多くの農業従事者が「ザクサのジェネリック(後発品)はあるのか?」と疑問を抱いています。結論から言うと、農耕地用として登録されているザクサと全く同じ「グルホシネートP」を成分とするジェネリック農薬は、現時点では主要メーカーから広く販売されていません。
しかし、成分が類似している「バスタ」のジェネリック品は多数存在しており、さらに近年では「非農耕地用」としてのグルホシネートP製剤が登場しています。
ここで最も重要なのが、ザクサ(Meiji Seika ファルマ)とバスタ(BASFなど)、そしてバスタジェネリックの成分の決定的な違いを理解することです。
ザクサが「11.5%」という濃度であるのに対し、バスタが「18.5%」と表記されているのはこのためです。バスタは効かないD体を含んでいるため、見かけの濃度を高くしないと、L体の実質量が確保できないのです。対してザクサは、純粋な活性成分だけで構成されているため、低い濃度でもバスタと同等以上の効果を発揮します。これを理解せずに「濃度が高い方が効くはずだ」とバスタジェネリックを選ぶと、期待した「キレ(速効性)」や「環境性能」の差に気づかないことがあります。
Meiji Seika ファルマのザクサ液剤に関する詳細な製品情報は以下が参考になります。
Meiji Seika ファルマ:ザクサ液剤 製品情報(L体グルホシネートPの特徴について)
農業経営において、除草剤のコストは無視できない要素です。ザクサ、バスタ(先発品)、そしてバスタジェネリック(後発品)の価格差を比較し、実際の散布コスト(10アールあたり)をシミュレーションしてみましょう。
市場価格(5L規格)はおおよそ以下の通りです(2024-2025年時点の相場変動を含む目安)。
| 製品分類 | 代表的な商品名 | 5L価格目安 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ザクサ | ザクサ液剤 | 約17,000円~18,000円 | 高価だが高性能。L体100%。 |
| バスタ(先発) | バスタ液剤 | 約15,000円~16,000円 | 定番の信頼性。登録作物が多い。 |
| バスタジェネリック | ゴーオン、マイダスターなど | 約8,000円~9,000円 | 圧倒的に安い。 農耕地登録あり。 |
| P系ジェネリック | グルホシネートP(非農耕地用) | 約9,000円 | 農耕地では使用不可。駐車場等に。 |
コストパフォーマンスの分析:
ザクサはバスタジェネリックの約2倍の価格設定です。しかし、単純に「高い」と切り捨てるのは早計です。ザクサは「高い展着性」や「耐雨性」を製剤設計に組み込んでおり、多少の悪条件でも安定した効果を発揮する傾向があります。
希釈倍率と散布量:
一般的に、ザクサもバスタ系も、一年生雑草に対しては100倍~200倍での希釈が推奨されます。
この差額1,800円をどう捉えるかが選定のポイントです。「確実に枯らしたい」「雨が降りそうだ」「環境負荷を気にする」という場面ではザクサの信頼性がコストを上回ります。一方で、「広大な面積を何度も撒く」「コスト最優先」という場合は、バスタジェネリックの安さは圧倒的な武器になります。
価格情報は、農業資材のオンラインショップなどで最新の相場を確認することが重要です。
ザクサ(およびその同等成分を期待するジェネリック)を散布する際、その効果を最大限に引き出すためのテクニックがあります。グルホシネート系除草剤は「接触型」であり、薬液がかかった部分だけが枯れる性質を持っています。根まで枯らすグリホサート系(ラウンドアップなど)とは使い方が根本的に異なります。
効果的な散布のポイント:
グルホシネート系の成分は、植物の光合成が活発で、かつ葉が湿っている状態のほうが吸収されやすい傾向があります。乾燥した昼間よりも、朝夕の湿度が少し高い時間帯や、雨上がりの葉が乾いた直後などに散布すると、薬効が強く出やすいという現場の声が多くあります。
