乳剤型農薬を希釈後3時間以上放置すると成分が分離して効果が落ちます
乳剤型農薬は、水に溶けにくい農薬の有効成分を有機溶媒(キシレンなど)に溶かし、そこに乳化剤を加えた油状の液体製剤です。原液の状態では均一な液体ですが、水で希釈すると白く濁った乳濁液になります。この白濁は、油分が水中で微細な粒子として分散している状態を示しています。
つまり乳剤ということですね。
この乳濁状態により、有効成分が植物の表面に均一に付着しやすくなります。葉や茎にまんべんなく広がるため、吸汁性害虫や病原菌に対して効果的に作用します。乳剤は計量がしやすく、液体なので取り扱いも比較的簡単です。そのため果樹、野菜、茶など幅広い作物で使用されています。
ただし、希釈後の安定性には限界があります。農薬の剤型に関する技術資料によれば、乳剤の希釈液は調製後2~3時間程度しか安定性を保てません。時間が経過すると、水中に分散していた油分が再び分離し始め、薬剤濃度に不均一が生じます。そのため散布が終わるまでの間、希釈液を攪拌し続けて均一な状態を維持する必要があります。
東京都産業労働局の農薬剤型資料には、乳剤の特徴と注意事項が詳しく記載されています。
乳剤型農薬と他の剤型の最も大きな違いは、有機溶媒の有無にあります。乳剤は有効成分を有機溶媒に溶かしているのに対し、水和剤は水に懸濁させる粉末製剤、フロアブル剤は固体の有効成分を水に分散させた液体製剤です。
有機溶媒の存在は、メリットとデメリットの両面をもたらします。メリットとしては、計量が容易で汚れが少ないことが挙げられます。液体なので必要量を正確に量りやすく、果実表面への汚れも水和剤と比べて少なくなります。住友化学の技術情報によれば、乳剤は果粉の溶脱や果実の汚れが水和剤より少ないとされています。
一方、デメリットは薬害リスクの高さです。有機溶媒が植物組織に影響を与えやすく、特に高温時や幼果期には果粉の溶脱や新葉の奇形などの薬害が発生しやすくなります。水和剤は有機溶媒を含まないため、この点で安全性が高いと言えます。
果実の汚れは多くなりますが。
またEW剤(エマルション剤)は、登録上は乳剤に分類されますが、有機溶媒をほとんど水に置き換えた製剤です。このため消防法の危険物に該当せず、一般の乳剤よりも安全性が高くなっています。性状はフロアブル剤と同様ですが、希釈後は乳剤と同じ白濁した液体になります。
フロアブル剤は粉塵を出さず使いやすいというメリットがあり、乳剤や水和剤と比較して近年人気を集めています。ただし長期間保存すると成分が分離したり結晶化したりする可能性があるため、保管状態には注意が必要です。
乳剤型農薬の多くは、消防法で定める第4類危険物(引火性液体)に該当します。有機溶媒を含むため引火性があり、保管や取り扱いには法的な規制がかかります。
消防法では、危険物の種類ごとに「指定数量」が定められています。この指定数量以上を貯蔵または取り扱う場合は、市町村長などの許可が必要となります。たとえば第2石油類(非水溶性)の指定数量は1,000リットルです。大規模な農業経営体や農協の資材倉庫などでは、この数量を超えることがあります。
指定数量が条件です。
また、指定数量の5分の1以上を貯蔵する場合は、消防署への届出が必要です。さらに保管場所には「火気厳禁」などの表示が義務付けられ、採光、照明、換気設備の設置も求められます。違反した場合、消防法に基づく罰則の対象となる可能性があります。
一時的な貯蔵であっても規制は適用されます。10日以内の期間に限り、消防署長の承認を受けて仮貯蔵・仮取扱いが認められますが、事前の手続きが必須です。展示会や即売会などで乳剤型農薬を一時的に持ち込む場合も、この規定を確認する必要があります。
