電気柵の設置方法
この記事でわかること
✅
資材と道具の選び方
補助金の活用も視野に入れた、失敗しないための資材・道具選びのポイント。
📏
正しい設置手順
支柱の打ち込みからワイヤーの張り方まで、効果を出すための具体的な施工手順。
💡
効果を最大化するコツ
アースの重要性や、イノシシやシカなど対象動物別の効果的な対策方法。
失敗しない電気柵の資材選びと補助金
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電気柵の効果は、適切な資材選びから始まります。設置する場所の広さや地形、対象とする動物の種類によって最適な組み合わせは異なります。まずは、電気柵を構成する基本的な資材を理解しましょう。
- 本機(パワーボックス): 電気柵の心臓部。ソーラー式、乾電池式、AC100V式などがあります。管理の手間やコストを考慮して選びましょう。
- 支柱・ポール: FRP製や樹脂製など、絶縁性が高く耐久性のある素材が主流です。動物が飛び越えられない高さを確保できるものを選びます 。
- 碍子(ガイシ): 支柱にワイヤーを固定するための絶縁体です。支柱の外側(畑の外側)に向けて設置するのが基本です 。
- ワイヤー(柵線): アルミ線やメッキ線など、電気伝導率が高い素材が使われます。対象動物が見やすいように、色のついたポリワイヤーも有効です。
- アース棒: 本機からの電気を地面に返すための重要な部品です。湿った土壌に深く打ち込むことで、効果が格段に上がります 。
- ゲートセット: 人や農機具が出入りする場所に設置します 。ハンドル部分は絶縁体になっており、電源を切らずに出入りが可能です 。
- 危険表示板: 周囲の人に電気柵の存在を知らせ、安全を確保するために法律で設置が義務付けられています 。
- テスター(検電器): 設置後やメンテナンス時に、柵の電圧をチェックするために必須の道具です。
これらの資材購入には、多くの自治体で補助金制度が設けられています 。補助率は購入費用の2分の1程度、上限額は数万円から30万円程度と様々ですが、予算がなくなり次第終了となる場合がほとんどです 。お住まいの市町村の農林担当課などに問い合わせ、早めに申請手続きを進めることをお勧めします。例えば、糸魚川市では共同設置の場合に補助率が上がる制度があります 。
鳥獣害対策用の電気柵の適正な設置管理については、農林水産省のガイドラインも参考にしてください。
農林水産省:鳥獣による農作物等の被害の防止に係る電気さく施設における安全確保について
電気柵の支柱とワイヤーの正しい設置手順
資材が揃ったら、いよいよ設置作業です。正しい手順で丁寧に設置することが、獣害を防ぐための第一歩です。一人でも設置は可能ですが、複数人で行うとより効率的です 。
- ① 下準備(草刈り)
設置予定地の雑草を刈り払います。ワイヤーが雑草に触れると、そこから電気が地面に逃げてしまい(漏電)、柵全体の電圧が大幅に低下してしまいます 。防草シートを敷くと、その後の管理が楽になります 。
- ② 支柱の打ち込み
まず、畑の四隅と出入り口(ゲート)部分に支柱を立てます 。次に、その間の支柱を3〜5m間隔で、ハンマーなどを使って20〜30cmほどしっかりと地面に打ち込みます 。傾斜地や地形が複雑な場所では、動物が侵入しやすい隙間ができないよう、支柱の間隔を狭めるのがコツです 。
- ③ 碍子(ガイシ)の取り付け
支柱に碍子を取り付けます。碍子は、畑の外側を向くように固定してください。これにより、動物がワイヤーを押した際に碍子からワイヤーが外れにくくなります 。
- ④ ワイヤー(柵線)を張る
碍子にワイヤーを通していきます。下の段から張り始め、対象動物に合わせた高さに調整します(後述)。ワイヤーはピンと張ることが重要ですが、張りすぎると温度変化で切れる可能性もあるため、簡易緊張具などを使って適度なテンションをかけましょう 。
- ⑤ 出入り口の設置
ゲートハンドルのバネ部分にワイヤーを結びつけ、反対側の支柱の碍子に引っ掛ける形で出入り口を作成します 。これにより、電源を入れたままでも安全に出入りできます 。
全農が公開している設置方法の動画も、一連の流れを理解するのに非常に役立ちます。
JA全農:1人でも簡単 電気柵の設置方法 鳥獣害
電気柵の効果を最大化するアースと漏電対策
電気柵の性能を100%引き出すために最も重要なのが「アース(接地)」です 。電気柵は、動物がワイヤーに触れた際に「ワイヤー → 動物の体 → 地面 → アース棒 → 本機」という回路が成立し、電気が流れることで効果を発揮します。そのため、アースが不十分だと、いくら高性能な本機を使っても十分な電気ショックを与えられません。
💧 アース設置の極意
- 湿った場所を選ぶ: アース棒は、一年を通して湿り気のある場所に打ち込むのが鉄則です 。乾いた土壌は電気抵抗が高く、電気が流れにくいためです 。もし適切な場所がなければ、定期的にアース棒の周りに水をまくなどの工夫が必要です。
