医薬品医療機器法 施行規則の改正と農業:6次産業化への影響

医薬品医療機器法 施行規則の改正は、農業従事者にも無関係ではありません。6次産業化での表示規制や添付文書の電子化、薬用作物栽培への影響とは?あなたの農園経営を守るための法律知識、正しく理解していますか?

医薬品医療機器法 施行規則の全体像と農業

記事の概要
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2025年改正のポイント

安定供給体制の強化や添付文書電子化の完全移行など、最新の法改正が農業ビジネスに与える影響を解説します。

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6次産業化と表示規制

化粧品や加工品を販売する際の「文字サイズ」や「成分表示」など、施行規則で定められた厳格なルールを深堀りします。

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薬用作物と品質管理

医薬品原料としての農産物需要が高まる中、GAPとGMPの連携や原料供給者としての責任について考察します。

農業従事者の皆様にとって、「医薬品医療機器法(旧薬事法)」という言葉は、一見すると遠い世界の話のように感じられるかもしれません。しかし、農業の6次産業化が進み、自社で化粧品(ハンドクリームや石鹸など)や健康食品を製造・販売するケースが増えている現在、この法律、特にその細かい運用ルールを定めた「医薬品医療機器法 施行規則」は、決して無視できない存在となっています。


参考)https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/committee/20181119/181119honkaigi05.pdf

医薬品医療機器法(正式名称:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)は、医薬品や医療機器だけでなく、化粧品や部外品などの製造・販売・表示に関するルールを定めています。そして、「施行規則(厚生労働省令)」は、法律の条文だけではカバーしきれない具体的な手続きや基準、様式などを定めた、いわば「実務のマニュアル」です。例えば、製品のラベルにどのような文字サイズで何を書かなければならないか、といった極めて実務的な指示は、法律本体ではなく、この施行規則に書かれています。


参考)令和7年の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等…

近年、この医薬品医療機器法および施行規則は、頻繁に改正が行われています。特に2025年の改正や、それに先立つ添付文書の電子化などは、製造販売業者に対して大きな変革を求めています。もしあなたが、「農産物の成分を使った化粧品」を販売していたり、将来的に「薬用作物」の栽培を検討していたりする場合、この施行規則を知らないことは経営上の大きなリスクとなり得ます。逆に、施行規則を正しく理解し、適切に対応することで、他社との差別化や信頼性の向上、コスト削減につなげることも可能です。本記事では、難解な法規制の中から、特に農業従事者や6次産業化に取り組む事業者が知っておくべきポイントを厳選して解説します。


参考)2025年改正薬機法で何が変わる?変更のポイントと薬局で取る…

改正医薬品医療機器法 施行規則の重要ポイントと2025年の動き


2025年の医薬品医療機器法改正は、これまでの規制のあり方を大きく変える重要な転換点となっています。この改正の背景には、近年の後発医薬品(ジェネリック医薬品)を中心とした供給不安や、品質不正事案の多発があります。農業分野とは直接関係がないように思えるかもしれませんが、この「品質確保」と「安定供給」というキーワードは、あらゆる製造業において共通の課題であり、6次産業化を目指す農業者にとっても重要な示唆を含んでいます。


参考)≪解説≫2025年 改正薬機法【第1回】

今回の改正の大きな柱の一つは、「医療用医薬品の安定供給体制の強化」です。具体的には、供給不足が発生した際に、国が製薬企業に対して増産や出荷調整の協力を要請できる法的根拠が整備されました。また、製造販売業者に対しては、供給体制管理責任者の設置が義務付けられるなど、組織のガバナンス強化が求められています。これは、農業において農産物を加工品として出荷する際にも、「欠品を起こさないための在庫管理」や「原料調達の安定化」がいかに重要かを示しています。法規制が厳格化されるトレンドの中で、小規模な事業者であっても、供給責任を果たす体制づくりがこれまで以上に問われるようになるでしょう。


