気孔伝導度は高いほどよい数値ではありません。まずmolとmmol、水蒸気に対するgswとCO2に対するgscを区別し、光合成速度A・蒸散E・葉温・葉と空気のVPD・CO2を同時に見ます。光合成低下が気孔閉鎖によるCO2供給不足なのか、弱光や葉内の反応による制限なのかで、必要な対処が変わります。測定・解釈の根拠
午前中の測定では正確な値が出ません。

気孔伝導度は、葉から気体が通り抜けやすい程度を表す値であり、光合成速度や蒸散速度そのものではありません。水蒸気に対する値はgsw、CO2に対する値はgscと区別します。1 mol m−2 s−1=1000 mmol m−2 s−1なので、0.20 mol m−2 s−1と200 mmol m−2 s−1は同じ値です。ただし、同じ条件のgscはおよそgsw÷1.6です。測定表を比較するときは、数値と単位だけでなく、どちらの気体に対する伝導度かも確認してください。Buschら、2024年、表1・Box 2
| 項目 | 意味と単位 | 比較前の確認 |
|---|---|---|
| gsw | 水蒸気に対する気孔伝導度。mol m−2 s−1またはmmol m−2 s−1 | 葉面の扱い、葉温、VPD、境界層、測定機種 |
| A | 純CO2同化速度。μmol CO2 m−2 s−1 | 光、CO2、葉温、葉位、測定時刻 |
| E | 蒸散速度。mmol H2O m−2 s−1 | 気孔の状態だけでなく葉と空気のVPDにも左右される |
| Ci | 細胞間隙CO2濃度。μmol mol−1 | ガス交換からの推定値であり、葉緑体内CO2濃度ではない |
赤外線ガス分析計は、葉を挟んだチャンバーの入口と出口のCO2・水蒸気濃度、流量、葉面積からAとEを求めます。gswはさらに葉温から求める葉内水蒸気圧と外気の水蒸気圧差、境界層などを使って算出します。境界層などを省いた近似はE=gsw×VPDleaf÷大気圧です。Eをmol単位にそろえて使う式で、単に蒸散量が大きいから気孔が大きく開いているとは判断できません。葉温が気温と異なるため、温湿度計の気温と相対湿度だけではVPDleafを確定できません。測定原理と近似式
ポロメーターは気孔伝導度を調べる用途に使えますが、その値だけでCO2同化速度は測れません。光合成低下の原因まで判断するなら、A・E・gsw・Ciを同時に記録できるガス交換測定を選びます。気孔コンダクタンスの計測とモデリング、ガス交換による評価項目
関連用語・資料:農業 / 蒸散 / 光合成速度 / 土壌水分計
光合成が落ちたときに、気孔閉鎖だけを原因にしないでください。愛媛大学が松山市の温室トマトを調べた2017年の論文には、両者が同じ割合では変わらなかった比較があります。異なる6個体の第5葉の小葉をLI-6400-XTで測り、PPFDを1500から250 μmol m−2 s−1へ下げたとき、CO2 400 μmol mol−1では光合成速度が36±4%低下したのに対し、気孔コンダクタンスの低下は18±5%でした。CO2 800 μmol mol−1では、それぞれ43±4%と15±6%でした。光を減らして光合成が低下した事例であり、この割合から気孔閉鎖の寄与率を計算することはできません。下元ら、2017年、材料・方法と結果
測定は2015年10月と2016年12月の14〜18時、品種はりんか409と大安吉日で、栽培時のCO2施用はありませんでした。チャンバーの気温21〜35℃、相対湿度55〜77%は制御していません。同じ研究で曇天日の葉は晴天日の葉より気孔コンダクタンスが低く、測定前の日射履歴も結果に残る可能性が示されました。ただし、別日・別個体の比較なので、差のすべてを天候だけに帰すことはできません。試験条件と天候比較
| 観察 | 確かめること | 避ける即断 |
|---|---|---|
| 同じ光・葉温・外部CO2で、Aとgswが低下しCiも低下 | CO2供給制限を疑い、根域水分・VPDとA-Ci応答を確認する | 単一時点だけで気孔閉鎖が唯一の原因と決める |
| 弱光でAとgswがともに低下 | 光をそろえ、順化後のAを比較する | 灌水すれば光合成が回復すると考える |
| 高CiでもAが回復しない、または低下する | 葉肉内のCO2拡散とRubisco・電子伝達・糖合成側の制限を追加測定する | 気孔だけを開かせれば解決すると考える |
A-Ci曲線は気孔によるCO2供給制限と生化学的制限を調べる手段ですが、Ciは葉緑体内濃度ではなく、葉肉コンダクタンスの変化も残ります。必要に応じてクロロフィル蛍光などを併用します。愛媛大学の研究で強光・高Ci時に認められた光合成低下は、リン酸再生供給速度による律速の可能性として論じられたもので、土壌のリン欠乏を証明した結果ではありません。リン酸肥料の追加へ直結させないでください。拡散制限と生化学的制限、原著の解釈と限界
関連用語・資料:葉緑体
