共選と個選の違いとは?農協の手数料と厳しい規格のメリット・デメリット

共選を利用すべきか悩んでいませんか?農協出荷の仕組みから、意外と知られていない手数料の裏側、AI選果機によるデータ活用のメリットまで徹底解説。経営判断に役立つ「共選の真実」を深掘りします。
記事の概要
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共選と個選の決定的な違い

労力削減か手取り最大化か。選果場利用のコストと時間を天秤にかけた経営判断のポイント。

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手数料と隠れたコスト

販売手数料だけではない?施設利用料や「規格外」による廃棄ロスなど、見えにくいコストの正体。

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進化する共選のメリット

単なる選別ではない。AI選果機からのデータ還元や、市場に対する強力な価格交渉力という武器。

共選の仕組みと農協出荷の流れ

農業経営において、収穫後の「選果・出荷」プロセスは労働時間の多くを占める重労働です。この負担を軽減し、産地としてのブランド力を維持するために存在するのが「共選(共同選果)」というシステムです。ここでは、共選の基本的な定義から、実際に農産物が消費者の元へ届くまでの流れ、そしてなぜ多くの農家がこのシステムを利用するのか、その根本的な仕組みについて解説します。

 

共選(共同選果)とは何か?

共選とは、複数の生産者が収穫した農産物を一箇所の施設(選果場)に持ち込み、共同で選別・箱詰めを行って出荷する仕組みのことです 。一般的にはJA(農協)が運営する選果場を利用するケースが多く、地域全体で統一された規格に基づいて出荷されるため、「産地ブランド」としての品質が均一に保たれるという特徴があります。これに対し、農家個々人が自宅の庭先や作業場で選別し、箱詰めまで行う方式を「個選(個撰・個別選果)」と呼びます 。

 

参考)農協との取引と個人販売のメリットとデメリットを徹底解説|マツ…

共選の最大の特徴は、生産者から「選果・選別・箱詰め」という膨大な単純作業を切り離す点にあります。農家は収穫した作物をコンテナのまま選果場へ運ぶだけで出荷作業が完了するため、空いた時間を栽培管理や規模拡大、あるいは休息に充てることが可能になります 。

 

参考)選果機導入のメリット・デメリットを知って果物の単価アップを目…

選果場での出荷プロセスの詳細

共選を利用する場合、農産物は以下のような流れで処理されます。このプロセスは高度にシステム化されており、個人の手作業では不可能なスピードと精度で処理が行われます。

 

  1. 収穫・搬入: 農家は指定されたコンテナに農産物を入れ、決められた時間内に選果場へ搬入します。この際、生産者コードなどが記載されたラベルを貼付し、誰の荷物かを識別できるようにします。
  2. 荷受・一次選別: 搬入されたコンテナはラインに載せられ、腐敗や極端な変形など、機械にかける前の明らかな規格外品を目視やカメラで除去します(粗選)。
  3. 洗浄・研磨: 品目によっては(柑橘類や根菜類など)、自動洗浄機やブラシによる研磨が行われ、見栄えを良くします。
  4. 機械選果(センサー選別): ここが共選の心臓部です。光センサーや画像解析技術を用い、大きさ(階級)、糖度、酸度、内部障害の有無などを瞬時に判定します 。

    参考)最新の選果機を”スマート農業”の側面…

  5. 等級区分・箱詰め: センサーの判定に基づき、「秀・優・良」などの等級と、「2L・L・M」などのサイズに自動で振り分けられ、ロボットや作業員によってダンボールに箱詰めされます。
  6. 出荷・販売: パレットに積まれた製品は、市場や量販店へ向けて大型トラックで一斉に出荷されます。

「共販(共同販売)」との関係性

「共選」とセットで語られることが多いのが「共販」です。これは「共同販売」の略で、JAなどの組織が農家に代わって市場と価格交渉を行い、販売する仕組みです 。共選で規格を統一することで、大量のロット(まとまった数量)を確保できるため、市場に対して強い交渉力を持つことができます。

 

参考)共選共販(きょうせんきょうはん)

個人の農家がスーパーのバイヤーと直接交渉しても、供給量の不安定さから相手にされないことがありますが、共選・共販体制であれば「毎日10トン安定して供給できる」という強みを活かし、有利な条件を引き出しやすくなります 。つまり、共選は単なる「作業代行」ではなく、「販売戦略」の一部として機能しています。

