カチオンモルタルは、一般的なセメントモルタルとは全く異なる接着原理を持っています。通常のモルタルがコンクリートの表面の凹凸に物理的に食い込んで(投錨効果)固まるのに対し、カチオンモルタルは化学的な電気結合を利用します。コンクリートやモルタル、磁器タイルなどの下地は、水に濡れると表面がマイナス(-)の電気を帯びる性質があります。ここに、プラス(+)の電荷を持たせた「カチオン(陽イオン)」の樹脂モルタルを塗ることで、磁石のN極とS極が引き合うように強力に密着するのです 。
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この特性により、これまでは接着が難しかった古くなったコンクリート水路の補修や、タイルの上からの薄塗り施工が可能になりました。しかし、いくら材料が優秀でも、施工手順を一つでも間違えればその性能は発揮されず、半年も経たずに「浮き」や「剥がれ」が発生します。特に農業現場では、屋外での作業や水分の多い環境が多く、建築現場とは違った厳密な管理が求められます。本記事では、農業従事者が自身の設備を長く維持するために必要な、プロレベルの施工知識を深掘りします。
塗装や左官工事において「下地処理で仕上がりの8割が決まる」と言われるほど、この工程は重要です。特に農業用水路や納屋の床は、長年の泥、コケ、藻、そして油分が付着しており、これらを完全に取り除かない限り、カチオンモルタルは下地ではなく「汚れ」の上に接着することになります 。
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農業用の動力噴霧器や家庭用の高圧洗浄機がある場合、15MPa程度の水圧で洗浄を行うのが理想的です。表面の脆弱な部分(もろくなったコンクリート表面)を吹き飛ばすつもりで念入りに洗ってください。特に水路の角や目地部分は汚れが溜まりやすいため、ノズルを近づけて洗浄します 。
高圧洗浄機がない場合、あるいは洗浄後でも落ちない頑固な付着物がある場合は、ワイヤーブラシやスクレーパー(皮スキ)を使って物理的に削り落とす「ケレン作業」が必須です。鉄筋が露出して錆びている場合は、錆を完全に落とし、防錆プライマーを塗布する必要があります。ここで手を抜くと、内部から錆が膨張してモルタルを押し出す「爆裂」現象が再発します 。
見た目はきれいでも、既存のコンクリートが内部で浮いていることがあります。ハンマーの柄やテストハンマーで表面を叩き、軽く乾いた音がする箇所は内部が浮いています。その部分はカッターを入れてハツリ(除去)を行い、健全な部分まで露出させてから補修を行う必要があります。
農林水産省:農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】(下地処理の詳細や標準的な施工管理基準について記述されています)
カチオンモルタルは、粉体と混和液(専用樹脂)の2液性であることが一般的です。この混ぜ合わせには化学反応が伴うため、適当な感覚で行うと硬化不良を起こします。また、製品ごとに定められた「可使時間(ポットライフ)」は、農業の現場作業では特に短く感じられるはずです 。
参考)https://jp.images-monotaro.com/etc/pdf/manual/manual_29309877_20230623_01.pdf
必ず「混和液」を先に容器に入れ、その中に少しずつ「粉体」を投入しながら撹拌します。逆にすると粉が底でダマになり、均一に混ざりません。撹拌には電動ドリルにミキサーのアタッチメントを付けたものを使用し、3分程度しっかりと練り上げます。手練りでは樹脂成分が全体に行き渡らず、接着力にムラが出るリスクがあります 。
練り混ぜた直後から硬化反応が始まります。夏場であれば30分〜45分、冬場でも60分程度で使い切る必要があります。作業に夢中になって時間が過ぎると、バケツの中でモルタルが重くなり始めます。この時、絶対に水を足して柔らかくしてはいけません(「シャブ」と呼ばれるご法度行為です)。水を足すと樹脂の比率が狂い、強度が著しく低下してボロボロになります。一度に練る量は、30分以内に塗り切れる量に留めるのが鉄則です 。
多くのメーカーから「夏用」「冬用」の製品、あるいは遅延剤などが用意されています。気温が30度を超える真夏の施工では、モルタルが瞬時に乾いてしまうため、夕方の涼しい時間帯を選ぶか、日除けを設置するなどの工夫が必要です。
カチオンモルタルの多くは「薄塗り」を得意とする材料です。一度に厚く塗ろうとすると、垂れ(ダレ)が発生したり、内部の水分が抜けきらずに硬化不良を起こしたりします。深い穴や大きな欠損を埋める場合は、一度で仕上げようとせず、数回に分けて層を重ねる「積層施工」を行います 。
最初のひと塗りは、コテ板に取った少量のモルタルを、下地に強く押し付けるように薄く塗り広げます(しごき塗り)。これにより、微細な孔に樹脂が入り込み、アンカー効果と化学的接着力を最大化します。その直後に、所定の厚みまで塗り重ねる「追っかけ塗り」を行うと、剥離のリスクを最小限に抑えられます。
