農業土木や圃場整備において、正確な高さを測るためには「オートレベル」の正しい据え付けが最も重要です。据え付けが不十分だと、測定中に機器が動いてしまい、全てのデータが無駄になってしまう可能性があります。ここでは、初心者でも確実に設置できる手順を詳細に解説します。
まず、三脚の設置場所を選定します。地盤が堅固で、測定したいポイント(測点)がよく見える場所を選びましょう。泥深い田んぼの中など、足場が悪い場合は、可能な限り乾いた場所や杭を打って地盤を安定させる工夫が必要です。
参考)現場初心者必読!オートレベルの使い方と地盤面の高さの求め方 …
三脚のバンドを解き、脚を伸ばします。このとき、自分の胸の高さ程度に合わせると覗きやすくなります。三脚のヘッド(機器を乗せる面)が目分量で水平になるように開き、脚の石突(先端の尖った部分)を地面にしっかりと踏み込みます。特に農業現場の土は柔らかいことが多いため、体重をかけて奥まで突き刺すことが重要です。
レベル本体を三脚ヘッドに乗せ、下から定心桿(固定ネジ)でしっかりと締め付けます。この時、締め付けが緩いと落下の危険があるため注意してください。
レベル本体には、水平を確認するための「気泡管」がついています。整準ネジ(通常3つあります)を回して、気泡を赤い円の中心に導きます。
TOPCON | セオドライト・レベル製品情報(測量機器の基本構造と最新機種のスペックが確認できます)
オートレベルには「自動補正機構(コンペンセーター)」が内蔵されており、多少の傾き(補正範囲内)であれば、内部のプリズムが重力で揺れて視準線を自動的に水平に保ってくれます。しかし、この機能に頼りすぎず、気泡管がしっかりと中心にあることを確認するのがプロの流儀です。視準(ターゲットを覗くこと)の前に、望遠鏡を180度回しても気泡が中心に留まっているか確認すると、より確実な精度が得られます。
機器の据え付けができたら、次は高さの基準となる「スタッフ(標尺)」の読み取りです。スタッフの目盛りは独特な表記になっているため、慣れが必要です。農業用水路の深さや、畦畔(けいはん)の高さを決める際に、読み間違いは致命的なミスにつながります。
一般的にスタッフは1メートルごとに色が変わり(例:黄色と白)、大きな数字で「1」「2」とメートル単位が表示されています。その下の2桁の数字(例:12)は「1.2m」を意味します。
目盛りは通常、1cmごとの区切りになっていますが、特徴的なのは「5mmごとのブロック」デザインです。Eのような形をしたマークが表示されており、黒い塗りつぶし部分が5mm、白い部分が5mmを表しています。
望遠鏡を覗くと、十字の線が見えます。これを「レチクル」と呼びます。読むべき数値は、十字の「横線」がスタッフのどの位置にあるかです。上下にある短い線(スタジア線)と間違えないように注意しましょう。
スタッフを持つ人(手元)は、スタッフを垂直に立てる必要があります。しかし、完全に垂直を保つのは難しいため、スタッフを前後にゆっくりと揺らしてもらいます(ウェービング)。
YouTube | スタッフの読み方(レベルで高さを測る)(動画で実際の目盛りの見え方とウェービングの様子が確認できます)
農業現場では、スタッフに泥がついていると読み取りにくくなるため、こまめに拭き取ることが大切です。また、遠距離で目盛りが読みにくい場合は、手元の人に合図を送って、スタッフの裏面(mm単位が直接書いてある場合が多い)を使ってもらうなどの工夫も有効です。
広大な水田の均平作業(レベラー作業)や、暗渠排水(あんきょはいすい)の施工では、一点ずつ覗くオートレベルよりも、面で高さを管理できる「回転レーザーレベル(ローテーティングレーザー)」が圧倒的に便利です。ここでは、農業で特に重要な「勾配(スロープ)」の設定方法について解説します。
レーザーレベルは、水平なレーザー光を360度回転させ、受光器を持っていればどこでも高さを確認できる機器です。さらに高機能な機種では、レーザーの回転面を意図的に傾ける「勾配設定機能」がついています。
| 機能 | 特徴 | 農業での用途 |
|---|---|---|
| 水平出し | 完全に水平な基準面を作る | 水田の均平、ビニールハウスの基礎 |
| 1軸勾配 | X軸(一方向)のみ傾ける | 直線の水路、暗渠パイプの埋設 |