 

参考)個選と共選: oyaziのブログ

共選と個選の違いとは?手取りと労力のバランス

 

農家にとって永遠のテーマとも言えるのが「共選か、個選か」という選択です。一見すると手数料のかからない個選の方が儲かるように思えますが、実際には「労力」という見えないコストが大きく関わっています。ここでは、両者の違いを比較し、経営判断の基準となるポイントを整理します。

 

違いの比較表:コストと手間

比較項目 共選(共同選果) 個選(個別選果)
選果・包装作業 不要(選果場にお任せ) 必要(全て自分で行う)
出荷資材費 共選費に含まれる場合が多い(または指定資材を購入)

自分で手配(ネット詰めなどは安価)
参考)https://repository.lib.tottori-u.ac.jp/record/3830/files/bfatu045_021.pdf

販売手数料 高い(選果施設利用料等が加算される) 低い(市場手数料や直売所手数料のみ)
品質基準(規格) 非常に厳しい・統一されている ある程度柔軟(独自の基準も可)
販売価格 安定しているが、市場平均に収束しやすい(プール計算) 自分の努力次第で高単価も可能だが変動も激しい ​
拘束時間 短い(収穫して運ぶだけ) 長い(夜なべして箱詰めすることも)

「手取り」の考え方:単価マジックに注意

単純な「売上金額」だけを見れば、手数料が引かれない個選の方が高く見えることがよくあります 。しかし、時給換算した際の「実質的な利益」はどうでしょうか。

  • 個選の場合:
    • 例えば、売上が100万円あっても、毎晩3時間の選果作業を家族総出で1ヶ月続けたとします。この労働時間を時給1000円で換算すれば、見えない人件費が数十万円かかっていることになります。
    • また、個別にダンボールや袋などの資材を発注・在庫管理する手間も発生します。
  • 共選の場合:
    • 手数料が引かれ、手取りが80万円になったとしても、選果作業にかかる時間が「ゼロ」になります。
    • 空いた時間で栽培面積を20%増やせば、結果として総売上は個選を上回る可能性があります 。​

    このように、共選は「時間をお金で買う」システムと言い換えることができます。規模拡大を目指す農家にとっては、物理的な作業時間の限界を突破するために共選が不可欠となるケースが多いのです。

     

    共選の「プール計算」という落とし穴

    共選と個選の大きな違いの一つに「精算方法」があります。共選では多くの場合、「共計(プール計算)」という方式が採用されています 。これは、一定期間(例:1週間や1ヶ月)に出荷された農産物の売上を合計し、全出荷量で割って平均単価を算出、そこから手数料を引いて農家に支払う仕組みです。

    • メリット: 市場価格が暴落した日があっても、期間全体の平均でならされるため、収入が極端に減るリスクを回避できます(保険的機能)。
    • デメリット: 自分が最高品質のものを作っても、他の農家の平均的な品質のものと同じ単価で計算されてしまうことがあります。「いいとこどり」ができないため、品質に自信がある農家ほど不満を感じやすいシステムでもあります 。

      参考)なぜ、優秀な農家ほどJAから離れていくのか?農協職員の嘆きと…

    農協の共選は厳しい?規格外が出る理由と対策

    「共選に出すとハネ(規格外)ばかりで金にならない」という嘆きを耳にすることがあります。なぜ共選の規格はこれほどまでに厳しいのでしょうか。その背景には、現代の流通システム特有の事情があります。

     

    なぜ規格は厳しいのか:スーパーマーケットの論理

    共選で出荷された農産物の主な行き先は、大手スーパーマーケットや量販店です。これらの店舗では、商品を棚に並べた際、「見た目が揃っていること」が極めて重要視されます。

     

    このため、味は全く問題がなくても、「少し曲がっている」「色が薄い」「1cm小さい」といった理由だけで、容赦なく「規格外(B品・C品)」として弾かれます 。この厳格な選別こそが、産地の信頼を守るための防波堤となっています。

    規格外品の行方と「廃棄ロス」の現実

    厳しい規格の結果、収穫量の約10%〜30%が規格外として市場流通から外れると言われています 。共選場では、これら規格外品の一部は加工用(ジュースやカット野菜)として安価で引き取られますが、加工用需要がない場合は、廃棄処分となることも珍しくありません 。

     

