ものづくり補助金農業用ドローン申請と採択事例や処分制限

農業の省力化に役立つドローン導入ですが、高額な費用がネックです。ものづくり補助金を活用すれば負担を大幅に減らせますが、厳しい賃上げ要件や処分制限をご存知ですか?申請前に知るべき全情報を解説します。

ものづくり補助金での農業用ドローン

農業ドローン導入の重要ポイント
💰
賃上げ要件

事業所内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上に設定する必要あり

⚠️
処分制限期間

法定耐用年数(通常5年)内は勝手な売却や廃棄が禁止される

📝
採択の鍵

単なる機械導入ではなく「革新的な生産プロセス」の提示が必要

ものづくり補助金農業用ドローンの申請対象と賃上げ要件

 

ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)は、中小企業や小規模事業者が革新的なサービス開発や試作品開発、生産プロセスの改善を行うための設備投資を支援する制度です。農業分野においても、ドローンによる農薬散布やセンシング技術の導入は「生産プロセスの改善」に該当するため、広く活用されています。しかし、単に「ドローンが欲しい」という理由だけでは採択されません。以下の厳格な要件を満たす必要があります。

 

  • 事業者要件: 個人事業主(農家)や農業法人が対象です。ただし、実質的な経営活動を行っていることが条件であり、確定申告書等の提出が求められます。
  • 付加価値額の向上: 補助事業終了後3~5年で、付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)を年率平均3.0%以上増加させる計画が必要です。
  • 賃上げ要件(最重要):
    • 給与支給総額: 年率平均1.5%以上増加させること。
    • 事業所内最低賃金: 地域別最低賃金+30円以上の水準にすること。

    特にこの「賃上げ要件」は、未達成の場合に補助金の返還を求められる可能性がある非常に重要なポイントです。農業は季節雇用が多い業種ですが、この要件は事業所内の全従業員に適用されるため、パート・アルバイトの時給設定にも直接影響します。

     

    ものづくり補助金総合サイト(公募要領や最新の締切情報は必ずこちらで確認してください)
    参考)https://portal.monodukuri-hojo.jp/common/bunsho/ippan/15th/saitaku15ji.pdf

    また、従業員数が常時5人以下の場合は「小規模事業者」として扱われ、補助率や要件が緩和されるケースもありますが、基本的には「経営革新」を伴う投資であることが求められます。既存のトラクターを単に買い換えるような「更新投資」ではなく、ドローン導入によって「これまで不可能だった散布精度を実現する」「作業時間を80%削減し、新たな作物の栽培を始める」といった革新性が審査されます。

     

    ものづくり補助金農業用ドローンの採択事例と活用法

    過去の公募(第1回~第18回など)において、農業用ドローンの導入で採択された事例は数多く存在します。これらの成功事例に共通するのは、「ドローン導入そのもの」を目的にせず、それによって得られる経営上の成果を具体的に示している点です。以下に代表的な活用事例と、審査員に評価されやすいポイントを整理します。

     

    活用事例 具体的な業務内容 経営革新のポイント(アピール要素)
    精密農薬散布 GPS/RTK搭載ドローンによる自動航行でのピンポイント散布 人力散布と比較して作業時間を1/10に短縮し、余剰時間で高収益作物(イチゴ、トマト等)の栽培規模を拡大。
    可変施肥技術 マルチスペクトルカメラでの生育診断と連動した肥料散布 生育不良エリアのみに追肥を行うことで、肥料コストを20%削減しつつ、コメの品質(食味値)を向上させブランド化を実現。
    直播栽培への転換 ドローンによる種もみの直播 育苗プロセスの完全廃止による大幅な省力化と資材コスト削減。空いたハウスを活用した野菜栽培による通年収益化。
    鳥獣被害対策 赤外線カメラ搭載ドローンによる夜間監視と追い払い 従来の電気柵では防げなかった被害を低減し、廃棄ロスを削減。収穫量の安定化による売上向上。

    これらの事例からわかるように、採択されるためには「ドローンによって空いた時間やコストをどう使うか」という次のアクションが明確でなければなりません。「楽になる」だけでは不十分で、「楽になった分で売上をどう伸ばすか」というストーリーが不可欠です。

     

    SMART AGRI:農業用ドローン導入に活用できる補助金解説(事例検索の方法なども紹介されています)
    例えば、「夏場の重労働である防除作業をドローン化することで、高齢従業員の離職を防ぎ、技術承継を行う時間を確保する」といった、人材不足解消や組織強化の視点も評価される傾向にあります。

     

    ものづくり補助金農業用ドローン特有の処分制限と減価償却

    これは多くの申請者が見落としがちですが、知っておかないと後で痛い目を見る非常にリスクの高いポイントです。補助金で購入したドローンは、国の税金が投入された「財産」とみなされるため、好き勝手に扱うことができません。これを「財産処分の制限」と呼びます。

     

    • 処分制限期間: 補助金で購入した設備には、法律で定められた「法定耐用年数」の期間中、処分(売却、廃棄、貸付、担保提供など)が制限されます。
    • ドローンの耐用年数:
      • 一般的に「航空機」ではなく「器具及び備品」の中の「光学機器及び写真製作機器」や「その他の家具、電気機器、ガス機器及び家庭用品」などに分類されることが多く、多くの場合5年とされます(機能やサイズにより7年となる場合もあるため、税理士への確認が必須です)。
      • この期間内に、例えば「新しい機種が出たから買い替えたい」「農業を辞めるから売りたい」と思っても、無断で行うことはできません。

