カニムシは日本全国に広く分布する小型節足動物で、2022年時点で15科36属72種が確認されています。体長は1~7mm程度で、サソリのような大きなハサミ(触肢)を持ちながら尾がない独特の姿をしています。クモガタ綱カニムシ目に属し、世界では約3,400種が知られていますが、日本にも未記載種が多数存在すると考えられています。
参考)カニムシの種類は?日本に分布する?採集方法は?食べ物は?蟹の…
日本で最も一般的な種類としては、チビコケカニムシが利尻島から九州まで広く分布し、都市の公園や劣悪な土壌環境にも普通に生息しています。体長1.2~1.5mm程度の小型種で、幼形成熟を行う特殊な生態を持ちます。ムネトゲツチカニムシは体長1.0~1.7mmで、東北地方南部から九州に分布し、照葉樹林帯や都市の公園にも普通に見られます。
カニムシは主として森林土壌中、石下、樹皮下、朽木中、哺乳類や鳥類の巣など多様な環境に生息する土壌生物です。極地と水中を除いた環境に広く生息し、湿度の高い森林土壌や石の下を好む種が多く見られます。大型種は石をめくると裏面で発見できますが、小型種の野外採集には専用の装置が必要です。
参考)http://old.sss.fukushima-u.ac.jp/bandai-asahi-project/072701.pdf
肉食性のカニムシは、トビムシ類やダニ類などの小型節足動物を主な餌としています。ハサミで獲物を捕らえた後、体液を吸い取る特殊な摂食行動を取ります。興味深いことに、ハサミが汚れることを嫌う性質があり、クモを襲って糸がからむと捕食を忘れてハサミの掃除を始める習性も観察されています。
参考)感染症を媒介するマダニの天敵を発見
営巣行動も特徴的で、メスは産卵後に育児嚢を糸で形成し、卵を守ります。種類によっては繭を作り、孵化まで1~2日間子供を保護する行動も確認されています。
カニムシは農業において重要な益虫としての可能性を持っています。特にオオヤドリカニムシは、森林性のネズミと共生しながらマダニを捕食する天敵であることが森林総合研究所の研究で明らかになりました。飼育実験では、マダニの幼虫を直ちに捕食し、自分と同じ体サイズのマダニ成虫にも果敢に襲いかかって80%程度の確率で捕食に成功しました。
参考)国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所/マダニ…
オオヤドリカニムシは体長5mm程度で、北海道から本州南部の低地から山地に分布します。ネズミに寄生はするものの危害を加えることはなく、コナダニやマダニを好んで食べる特性があります。食べられたマダニは体液を吸い取られて半透明の空っぽ状態になります。
ドングリなどの餌が豊富でネズミの生息密度が高い森林では、カニムシの個体数が多く維持され、マダニの天敵として機能している可能性があります。このことから、生物多様性が豊かな森林が野生動物由来の感染症を抑制する効果が期待されています。
カニムシの採集方法は種類によって異なり、ツルグレン装置という熱で土壌動物を採集する装置や、樹皮・石をめくる方法があります。しかし、単にカニムシを観察したい場合は「ハンドソーティング法」が最も簡便です。この方法では、土壌を篩にかけてトレーや白いビニールシートの上に落とし、手で採集・観察します。
採集に適した環境は、枯れた落葉や落枝からふかふかの腐葉土が堆積したリター層が豊富な土壌です。カニムシは捕食者なので、餌となる土壌動物が十分に存在する植生が発達した地点での調査が効果的です。身近な公園でもチビコケカニムシなどは見つけることができます。
篩の網目は、土壌中のカニムシが非常に小型であるため多少小さくても問題ありません。標高による垂直分布も研究されており、ミツマタカギカニムシは標高35~40mの低地帯から2000mの亜高山帯まで分布することが確認されています。
参考)https://tsurumi-u.repo.nii.ac.jp/record/133/files/47_4_02_sato.pdf
農業従事者にとって、土壌中のカニムシの存在は土壌生態系の健全性を示す指標となる可能性があります。カニムシが多く生息する環境は、捕食・被食関係が機能している証拠であり、土壌の生物多様性が保たれていることを示唆します。
森林総合研究所によるオオヤドリカニムシのマダニ捕食に関する詳細な研究成果
カニムシの飼育は比較的容易で、農業現場での益虫利用の可能性を探る上で参考になります。基本的な飼育方法としては、タッパーなどの容器に湿らせたティッシュと隠れ家となる木の皮を入れるシンプルな環境で飼育できます。飢餓耐性が高いため、ガラスやアクリル容器に枯葉一枚だけでも長期飼育が可能です。
参考)トゲヤドリカニムシ|Hinata
餌としては、トビムシを「入れる」のではなく容器内で「わかす」方法が効果的です。これにより継続的に餌を供給できます。また、熱帯魚フードやドッグフード、昆虫ゼリー、虫の死骸なども餌として利用できます。注意点としては、共食い、脱走、過度な取り扱いを避けることが重要です。
参考)http://aechmea.seesaa.net/article/131142470.html
農業における天敵利用の事例として、ナス農家で利用されるタバコカスミカメは、数ミリの緑色の虫でナスの害虫であるコナジラミを捕食する益虫です。一度虫を放てば害虫を食べてくれるため、週1回散布していた農薬が不要となり、コスト削減にもつながっています。
参考)益虫をフル活用!害虫は虫で倒すという考え方 - 農業メディア…
カニムシも同様に、土壌中の害虫制御に活用できる可能性があります。特にダニ類やトビムシなど、作物に被害を与える小型節足動物の天敵として機能することが期待されます。生物多様性を保った土づくりを行うことで、自然にカニムシが定着し、害虫を抑制する効果が得られる可能性があります。