光合成速度求め方を農業で使う測定と計算の基礎知識

光合成速度の求め方を農業現場で活用する方法を解説します。見かけの光合成速度と呼吸速度の関係、測定単位の意味、葉面積の扱い方など実践的な計算方法を知っていますか?

光合成速度の求め方と測定方法

葉面積を片面だけで計算すると光合成速度が2倍に誤差します


この記事の3ポイント要約
🌱
真の光合成速度の求め方

見かけの光合成速度と呼吸速度を足すことで真の光合成速度が計算できます。測定値だけでは実際の光合成能力を過小評価してしまいます。

📐
測定単位と計算式の理解

光合成速度は「二酸化炭素mg÷葉面積÷時間」で求めます。単位はμmol CO₂/m²/sが一般的で、葉面積は両面の合計として扱う必要があります。

🔬
測定方法と注意点

チャンバー法によるガス交換測定が主流です。測定温度や光強度の条件が異なると結果が大きく変わるため、栽培環境に近い条件で測定することが重要です。


光合成速度の基本計算式と呼吸速度の関係


光合成速度を正確に求めるには、見かけの光合成速度だけでなく、呼吸速度を考慮する必要があります。植物は光合成と同時に呼吸も行っており、呼吸によって二酸化炭素を放出しているためです。


基本的な計算式は以下の通りです。


$$\text{真の光合成速度} = \text{見かけの光合成速度} + \text{呼吸速度}$$


見かけの光合成速度とは、実際に測定される二酸化炭素の吸収速度のことです。これは光合成によって吸収された二酸化炭素量から、呼吸によって放出された二酸化炭素量を差し引いた値になります。つまり、測定値だけでは真の光合成能力を過小評価してしまうのです。


呼吸速度は光の強さに関係なくほぼ一定です。暗黒下で測定される二酸化炭素の放出速度が呼吸速度に相当します。例えば、40キロルクスの光の強さで見かけの光合成速度が相対値10、呼吸速度が相対値5だった場合、真の光合成速度は10+5=15となります。


呼吸速度が相対値5ということですね。


農業現場で光合成速度を評価する際は、この関係式を理解していないと、品種間の比較や栽培環境の改善効果を正しく判断できません。特に光補償点(光合成速度と呼吸速度が等しくなる光の強さ)を知ることは、施設栽培での採算性を判断する上で重要な指標になります。


光合成速度と呼吸速度の読み取り方について詳しく解説されています(ベネッセ教育情報サイト)


光合成速度の単位と葉面積あたりの計算方法

光合成速度の単位には複数の表記がありますが、農業研究や施設園芸では「μmol CO₂/m²/s」(マイクロモル毎平方メートル毎秒)が最も一般的に使われます。この単位は、1平方メートルの葉面積が1秒間に吸収または放出する二酸化炭素の量をマイクロモル単位で表したものです。


実際の計算式は次のようになります。


$$\text{光合成速度} = \frac{\text{二酸化炭素量}(\text{mg})}{\text{葉面積}(\text{cm}^2) \times \text{時間}(\text{h})}$$


例えば、0.0034mgの二酸化炭素を吸収し、葉面積が4cm²、測定時間が184分(3.07時間)の場合、計算式は次のようになります。


$$\text{光合成速度} = \frac{0.0034}{4 \times 3.07} = 0.000277 \, \text{mg/cm}^2\text{/h}$$


葉面積の扱いには特に注意が必要です。葉面積は通常、葉の両面の合計面積として定義されます。しかし、測定機器によっては片面の面積を基準とする場合もあり、この違いを理解していないと、光合成速度の値が2倍も異なってしまいます。


つまり両面計算が原則です。


農業現場で使用する携帯型光合成測定装置では、測定値が自動的に単位換算されて表示されます。ただし、取扱説明書で葉面積の定義(片面か両面か)を確認しておくことが重要です。また、単位換算する際には、1μmol=10⁻⁶×アボガドロ数(6.02×10²³)という関係を理解しておくと、異なる単位系の文献データとの比較がしやすくなります。


光合成速度の実験と計算の具体例が掲載されています(日本植物生理学会)


光合成速度のチャンバー法による測定手順

チャンバー法は、農業現場で最も広く使われている光合成速度の測定方法です。この方法では、葉や植物体をチャンバー(小さな密閉容器)に入れて、チャンバー内の二酸化炭素濃度の変化から光合成速度を求めます。


測定方法には「密閉型(クローズドシステム)」と「通気型(オープンシステム)」の2種類があります。密閉型は、密閉容器内のCO₂濃度が光合成によって減少する速度を測定します。一方、通気型は、一定濃度のCO₂を含んだ空気をチャンバーに通気し、出てくる空気のCO₂濃度の減少量から光合成速度を算出します。


通気型が実用的です。


通気型の測定手順は以下の通りです。


📊 測定前の準備
- 葉を測定装置のチャンバーに挟み込む
- 光源を設定した強度に調整する
- チャンバー内の温度と湿度を確認する
- 通気する空気のCO₂濃度を設定する(通常400ppm)


