除虫菊乳剤の価格と有機JAS農薬の効果や成分の比較

天然由来の殺虫剤として注目の除虫菊乳剤。その価格相場は適正?有機JASに使える理由や、意外と知られていない自作農薬とのコスト比較、使用時に絶対注意すべき魚毒性について深掘りします。あなたは正しく使えていますか?
除虫菊乳剤の基礎知識
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価格と入手性

業務用は18L缶で約3.3万円前後が相場。一般向けは少量ボトルやスプレータイプが入手可能。

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有機JAS適合

天然成分「ピレトリン」を使用しており、有機JAS農産物の栽培に使用できる貴重な殺虫剤。

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使用上の注意

哺乳類には安全だが魚毒性が極めて高い。また光分解しやすいため散布タイミングが重要。

除虫菊乳剤の価格

除虫菊乳剤の価格相場と通販での購入方法

 

除虫菊乳剤は、一般的な化学合成農薬と比較すると価格が割高になる傾向があります。これは原料となるシロバナムシヨケギク(除虫菊)の栽培や抽出に手間がかかるためです。農業現場でよく使われる代表的な製品「金鳥除虫菊乳剤3」などを例に、容量ごとの価格相場を見てみましょう。

 

  • 業務用(18L缶):

    大規模農家向けのサイズです。価格は33,000円~35,000円前後で流通しています。1000倍~1500倍に希釈して使用するため、散布面積が広い場合は最もコストパフォーマンスが良くなります。主にJA(農業協同組合)や農業資材専門店での取り扱いが中心ですが、一部の業務用品を取り扱う通販サイトでも購入可能です。

     

  • 中規模用(1L~5L):

    実はこの中規模サイズの流通は非常に少なく、市場で見つけるのが難しいのが現状です。多くの農家は18Lを購入するか、あるいはJAで小分け販売されているものを探すことになります。

     

  • 家庭園芸用(100ml~スプレー剤):

    「ガーデントップ」などの商品名で、ホームセンターやAmazon、楽天などの通販で手軽に購入できます。価格は1本(1000ml程度のスプレー)で800円~1,200円ほど。希釈済みですぐ使える利便性はありますが、農地全体に散布するにはコストが非常に高くなります。

     

通販で購入する場合、業務用サイズは「重量物」扱いとなり、送料が高額になるケースがあるため注意が必要です。また、有機JAS資材として認定されているかどうかを商品詳細で必ず確認してください。「ピレスロイド系」と書かれていても、合成ピレスロイド(エクスミン乳剤など)の場合は有機JASには使用できません。

 

参考リンク:モノタロウでの除虫菊乳剤の取り扱い状況と価格相場

除虫菊乳剤の有機JAS適合と天然成分

多くの有機農業者が除虫菊乳剤を選ぶ最大の理由は、有機JAS規格の農産物に使用可能であるという点です。しかし、すべての「除虫菊」と名のつく製品が使えるわけではありません。ここには重要な条件があります。

 

  1. 天然ピレトリンであること:

    化学的に合成された「合成ピレスロイド」は有機JASでは使用できません。シロバナムシヨケギクから抽出された天然の殺虫成分である必要があります。

     

  2. ピペロニルブトキサイド(PBO)を含まないこと:

    これが最も見落とされがちなポイントです。一般的なスプレー殺虫剤には、殺虫効果を高めるための「共力剤(PBO)」が添加されていることが多いですが、有機JAS規格では、このPBOが含まれている除虫菊乳剤は使用不可とされています。

     

「金鳥除虫菊乳剤3」などは、PBOを含まない純粋な抽出物であるため、有機JASリストに掲載されています。この「混ぜ物がない」という純粋さが、価格の高さにもつながっていますが、収穫前日まで使用できる(作物による)など、残留リスクを極限まで抑えたい生産者にとっては代えがたいメリットがあります。

 

