酪農現場において「乳熱」として知られる分娩性低カルシウム血症は、症状の進行度合いによって大きく3つのステージに分類されます。牛の状態を観察し、どのステージにあるかを見極めることは、予後を左右する早期発見において極めて重要です。
この段階では、牛はまだ立ち上がることができますが、筋肉の震えや過敏な反応が見られます。
この段階で見逃されることが多く、次のステージへ急速に進行するため、分娩直後の牛の挙動には細心の注意が必要です。
最も典型的な乳熱の症状が現れる段階です。牛は自力で立ち上がることができなくなります。
未治療で放置された場合、最終的にこのステージに至り、生命の危険が非常に高くなります。
低カルシウム血症を正確に診断し、隠れたリスクを洗い出すためには、血液検査による客観的な数値の把握が不可欠です。特に、臨床症状を示さない「潜在性低カルシウム血症(Subclinical Hypocalcemia: SCH)」の牛は、臨床型乳熱の数倍存在すると言われており、これらを数値で見つけ出すことが農場全体の生産性向上につながります。
一般的に、成牛の血中総カルシウム濃度の正常範囲は 8.5 ~ 10.0 mg/dL 程度とされています。この数値を下回る程度によって、臨床型と潜在性に分類されます。
| 分類 | 血清総Ca濃度 (mg/dL) | 状態と対応 |
|---|---|---|
| 正常値 | 8.5 以上 | 健康な状態。恒常性が維持されています。 |
| 潜在性低Ca血症 (SCH) | 8.5 未満 (~7.5程度) | 外見上の症状はないが、免疫機能低下や第四胃変位、胎盤停滞のリスクが増大。 |
| 臨床型低Ca血症 (乳熱) | 7.5 未満 (多くは5.0~6.0) | 起立不能、意識障害などの明らかな症状が出現。即時の治療が必要。 |
SCHの牛は起立不能にはなりませんが、平滑筋の収縮力が弱まることで「第四胃変位」や「難産」、「子宮脱」を引き起こしやすくなります。また、免疫細胞の機能にもカルシウムが必要なため、乳房炎や子宮炎への感染リスクも高まります。数値上、分娩後24時間以内に 8.0 mg/dL を下回る牛が多い群では、飼養管理(特にDCADバランス)の見直しが必要です。
通常の血液検査で測定されるのは「総カルシウム濃度」ですが、実際に生理作用を持つのは「イオン化カルシウム(iCa)」です。総カルシウムの約50%がこのイオン化形態で存在しています。
アルブミン濃度の影響を受けないため、より正確な病態把握には iCa の測定が推奨されます。iCa の場合、4.0 mg/dL(1.0 mmol/L) 以下が低カルシウム血症の目安となります。
NOSAI兵庫:南あわじ市における乳牛の分娩性低カルシウム血症の実態
参考リンクの概要:NOSAI兵庫による調査報告書で、分娩後の血清Ca値が7.4mg/dL以下の場合を低カルシウム血症と定義し、産次ごとの発症傾向や皮温低下との相関関係について実地データに基づいた詳細な分析が掲載されています。
なぜ分娩前後にこれほど急激に血中のカルシウム濃度が低下するのでしょうか。そのメカニズムは、牛という動物が家畜化によって獲得した高い泌乳能力と、生物としてのカルシウム恒常性維持機能との間に生じる「ギャップ」にあります。
分娩直後、母牛は子牛のために初乳を分泌し始めます。この初乳1kgには約2.3gのカルシウムが含まれており、初産牛でも10kg程度、経産牛であればさらに大量の初乳を分泌します。
一方で、体重600kgの牛の血液中(細胞外液プール)に存在するカルシウム総量はわずか 10g ~ 15g 程度しかありません。つまり、分娩して搾乳が始まった瞬間に、血中に存在する全カルシウム量の数倍にあたるカルシウムが乳汁中へ一気に失われるのです。
通常、血中カルシウムが不足すると、副甲状腺ホルモン(PTH)が分泌され、骨を溶かして(骨吸収)カルシウムを補充しようとします。しかし、このシステムがフル稼働するまでには 24時間 ~ 48時間 のタイムラグがあります。
特に乾乳期にカルシウムを過剰に給与されていた牛は、この骨吸収のシステムが「休眠状態」にあり、急激な需要に対応できず、数値が急降下してしまいます。