「かかったところしか枯れない」ため、葉の裏表にしっかりと薬液が付着する必要があります。少水量散布ノズルを使う場合でも、ムラがないように丁寧に撒くことが、結果として再散布の手間を省き、コスト削減につながります。
ザクサ自体にも展着性を高める成分が含まれていますが、スギナやツユクサなどの難防除雑草を相手にする場合、機能性展着剤(アビオンEなど)を混用することで、付着率と耐雨性をさらに強化できます。
雑草が枯れるまでの期間:
ザクサの最大の特徴は、その発現速度です。
注意点:
どちらも「根までは枯らさない」ため、多年生雑草は再生してきます。しかし、これはデメリットだけではありません。「畦畔(あぜ)の崩落を防ぐ」という点では、根を残す性質が非常に有利に働きます。法面(のりめん)の除草には、土壌流出を防ぐためにザクサやグルホシネート剤が第一選択となります。
安全な散布方法については、農薬工業会のガイドラインも参照してください。
「ザクサ ジェネリック」と検索して安価な商品を見つけた際、最も注意しなければならないのが「農薬登録(農耕地登録)」の有無です。
ネット通販などで見かける「グルホシネートP 5L(非農耕地用)」という商品は、成分自体はザクサと同じL体を使用している可能性がありますが、農作物を作る田畑、果樹園、家庭菜園では使用できません。
これらは駐車場、宅地、道路などの「植物を栽培・管理していない場所」専用です。もし農耕地で使用すると、農薬取締法違反となり、出荷停止や罰則の対象となるだけでなく、近隣へのドリフト(飛散)トラブルの原因にもなりかねません。
選び方のフローチャート:
ラベルの確認は必須です。「適用作物名」の欄に具体的な野菜や果樹の名前が書いてあれば農耕地用、書いていなければ非農耕地用です。ここを間違えると、残留農薬検査でポジティブリスト制度に抵触するリスクがあります。
農林水産省の農薬登録情報検索システムで、正確な登録情報を確認することができます。
最後に、少し専門的な視点からザクサ(グルホシネートP)の独自性と、なぜ今この除草剤が必要とされているのかを解説します。ここには、単なる「雑草枯らし」以上の科学的な戦略が含まれています。
アンモニア毒性による枯殺メカニズム:
ザクサの有効成分は、植物体内の「グルタミン合成酵素」という酵素の働きを阻害します。植物は通常、体内で発生した有害なアンモニアをこの酵素を使って無害なグルタミンに変えています。ザクサによってこの回路が止められると、植物の細胞内に高濃度のアンモニアが急速に蓄積します。結果として、アンモニアの毒性によって細胞膜が破壊され、植物は枯死に至ります。このプロセスは日光(光合成)によって促進されるため、晴天時の散布が効果的なのです。
グリホサート抵抗性雑草への切り札:
近年、世界中で問題になっているのが、ラウンドアップなどの「グリホサート系除草剤」が効かない雑草(抵抗性雑草)の出現です。特に、オヒシバ、ネズミムギ(イタリアンライグラス)、ヒメムカシヨモギなどは、グリホサートを散布しても枯れずに生き残る個体が増えています。
ここでザクサの出番です。
ザクサ(グルホシネート系)は、グリホサートとは全く異なる作用機序(作用点)を持っています。そのため、グリホサートに抵抗性を持ってしまった雑草に対しても、劇的な効果を発揮します。
実際に、グリホサートで枯れ残ったオヒシバを叩くための「レスキュー剤」としてザクサを使用する農家が増えています。
「ローテーション防除」の重要性:
しかし、ザクサばかりを連用すれば、いずれザクサに抵抗性を持つ雑草が現れる可能性も否定できません。重要なのは、グリホサート系とグルホシネート系(ザクサやバスタジェネリック)をローテーションで使用することです。春先はグリホサートで根まで枯らし、夏場の繁茂期にはザクサで地上部を速効処理する、といった使い分けが、長期的な雑草管理コストを下げる賢い戦略となります。
除草剤抵抗性のメカニズムや対策については、以下の研究資料も参考になります。