参考リンク:有機農産物の日本農林規格(有機JAS)に使用可能な農薬リストの詳細

除虫菊乳剤の効果とピレトリンの特性

除虫菊乳剤の主成分「ピレトリン」は、昆虫の神経系に作用し、麻痺を引き起こすことで殺虫効果を発揮します。この作用は即効性があり、「ノックダウン効果」と呼ばれます。散布してすぐに害虫がポロポロと落ちる様子は、他の有機農業用資材(デンプン剤や油剤など)にはない強力な特徴です。

 

ターゲットとなる害虫:

しかし、ピレトリンには「光(紫外線)や空気で急速に分解される」という大きな特性があります。これが「残留しにくい」という安全性の根拠でもありますが、一方で「残効性がない(効果が長続きしない)」というデメリットにもなります。

 

効果を最大化するテクニック:

  • 夕方に散布する: 紫外線による分解を防ぐため、日中ではなく夕方に散布することで、夜間に活動する害虫に長く作用させることができます。
  • 展着剤を工夫する: 有機JASで使用可能な展着剤(パラフィン系など)を混用し、虫体への付着率を高めることが推奨されます。

参考リンク:蚊取り線香の歴史から見る天然除虫菊の分解特性と効果

除虫菊乳剤と自作農薬のコスト比較

ここからは少しマニアックな視点ですが、検索上位にはあまり出てこない「除虫菊乳剤は自作できるのか?」というテーマで、市販品とのコストパフォーマンスを比較してみましょう。実は、昭和初期までは多くの農家が除虫菊を栽培し、自家製殺虫剤を作っていました。

 

自作の手順(焼酎抽出法):

  1. シロバナムシヨケギクを栽培し、開花時に花を摘み取って乾燥させる。
  2. 乾燥した花を、ホワイトリカー(35度以上の焼酎)またはエタノールに漬け込む。
  3. 冷暗所で1~2ヶ月抽出する。

コスト試算(概算):

項目 市販品(除虫菊乳剤3) 自作(焼酎抽出)
原料コスト 約33,000円(18L) 苗代・焼酎代(数千円~)
手間・人件費 購入のみ 栽培・収穫・乾燥・抽出(莫大)
有効成分濃度 3.0%(保証値) 不明・不安定(推定0.1%以下も)
安定性 乳化されており水に溶けやすい 展着性が悪く、目詰まりしやすい

結論として:
「趣味の園芸」レベルであれば、自作は非常にロマンがあり、低コストで楽しめます。しかし、営農レベルでの自作はコストパフォーマンスが極めて悪いと言わざるを得ません。自作エキスは有効成分濃度が一定せず、散布しても「効かなかった」というリスクが高いためです。市販の除虫菊乳剤が高いのは、成分濃度を保証し、水にきれいに混ざるように「乳化」させる技術料が含まれているからだと理解すべきでしょう。

 

参考リンク:除虫菊エキスの自作方法と焼酎漬けの詳細な手順

除虫菊乳剤の魚毒性と使用の注意点

除虫菊乳剤を使用する際、最も注意しなければならないのが「魚毒性(ぎょどくせい)」です。人間や犬猫などの哺乳類・鳥類に対しては、体内で速やかに分解されるため毒性は非常に低いとされています。しかし、魚類や水生昆虫に対しては、エラから吸収されやすく、分解能力も低いため、猛毒となります。

 

具体的な事故防止策:

  • 河川・用水路付近での使用禁止: 散布液が風で流されたり(ドリフト)、雨で流出したりして川に入ると、魚が大量死する恐れがあります。
  • 使用後の器具洗浄水: タンクを洗った水を不用意に側溝に流さないでください。必ず土壌に浸透させるなどの処理が必要です。
  • 室内での水槽: 家庭園芸用のスプレータイプであっても、室内に熱帯魚や金魚の水槽がある部屋では絶対に使用してはいけません。エアポンプを通じて成分が水槽内に入り、全滅するリスクがあります。

天然由来=すべての生き物に優しい、というわけではありません。この「選択的毒性」を正しく理解して使用することが、プロの農業従事者や賢いガーデナーには求められます。

 

参考リンク:金鳥除虫菊乳剤の安全データシート(SDS)と魚毒性警告

 

 


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