3産以上の経産牛でリスクが跳ね上がるのは、加齢とともに骨にあるPTH受容体の数が減少し、骨からのカルシウム動員能力が低下するためです。初産牛で乳熱が少ないのは、成長期にあるため骨の代謝が活発で、血中への動員がスムーズに行われるからです。
全酪連:新年のごあいさつ・技術情報(DCADと低Ca血症)
参考リンクの概要:全国酪農業協同組合連合会による技術情報で、低カルシウム血症対策としてのDCAD(カチオン・アニオン差)の管理目標値(0~-10meq/100g)や、それが代謝アシドーシスを誘導してCa代謝を改善するメカニズムについて解説されています。
発生してしまった場合の迅速な治療と、群全体での発生を防ぐための飼料設計(DCAD管理)は、酪農経営の安定化に直結します。
起立不能などの臨床症状が見られた場合、一刻も早いカルシウム補給が必要です。
グルコン酸カルシウムなどの製剤を静脈注射します。ただし、急速な投与は心停止(心ブロック)を招く危険があるため、心音を確認しながらゆっくりと投与する必要があります。
起立可能な軽度の症例や、静注後の再発防止(リバウンド対策)として、経口カルシウム剤(ジェルや液体)を投与します。血中濃度が急激に上がった後、再び下がることがあるため、持続的な吸収を促すために有効です。
近年、予防の主流となっているのが DCAD(Dietary Cation-Anion Difference) の調整です。これは飼料中の陽イオン(Na, K)と陰イオン(Cl, S)のバランスを管理する方法です。
分娩前の乾乳後期(クローズアップ期)に、陰イオン塩(硫酸マグネシウムや塩化アンモニウムなど)を給与して、牛の体をわずかに「代謝性アシドーシス(酸性)」の状態に傾けます。
血液が酸性に傾くと、体はpHを戻そうとして骨からのカルシウム放出を促進し、同時に腎臓での活性型ビタミンD3の産生を高めます。これにより、分娩時の急激なカルシウム要求に対して、自前のカルシウム動員システムが即座に反応できるようになります。
DCADを高める(アルカリ性にする)最大の要因は牧草中の カリウム です。カリウムが高い飼料を分娩前に与えると血液がアルカリ化し、PTHの効き目が悪くなります。したがって、低カリウムの牧草を使用することがDCAD管理の第一歩となります。
トータルハードマネージメントサービス:乳牛における周産期「低カルシウム血症」の予防対策
参考リンクの概要:DCAD理論に基づく具体的な予防策が詳細に記されています。特にカリウム高含有飼料のリスクや、尿pHを測定することでDCAD調整の効果をモニタリングする実践的な手法(尿pH 6.0〜6.5が目標)が紹介されています。
低カルシウム血症というと「カルシウム不足」ばかりに目が行きがちですが、実はその裏でカギを握っているのが マグネシウム(Mg) です。現場で「カルシウム剤を打っても反応が悪い」「再発を繰り返す」という場合、ベースに低マグネシウム血症が隠れているケースが少なくありません。
血中カルシウム濃度を上げる指令を出す「副甲状腺ホルモン(PTH)」ですが、このホルモンが分泌されるため、そして標的臓器(骨や腎臓)がPTHに反応するためには、マグネシウムが必須です。
もし血中のマグネシウム濃度が低いと、いくら低カルシウム状態になってもPTHが正常に分泌されず、あるいは骨がPTHの指令を無視してしまいます。つまり、マグネシウム不足は「カルシウム動員のスイッチ故障」を引き起こすのです。
牛はマグネシウムを主に第一胃(ルーメン)から吸収しますが、ここで邪魔をするのが前述の カリウム(K) です。春先の若草などカリウムが豊富な飼料を多給すると、ルーメン内の電位が変化し、マグネシウムの吸収が強力に阻害されます。これを「グラステタニー」と呼びますが、分娩前後にはこれと低カルシウム血症が合併しやすくなります。
血液検査でカルシウム値だけでなく、マグネシウム値もチェックしていますか? 正常値は 1.8 ~ 2.4 mg/dL 程度ですが、これが下限ギリギリの場合、治療反応が悪くなるリスクがあります。
予防策として、乾乳期から酸化マグネシウムや硫酸マグネシウムを適切に給与し、血中濃度を安定させておくことが、結果として分娩後のスムーズなカルシウム動員、ひいては乳熱予防の「隠れた成功要因」となるのです。

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