参考)2025年薬機法改正のポイントを分かりやすく解説!薬剤師業務…

また、品質管理の面では、過去の不正製造事例を受けて、法令遵守体制の整備がより一層厳格に求められるようになりました。施行規則レベルでも、製造手順の遵守や記録の保管に関する規定が強化されています。これは、農業者が化粧品製造販売業の許可を取得して自社製品を作る場合、単に「良いものを作る」だけでなく、「決められた手順通りに作り、その記録を確実に残す」というプロセス管理(QMSやGMPの考え方)が必須になることを意味します。施行規則の改正は、実務レベルでのチェックリストが増えることを意味するため、常に最新の情報をキャッチアップしておく必要があります。


参考)https://www.pref.toyama.jp/documents/3065/matome20210713_1.pdf

さらに、条件付き承認制度の拡大や、小児用医薬品開発の努力義務化など、創薬環境の整備も進められています。これは直接的には製薬企業向けの話ですが、広い意味では「イノベーションを阻害しない規制緩和」と「厳格な品質管理」の両立を目指す動きと言えます。農業発の新規成分や、伝統的な植物資源を活用した製品開発においても、科学的なエビデンスに基づいたアプローチができれば、こうした制度改正の恩恵を受けられる可能性があります。


参考)【施行直前】2025年の薬機法改正で事業者が取るべき対策とポ…

令和7年の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律 - 厚生労働省
このリンク先には、2025年(令和7年)の法改正に関する詳細な概要資料、政令、省令がまとめられています。原文を確認したい場合に非常に有用です。


電子化添付文書の電子化と紙媒体の廃止:コスト削減のチャンス

医薬品医療機器法 施行規則の改正において、実務面に最も大きな変化をもたらしたのが「添付文書の電子化」です。かつては、医薬品や医療機器には必ず紙の「添付文書(能書)」を同梱しなければなりませんでした。しかし、2021年8月の改正法施行により、原則として紙の添付文書は廃止され、電子的な方法での閲覧が基本となりました。経過措置期間を経て、現在では完全な義務化へと移行しています(一部の消費者向け製品を除く)。


参考)301 Moved Permanently

この「電子化」の流れは、6次産業化で化粧品や医薬部外品を扱う農業者にとって、実は大きなコスト削減のチャンスとなり得ます。施行規則では、電子化された情報を閲覧するための符号(バーコードや二次元コードなど)を製品の外箱や容器に表示することを求めています。これにより、これまで製品ごとに印刷・封入していた紙のコスト、折り加工の手間、そして改訂のたびに発生していた旧版の廃棄ロスを大幅に削減できる可能性があります。特に小ロット多品種で製品を展開することの多い6次産業化の現場では、パッケージングの工程が簡素化されることは、生産性の向上に直結します。


参考)添付文書の電子化について

一方で、この電子化には注意点もあります。施行規則では、単にQRコードを貼ればよいというわけではなく、そのリンク先で常に最新の情報を維持・管理する責任が製造販売業者に課せられています。もしリンク切れを起こしたり、古い情報のまま放置したりしていれば、法的な不備を問われることになります。また、スマートフォンやタブレットを持っていない消費者への配慮として、求められた場合には紙媒体で情報を提供できる体制を整えておくことも必要です。


さらに、農業者が直売所などで対面販売を行う場合、この「デジタルでの情報提供」と「対面での説明」をどう組み合わせるかが重要になります。施行規則が求めるのは正確な情報の伝達です。パッケージ上のQRコードから、製品の成分や使用上の注意だけでなく、その原料となった農作物の栽培履歴や生産者の想い(トレーサビリティ情報)へと誘導することで、単なる法的義務の履行を超えた、付加価値の高いブランディングにつなげることも可能です。このように、施行規則の要件を逆手に取って、顧客とのデジタルな接点を強化するという発想が、これからの農業ビジネスには求められます。


