水和反応とコンクリートの強度と養生の仕組みと温度と時間

コンクリートが固まるのは乾燥ではなく化学反応だということを知っていますか?農家が知るべき水和反応の正しい知識、強度が上がる温度と時間の関係、用水路の劣化対策について解説します。なぜ水をかける必要があるのかご存知ですか?

水和反応とコンクリート

水和反応とコンクリート
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乾燥ではなく反応

水とセメントが化学反応を起こして結晶化することで硬くなります。

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温度管理が命

初期の温度と湿度が将来の強度と寿命を決定づけます。

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農業土木の要

用水路の補修では水和反応を理解しないとすぐに剥がれます。

水和反応とコンクリートの仕組みとセメントの結晶

 

多くの人が誤解していますが、コンクリートは泥が乾くように水分が蒸発して固まるのではありません。「水和反応(すいわはんのう)」という化学反応によって、水を取り込みながら全く新しい物質へと変化することで硬化します 。このメカニズムを理解することは、農道や納屋の基礎、用水路のDIY補修を行う農家にとって非常に重要です。

 

参考)コンクリートはなぜ固まる?粒子を結び付ける「水和反応」とは?…

セメントの主成分は、石灰石などを焼いて作られた化合物ですが、これに水を加えると、水和反応が始まり、セメント粒子の表面から髪の毛のような微細な結晶が伸び始めます。この結晶は「ケイ酸カルシウム水和物(C-S-Hゲル)」や「エトリンガイト」と呼ばれ、これらが砂や砂利の隙間を埋め尽くし、互いに絡み合うことで強固な岩のような状態になります 。つまり、コンクリートが固まるためには、乾燥させるのではなく、むしろ反応に必要な「水」が内部に十分にある状態を維持しなければならないのです。

 

参考)コンクリートの水和反応と水和生成物の化学式

もし、反応が終わる前に水分が蒸発してしまうと、結晶の成長が止まり、スカスカの脆いコンクリートになってしまいます。これを防ぐために、打設後に水をかけたりシートで覆ったりして水分を保つ作業が必要不可欠であり、これが「養生(ようじょう)」の本質的な意味です 。

 

参考)乾燥するからじゃない!コンクリートが固まる理由−コンクリート…

  • 反応の主役:セメントと水
  • 生成されるもの:水和生成物(C-S-Hゲルなど)と熱(水和熱)
  • 誤った認識:乾かせば固まる
  • 正しい認識:水と反応して結晶が育つ

参考リンク:コンクリートの水和反応と水和生成物の化学式(反応の詳しい図解があります)

水和反応とコンクリートの強度と時間の温度管理

水和反応の進行速度、つまりコンクリートがどれくらいの速さで強くなるかは、「温度」に大きく依存します。専門用語では、この温度と時間の積算値を「マチュリティ(成熟度)」と呼び、強度の目安にします 。

 

参考)コンクリートの養生|SS.S

気温が高い夏場は反応が一気に進みますが、逆に早すぎて熱を持ち、ひび割れの原因になることがあります。一方で、冬場や春先の冷え込む時期は反応が極端に遅くなります。特に気温が4℃以下になると水和反応はほとんど停止してしまいます 。そのため、農閑期の冬場に用水路の補修などを行う場合は、練り混ぜ水にお湯を使ったり、打設後に断熱シートや毛布で覆って温度を5℃以上に保つ「保温養生」を行わないと、いつまでたっても強度が発現せず、春の水入れ時に崩壊するリスクがあります。

 

参考)コンクリートの品質を左右する養生ポイントや失敗しないためコツ…

十分な強度を得るために必要な期間は、日平均気温によって異なります。

 

日平均気温 必要な養生期間の目安(普通セメント) 理由
15℃以上 5日間以上 反応が順調に進むため、比較的短期間で所定の強度が出る ​。
10℃以上 7日間以上 反応速度が落ちるため、長期間の湿潤状態の維持が必要。
5℃以下 寒中コンクリートとしての対策必須 そのままでは硬化不良(凍害)を起こすため、加熱や保温が必要 ​。

この表からも分かるように、農作業の合間に「ちょっとセメントを練って補修しよう」と考えたとき、その日の気温だけでなく、その後1週間の最低気温をチェックすることが、長持ちするコンクリートを作る秘訣です。

 