保管場所では、盗難や紛失が発生した場合、速やかに警察に通報するとともに、消防法危険物については消防署にも届け出なければなりません。毒劇物に該当する農薬の場合は、保健所への届出も必要になります。
植物防疫協会の消防法解説資料では、農薬に関連する消防法規制の詳細が説明されています。
乳剤型農薬の希釈液は、調製したその日のうちに使い切る必要があります。作り置きができない最大の理由は、時間経過による物理的・化学的な変化です。
希釈後の乳濁液は、2~3時間程度は比較的安定していますが、それ以降は油分と水分の分離が進みます。静置しておくと、比重の軽い油性成分が上部に浮き上がり、下部には水分が溜まるようになります。この状態で散布すると、場所によって薬剤濃度が大きく異なることになり、効果不足や過剰散布による薬害のリスクが生じます。
さらに、農薬は水に薄めた時点から光や温度によって徐々に分解が始まります。有効成分の化学構造が変化すると、本来の効果が失われるだけでなく、予期しない薬害を引き起こす可能性もあります。
これは使えそうです。
希釈液を調製する際は、まず必要な散布液量を計算します。たとえばラベルに「1,000倍希釈」「10aあたり100~150リットル散布」と記載されている場合、150リットルの散布液を作るには、農薬150ミリリットルと水約150リットルを混合します。
混用する場合の順番も重要です。基本的には「展着剤(テ)→乳剤(ニ)→水和剤(ス)」の順で水に加えます。この「テニス」という語呂合わせは農業現場で広く知られています。水に溶けやすいものから順に入れることで、凝固や沈殿の発生を防ぎます。
散布後に希釈液が余った場合は、同じラベル適用のある作物に追加散布するか、適切に廃棄します。次回使用のために保管することは避けてください。
乳剤型農薬の混用には、特有のリスクがあります。
最も注意すべきは「乳剤同士の混用」です。
複数の乳剤を混ぜると、それぞれの農薬の希釈倍率が適正であっても、有機溶媒の濃度が高まり、薬害の発生リスクが大幅に上昇します。
滋賀県の技術資料によれば、乳剤同士の混用や3種類以上の農薬の混用では、薬害発生リスクが高まることが明記されています。仮に1剤だけの散布であっても、高温時や作物の生育ステージによっては薬害が出やすくなります。
痛いですね。
具体的な薬害の症状としては、果粉の溶脱、葉焼け、斑点、萎れ、落葉、果実の焼けなどがあります。特に気温が30度を超える日中に散布すると、葉の表面についた薬液の水分が急速に蒸発し、高濃度の薬剤が残ることで薬害が発生しやすくなります。
散布時間帯の工夫が効果的です。早朝や夕方の涼しい時間帯を選ぶことで、薬害リスクを大幅に低減できます。農薬散布は、気温が低く風の弱い時間帯に行うのが基本です。散布後に薬液が完全に乾燥するまで最低2~3時間は必要なため、天気予報を確認し、雨が降らない日を選ぶことも重要です。
混用する際は、各メーカーが提供する「混用事例集」を必ず確認してください。多くの農薬メーカーがウェブサイトやアプリで混用適合表を公開しています。石灰硫黄合剤や強アルカリ性の薬剤との混用は、化学変化を起こして効力が減退したり、有害なガスが発生したりする危険があるため避けてください。
また、展着剤の使用にも注意が必要です。乳剤はもともと付着性が高いため、基本的に展着剤を加える必要はありません。不必要に展着剤を加えると、薬害リスクが増すだけでなく、コストも無駄になります。
薬害が発生してしまった場合、軽度であれば作物は回復することもありますが、重度の場合は収穫量の減少や品質低下につながります。予防が最も重要であり、疑わしい条件下では散布を見合わせる判断も必要です。
滋賀県の農薬希釈方法資料には、混用時の注意点と薬害リスクについて詳しい情報があります。