仕上げ面を平滑にする際、何度もコテで触りすぎると、水分と樹脂分だけが表面に浮き出てくる「アマ浮き」状態になります。これは乾燥後のひび割れ(クラック)の原因となります。コテ波を消すのは、ある程度水が引いて締まってきたタイミングで行うのがコツです。指で触って少し跡がつく程度の硬さになったら、仕上げゴテで一発で決めるように意識します 。
参考)https://www2.nttoryo.co.jp/dcms_media/other/nt_kachion_tight_f.pdf
5mm以上の深さがある欠損部には、カチオンモルタル単体ではなく、専用の厚付け用モルタルを使用するか、珪砂(けいさ)を骨材として混ぜてボリュームを出す方法があります。ただし、自己流の配合は強度バランスを崩すため、基本的には「厚付け用」として販売されている製品を選定するのが無難です 。
施工後の「養生(ようじょう)」は、モルタルの強度を決定づける最後の関門です。特に農業施設は遮蔽物のない屋外にあることが多く、風や直射日光、低温の影響をダイレクトに受けます。ここで「ドライアウト」と「白華(はっか)」という2つの敵を防ぐ必要があります 。
参考)モルタルの仕上げをツルツルにする方法と種類を徹底解説|表面を…
水分が蒸発するスピードが、セメントの水和反応(固まる反応)よりも早くなると、モルタルは硬化せずに粉っぽい状態になります。これをドライアウトと呼びます。対策として、施工直後に散水養生を行うか、ブルーシートや塗膜養生剤で表面を覆い、急激な乾燥を防ぎます。特に風が強い日は、水分があっという間に奪われるため、風よけの設置も効果的です 。
参考)https://www.ysnet546.com/user_data/packages/merumaga/201016.pdf
冬場の施工(気温5度以下)では、硬化が遅れる間に水分が移動し、セメント成分が表面で結晶化して白く粉を吹く「白華(エフロレッセンス)」が発生しやすくなります。見た目が悪いだけでなく、表面強度の低下を示唆する場合があります。対策としては、気温が5度以下になる日の施工は避けるか、施工後に採暖養生を行うことですが、現実的には夕方以降に凍結しないよう断熱シートで覆うことが最低限必要です。もし白華してしまった場合は、完全硬化後に酸洗いで除去します 。
施工後24時間は雨に濡らさないことが原則です。農業用水路の場合、上流の水門を確実に閉め、土嚢で止水していても、予期せぬ雨で水が流れ込むことがあります。天気予報をこまめに確認し、怪しい場合は施工を延期する勇気も必要です。
日本化成株式会社:冬季のモルタル施工に注意しましょう!(白華現象のメカニズムや酸洗いによる除去方法、凍害対策について詳しく解説されています)
農業従事者にとって、カチオンモルタル施工の最大のメリットは「水路の機能回復」にあります。単に穴を塞ぐだけでなく、水理学的な性能を向上させることができるのです。ここでキーワードとなるのが「粗度係数(そどけいすう)」です 。
参考)農水路規格適合 補修材 「PWモルタル/PW目地(タイプA)…
粗度係数とは、水路表面の「ザラザラ具合」を数値化したものです。長年使われたコンクリート水路は、表面が摩耗し、骨材(砂利)が露出してザラザラになっています。これにより水の抵抗が増え、流速が落ち、末端の田んぼまで水が届くのに時間がかかるようになったり、ポンプの負荷が増えたりします。
カチオンモルタル、特に「ポリマーセメントモルタル」と呼ばれる種類は、非常に緻密で滑らかな表面(粗度係数 n=0.011程度)を形成します。既設の劣化したコンクリート(n=0.015〜0.018程度)の上からこれをライニング(被覆)することで、水の滑りが劇的に良くなります。計算上、同じ勾配と断面でも、通水能力が2割〜3割向上することもあります 。
農業用水には土砂が含まれていることが多く、通水期間中は常に底面がサンドペーパーで削られているような状態です。カチオン系の樹脂モルタルは、通常のコンクリートに比べて耐摩耗性が高く、削れにくい性質を持っています。水路の底面(インバート)だけでもカチオンモルタルで仕上げておくことで、水路全体の寿命を10年単位で延ばすことが可能になります 。
参考)コンクリート補修工事
表面が平滑になると、泥が堆積しにくくなり、結果として藻や草の根が張りにくくなります。これは春先の江浚い(水路掃除)の労力軽減にも直結します。補修を行う際は、単なる「ひび割れ埋め」にとどまらず、全面を薄くコーティングする「表面被覆工」を検討する価値は十分にあります 。
前田工繊株式会社:農水路規格適合 補修材「PWモルタル」(粗度係数0.011を実現する農業用水路専用の補修材についてのスペックや特徴が記載されています)

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