- 深く、複数本打ち込む: アース棒は、最低でも1m以上の深さまで打ち込みます。本機の出力が大きい場合や、土壌が乾燥しやすい場合は、アース棒を1m以上の間隔をあけて2〜3本設置すると、より確実なアース効果が得られます 。
- 本機との接続: アース棒と本機のアース端子は、付属のアース線で確実に接続します。接続部分が錆びたり緩んだりしないよう、しっかりと固定してください。
🚫 漏電は効果半減のサイン
漏電は、電気柵の効果を著しく低下させる最大の敵です。主な原因は、雑草や木の枝、または不適切な碍子の使用です。設置後はテスターを使って電圧を測定し、4000V以上を維持できているか定期的にチェックしましょう 。もし電圧が極端に低い場合は、以下の点を確認してください。
- 柵の周囲に雑草や倒木などがワイヤーに触れていないか。
- 碍子が破損していないか、正しく取り付けられているか。
- ワイヤーが緩んで地面に接触していないか。
漏電箇所を見つけ、速やかに対処することが、電気柵の効果を持続させる鍵となります。
電気柵でイノシシやシカの鼻先を狙う高さ設定
電気柵のワイヤーの高さは、対象とする動物の習性に合わせて設定することが極めて重要です。動物は、障害物を鼻先で確認する習性があるため、最も敏感な「鼻」に電気ショックを与えるのが最も効果的です 。
🐗 イノシシ対策
イノシシは地面に近い場所を鼻で掘りながら進むため、低い位置へのワイヤー設置が基本です。地面から20cm間隔で2段張りにするのが一般的です 。
- 1段目: 地面から20cm
- 2段目: 地面から40cm
これにより、潜り込もうとするイノシシの鼻先に確実にワイヤーが触れます。特に大きなイノシシが想定される場合は、3段目(60cm)を追加するとさらに効果的です。
🦌 シカ対策
シカは非常に跳躍力が高いため、高さで侵入を防ぐ必要があります。ワイヤーは30cm〜45cmの間隔で、4段から5段張りにします 。
- 1段目: 地面から30cm
- 2段目: 地面から60cm
- 3段目: 地面から90cm
- 4段目: 地面から120cm〜150cm
特に傾斜地では、シカが飛び越えやすくなるため、斜面の下側から測って十分な高さを確保し、支柱の間隔を詰めて設置するなどの工夫が必要です 。
アライグマやハクビシンなどの小動物も対象とする場合は、地面から10cm程度の低い位置から、10〜15cm間隔でワイヤーの段数を増やす必要があります 。
電気柵の意外と知らない心理的効果と「慣らし運転」
電気柵は物理的な壁で動物を止めるのではなく、電気ショックによる「痛み」と「恐怖」を学習させることで、心理的に近寄らせなくする「心理柵」です 。一度でも鼻先に強い衝撃を受ければ、動物はその場所を危険なエリアとして認識し、警戒して近寄らなくなります。この心理的効果を最大限に引き出すための、プロが行う「慣らし運転(学習期間)」というテクニックがあります。
💡 最初の接触が肝心!効果的な学習のさせ方
設置初期に、動物が確実にワイヤーに触れ、電気ショックを体験させることが重要です。特に警戒心の強い動物は、ワイヤーを慎重に観察して触れずに侵入しようとすることがあります。そこで、以下のような方法で最初の接触を意図的に促します。
- 誘引餌の設置: 動物が好む米ぬかなどを、ワイヤーのすぐ内側(畑側)に少量置いておきます。餌に誘われて鼻を近づけた動物が、確実にワイヤーに触れるように仕向けます。
- アルミホイルの活用: ワイヤーの一部に、短冊状に切ったアルミホイルを巻きつけます。風で揺れるアルミホイルに興味を持った動物が鼻先で触れやすく、また金属であるため通電性も高まり、より確実な電気ショックを与えることができます。
この「慣らし運転」を設置後の数日間行うことで、動物は早い段階で「この柵は危険だ」と学習します。この最初の学習が、その後の長期的な防護効果を大きく左右するのです。
⚖️ 安全管理と法律遵守
電気柵は効果的なツールである一方、人に対する危険性も伴います。安全確保は設置者の最も重要な義務です。
- 危険表示板の設置: 人が見やすいように、一定の間隔で危険表示板を必ず設置してください 。
- 電源装置の選択: 家庭用コンセント(AC100V)など、30ボルト以上の電源を使用する場合は、電気用品安全法(PSEマーク)の適用を受けた電気柵用電源装置を使用することが法律で定められています 。
- 漏電遮断器の設置: 人が容易に立ち入る場所に設置する場合、15ミリアンペア以上の漏電が起こった際に0.1秒以内に電気を遮断する漏電遮断器の設置が強く推奨されています 。
正しい知識を持って設置・管理し、大切な農作物を獣害から守りましょう。
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