい選択肢”として触れられています。
ここは導入前に、圃場のリン酸・カリ蓄積の状況を必ず確認してください。便利さで採用すると、P・K過剰を固定化する可能性がある一方、低PK設計の製品や設計思想なら、逆に“有機の続けやすさ”を上げる武器になり得ます。
参考:土壌診断(EC・可給態リン酸・交換性カリ)と堆肥の肥効率、施肥代替量の計算、局所施肥など現場向けの具体策
肥料コスト低減技術マニュアル(Ver.1)

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