ナットウキナーゼは効果ない?嘘と論文と血栓溶解の真実

ナットウキナーゼが胃酸で死滅するため効果がないという説や、論文に基づくエビデンス、血栓溶解のメカニズムについて解説します。農業従事者として知っておくべき、大豆の発酵条件による酵素活性の違いとは?

ナットウキナーゼは効果ない

ナットウキナーゼの真実
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胃酸と吸収の壁

分子量が大きく胃酸に弱いため、経口摂取での効果には議論があるが、特殊コーティング技術などが進化している。

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効果的な摂取時間

血栓ができやすい深夜から早朝に合わせ、夕食後や就寝前に摂取するのが推奨される。

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発酵と酵素活性

納豆製造時の温度管理と発酵時間により、ナットウキナーゼの含有量(FU)は大きく変動する。

ナットウキナーゼは胃酸で酵素が失活し効果ないという説と論文

 

インターネット上の検索上位や口コミでは、「ナットウキナーゼは口から摂取しても意味がない」「胃酸で死滅するから嘘である」といった言説が散見されます。農業生産者や加工業者として、自社製品や作物の機能性を正しく理解するためには、この批判の根拠を科学的に把握しておく必要があります。

 

主な批判の論拠は「分子量」と「胃酸による失活」の2点に集約されます。

 

ナットウキナーゼはタンパク質分解酵素であり、その分子量は約20,000〜30,000ダルトンとされています。栄養学の通説では、腸管から吸収される分子の大きさには限界があり(一般的には数千以下)、これほど巨大な分子はそのままの形では吸収されず、アミノ酸に分解されてしまうと考えられています。アミノ酸に分解されてしまえば、それは単なる栄養素であり、酵素としての「血栓溶解作用」は失われます。

 

さらに、酵素はタンパク質であるため、胃を通過する際に強力な胃酸(pH1.2〜2.0)にさらされることで変性し、活性を失う(失活する)という指摘も生理学的には正しい側面があります。実際に試験管内の実験で裸のナットウキナーゼを胃酸と同等の酸性液に入れると、急速に活性が低下することが確認されています。これが「効果がない」とされる最大の理由です。

 

しかし、これに対する反論や新しい論文も存在します。日本ナットウキナーゼ協会などの研究によると、ヒト介入試験において、ナットウキナーゼ摂取後に血中の血栓溶解作用(線溶活性)が上昇したというデータが示されています。また、最近の研究では、ナットウキナーゼそのものが血中に入らなくても、腸管の受容体を刺激することで体内のt-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)の産生を促し、間接的に血栓溶解を促進する可能性が示唆されています。

 

また、サプリメント製品においては、耐酸性カプセルを使用することで胃での溶解を防ぎ、腸まで酵素を届ける技術が確立されています。納豆そのものを食べる場合でも、納豆菌自体が酸に強い胞子を形成することや、納豆のネバネバ成分(ムチン質など)が酵素を保護する役割を果たし、一部が腸まで到達する可能性も議論されています。

 

このように「効果がない」という主張は、古典的な吸収理論に基づいたものであり、近年の機能性表示食品としての届出内容や臨床データとは必ずしも一致しません。生産者としては、「絶対に効く薬」ではなく、「血流改善をサポートする機能性成分」として、過度な期待を持たせず正確な情報を消費者に伝える姿勢が重要です。

 

消費者庁への機能性表示食品の届出に関する科学的根拠については、以下のリンクが参考になります。

 

日本ナットウキナーゼ協会 - ナットウキナーゼFAQ
臨床試験における血流への影響については、以下の資料が詳しいです。

 

ナットウキナーゼが血流に及ぼす影響と健康効果

ナットウキナーゼの摂取における推奨FUと効果的な時間の目安

ナットウキナーゼの含有量や活性を示す単位として「FU(Fibrin Degradation Unit)」が用いられます。これは血栓の主成分であるフィブリン(人工血栓)を分解する能力を数値化したものです。一般的な推奨摂取量は「1日2000FU」とされています。

 

この2000FUという数字は、市販の納豆1パック(約50g)に含まれるナットウキナーゼの量に基づいています。しかし、実際には納豆の発酵度合いや大豆の品種、保管状態によって含有量は大きくばらつきます。古い納豆や冷凍解凍を繰り返した納豆では活性が低下している場合もあり、必ずしも1パックで2000FUが保証されているわけではありません。加工品開発において「ナットウキナーゼ含有」を謳う場合は、ロットごとのFU分析が品質管理上重要になります。

 

摂取のタイミングについては、「時間帯」が極めて重要です。

 