    参考)規格外野菜=廃棄するもの、はもう古い!? 今の時代に合った不…

    農家にとって、愛情込めて育てた作物が目の前で廃棄、あるいは二束三文で買い叩かれるのは精神的にも経営的にも大きな痛手です。これが「共選は厳しい」「儲からない」と言われる最大の要因の一つです。

     

    「厳しい」を逆手に取る対策

    しかし、近年はこの構造に変化も起きています。

     

    1. 規格外品の独自販売: 共選で弾かれたものを引き取り、直売所やメルカリ、規格外専門のECサイトで「訳あり品」として販売する農家が増えています 。共選の厳しいチェックを通らなかっただけで味は一級品であるため、消費者からの人気は高いです。

      参考)がんばっています!!横浜の農家

    2. 加工事業への参入: 規格外品を自らドライフルーツやペーストに加工し、付加価値をつけて販売する6次産業化に取り組むケースもあります。
    3. スマート農業による選別最適化: 最新の選果機では、外見だけでなく「糖度」や「内部品質」を重視した選別が可能です。「見た目は悪いが味は最高」という新しい規格(プレミアムラインなど)を設けて販売するJAも出てきています 。​

    共選にかかる手数料の正体と隠れたコスト

    共選を利用する上で避けて通れないのが「手数料」の問題です。「売上の15%も引かれるなんて高すぎる」と感じるかもしれませんが、その内訳を正しく理解することで、経営上の対策が見えてきます。

     

    手数料の内訳を分解する

    一般的に「農協の手数料」とひと括りにされますが、実際には複数の費目で構成されています 。

     

    参考)https://www.vill.narusawa.yamanashi.jp/material/files/group/11/shitsumonsyo.pdf

    • 販売手数料: 市場への販売委託に対する手数料。売上の数%(例:1.5%〜5%程度)がJAの収益となります。
    • 選果施設利用料: 選果場の光熱費、メンテナンス費、選果機のリース代などに充てられます。
    • 選果労賃: 選果場で働くパートタイマーや職員の人件費です。
    • 資材費: ダンボール箱やパック、緩衝材の実費です。
    • 運送費: 市場までのトラック輸送費です。

    これらを合計すると、品目や地域によっては売上の15%〜20%近くになることもあります 。特に相場が安い時期には、売上に対して手数料の比率が相対的に高くなり、「手取りがほとんど残らない」という現象が起きます。

    見落としがちな「隠れたコスト」

    明細書に載っている手数料以外にも、共選には見えないコストが存在します。

     

    • 「空き箱」のコスト: 共選場では出荷用のコンテナを指定されることが多く、このコンテナのレンタル料や洗浄料がかかる場合があります。
    • 出荷予約のペナルティ: 多くの共選場では、スムーズな稼働のために事前の出荷量予約(申告)を求められます。この予約量に対して実際の出荷量が多すぎたり少なすぎたりすると、ペナルティとして手数料が加算されたり、受け入れを拒否されたりすることがあります 。

      参考)個選と共選 - 40歳、白ねぎ農家です。(夢神 蒼茫) - …

    • 待ち時間: 搬入時間が指定されていても、トラックが長蛇の列を作り、荷下ろしに1時間以上待たされることがあります。この「待ち時間」も農家にとっては貴重な労働時間の損失です 。

      参考)https://www.nochuri.co.jp/skrepo/pdf/sr20201218.pdf

    手数料を「経費」として割り切れるか

    重要なのは、これらのコストを「搾取」と捉えるか、「必要経費(アウトソーシング費)」と捉えるかです。自前で選果場を建設し、パートを雇い、販路を開拓するコストと比較した場合、共選の手数料の方が実は安上がりであるケースも少なくありません 。

     

    参考)https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n1812re1.pdf

    最近では、JA側もコスト削減に取り組んでおり、荷受時間の短縮や施設の統廃合によって手数料を引き下げる努力を行っている地域もあります 。農家としては、総会などの場で手数料の使途について透明性を求めると同時に、自分自身の経営において「作業委託料」として見合う金額かどうかをシビアに計算する必要があります。

     

    参考)https://www.maff.go.jp/j/keiei/sosiki/kyosoka/k_kenkyu/attach/pdf/index-119.pdf

    意外と知らない共選のメリット「データ還元」と「市場交渉力」

    ここまではデメリットや厳しさに焦点を当ててきましたが、共選には個人の農家では絶対に得られない、現代ならではの「強み」があります。それが「データ」と「組織力」です。