参考リンク:コンクリートの養生 - 技術系備忘録(温度と日数の詳細な表があります)

水和反応とコンクリートの養生とひび割れの対策

水和反応は熱を伴う反応です。セメントと水が混ざると「水和熱」が発生し、コンクリート内部の温度が上昇します 。その後、冷えていく過程でコンクリートは収縮しようとしますが、このとき地面や鉄筋に拘束されていると、引っ張る力が生まれて「ひび割れ(クラック)」が発生します。

 

参考)コンクリートの水和反応とは?コンクリートの強度と耐久性をもた…

農家がDIYで行う土間コンクリートや水路補修で最も多い失敗が、このひび割れです。これを防ぐための最大の対策が「湿潤養生(しつじゅんようじょう)」です。

 

  1. 水分の蒸発を防ぐ: 表面が乾燥すると、内部との収縮差でひび割れ(プラスチック収縮ひび割れ)が起きます。打設直後からブルーシートなどで覆い、風や直射日光を遮断します 。​
  2. 反応水を補給する: 水和反応には水が必要です。特に表面は乾きやすいため、硬化が始まったらジョウロやホースで水をまく(散水養生)のが非常に効果的です。水をまくことで、コンクリートの温度上昇を抑える冷却効果も期待でき、熱によるひび割れも防げます 。

    参考)製造、運搬、施工・養生時の暑中コンクリート対策

  3. 振動を与えない: 水和反応による結晶のネットワークが形成されている最中に重機が乗ったり衝撃を与えたりすると、結晶構造が破壊され、二度とくっつきません。

「コンクリートは生き物」と言われるのは、この水和反応が続いている間、環境変化に敏感だからです。打設して終わりではなく、そこから1週間、「水を飲ませて育てる」感覚を持つことが、プロ顔負けの丈夫なコンクリートを作るコツです。

 

参考リンク:コンクリートの品質を左右する養生ポイント(失敗しないための養生方法が解説されています)

水和反応とコンクリートの農業用水路の劣化と水

ここからは、一般的な建築記事ではあまり語られない、農業特有の「水和反応と劣化」の視点です。農業用水路のコンクリートは、実は常に過酷な化学的環境にさらされています。

 

水和反応によって生成される物質の一つに「水酸化カルシウム」があります。これは強アルカリ性で、コンクリートの中にある鉄筋が錆びるのを防ぐ重要な役割(不動態被膜の形成)を果たしています 。しかし、農業用水路を流れる水は、肥料成分や土壌由来の成分、あるいは雨水によって弱酸性になることがあります。また、常に水が流れているため、コンクリート表面の成分が少しずつ水に溶け出す「溶脱(ようだつ)」という現象が起きます。

 

参考)https://data.jci-net.or.jp/data_pdf/38/038-01-1114.pdf

長年使われた用水路の表面がザラザラになり、白い砂利が浮き出てくるのは、水和反応で作られたカルシウム分が溶け出し、アルカリ性が失われる「中性化」が進行した証拠です 。こうなると強度が低下し、最終的にはボロボロになってしまいます。

 

参考)AgriKnowledgeシステム

農家ができる補修のポイント:
古い水路をモルタルで補修する場合、古いコンクリートの表面は中性化してもろくなっていることが多いです。

 

  • 高圧洗浄: 劣化した表面(コケや脆弱部)を完全に除去する。
  • 吸水調整: 乾いた古いコンクリートにいきなり新しいモルタルを塗ると、新しいモルタルの水分(水和反応に必要な水)が一瞬で吸い取られ、接着面で「ドライアウト」という硬化不良が起きます。これを防ぐため、古いコンクリートにたっぷり水を吸わせてから(水和反応を阻害しない状態にしてから)、新しい材料を塗るのが鉄則です 。

    参考)DIYで,木造平屋を建てる【ベタ基礎編9】生コン打設後の養生…

農業用水路の寿命を延ばすには、この「カルシウムの溶出」と「新しい水和反応のための水分確保」という化学的な視点を持つことが、無駄な補修作業を減らすことにつながります。

 

参考リンク:コンクリート水路に施工された無機系補修材の中性化とその要因(農業用水路特有の劣化原因についての論文です)

 

 


熱力学で理解する化学反応のしくみ 変化に潜む根本原理を知ろう (ブルーバックス)