人間の体内で血栓ができやすいのは、就寝中から早朝にかけての時間帯です。これは、睡眠中に汗をかいて体内の水分が失われ血液がドロドロになりやすくなることや、副交感神経優位となり血流が緩やかになることが関係しています。脳梗塞や心筋梗塞の発作が朝方に多いのはこのためです。

 

ナットウキナーゼを摂取してから血中で作用を示すまでには数時間のタイムラグがあり、かつその効果は8〜12時間程度持続すると言われています。

 

したがって、血栓のリスクが高まる深夜から早朝に効果のピークを合わせるためには、「夕食後」または「就寝前」に摂取するのが最も合理的で効果的です。朝食に納豆を食べる文化が定着していますが、機能性の観点から言えば「夜納豆」の方が理にかなっています。

 

また、摂取の継続性も重要です。血栓溶解作用は即効性のある医薬品(ウロキナーゼの点滴など)とは異なり、穏やかに作用します。数日おきに大量摂取するよりも、毎日2000FUを継続して摂取することで、基礎的な線溶活性を高めておくことが推奨されます。

 

摂取タイミングと血栓リスクの関係については、以下の記事が参考になります。

 

ナットウキナーゼ|3つの効果・効能とおすすめの摂取方法
就寝前の摂取が推奨される理由については、以下の解説が有用です。

 

ナットウキナーゼ摂取のタイミングと効果

ナットウキナーゼを含む納豆とサプリの吸収の違いと選び方

農産物としての「納豆」そのものを食べる場合と、抽出・精製された「サプリメント」を摂取する場合では、体内への吸収や得られるメリット・デメリットが異なります。

 

納豆(食品)としての摂取

  • メリット: ナットウキナーゼ以外にも、大豆イソフラボン、ポリアミン、ビタミンK2、食物繊維など、複合的な栄養素を同時に摂取できます。特に整腸作用のある納豆菌そのものを大量に摂取できる点は、サプリにはない大きな利点です。また、価格も安価で毎日の食事に取り入れやすいです。
  • デメリット: ナットウキナーゼの含有量(FU)が一定ではありません。製品によって数倍の開きがあることも珍しくなく、加熱調理(70℃以上)をしてしまうと酵素が失活するため、食べ方に制限があります。また、独特の臭いや粘りが苦手な人には継続が困難です。
  • 吸収面: 食品マトリックス(他の成分と混ざった状態)として摂取するため、胃酸の影響をある程度緩和できる可能性がありますが、ビタミンK2による血液凝固作用も同時に摂取することになります。

サプリメントとしての摂取

  • メリット: FU値が規格化されているため、毎日安定した量を摂取できます。多くの製品で耐酸性カプセルが採用されており、胃酸による失活を防いで腸まで届ける工夫がされています。また、臭いや粘りがなく、納豆が苦手な人でも摂取可能です。
  • 重要な特徴: 多くのサプリメント製品では「ビタミンK2」が除去されています。これは後述するワーファリン服用者への配慮や、血栓溶解作用に特化させるためです。
  • デメリット: コストがかかります。また、粗悪な製品では表示通りのFU活性が含まれていないケースも過去に国民生活センター等で指摘されています。日本ナットウキナーゼ協会(JNKA)マークなどの認証がある製品を選ぶ必要があります。

生産者として注目すべきは、消費者が「納豆そのもの」に求めている価値と「サプリ」に求めている価値の違いです。健康志向の強い層には、高機能・高FUを謳った「プレミアム納豆」の需要がありますが、その際は「加熱せずに食べてください」という注意書きや、最適な食べ方の提案(オリーブオイルを加えるなど吸収を助ける工夫)をパッケージに記載することが付加価値につながります。

 

サプリメントの選び方や成分の違いについては、以下の比較記事が参考になります。

 

ナットウキナーゼサプリおすすめ12選と成分・効果の選び方
サプリメント利用時の注意点については、以下の資料が役立ちます。

 

納豆ウキナーゼとは?効果・効能とサプリの選び方

ナットウキナーゼの副作用とワーファリンとの飲み合わせ

ナットウキナーゼ自体は、納豆から抽出された酵素であり、食品由来成分であるため、重篤な副作用は報告されていません。しかし、血液に作用する成分である以上、特定の医薬品を服用している場合には注意が必要です。特に重要なのが抗凝固薬「ワーファリン(ワルファリン)」との飲み合わせです。

 

ワーファリンは、肝臓でのビタミンKの働きを阻害することで血液を固まりにくくする薬です。納豆にはビタミンK2が非常に豊富に含まれており、1パック食べるだけでワーファリンの作用を打ち消し、血栓ができやすい状態に戻してしまう恐れがあります。そのため、ワーファリン服用中の患者は、医師から「納豆の摂取禁止」を指導されることが一般的です。

