動力散粉機で最初に固めたいのは「調量装置(シャッタ開度)」で、ここがブレると同じ面積を歩いても散布量が変わり、過剰散布や効きムラの原因になります。
取扱説明書では、散布幅を決め、シャッタ開度に対応する吐出量をグラフ等で導き、吐出量・散布幅・目標散布量から歩行速度を算出する、という組み立てが示されています。
さらに、歩行速度は0.3~0.6m/秒の範囲が最適として、範囲外なら散布幅か吐出量を見直して調整する目安が提示されています。
ここで重要なのは「歩行速度を気合いで合わせる」のではなく、先に“現実に歩ける速度帯”を前提に設定を逆算することです。
参考)https://www.maruyama.co.jp/instruction/pdf/125505-05_GD400A.pdf
畦畔・ほ場条件で速度が落ちる現場では、吐出量(シャッタ)を絞らずに作業すると、想定より散布量が増えて薬害やコスト増につながりやすいです。
次のチェック項目で、設定が破綻しやすい点を事前に潰します。
・散布幅:無風時の参考値で、風で大きく変動する前提で考える(「いつもの幅」を過信しない)。
・吐出量:粉剤・粒剤・肥料など資材で流動性が変わるので、資材を変えたら再確認する。
参考)https://www.ja-tajima.or.jp/agriculture/maintenance/douryokusanpu.html
・設定の記録:噴頭、散布幅、シャッタ位置、スロットル開度、歩行速度をセットで残すと翌年の再現性が上がる。
水稲の病害虫防除などで使われる「動力散粉機+多孔ホース噴頭」は、長いホースから均一に吐出させられる反面、作業姿勢と風向きの取り方を誤ると被ばくが急増します。
自治体や関係機関の注意喚起では、風下からの散布や、動力散粉機(多孔ホース噴頭)の中持ちなどをやめ、農薬を浴びないよう注意するよう明記されています。
同趣旨の注意事項は国の資料にも見られ、現場の“昔からのやり方”が事故要因として残りやすい点が分かります。
「中持ち」が起きる典型パターンは、ホースが作物や畦畔に引っかかる、風量が強くホースが浮く、散布ラインを急いで乱す、といった場面です。
参考)https://yamabiko.g.kuroco-img.app/files/topics/5464_ext_1_0.pdf
背負動力散布機の取扱説明書でも、吐粉しながらホースが僅かに浮き上がる程度になるよう、スロットルで風量(エンジン回転)を調整して決める説明があり、ホースの挙動は“調整対象”です。
対策は「禁止事項を守る」だけでなく、作業設計を変える方が確実です。
・風向きを固定して作業線を組む(風下散布にならない段取りにする)。
参考)農薬危害防止運動/長野県
・風量を上げすぎず、ホースが暴れない回転域に落とす。
・ホース長が長い運用ほど、2人作業・合図・旋回ルールを決め、無理な取り回しを減らす。
参考)https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/uploaded/attachment/61973.pdf
動力散粉機は粉剤を扱うため、薬剤そのものの毒性とは別に「粉じん」として吸い込みやすい点が現場リスクになります。
粉じん障害防止規則は、粉じんにさらされる労働者の健康障害防止のための措置を求めており、呼吸用保護具の使用も規定されています。
また厚生労働省資料では、粉じんばく露防止に向けて、発生源対策に加え「呼吸用保護具の適正な選択及び着用」などを徹底する重要性が示されています。
農業の散粉作業は、屋外で「風で希釈されるから大丈夫」と誤認しやすい一方、顔の近くでホース先端が暴れる、旋回で粉が巻く、衣服に付着して後で吸う、という“遅れて効く”被ばくが起きやすいです。
現場で実装しやすいのは、次の三点セットです。
・装着性の良い防じんマスクを選び、フィット(隙間)を毎回チェックする。
参考)https://jsite.mhlw.go.jp/hokkaido-roudoukyoku/content/contents/001679609.pdf
・ゴーグルやフェイスシールドで目の刺激を減らし、作業中に顔へ触る回数を下げる。
・作業後に衣服をはたいて車に乗らない、洗い場の導線を決める(家族への持ち込み低減)。
特に、粉剤の作業で「防じんマスクを着けたつもり」でも、鼻筋や頬の隙間で性能が落ちやすいので、マスク形状と顔の相性は軽視しない方が安全側です。
均一散布を現場で安定させるコツは、「散布幅」と「歩行速度」を“守れる仕様”に落とすことです。
例えば取扱説明書には、粒剤・肥料で散布幅10~15mを目安とする例や、スロットル開度を3~5ノッチとして散布幅約15mにした場合の歩行速度例が示され、設定→速度の流れで考える実務が読み取れます。
また散布幅は風の強さで変化し、無風時の参考値である旨も明記されているため、風の日の“いつも通り”はムラの温床になります。
歩行速度の管理は、ストップウォッチで10mの歩行時間を測り、0.3~0.6m/秒(=10mを約17~33秒)に収まっているかを見ると、現場の確認が速いです。
速度が遅くなる圃場(ぬかるみ、畦畔の段差、条間の狭さ)では、散布幅を欲張るより、散布幅を少し落としてでもムラが減る方向に振る方が結果的に再散布が減ります。
散布ムラが出たときの切り分けは、原因を「風」「設定」「資材」「操作」に分けると早いです。
・風:風速が上がると到達距離が落ちるだけでなく、横流れで濃淡が出る。
・設定:シャッタ開度と吐出量の対応を見直す。
・資材:粒径や被覆の有無で飛び方が変わり、同じ設定が通用しないことがある。
・操作:旋回でレバー操作が遅れて“溜まり散布”が起きる。
検索上位は「使い方」「メンテ」「安全」が中心になりがちですが、現場で意外に効くのが“粒剤の規格による飛び方の差”を前提にする視点です。
農研機構系の資料では、動力散布機で短管噴頭を使用した場合、3kg粒剤より1キロ粒剤の方が遠くへ飛ばすことができた、という趣旨が示されています。
さらに例として、KUH-883-1kg粒剤の飛距離が15~17mだったため畦畔からのみ散布可能、といった記述があり、「飛ぶ=便利」だけでなく散布設計そのものが変わる情報です。
ここでの落とし穴は、飛距離が伸びる資材ほど、風や旋回ミスで“狙っていない場所”にも乗りやすい点です。
つまり、1キロ粒剤で到達距離が出る現場では、
・散布幅を広げて能率を稼ぐ
ではなく、
・散布幅は適正範囲に抑え、外周や隣接ほ場での飛散を減らす
という設計の方がクレーム・再散布・薬害リスクを下げやすいです。pref.nagano+1
この視点を入れておくと、「去年は同じ設定でいけたのに今年はムラが出た」の原因が、機械ではなく資材側(粒径・流動性・規格変更)にある可能性も疑えるようになります。ja-tajima+1
参考:多孔ホース噴頭の中持ち等を避ける注意事項(安全対策の根拠)
農薬危害防止運動/長野県
参考:散布幅・吐出量・歩行速度の計算手順と最適歩行速度(設定方法の根拠)
https://www.maruyama.co.jp/instruction/pdf/125505-05_GD400A.pdf
参考:粉じん作業の保護具・対策の考え方(防じんマスク運用の根拠)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3388&dataType=1&pageNo=1