リン酸は、窒素・リン酸・カリの三要素の一つで、核酸や酵素などの重要な生理機能に関わり、エネルギー伝達、光合成、呼吸、糖代謝など広い範囲に関与します。
作物がリン酸を吸収すると、根の生育が良くなり、発芽や初期生育が促進され、開花・結実、成熟、品質にも良い影響が出やすいのが基本です。
現場で見逃しやすいのが「初期生育の遅れ」です。根が張らないと水分・窒素の吸い上げも鈍り、結果として“肥料は入っているのに勢いが出ない”状態に見えます。
リン酸不足のサインとしては、葉の赤紫色化、果実の成熟遅れなどが挙げられ、生育・収量・品質の低下につながります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/9df5a065ef189db10e8d0c3d6bec7ad667cc89fb
ただし、リン酸は畑の中でムラが出やすく、株ごとに症状が揃わないこともあります。症状だけで決め打ちせず、土壌分析と過去の施肥履歴で裏を取るのが安全です。
リン酸は、肥料から溶け出しても、その多くが土壌中でアルミニウムなどの金属イオンと結びついて作物が利用しにくい形になりやすく、これが「リン酸固定」です。
火山性土は反応しやすいアルミニウムを多く含み、リン酸固定の起きやすさを示すリン酸吸収係数が高く、リン酸が効きにくい土壌として整理されています。
さらにアルミニウムは土壌pHが低いほど溶け出しやすいので、炭カルなどでpHを適切に保つことがリン酸の効きに直結します。
ここで重要なのが「堆肥は土づくりだけでなく、リン酸固定を抑える面でも意味がある」という視点です。たい肥には腐植酸などリン酸固定を抑える物質が含まれるため、リン酸の有効利用に寄与します。
また、日本ではリン酸肥料が過剰投与され、畑地や樹園地でリン酸肥沃度が上昇する傾向がある、という問題提起もされています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/a15744ca7d781bb0f8b90324d014a84e4e7f4a4c
リン酸原料のリン鉱石は日本ではほぼ輸入に依存し、枯渇や価格高騰の懸念があるため、「入れ続ける前提」から「土と有機物のリン酸を活かす前提」へ切り替える価値が高いです。
意外と見落とされがちですが、リン酸は「不足を怖がって増やす」より、「固定を起こしにくい条件を整えて、必要量で効かせる」ほうが再現性が上がります。pH矯正、堆肥の質、施肥位置(全面か局所か)をセットで考えると、リン酸の体感が変わります。
参考:リン酸固定の仕組み、pH管理、く溶性リン酸の使い分け(リン酸の基礎と施肥の考え方)
https://agriport.jp/field/ap-13284/
リン酸質肥料は、性質として水溶性リン酸・可溶性リン酸・く溶性リン酸に分けて考えると整理しやすいです。
水溶性リン酸は作物に早く吸収されますが、土壌中でリン酸固定されやすい性質があるため、“効かせたいのに土に取られる”が起きやすいタイプです。
一方、く溶性リン酸は根から出る弱い酸に溶けて吸収されるため吸収は遅いものの、土壌中に固定されにくい性質があるとされています。
この「固定されにくい=ゆっくり効く」は、有機リン酸肥料の設計思想とも相性が良いです。作期が長い作物や、長期的な土づくりの文脈では、速効だけに寄せるより、持続とロス低減を重視したほうが結果的に安定します。
一般的な化成肥料やBB肥料は、く溶性(または可溶性)と水溶性の両方を含む場合があるため、「銘柄のPは全部同じ速度で効く」と思わないことが大事です。
実務では、次のように判断軸を置くとブレにくいです。
有機リン酸肥料を語るとき、購入資材(骨粉など)だけでなく、圃場に入る堆肥・家畜糞のリン酸を「主戦力」として数える発想が重要になります。
日本ではリン酸の過剰蓄積が問題視されており、堆肥など有機物に含まれるリン酸は化学肥料より効率の良いリン酸資源になり得る、という指摘があります。
実際に、牛糞堆肥の例として「窒素は年間約30%が無機化」とされる一方で、リン酸は90%以上という報告が多い、という整理が示されています。
ここが“意外な盲点”で、堆肥を「窒素の効きが遅いから控えめに」だけで評価すると、リン酸の寄与を過小評価しやすいです。窒素は不足分を化学肥料等で補い、リン酸は堆肥で置き換える設計が望ましい、という提案もされています。
また、リン酸の過剰害は出にくいと言われてきた一方で、リン酸過剰で収量や品質が低下する事例も報告されているため、「多めに入れておけば安心」で進めるのはリスクです。
資材別に見ると、考え方は次のようにまとめられます。
参考:堆肥中リン酸の肥効が高い理由(難溶化しにくい説明、フォスファターゼ、長期試験のデータ)
https://www.yanmar.com/jp/agri/agri_plus/soil/articles/11.html>
リン酸は土に触れた瞬間から固定のリスクが始まるので、量の議論だけだと勝ちにくい栄養素です。そこで効いてくるのが「根域に置く」という設計で、化学肥料のリン酸でも局所施用のほうが効率が良いことが実証されており、その理由として全層施用より根域内にリン酸が多く存在し、鉄やアルミニウムと結合するリン酸が少ない点が説明されています。
たとえば、たまねぎでは播種条下2~4cmの局所施用により生育が促進され、基肥リン酸を約30%減肥できる、という例が示されています。
この考え方を、有機リン酸肥料にも応用します。堆肥中のリン酸(有機態リン酸)は、有機物に覆われて土壌粒子に直接触れにくく、難溶性になりにくい、さらに根や微生物が分泌するフォスファターゼで無機化して吸収される、という説明があります。
つまり「全層に薄く混ぜる」よりも、「根が通る場所に、分解・無機化が起きる形で配置する」ほうが、リン酸の体感が出やすい局面があります。
有機リン酸肥料で結果が割れる圃場は、資材の良し悪しより、置き方(根域・局所)と条件(pH、火山灰土壌、堆肥の腐植)で差が付いていることが多いので、次作からは“置き方の試験”を小面積で入れるのがおすすめです。
実験の設計例(ムダ打ちしない最小単位)
この3つを比べると、資材の効果なのか、固定条件の問題なのか、切り分けが一気に進みます。