SNSを頑張っている農家ほど、相場価格で売り続けて損をしています。
草野拓志(くさのひろし)さんは、島根県益田市を拠点に活動する米農家で、SNSアカウント名「くさひろ」として全国に知られる農業インフルエンサーです。株式会社くさひろの代表取締役であり、島根県認定農業者でもあります。島根県農協青年組織協議会の会長や全国農協青年組織協議会の理事を歴任した経歴も持ち、農業界における信頼と実績を兼ね備えた人物です。
草野さんの経歴は順風満帆ではありませんでした。福岡県の農業大学校を卒業後、20歳で実家の農業を継ぎ、米・いちご・ベビーリーフなどを農業法人として生産してきました。その後、有機米栽培に挑戦しましたが販路が広がらず、おにぎり屋にも挑戦しましたが1年で撤退。さらに耕作放棄地を買い取って農業法人を設立し直しましたが、コロナ禍で取引先の飲食店が次々と休業・廃業し、一時は倒産寸前にまで追い込まれました。
転機は社員からの一言でした。「スッテンテンなら、パンツ一丁で川に流れてこい」。この突飛な提案に乗り、自身が地元の川を流れる動画をインスタグラムに投稿したところ、1日で400万回再生を記録。2週間で5万人のフォロワーを獲得しました。これが起死回生のきっかけとなります。
| 項目 | 内容 |
|------|------|
| 本名 | 草野拓志(くさのひろし) |
| SNSアカウント名 | くさひろ/@kusa_hirohiro |
| 拠点 | 島根県益田市・浜田市(中山間地域) |
| 法人 | 株式会社くさひろ |
| SNS総フォロワー数 | 約36〜39万人(2026年3月時点) |
| SNS総再生回数 | 3億5,000万回(CM換算:約2億5,000万円) |
| 著書 | 「川を流れて人生大逆転」「だから俺は猟師をやめたんだ」(Amazonランキング1位獲得) |
農業インフルエンサーとして注目されるようになった草野さんの発信は、単に農作業の動画にとどまりません。米の価格問題・耕作放棄地・中山間地域農業の課題・農業者のリアルな経営実態など、農業界の構造的な問題にも踏み込んだ発信を続けています。その姿勢が農業従事者からの強い共感を呼んでいます。
農業情報を発信する権威あるメディアの記事はこちら。
日本農業新聞:〝川流れ〟動画で話題の米農家 島根県益田市・草野拓志さん(37)
農業でSNSを使う目的を「知名度アップ」だと思っている農家は多いです。しかし草野さんが最初に目指したのは、農産物の直接販売ルートを拡大することでした。理由は明快で、大規模な設備投資が難しい中山間地域の農家が収益を上げるには、相場に依存した販売からの脱却が必要だったからです。
草野さんが農家に伝えるSNS活用の核心は、「9割と1割の考え方」にあります。
- 9割の売り先は従来通りでよい:JA出荷や既存の取引先を急に変える必要はない
- 残りの1割だけをSNS経由の高値販売に変える:米なら5キロ1万円という「夢のような価格設定」でも、ファンがいれば売れる
- 「物語」で共感を作る:どのように作物を育てているかを動画で発信し、価格ではなく価値で選んでもらう
川流れ動画がバズった直後、草野さんは相場の約2倍の価格設定で米を販売しましたが、110トンもの在庫が10日かからずに完売しました。これは、SNSを通じてストーリーや生産者の人柄に共感した消費者が、価格よりも「この人から買いたい」という動機で購入したからです。つまり「物語販売」です。
農業×SNSの収益化構造を整理するとこうなります。
| 従来型の販売 | SNS活用後の販売 |
|---|---|
| 相場価格で出荷(交渉の余地ほぼなし) | 価値に見合った高値での直接販売が可能 |
| 消費者と顔が見えない関係 | ファンとの関係性構築でリピーターが増える |
| 価格競争に巻き込まれやすい | ストーリーで差別化できるため価格競争を回避 |
| 販売量は天候・相場に左右される | ファン層が育てば安定注文につながる |
草野さんは毎日4時間をSNSに費やし、2年4カ月で投稿数1,000本を超えました。一朝一夕ではない継続の積み重ねが、36万人以上のフォロワーと3億5,000万回再生という実績につながっています。
継続が基本です。
農業×SNS成功事例の詳細はこちらも参考になります。
みのらす(BASF):農業経営×SNSの可能性!集客から収益化につなげる
農業従事者がSNSを始めようとするとき、最初に悩むのが「何を発信すればいいのか」という問いです。草野さんの実例と農業SNS全体の傾向から、農家が発信すべき内容を具体的に整理します。
草野さんの場合、川を流れるという一見ふざけた動画が400万回再生されました。これは偶然ではありません。農業の厳しいリアルを正直に見せ、そこに「それでも前を向く農家の人間味」を重ねたことで、視聴者の心を動かしたのです。農業SNSでバズるコンテンツには共通点があります。
🌱 農業SNSで成果が出やすい発信の型
- 農作業のリアルな日常:汗や泥、失敗も含めた正直な現場の映像は共感を呼びやすい
- 生産者の「顔・人柄・こだわり」:消費者が「この人から買いたい」と感じる要素になる
