抗血清で診断した結果が「陰性」でも、ウイルスに感染している作物が圃場全体に広がることがあります。
抗血清(こうけっせい)とは、動物の体内に病原体や毒素などの抗原を注射し、血液中に抗体を作らせてから採取した血清のことです。 免疫化された動物の血液から凝固タンパク質や赤血球を除去したものが抗血清であり、精製された抗体製品とは根本的に異なります。weblio+1
抗血清には、目的の抗原を認識する抗体だけでなく、その他のさまざまな抗原に対する抗体も含まれています。 また、すべてのクラスの免疫グロブリン(IgG・IgM・IgA・IgE・IgDなど)や血清タンパク質も混在している点が特徴です。
これが抗体との最大の違いです。
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一方で「抗体」という言葉は、こうした混合物から特定のターゲットを狙って精製・選別されたタンパク質を指すことが多いです。 つまり「抗血清の中に抗体が含まれている」という包含関係になります。
参考)https://www.ptglab.co.jp/news/blog/polyclonal-vs-monoclonal-antibodies/
農業現場で「抗血清を使った診断キット」を利用している場合、この混合物の性質が結果の精度に直接影響します。
抗血清が基本です。
参考:抗血清・ポリクローナル抗体・モノクローナル抗体の違いと精製法について
用途に合わせて使い分け。抗体のフォーマットと精製方法 - M-hub
ポリクローナル抗体は複数の異なるB細胞クローンから産生される抗体の混合物です。 同一の抗原に対して複数のエピトープ(抗原の認識部位)に結合できるため、微量のウイルスも検出しやすいという利点があります。blog.cellsignal+1
モノクローナル抗体は、特定の親細胞の1つのクローンから産生された均質な抗体です。 1種類のエピトープのみを精密に認識するため、交差反応性が低く、診断精度が高いのが特徴です。
これは使えそうです。
| 項目 | ポリクローナル抗体 | モノクローナル抗体 |
|---|---|---|
| 産生元 | 複数のB細胞クローン | 単一のB細胞クローン |
| 認識エピトープ | 複数 | 1種類 |
| 感度 | 高い(微量検出向き) | やや低い |
| 特異性 | 低い(交差反応が起きやすい) | 高い |
| バッチ間の再現性 | 低い(動物ごとに差がある) | 高い |
| 抗血清との関係 | 抗血清はポリクローナル抗体の粗精製品 | 抗血清とは別物 |
農業の現場では、植物ウイルスの血清学的診断に抗血清やポリクローナル抗体が広く利用されてきました。 ポリクローナル抗血清の特異抗体濃度は通常1〜3 mg/mLの範囲です。 微量ウイルスを拾いやすい反面、正常な植物由来のタンパク質に非特異的に反応してしまうケースも報告されています。labfirst.cosmobio+2
参考:モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の利点・欠点の詳細比較
ポリクローナル抗体VSモノクローナル抗体 - Proteintech
農業現場でのウイルス病害診断において最もよく使われる手法がELISA(酵素結合免疫吸着法)です。 ELISA法は、対象ウイルスに対する抗体を使ってウイルスを検出する手法で、簡便性・経済性・検出感度の高さが特徴です。ml-wiki.sys.affrc.go+1
ELISAの中でも「DAS-ELISA(ダブルアンティボディーサンドイッチ法)」が広く普及しています。農研機構が開発したウリ類退緑黄化ウイルス検定試薬は、このDAS-ELISAを用いており、メロン・キュウリ・スイカの各種罹病葉を的確に診断できます。 現場では血清学的診断法として今なお需要が高い方法です。
参考)https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/narc/2010/narc10-03.html
ELISA以外にも、以下のような診断法が使われています。
これらの診断キットに使われている試薬が「抗血清」なのか「精製抗体」なのかで、感度と特異性のバランスが変わります。診断結果が陽性のとき、非特異反応の可能性を考えて再検査することが賢明です。
参考:農研機構によるDAS-ELISA法を用いたウリ類退緑黄化ウイルスの血清診断技術
DAS-ELISA法によるウリ類退緑黄化ウイルスの簡易血清診断法 - 農研機構
抗血清を使った診断で特に問題になるのが「非特異反応」です。 非特異反応とは、目的の抗原とは無関係なタンパク質に抗体が反応してしまい、偽陽性や偽陰性を引き起こす現象です。
参考)非特異反応の主な要因
抗血清の中には、免疫化に使っていない多種の抗原に対する抗体も混在しています。 これが健全な植物由来のタンパク質に反応することがあり、「ウイルス未感染なのに陽性判定」が出てしまう場合があります。
痛いですね。
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非特異反応を減らすためには、以下の対策が有効です。
非特異反応が起きやすい条件を知っておくと、診断の信頼性を大幅に向上させられます。
対策をとれば問題ありません。
参考:非特異反応の原因と軽減方法の詳細解説
非特異反応の主な要因 - MBLライフサイエンス
植物ウイルス診断用の抗体はこれまで国内製造が難しく、大部分を輸入に頼っていました。 その製作期間は従来の動物を使った手法で6〜12か月かかり、動物飼育施設や細胞培養施設が必要なためコストも相当かかっていました。
これは農家にとって大きな負担でした。
しかし農研機構と成均館大学の共同研究により、大腸菌を使った試験管内の抗体生産技術が開発されました。 この技術では選抜から抗体生産までたった3週間、製作費用も従来比85%以上削減できます。 つまり低コスト・高効率な診断が実現しつつあります。
現場では、どの種類の抗体・抗血清が使われているか診断キットのラベルで確認する習慣が大切です。農研機構や都道府県の農業試験場が提供する診断試薬の仕様書を確認することで、診断精度の評価基準を把握できます。
作物を守るために、この情報は必須です。
参考:農研機構の植物ウイルス診断に関する情報(イネ縞葉枯病のELISA診断事例を含む)
イネ縞葉枯病に関するELISA情報 - 農研機構MLwiki