| 2軸勾配 | X軸・Y軸(複合)を傾ける | 複雑な地形の排水計画、表面排水 |
参考)https://kklink.co.jp/wp-content/uploads/2021/10/R02-06_RL-H5A_manual.pdf
TOPCON | RL-H5A取扱説明書(農業で広く使われている勾配設定可能なレーザーレベルの公式マニュアル)
特に暗渠排水では、1/100~1/600程度の微妙な勾配が必要です。逆勾配(水が逆流する傾き)になると作物の生育不良に直結するため、レーザーレベルの勾配機能を使って、重機(バックホー)のオペレーターと連携しながら慎重に掘削深さを管理します。最近では、トラクターに受光器を取り付け、作業機の高さを自動制御するシステムも普及しており、経験が浅くても高精度な均平が可能になっています。
「機械を使っているから絶対に正しい」と思い込むのは危険です。測量機器は精密機械であり、温度変化や取り扱いによって微妙な誤差が生じます。また、自然環境による誤差も無視できません。正確な測量のために、誤差の原因と対策を知っておきましょう。
レベル本体の水平と、実際の視線(視準線)がずれていることがあります。これを確認するには、平坦な場所で2本の杭を打ち、レベルをその中間(センター)に置いた場合と、どちらかの杭の近くに置いた場合で高低差を測り比べます。これを「杭打ち調整(点検)」と呼びます。ズレが大きい場合はメーカー修理が必要です。
参考)水準測量の〈誤差〉にはどんなものがある? 〜 水準測量の関連…
夏の炎天下の田んぼやアスファルトの上では、地面近くの空気が温められて陽炎が発生します。これにより、目盛りが揺らめいて見えたり、光が屈折して位置がずれて見えたりします。
参考)http://www.kinomise.com/sokuryo/shiho/jyuuyou/suijyun/suijyun03-gosa.pdf
柔らかい水田の土の上にスタッフを立てると、測量中に徐々に沈んでいき、高さが変わってしまうことがあります。
日々の点検として、作業開始前には必ず気泡管の動きをチェックし、三脚のネジに緩みがないか確認する習慣をつけましょう。
最後に、従来の測量教本には載っていない、現代の農業現場ならではの「スマホアプリ」を併用した独自の測量ノウハウを紹介します。高価な測量機器を出す前段階や、一人での簡易チェックにおいて、スマートフォンは強力なサブツールになります。
本格的な測量を行う前に、「そもそも水がどっちに流れるか」をざっくり知りたい場面があります。この時、わざわざ三脚とレベルを持ってくるのは重労働です。ここで役立つのが、スマートフォンの「LIDAR(ライダー)スキャナ」や「水準器アプリ」です。
iPhoneなどの計測アプリに搭載されている水準器機能を使えば、スマホを置くだけで「0°」「1°」といった傾きが分かります。長い板の上にスマホを置き、水路の底に当てれば、水が流れる勾配があるかどうかを数秒で判定できます。これは測量機器を据え付ける前の「当たり」をつける作業として非常に効率的です。
空間認識技術を使ったARアプリでは、スマホのカメラを通して画面上に仮想のラインを引き、視覚的に高低差を把握できるものがあります。精度は数センチ~数十センチの誤差が出るため、土木工事の施工管理(丁張り)には使えませんが、「新しい水路をどこに通すか」といった計画段階の概略検討には十分使えます。
最新のデジタルレベルには、Bluetoothでスマホと接続できる機種が登場しています。測定したデータをその場でスマホに転送し、手書きの野帳(やちょう)への記入ミスをなくすことができます。また、一人で作業する場合、レベル本体のボタンに触れずにスマホから「測定ボタン」を押すことで、手ブレによる誤差を完全に防ぐリモート操作も可能です。
農業の現場は広大で、移動だけでも時間がかかります。「デジタルツールで大枠を把握し、光学レベルで正確に決める」というハイブリッドな使い方が、これからのスマート農業における測量のスタンダードになっていくでしょう。ただし、スマホは泥や水に弱いため、防水ケースに入れるなどの対策を忘れずに。

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