- 農業界への本音の意見:草野さんが「5キロ2,000円台はきつい」と発信したように、農家の正直な声は広く共有される
- 地域の風景・自然:中山間地域の美しい田んぼや川の映像は、都市生活者の関心を引きやすい
- 農産物の生育過程:種まきから収穫までの「物語」を継続投稿することで、購買意欲につながるファンが育つ
重要なのは、「きれいな写真」や「編集の巧みさ」よりも、継続性と正直さです。草野さん自身も講演で「粘り強さ・行動力・継続力が今日の自分を作った」と語っています。SNS投稿は1,000本という数字がそれを証明しています。
農家がSNSを発信する際に気をつけたい点もあります。農産物の価格・産地・有機・無農薬などの表記には、食品表示法や景品表示法が関係します。特に「無農薬」という表現は、現在の食品表示では原則使用が認められていないため、「特別栽培米」など正確な表記を使うことが必要です。法的リスクに注意すれば大丈夫です。
農業SNSの発信内容に関するルールを確認しておきたい農家向けの参考情報。
スマート農業.jp:農家こそInstagramを活用すべき!参考にしたい農業系インスタ活用術
草野さんの発信が農業従事者から強く支持されている理由は、単なる成功談ではなく、農業の構造的な問題を正面から語っているからです。草野さんが向き合う「中山間地域農業」は、日本の農業問題の縮図でもあります。
日本の農地の約7割は中山間地域に集中しています。面積でいえば東京都の約10倍にのぼる広大な農地が、山間部の農村に分散して存在しています。しかし、この農地を維持することが今の農業にとって大きな課題です。耕作放棄地は毎年3万haずつ増加しており、中山間地域の農業が衰退すると、イノシシやシカなどの野生動物が人里に侵入し、住民の生活が脅かされる問題にも直結します。
草野さんの株式会社くさひろでは、毎年5ha近くの耕作放棄地を復旧し、大豆・麦などの輸入依存度が高い作物を生産しています。5haとは東京ドームとほぼ同じ面積です。これを毎年続けることで、荒廃した農地を再び生産力のある農地に戻しています。
厳しいところですね。
草野さんがXやInstagramで繰り返し伝えるメッセージの一つに「18年前、俺と同じタイミングで借金して始めた米農家の生存率は3割。7割は消えた」という言葉があります。農業を始めることのリスクと覚悟を、数字で正直に語る姿勢が、農業従事者や農業に関心を持つ若者の共感を集めています。
また、草野さんは未経験者の就農について「面積×収量×単価で作ったスカスカの事業計画書で何千万も借りれる農業は冷静に考えて異常だ」とも発信しています。農業への夢を持つ人を否定しているのではなく、リアルを知った上で判断してほしいという思いからの発信です。農業インフルエンサーとして、耳障りのよい情報だけでなく、農業の厳しさを正直に伝えることが草野さんのスタンスです。
耕作放棄地問題の背景を詳しく知りたい農業従事者向けの参考情報。
JAcom農業協同組合新聞:現地レポート 島根県・草野拓志氏 地域とJA 我らが拓く
草野さんの活動から農業従事者が最も学べることは、SNSが単なる宣伝ツールではないということです。SNSは「農業経営そのものを変える手段」になり得ます。これは農業インフルエンサーとして成功した草野さんだからこそ言える、実体験に裏付けられた主張です。
草野さんは現在、全国各地で講演活動を行っています。2026年3月には新潟県上越市で開催した講演会に200人以上が集まり、農業経営の立て直し体験やSNS活用のコツについて語りました。農業従事者だけでなく、農業に関心を持つ一般の人も含め、幅広い層が草野さんの言葉を聞きに来ています。
農業従事者にとってSNSを続けることのメリットは複数あります。
- 高値での直接販売ルートが開ける:ファンができれば「相場+α」の価格で売れる可能性が生まれる
- 農業経営のリスク分散になる:JAや飲食店など既存の取引先に依存しすぎず、個人顧客という第三の柱を持てる
- 地域農業の発信者になれる:中山間地域など条件不利地の農家が発信することで、地域ブランドの形成につながる
- 農業の後継者や仲間が集まる:草野さんのように発信を続けることで、農業に関心を持つ若い世代との接点が生まれる
- 出版・講演などの副収入につながることがある:草野さんの著書は2冊ともAmazonランキング1位を獲得し、講演依頼も全国から来ている
草野さんが次の目標として掲げているのは、「2年でSNS総フォロワー数100万人を達成すること」です。単に有名になりたいわけではなく、農業界全体の発信力を高め、農家の経営を守るための影響力を拡大したいという考えが背景にあります。
農業従事者がSNSを始めるにあたって、まず1つだけ行動するとすれば、スマートフォンで農作業のリアルな動画を1本撮影し、インスタグラムに投稿することです。完成度より継続が大事です。草野さんも最初の動画は「川に流されるだけ」でした。結果は、400万回再生でした。
農業×SNSの実践方法についての参考情報。
SNSスクール:農業のSNS成功事例まとめ|販路拡大・ブランド化につながる最新活用法