飼料分析表の「乾物中」の数値を見ていないと、実は栄養計算が全てズレています。
飼料分析表を受け取ったとき、まず戸惑うのが「原物中」と「乾物中」という2列の数値です。 原物(げんぶつ)とは飼料そのものの状態、乾物(DM)とはそこから水分を取り除いた部分のことを指します。
参考)https://www.tokachi.pref.hokkaido.lg.jp/fs/2/1/9/0/3/9/4/_/tikusan02.pdf
栄養成分の比較は「乾物中」で行うのが原則です。 理由は明快で、たとえば同じ30kgのサイレージを給与しても、水分が70%のものと80%のものでは、含まれる乾物量が6kgも違ってくるからです。 つまり「原物中」の数値だけで比べると、実際に牛が食べた栄養量を正確に把握できません。
サイレージの水分区分は低水分(40〜60%)、中水分(60〜75%)、高水分(75〜85%)の3段階に分類されます。 高水分になるほど乾物が少なくなるため、給与量の設定に大きく影響します。水分の変化には特に注意が必要です。
粗タンパク質(CP)は、牛の体細胞・酵素・免疫物質の材料となる最重要栄養素です。 チモシーなどの牧草は、出穂期を過ぎるとCPが急激に低下する特性があります。 穂ばらみ期のCPが18.3%であるのに対し、結実期には7.1%まで下がるというデータがあり、収穫タイミングがいかに重要かがわかります。
牧草のCP目標値は10%以上、TDN(可消化養分総量)の目標は60%以上が基本です。 TDNはNDFと反比例の関係にあるため、収穫が遅れてNDFが上がるとTDNが下がる仕組みになっています。これはセットで理解する知識です。
分析値の活用が特に重要な場面は、飼料成分表だけに頼った飼料設計をしているケースです。 飼料分析を行わずに飼料設計をすると、栄養不足や栄養過多を起こす原因になりかねないと、島根県の公式資料も指摘しています。
参考)島根県:飼料分析(トップ / しごと・産業 / 農林業 /…
参考:十勝農協連ヤングファーマーズ講座「飼料分析の見方」資料(北海道十勝総合振興局)
飼料分析の見方(十勝総合振興局・PDF)
NDF(中性デタージェント繊維)は「総繊維」ともいい、牛のガサ感、つまり胃のふくらみを左右します。 NDFが多すぎると牛はすぐに満腹になり、乾物摂取量が制限されてしまいます。 逆に少なすぎると第一胃のルーメンマットが崩れ、pH低下から酸性症(アシドーシス)リスクが高まります。
ADF(酸性デタージェント繊維)はNDFをさらに処理して抽出した繊維分画で、消化しにくいセルロース・リグニンを多く含みます。 ADFが高いほどTDNが低くなる傾向があり、飼料の消化性を評価する重要な指標です。
参考)https://www.rakusouken.net/technology/pdf/121.pdf
| 項目 | 意味 | 目標値(乾物中) | 高い場合のリスク |
|---|---|---|---|
| NDF | 総繊維量 | 60%以下 | 乾物摂取量の低下 |
| ADF | 難消化性繊維 | 低いほど良 | TDN低下・エネルギー不足 |
| TDN | 可消化養分総量 | 60%以上 | 泌乳量・繁殖成績の低下 |
| CP | 粗タンパク質 | 10%以上 | 乳量・乳タンパク低下 |
NDFの目標60%以下だけ覚えておけばOKです。まずここを確認しましょう。
参考:酪農総合研究所「飼料分析表の見方」(雪印メグミルク)
飼料分析表の見方 タンパク質と炭水化物の詳細解説(PDF)
サイレージの分析で見落とされがちなのが、発酵品質の項目です。 pH・乳酸・酢酸・酪酸・アンモニア態窒素という5つの指標から、調製作業が適切に行われたかどうかを評価できます。 栄養成分が良くても、発酵品質が悪いと嗜好性が落ちて牛が食べなくなります。
Vスコアは酢酸・酪酸・アンモニア態窒素の値から算出される発酵品質の総合評価です。 80点以上が良好、60点以下は不良の判定になります。不良発酵の主役は酪酸菌で、水分75%以上・pHが高い環境で活発化します。
酪酸が検出されたサイレージは栄養価の損失だけでなく、牛のケトーシスや肝機能障害の引き金にもなります。 特に乾乳期の牛に酪酸発酵のサイレージを与えると、分娩後のトラブルが増えるリスクがあります。厳しいところですね。
飼料分析の結果を「見て終わり」にしている農家が多いのが現実ですが、真の価値は飼料設計への活用にあります。 分析値を使って濃厚飼料の給与量を調整することで、購入飼料費の大幅な削減につながります。yotsuba.co+1
品質が高い粗飼料ほど牛の乾物摂取量が増え、濃厚飼料の給与量を抑えられます。 体重600kgの乳牛の場合、高品質粗飼料(TDN64%)であれば乾物摂取量は体重比2.5%(15kg)を超えますが、劣品質(TDN54%以下)だと1.5%(9kg)に落ちます。 この差は飼料費に直結します。
飼料効率(乳量÷乾物摂取量)をモニタリングする習慣も、分析値の活用と並行して取り組むと効果的です。 飼料費に投じたお金が乳代にどれだけ転換できているかを数値で把握することで、早期に経営上の問題点を見つけられます。 結論は「分析→設計→検証」のサイクルが基本です。
参考:島根県「飼料分析」案内ページ(分析費用・方法の一覧)
飼料分析の分析方法・費用・活用法(島根県公式)
参考:ジンプロ社「飼料効率から利益向上とコスト削減を算出する」
飼料効率のモニタリングと経営改善の考え方(ジンプロ)