添付文書の電子化について | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (PMDA)
このリンク先では、電子化された添付文書の具体的な閲覧方法や、事業者向けのQ&A、アプリの利用方法などが詳しく解説されています。


6次産業化における薬機法と表示規制の文字サイズ:7ポイントの壁

6次産業化で自社ブランドの化粧品(ハンドクリーム、化粧水、石鹸など)を製造・販売する際、農業者が最も頭を悩ませるのが「表示規制」です。パッケージの裏面には、販売名、成分、製造販売業者の氏名・住所などを記載しなければなりませんが、これらの記載ルールは医薬品医療機器法 施行規則や、関連する公正競争規約によって極めて細かく定められています。ここで意外と知られていないのが、厳格な「文字サイズ」の規定です。


施行規則および関連通知、公正競争規約施行規則では、化粧品の全成分表示などの法定表示事項について、原則として「7ポイント以上」の文字サイズを使用することが求められています。7ポイントというのは、パソコンの文字サイズで言えばかなり小さく感じますが、限られたパッケージスペースの中では意外に場所を取ります。多くの農業者が、おしゃれなデザインや商品名を大きく見せたいと考える一方で、この「7ポイントの壁」に直面し、デザインの大幅な修正を余儀なくされるケースが後を絶ちません。


参考)化粧品の表示に関する公正競争規約施行規則−化粧品公正取引協議…

ただし、例外規定も存在します。施行規則や公正競争規約では、表示面積が狭く、7ポイント以上の文字を使用することが困難であると認められる合理的な理由がある場合(例えば、内容量が30gまたは30mL以下の小型容器など)には、「4.5ポイント以上」の文字サイズでも許容されるケースがあります。しかし、この「困難であると認められる」かどうかの判断は慎重に行う必要があります。単に「デザイン的に入れたくないから」という理由は通用しません。また、4.5ポイントまで小さくした場合でも、明瞭に読めるフォント(書体)や印刷品質を確保しなければならず、高齢者の購入が多い直売所などでは、「読めない」というクレームにつながるリスクもあります。


参考)化粧品企画「裏面表示」のルール(ガイドライン)|OEM攻略|…

また、施行規則第221条の2では、化粧品の表示に関する特例も定められており、外部の容器(外箱)に表示がある場合は、直接の容器への表示を一部省略できるなどのルールもあります。これらの細かい規則を知っているかどうかで、パッケージのコストやデザインの自由度が大きく変わってきます。例えば、詰め替え用パウチと本体ボトルの表示内容の違いや、シール対応で済ませられる範囲など、施行規則を読み込むことで、無駄な版代をかけずに合法的な製品作りが可能になります。6次産業化を成功させるためには、美味しいものを作る技術と同じくらい、この「数ポイントの文字」に対するこだわりと知識が必要不可欠なのです。


参考)化粧品の全成分表示ルールや医薬部外品との違いが分かる!肌悩み…

化粧品の表示に関する公正競争規約施行規則
このリンク先では、化粧品の表示に関する詳細なルール、特に文字サイズや表示の特例について定めた規約の全文を確認できます。


安定供給体制の強化と原料生産者としての視点:薬用作物の可能性

2025年の法改正で焦点となっている「安定供給体制の強化」は、一見すると製薬メーカーの問題ですが、視点を変えれば、医薬品の「原料」となる植物を生産する農業者にとっての新たなビジネスチャンスと責任を意味しています。漢方薬や生薬製剤の原料となる「薬用作物」の国内生産拡大は、国策としても推進されており、海外からの輸入に依存している現状を打破し、供給の安定化を図る上で重要なテーマとなっています。


