枯草菌の特徴と見た目は?納豆菌との違いや培養コロニーを顕微鏡で

枯草菌の見た目やコロニーの特徴、納豆菌との微妙な違いを解説します。顕微鏡での見え方や、農業で自家培養した際の成功・失敗を見極める「視覚的サイン」を知っていますか?

枯草菌の特徴と見た目

枯草菌の視覚的特徴まとめ
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コロニー(集落)

乾燥してシワがあり、不透明でツヤがない「縮毛状」の見た目が特徴。

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顕微鏡での形態

紫に染まるグラム陽性の桿菌(棒状)。過酷な環境では光る「芽胞」を作る。

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農業利用のサイン

培養液の表面に白い「菌膜(バイオフィルム)」が張れば活性化の証拠。

枯草菌と納豆菌の見た目の違いと見分け方

 

農業現場や家庭菜園において、枯草菌(Bacillus subtilis)と納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)は非常に混同されやすい細菌です。生物学的には、納豆菌は枯草菌の亜種(変種)に分類され、遺伝的には99%以上が一致するため、基本的な性質は極めて似通っています。しかし、実用面や「見た目」においては明確な違いが存在し、特に農業資材として自家培養する際にはその差異を理解しておくことが重要です。

 

最も大きな視覚的・物理的な違いは、「粘り気成分(ポリグルタミン酸)」の有無にあります。

 

  • 納豆菌の特徴:
    • 大量のネバネバした物質(ポリグルタミン酸とフラクタンの混合物)を菌体外に分泌します。
    • 培養すると、水分を多く含んだ光沢のあるコロニーを形成しやすい傾向があります(株による)。
    • 豆などのタンパク質豊富な培地で増殖すると、糸を引くほどの強い粘性を生じます。
  • 枯草菌(野生株)の特徴:
    • 納豆菌ほど強力なネバネバ物質は生成しません。
    • 乾燥した質感をしており、ベタつきが少ないのが一般的です。
    • 培養液はサラサラとしており、粘度よりも「膜」の形成が目立ちます。

    細菌学的な解説:亀田総合病院 感染症科による枯草菌と納豆菌の分類と特徴
    また、ビオチン(ビタミンH)の要求性も見た目の生育に影響を与えます。納豆菌は生育にビオチンを必須とし、これがないと増殖できませんが、多くの野生の枯草菌はビオチンなしでも増殖可能です。このため、特定の培地で育てた際の「育ち具合」や「コロニーの広がり方」に差が出ることがあります。農業利用において、資材が「納豆のように糸を引くか」あるいは「白い膜が張るだけか」は、使用している菌株が納豆菌寄りか、野生の枯草菌寄りかを見分ける一つの目安となります。

     

    枯草菌のコロニーの形態と培養によるシワの特徴

    寒天培地(プレート)上で枯草菌を培養した際に形成される「コロニー(菌の集落)」の見た目は、この菌を同定する上で非常に重要な手がかりとなります。大腸菌などがツルッとした光沢のある円形のコロニーを作るのに対し、枯草菌のコロニーは「極めて粗造(ラフ)で、複雑なシワを持つ」という際立った特徴があります。

     

    枯草菌のコロニーに見られる主な視覚的特徴は以下の通りです。

     

    1. 表面の質感(Texture):
      • 乾燥(Dry): 水っぽさがなく、乾いたマットな質感です。
      • 粗造(Rough): 表面がザラザラしており、光を反射しない不透明な灰白色〜クリーム色をしています。
    2. 形状(Shape):
      • 不正形: きれいな円形にならず、縁がギザギザと波打った形(Lobate)や、根が張ったような形になることが多いです。
      • 縮毛状: 拡大してみると、縮れた毛が絡まり合ったような複雑な模様が見えます。
    3. 立体的構造:
      • シワ(Wrinkles): コロニーの中心から放射状、あるいは網目状に隆起したシワが形成されます。これは菌同士が立体的に積み重なり、酸素を求めて表面積を増やそうとする生存戦略の一環とも考えられています。