 

ここで混同されやすいのが、「ナットウキナーゼ」と「ビタミンK2」の違いです。

 

  • 納豆(食品): ナットウキナーゼ(溶かす)+ ビタミンK2(固める補助)が含まれる → ワーファリン服用者はNG
  • ナットウキナーゼサプリ: ビタミンK2を除去した製品が多い → ワーファリン服用者でも医師の相談のもと摂取可能な場合がある

日本ナットウキナーゼ協会のQ&Aでも、ビタミンK2を除去したナットウキナーゼであれば、ワーファリンとの併用は問題ないとされています。ただし、血液サラサラの薬を飲んでいる人が、さらに血栓溶解作用のあるサプリを飲むことで、出血傾向(血が止まりにくくなる、内出血しやすくなる)が強まる可能性は理論上ゼロではありません。手術の前後や抜歯の際などは、摂取を控えるべきです。

 

また、農業従事者の中には、自家用や直売所向けに納豆を製造する方もいるかもしれません。「血液サラサラに良い」というPOP広告を出す際は、薬機法(旧薬事法)や健康増進法に抵触しないよう十分な注意が必要です。「血栓を溶かす」という直接的な表現は、医薬品的な効能効果の標ぼうとみなされ、食品である納豆や未承認サプリメントでは使用できません。「健康維持に」「めぐりをサポート」といった表現に留める必要があります。

 

ワーファリンとの相互作用に関する公的な見解は、以下で確認できます。

 

Q3 ワルファリンを飲んでいますが、納豆等の摂取について - PMDA
相互作用に関する詳細な解説は、以下の記事が参考になります。

 

健康食品の安全性・相互作用に関する調査報告

ナットウキナーゼ活性を高める大豆の発酵温度と時間の条件

ここからは、一般的な健康ブログでは語られない、農業生産者や加工業者視点での「ナットウキナーゼの高め方」について解説します。

 

ナットウキナーゼは、納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)が大豆のタンパク質を分解して増殖する過程で産生される酵素です。つまり、単に納豆菌をかければ良いわけではなく、酵素生産が最大化する「発酵のピーク」を狙う必要があります。

 

1. 最適な発酵温度
納豆菌の増殖適温は40℃〜45℃付近ですが、ナットウキナーゼの産生が最も活発になるのは35℃〜40℃の範囲であるとする研究報告があります。温度が高すぎると菌の増殖速度は上がりますが、酵素の活性安定性が低下したり、アンモニア臭が強くなったりするリスクがあります。逆に温度が低すぎると発酵が進まず、雑菌汚染のリスクが高まります。

 

高付加価値な納豆を作る場合、初期の発酵(菌の増殖)を40℃程度で行い、後半は38℃程度に下げるなど、精密な温度管理がFU値を高める鍵となります。

 

2. 発酵時間の管理
ナットウキナーゼ活性は、発酵開始から直線的に上がり続けるわけではありません。通常、発酵開始から12〜24時間の間にピークを迎え、その後は横ばい、あるいは過発酵により酵素自体が分解されて活性が低下することがあります。

 

多くの自家製納豆や直売所の納豆で「粘りは強いが旨味が少ない」「アンモニア臭がする」という場合、発酵時間が長すぎてナットウキナーゼのピークを過ぎている、あるいは温度管理が不十分で酵素活性が最大化していない可能性があります。

 

3. 大豆の品種と前処理
大豆の粒の大きさ(小粒 vs 大粒)も表面積の違いにより菌の付着量や酸素供給量に影響し、結果として酵素生産量に関わります。一般に小粒大豆の方が表面積が大きく、発酵が均一に進みやすいため、高い酵素活性を得やすい傾向にあります。また、蒸煮(蒸し)時間が適切で大豆が芯まで柔らかくなっていることも、菌糸が内部まで入り込み酵素を作り出すために不可欠です。

 

このように、ナットウキナーゼの効果を最大化した納豆を提供するためには、「品種選び」「浸漬・蒸煮」「温度プログラム」の最適化が求められます。「効果がない」と言わせないためには、製造工程におけるサイエンスが不可欠なのです。

 

発酵温度と納豆菌の活性に関する技術情報は、以下が参考になります。

 

納豆菌の発酵を助ける最適温度とは
発酵経過と酵素活性の変化に関する学術的な知見は、以下で確認できます。

 

納豆菌による発酵過程におけるナットウキナーゼ活性の変化

 

 


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