目標はgswを最大にすることではなく、必要なCO2同化を維持しながら水損失を抑えることです。CO2濃度の上昇で光合成が促進される一方、気孔開度と蒸散が低下する応答もあるため、低いgswが直ちに不調を意味するわけではありません。彦坂幸毅、2013年『植物と二酸化炭素』
水利用効率はA/Eと、ここでは水蒸気に対する伝導度を使うA/gswを区別します。A/Eは実際の水損失当たりのCO2同化ですが、湿度と葉温によって変わるVPDの影響も受けます。A/gswは内在的水利用効率の指標ですが、A自体が大きく落ちた測定値を効率だけで高評価してはいけません。また、文献によってA/gscの定義もあるので分母を明記します。水利用効率の定義と表記
以上は2024年の測定指針とLI-6800のCO2応答測定手順に基づく確認項目です。後者のVPDleaf 1.0〜1.5 kPaはCO2応答曲線の測定例で、全作物の栽培最適値ではありません。CO2応答は外気付近から低濃度へ進み、外気付近で回復を確認してから高濃度へ進めます。低CO2によるRubisco不活性化と、高CO2による気孔閉鎖を避けるため、極端な濃度に長く置かない手順です。
関連用語・資料:測定器 / キャリブレーション / 圃場 / フラックス / 国際農林水産業研究センター / SC-1リーフポロメーターの製品情報(METER Group社)
気孔伝導度を利用した科学的なかん水管理は、経験や勘に頼らない安定的な作物生産を実現する手法として注目されています。滋賀県の茶園における研究では、200~250mmol/m²/sという具体的な基準値が設定されており、この範囲を下回った場合にかん水を実施することで、干ばつによる三・四番茶芽の生育低下を軽減できることが実証されました。
測定のタイミングが判断精度を左右する重要な要素です。茶葉の気孔伝導度は朝夕に低く、正午前後に高くなる日変化パターンを示すため、安定したピーク値が得られる正午前後(10時~12時)の測定が推奨されています。この時間帯以外に測定すると、本来の水ストレス状態を正確に反映しない可能性があります。
測定する葉の選び方も慎重に行う必要があります。茶芽が旺盛に伸育している時期は古葉の最上位葉で気孔伝導度が高く、茶芽が出開いて硬化を始めると新芽の下位葉や第2葉といった上位葉で次第に高くなる傾向があります。
つまり対象作物の生育段階です。
かん水の実施方法については、気孔伝導度が250mmol/m²/sを基準とした多かん水区では期間中4回、200mmol/m²/sを基準とした中かん水区では2回のかん水が行われた事例があります。いずれの処理区でも無かん水区と比較して新芽長や秋整枝量が維持される傾向が確認されており、特に多かん水区では秋整枝量が266kg/10aと最も高い数値を記録しました。
水ストレスから植物を守りつつ過剰なかん水を避けるには、気孔伝導度の継続的なモニタリングによって土壌水分状態と植物の生理反応の両面から判断することが有効です。土壌水分計の数値だけでは見えない植物体の実際のストレス度合いを把握できる点が、この手法の大きなメリットといえます。
茶葉の気孔コンダクタンスを利用した茶園のかん水要否判断法(滋賀県農業技術振興センター)では、具体的な測定手順とかん水基準の詳細が解説されています。
気孔伝導度の測定では、時間帯の選択ミスが最も多い失敗パターンです。早朝や夕方に測定すると気孔が十分に開いていない状態の数値が得られてしまい、実際の水ストレス状態を過大評価してしまう危険性があります。正午近辺の時間帯を避けて測定した場合も、気孔の昼中閉鎖(midday closure)という現象の影響で誤った判断につながる可能性が指摘されています。
葉の選択を誤ると測定値が大きくばらつきます。同じ株でも葉齢や葉位によって気孔伝導度は異なるため、測定対象の葉を統一しないと経時的な比較ができません。硬化した上位葉を一貫して選ぶなど、明確な基準を設けることが重要です。
測定環境による誤差も見逃せない要因です。強風下での測定は葉面境界層コンダクタンスの値が大きく外れて熱収支解析が不正確になり、光合成速度の推定誤差が著しく大きくなることが報告されています。風の影響を受けにくい場所を選ぶか、防風対策を施した状態での測定が推奨されます。
測定回数が不足している場合も注意が必要です。1~2枚の葉だけで判断すると、個体差や葉ごとのばらつきによって誤った結論を導く可能性があります。滋賀県の事例では20葉の平均値を採用しており、統計的に信頼できるデータを得るには十分なサンプル数の確保が不可欠です。
こうした測定エラーを防ぐための実用的な対策として、測定プロトコルの標準化が効果的です。測定時刻、測定部位、測定枚数、天候条件などの基準を文書化しておき、担当者が変わっても同じ手順で測定できる体制を整えることで、データの一貫性が保たれます。
機器のメンテナンスも忘れてはいけません。センサー部分の汚れや経年劣化は測定精度に直接影響するため、定期的なキャリブレーションと清掃が必要です。測定前には必ず校正を実施し、異常値が出た場合は機器の状態を確認してから再測定する習慣をつけましょう。