    参考:枯草菌コロニーの複雑な形態形成と環境pHによる変化(京都大学 数理解析研究所)
    この独特な「シワ」のある形状は、枯草菌が形成する強固な細胞外マトリックスによるものです。農業用に市販されている微生物資材を寒天培地に塗抹し、このような「シワシワで乾燥した、艶のないコロニー」が出現すれば、それは枯草菌が優占している証拠と言えます。逆に、ツヤツヤしてぬめりのあるコロニーや、鮮やかな色のコロニーばかりが出る場合は、他の雑菌(酵母や別の細菌)が混入している可能性を疑う必要があります。

     

    枯草菌を顕微鏡で見た時の桿菌と芽胞の構造

    光学顕微鏡を用いて枯草菌を観察すると、肉眼では見えないミクロな「見た目」の特徴が明らかになります。枯草菌は「桿菌(かんきん)」と呼ばれるグループに属しており、その名の通り細長い棒状の形をしています。

     

    顕微鏡観察における主なチェックポイント:

    • グラム染色(Gram Stain):
      • 枯草菌は「グラム陽性菌」です。グラム染色を行うと、細胞壁の厚いペプチドグリカン層がクリスタルバイオレットを保持するため、濃い紫色に染まります。大腸菌などのグラム陰性菌(赤〜ピンク色)とは明確に色が異なるため、ここで大まかな判別が可能です。
    • 形状と配列:
      • 大きさは長さ2〜3µm(マイクロメートル)、幅0.7〜0.8µm程度の直状の桿菌です。
      • 単独で存在することもありますが、数個がつながった「連鎖状」に見えることがよくあります。
      • 生きた状態で観察すると、菌体の周囲にある「周毛性鞭毛(しゅうもうせいべんもう)」を使って活発に泳ぎ回る様子が観察できます。
    • 芽胞(Endospore)の形成:
      • 枯草菌の最大の特徴の一つが、環境が悪化(栄養不足や乾燥など)した際に形成する「芽胞(がほう)」です。
      • 位相差顕微鏡などで観察すると、菌体の中央またはやや端寄りに、光を強く屈折してキラキラと光る楕円形の構造物として見えます。通常の染色法では染まりにくく、菌体の中に白く抜けた穴のように見えることもあります(芽胞染色を行えば緑色に染まります)。

      参考資料:山梨大学医学部附属病院による細菌の顕微鏡観察実習(納豆菌・枯草菌の画像あり)
      この「芽胞」が見えるかどうかが、農業利用における品質保持の鍵となります。芽胞の状態であれば、熱や乾燥、紫外線に対して極めて高い耐久性を持ちます。市販の枯草菌資材が粉末や乾燥状態で販売できるのは、菌がこの「休眠カプセル」のような見た目の状態になっているからです。培養液を顕微鏡で確認し、光る粒(芽胞)が多く見られれば、その培養液は保存がきく状態に移行しつつあると判断できます。

       

      枯草菌が液面で作るバイオフィルム(菌膜)の視覚的特徴

      多くの解説記事では納豆菌との比較が中心になりますが、枯草菌には「液体培養時に見せる特有の現象」があります。それが液面に形成される分厚いバイオフィルム(菌膜)、通称「ペリクル(Pellicle)」です。

       

      枯草菌(Bacillus subtilis)の「subtilis」は「細い」という意味ですが、和名の「枯草菌」は、枯れ草の煮汁(Hay infusion)で培養するとよく増えることに由来します。このとき、液面に独特な膜を張ることが、古くから知られる大きな特徴です。

       

      バイオフィルムの見た目の進行プロセス:

      1. 初期段階: 培養液の表面に、薄い霧のような白い濁りが生じます。
      2. 形成期: 次第に白く不透明な膜が液面全体を覆い始めます。この膜は非常に疎水性(水を弾く性質)が高く、液体の上に浮いています。
      3. 成熟期: 膜は分厚くなり、コロニー同様に「シワ」や「ヒダ」のある立体的な構造を形成します。時には容器の壁面を這い上がるように膜が広がることもあります。
      4. 崩壊期: 振動を与えたり培養が進みすぎたりすると、膜の一部がちぎれて液中に沈殿し、フレーク状(薄片状)の浮遊物となります。

      この膜形成は、枯草菌が「好気性細菌(酸素を好む菌)」であることと深く関係しています。液中は酸素が欠乏しやすいため、菌たちが協力して液面に足場(バイオフィルム)を組み、空気中の酸素を効率よく取り込もうとする集団行動の結果が、この「シワのある白い膜」なのです。

       

      研究報告:農研機構による枯草菌の物質生産とバイオフィルム・胞子形成の関係
      農業現場において、液体肥料や微生物資材を自作している際、液面にこのような「ガサガサした白い膜」が張ることは、腐敗ではなく枯草菌が順調に増殖し、酸素を求めて活発に活動している証拠(成功サイン)である場合が多いです。逆に、膜が張らずに液全体が均一に濁り、不快な腐敗臭がする場合は、嫌気性の腐敗菌が優勢になっている恐れがあります。

       

      枯草菌の農業利用における培養液の見た目と完成判断

      農業従事者が枯草菌(または納豆菌)を自家培養して土壌改良や病害予防に利用する場合、顕微鏡などの検査機器なしで「培養の成功・失敗」を見極める必要があります。ここでは、五感を使って確認できる「見た目」や「状態」のチェックリストをまとめます。

       

      成功した枯草菌培養液の見た目と特徴:

      観察項目 成功(枯草菌優位)のサイン 失敗(雑菌汚染・腐敗)のサイン
      液面 白い膜(菌膜)が全体を覆う。膜にはシワがあることが多い。 膜がない、または油膜のようなギラギラした膜。黒や緑のカビが浮いている。
      最初は透明〜薄茶色だが、白っぽく濁る(乳白色〜ベージュ) 黒ずんでいる、ピンク色や赤みを帯びている、ドブのような色。
      沈殿物 培養後期に、白いオリのような沈殿物が溜まる(芽胞や菌体)。 ヘドロのような粘りのある重い沈殿物。
      エアレーション(空気供給)をしている場合、キメの細かい泡が消えずに残る。 泡立ちが全くない、または異常に大きな泡が出る。
      ニオイ 納豆のような匂い、甘酸っぱい発酵臭、香ばしい匂い。 強烈な腐敗臭、硫黄の匂い(卵の腐った臭い)、アンモニア臭。

      完成と使用のタイミング:
      培養を開始して(温度によりますが24〜48時間程度で)、液面にしっかりとした白い膜(ペリクル)が形成され、液全体が白濁したタイミングが、菌の活性が最も高い「対数増殖期」の終わり頃です。この段階での使用が、土壌への定着や有機物分解において最も効果が高いとされています。

       

      さらに時間を置くと、膜が破れて沈殿し、液の色が少し澄んできます。これは菌が「芽胞」を形成して休眠モードに入ったサインです。保存性を高めたい場合や、葉面散布で長期的な予防効果(紫外線耐性など)を狙う場合は、この「見た目の変化(膜の沈降)」を確認してから使用または保存容器に移すと良いでしょう。

       

      技術指針:日本土壌協会による有機栽培技術と微生物資材の管理(失敗例の解説あり)
      培養に失敗した液体(ドブ臭い、黒い)を畑に撒くと、病原菌を拡散させたり、作物の根を傷めたりする原因になります。「見た目」と「ニオイ」のダブルチェックを徹底し、少しでも違和感がある場合は、惜しまずに廃棄して作り直す勇気が、安全な農業には不可欠です。

       

       


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