      もし制限期間内に処分を行う場合は、事前に事務局へ承認申請を行い、残存簿価相当額(場合によっては補助金額の一部)を国庫へ返納しなければなりません。「もらった補助金を返す」という事態になりかねないため、安易な転売や早期の買い替えは事実上不可能です。

       

      補助金で購入した設備を処分する際の注意点(処分制限期間の5年ルールや返納義務について詳しく解説されています)
      参考)【売る?捨てる?】補助金で購入した設備を処分する際の注意点 …

      また、減価償却についても注意が必要です。補助金を受け取った場合、会計処理として「圧縮記帳」を行うことで、補助金分を課税対象から外す処理が一般的ですが、これを行うと翌年度以降の減価償却費が小さくなります。これは一見節税メリットが減るように見えますが、初年度の税負担を抑える効果があります。農業経営におけるキャッシュフローに大きく影響するため、導入前に顧問税理士と「圧縮記帳をするか否か」を相談しておくことを強く推奨します。

       

      ものづくり補助金農業用ドローン導入の具体的な流れ

      ものづくり補助金の申請から入金までは、非常に長い期間を要します。「今すぐドローンが欲しい」と思っても、実際に手元に来るのは半年以上先になることも珍しくありません。また、原則として後払い(精算払い)である点にも注意が必要です。

       

      1. gBizIDプライムの取得:
        • 現在は電子申請のみとなっており、「gBizIDプライム」アカウントが必須です。取得には印鑑証明書の郵送などが必要で、2週間程度かかることがあるため、真っ先に着手してください。
      2. 事業計画書の作成:
        • 認定支援機関(地元の金融機関、商工会、税理士など)と相談し、「確認書」を発行してもらう必要があります。計画書は単独で作るのではなく、プロの助言を得ながらブラッシュアップします。
      3. 電子申請(J-Grants):
        • 締切日までにシステム上で申請を完了させます。
      4. 採択発表・交付申請:
        • 採択されただけでは購入できません。「交付申請」を行い、正式な「交付決定通知」を受け取って初めて発注が可能になります。交付決定前の発注は一切補助対象にならないので要注意です。
      5. 事業実施(発注・納品・支払い):
        • 自己資金または金融機関からのつなぎ融資で、先に代金を全額支払います。
      6. 実績報告・確定検査:
        • 納品書、請求書、振込控え、通帳のコピー、導入写真などを提出し、事務局の検査を受けます。
      7. 補助金の入金:
        • 検査合格後、「補助金確定通知」が届き、ようやく指定口座に入金されます。

      NTT e-Drone Technology:スマート農業補助金の要件解説(農業用ドローンの資産区分や耐用年数についての詳細な記述があります)
      参考)【7つの必須要件(法定耐用年数は7年)】農水省「スマート農業…

      特に「つなぎ融資」の確保は重要です。ドローン本体に加え、講習費や周辺機器を含めると数百万円の出費が先行します。採択通知を持って金融機関に相談に行っても、審査には時間がかかります。申請段階から「採択されたら融資をお願いしたい」と金融機関に相談し、認定支援機関になってもらうのがスムーズな流れです。

       

      ものづくり補助金農業用ドローン採択率を高める計画書

      ものづくり補助金の採択率は、回によって変動しますが、概ね30%~50%程度で推移しています。半分以上が不採択となる狭き門です。採択率を高めるためには、審査員が読みたくなる、加点要素を押さえた計画書作りが欠かせません。

       

      • 「革新性」の具体的記述:
        • 「他社でもやっていること」は革新性が低いと判断されます。「自社の地域では初の取り組みである」「この作物に対してこのドローン技術を使うのは独自性が高い」といった、相対的な革新性を強調しましょう。
      • 具体的な数値目標:
        • 「効率化します」ではなく、「作業時間を年間120時間削減し、人件費換算で○○万円のコストダウンを実現。削減した時間で新たにネギ栽培を10アール開始し、売上○○万円増を見込む」といったように、計算式が見えるレベルで記載します。
      • 加点項目の獲得:
        • 「経営革新計画」の承認、「事業継続力強化計画」の認定などを事前に取得しておくと、審査で加点されます。特に災害対策などをまとめた「事業継続力強化計画」は、農業と親和性が高く、比較的取得しやすいためおすすめです。

        行政書士法人INU:ドローンはものづくり補助金の対象!採択事例とポイント(採択率の推移や審査の加点項目について解説されています)
        参考)【2025.8】ドローンはものづくり補助金の補助対象!採択事…

        最後に、計画書全体を通して「一貫性」があるかを確認してください。現状の課題(人手不足・高齢化)から、解決策(ドローン導入)、そして結果(賃上げ・付加価値向上)までが、一本の線でつながっていることが重要です。無理な売上予測や、実態とかけ離れた賃上げ計画は、審査員の不信感を招くだけでなく、将来的に自社の首を絞めることになります。実現可能かつ野心的な計画を練り上げましょう。

         

         


        フロントライン