📊 測定中の記録
- チャンバーに入る空気のCO₂濃度を記録
- チャンバーから出る空気のCO₂濃度を記録
- 空気の流量を記録
- 測定時の葉温度を記録


測定時の環境条件が結果に大きく影響します。特に温度は重要で、測定温度が栽培温度と異なると、実際の栽培環境での光合成能力を正しく評価できません。例えば、25℃で測定した光合成速度と、35℃で測定した値では、最適温度の違いから大きく異なります。


農研機構の最新研究では、従来のチャンバー法に代わる新しい測定法も開発されています。複数のセンシング技術を組み合わせることで、ガス交換測定を行わずに光合成速度を推定する方法です。この方法なら、測定時間を大幅に短縮でき、多くのサンプルを効率的に評価できます。


農研機構による新しい光合成速度推定法の研究成果が公開されています


光合成速度に影響する環境条件と測定時の注意点

光合成速度の測定値は、測定時の環境条件によって大きく変動します。主な影響要因は、光強度、CO₂濃度、温度、湿度の4つです。これらの条件が栽培環境と異なると、実際の生育状況での光合成能力を正しく評価できません。


光強度と光合成速度の関係では、弱光下では光が強くなるほど光合成速度は直線的に増加します。しかし、ある程度以上の光強度(光飽和点)に達すると、それ以上光を強くしても光合成速度は上がらなくなります。トマトやナスなどの多くの野菜では、約500〜1000μmol/m²/sで光飽和に達します。


光飽和点が判断基準です。


CO₂濃度も光合成速度に大きく影響します。大気のCO₂濃度400ppmを基準とすると、600ppmでは光合成速度が約20%上昇します。逆に、250ppmまで下がると約25%低下してしまいます。施設栽培で換気が不十分な場合、ハウス内のCO₂濃度が200ppm以下に下がることもあり、この状態では光合成が大幅に制限されます。


温度の影響も見逃せません。多くの作物では25〜30℃が光合成速度の最適温度範囲です。30℃を超えると呼吸量が多くなり、純光合成速度(真の光合成速度から呼吸速度を引いた値)が低下します。測定時の温度条件が栽培温度と異なる場合、測定結果を栽培環境にそのまま当てはめることはできません。


測定条件で結果が変わります。


湿度(飽差)については、多くの植物では2〜10hPa程度の範囲であれば大きな影響はありません。しかし、10hPa以上の低湿度になると気孔が閉鎖し、光合成速度が低下する場合があります。測定中にチャンバー内の湿度が上昇しすぎると、葉の温度が測定装置の想定と異なってしまい、誤差の原因になります。


これらの環境条件を適切に管理するため、測定前には必ず栽培環境の温度、湿度、CO₂濃度を確認し、できるだけ同じ条件で測定を行うことが重要です。また、測定は午前中の安定した時間帯に行い、葉の生理状態が日によって変わらないよう、同じ葉位の葉を選んで測定することも精度向上のポイントになります。


光合成量チェックと環境条件の関係について詳しく解説されています(高知県IoP農業研究会)


光合成速度測定の実践的な活用例と品種間差

光合成速度の測定データは、農業現場で品種選定や栽培管理の改善に直接活用できます。特に施設園芸では、品種間の光合成能力の差を知ることで、栽培環境に最適な品種を選ぶことができます。


トマトを例に取ると、品種間で最大光合成速度に1.5倍程度の差があることが知られています。光合成速度が高い品種は、同じ栽培面積でも収量が多くなる傾向があります。ただし、光合成速度が高い品種ほど、最適な光強度やCO₂濃度も高くなるため、施設の環境制御能力とのマッチングが重要です。


品種選びで収量が変わります。


C3植物とC4植物の光合成速度の違いも重要です。C3植物(イネ、トマト、イチゴなど)の光合成速度は、最大日射の1/2〜1/4で光飽和に達します。一方、C4植物(トウモロコシ、サトウキビなど)は最大日射あるいはそれ以上にならなければ光飽和に達しません。このため、強光下ではC4植物の方が光合成速度が高く、生産性も高くなります。


実際の活用例として、施設トマトの栽培管理では次のような使い方があります。


🍅 品種選定での活用
- 弱光期(冬季)向けには光補償点が低い品種を選ぶ
- 強光期(夏季)向けには光飽和点が高い品種を選ぶ
- CO₂施用を行う施設では高CO₂応答性の品種を選ぶ


🍅 環境制御での活用
- 測定した光飽和点をもとに補光の必要性を判断する
- CO₂施用の効果を光合成速度から定量評価する
- 温度管理の最適化(光合成速度が最大になる温度に設定)


高知県では、ナスの光合成速度を簡易的に推定できるエクセルツールが開発されています。ハウス内の温度、湿度、CO₂濃度、光強度を入力すると、現在の光合成速度が表示される仕組みです。このツールを使えば、環境制御の効果をリアルタイムで確認しながら、最適な管理を行うことができます。


光合成速度の測定は、育種の場面でも活用されています。多数の系統から光合成能力の高いものを選抜することで、収量性の高い新品種の開発につながります。農研機構では、葉の光合成速度を高速・高精度に推定する新しい装置を開発し、育種の効率化を進めています。



生命科学のための物理化学15講 (KS生命科学専門書)