     

    AI選果機がもたらす「栽培へのフィードバック」

    最新の光センサー選果機やAI選果機は、単に果実を選り分けるだけではありません。一個一個の果実の糖度、酸度、サイズ、色づきなどの詳細なデータを蓄積しています 。

     

    参考)https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/fruits/attach/pdf/index-220.pdf

    このデータは、実は宝の山です。

     

    • 「この畑の、この樹から採れたミカンは糖度が高い」
    • 「昨年の肥料設計では酸抜けが悪かった」

      といった情報が、共選を利用することでフィードバックされます(営農支援ツールとしての活用)。個選では、自分の舌や感覚に頼るしかありませんが、共選なら客観的な数値データに基づいて、翌年の栽培計画や施肥設計を科学的に改善することができるのです。これは、品質向上を目指す農家にとって、手数料以上の価値がある「コンサルティング機能」と言えます。

       

    市場に対する「数の暴力」という交渉力

    農産物の価格は、需要と供給のバランスで決まりますが、そこには「力関係」も働きます。市場の仲卸業者や大手スーパーのバイヤーは、常に「安定供給」を求めています。

     

    「明日100ケース欲しい」と言われたとき、個人の農家では「雨だから無理です」となるかもしれませんが、共選産地なら「在庫調整して出します」と即答できます。この信頼感があるからこそ、共選品は市場で「指定席」を確保でき、暴落時でも買い叩かれにくい(底値が固い)という強みがあります 。

    個選の農家が「自分のブランド」で戦うゲリラ戦だとするなら、共選は「組織化された正規軍」として正面から価格交渉に挑んでいます。

     

    共選を利用しない農家の経営判断と未来

    共選には多くのメリットがある一方で、あえて共選を利用せず、JAから離脱する「優秀な農家」も増えています 。最後に、彼らがなぜその決断を下したのか、そして共選システムの未来について考えます。

     

    参考)https://www.maff.go.jp/j/study/other/keiei/noukyo_study/pdf/5s5.pdf

    なぜ「できる農家」は共選を辞めるのか

    最大の理由は「差別化ができない」ことです。どれほどこだわって最高級の肥料を使い、手間暇かけて糖度20度のトマトを作ったとしても、共選に出せば「JA◯◯のトマト」として、他の農家の糖度12度のトマトと一緒にされます(もちろん等級で区別はされますが、産地ブランドの枠は超えられません)。

     

    • ブランドの確立: 「自分の名前で売りたい」「自分のこだわりを価格に転嫁したい」と考える経営意欲の高い農家にとって、共選の画一的なシステムは足かせになります 。​
    • 直接取引の魅力: インターネットやSNSの発達により、農家が直接消費者や飲食店と繋がれるようになりました。中抜きを排除し、利益率を最大化するために、あえて茨の道である「全量個選・直販」を選ぶ農家が増加しています 。​

    共選システムの未来:二極化する農業

    これからの農業は、二つの方向に分かれていくと考えられます。

     

    1. 超省力化・大規模化(共選利用): 少人数のスタッフで広大な面積を管理し、選果や販売は全て共選に丸投げするスタイル。スマート農業やロボットを活用し、低コストで大量生産を行う「産業としての農業」です 。

      参考)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai34/shiryou16-12.pdf

    2. 高付加価値・個選化(共選離脱): 規模は追わず、圧倒的な品質とストーリー性でファンを獲得し、高単価で売り切る「職人としての農業」。

    共選システム自体も変わろうとしています。従来の「均一化」一辺倒から、生産者ごとのデータを紐付け、品質に応じた適正な配当を行う「個選共販」的なハイブリッド運用を導入する選果場も出てきています 。

     

    参考)みついしの花 共撰とは?? - JAみついし

    まとめ:あなたの経営スタイルに合っているか?

    「共選」は、善でも悪でもありません。それは一つの「ツール」です。

     

    • 時間を節約し、規模を拡大したいなら「共選」
    • 手間をかけてでも、自分のブランドと利益率を追求したいなら「個選」

    重要なのは、周りに流されて思考停止で出荷するのではなく、自分の経営目標に照らし合わせて、手数料というコストに見合うリターンが得られているかを常に計算し、判断することです。共選の厳しい規格や手数料の裏側を知った上で、それをどう利用するかが、これからの農業経営者の腕の見せ所となるでしょう。

     

     


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