参考)https://www.nikkankyo.org/action/pdf/2012last_report.pdf

医薬品医療機器法 施行規則が求める安定供給体制には、原料の調達リスク管理も含まれます。製薬企業は、供給不安を避けるために、信頼できる国内の生産者とのパートナーシップを求めています。ここで農業者が意識すべきは、単に農作物を育てるだけでなく、「医薬品の原料」としての品質(成分含有量の均一性や残留農薬のなさ)を、施行規則やGMP(医薬品の製造管理及び品質管理の基準)が求めるレベルで保証できるかどうかです。


例えば、施行規則に関連する通知等では、原料の受け入れ試験や規格確認が厳格化されています。農業者が提供する薬用作物が、毎回バラバラの品質であれば、製薬企業はそれを受け入れることができません。逆に言えば、栽培履歴をデータ化し、成分分析を行い、安定した品質の作物を継続的に供給できる体制(農業版の工程管理)を構築できれば、製薬企業にとってかけがえのないパートナーとなり得ます。これは、市場価格の変動が激しい一般野菜とは異なり、契約栽培による安定収益が見込めるモデルです。


また、改正法では、供給不足時の対応協力が求められていますが、これは原料供給側にも波及する可能性があります。急な増産要請に対応できる柔軟な作付け計画や、乾燥・加工・保管のキャパシティ確保など、農業経営においても「BCP(事業継続計画)」的な視点が不可欠になります。施行規則が目指す「国民への安定的な医薬品提供」というゴールの一端を、農業者が担っているという自覚を持つこと。それが、これからの薬用作物栽培における成功の鍵となるでしょう。


薬用作物栽培の現状と課題に関する報告書
少し古い資料ですが、薬用作物の国内生産拡大に向けた課題や生産者への支援策、コスト構造などが詳細に分析されており、参入を検討する際の基礎資料として有用です。


独自視点GAPとGMPの連携:農場から始まる品質管理

最後に、検索結果の上位記事にはあまり詳しく書かれていない、しかし非常に重要な視点として、「GAP(農業生産工程管理)」と「GMP(医薬品の適正製造基準)」の連携について触れておきたいとおもいます。医薬品医療機器法 施行規則は、工場での製造管理(GMP)を規定していますが、その原料となる植物が農場でどのように育てられたかまでは、直接細かく規定していません。しかし、現場レベルでは、この二つの基準の「隙間」を埋めることが、品質保証の核心となっています。


医薬品原料となる植物の栽培において、農薬の不適切な使用や異物混入は致命的な欠陥となります。これを防ぐための手法がGAP(Good Agricultural Practice)ですが、薬用作物の世界では、このGAPを「GMPの前段階」として捉える動き(GACP:Good Agricultural and Collection Practices)が国際的に主流になりつつあります。つまり、施行規則が適用される工場の入り口に届く前に、農場の段階で既に「準医薬品レベル」の管理が求められています。


参考)https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2017/03/1490767432.pdf

具体的には、施行規則に基づく製造管理では「記録の整合性(Data Integrity)」が重視されますが、これを農場に当てはめると、「いつ、誰が、どの畑で、何の肥料を、どれだけ撒いたか」という栽培記録が、後から改ざんできない形で、かつ追跡可能な状態で保存されていることが求められます。手書きのノートではなく、クラウド型の営農管理システムなどを導入し、デジタルデータとして記録を残すことは、施行規則の要求水準を満たす製造業者に対する強力なアピール材料になります。


また、施行規則では「汚染防止」もしつこく規定されています。農場においても、収穫後の乾燥調製施設での衛生管理、使用する機械の洗浄記録、作業員の健康管理などが、医薬品製造工場と同等のマインドセットで行われているかどうかが問われます。「たかが農作業」ではなく、「医薬品製造プロセスの一部」として農業を捉え直すこと。この意識改革こそが、施行規則の改正に対応し、高単価な取引を実現するための、他社にはない独自の強みとなるはずです。法律の条文を暗記する必要はありませんが、その「精神」を畑に持ち込むことが、これからの農業経営には不可欠なのです。




早わかり改正薬事法のポイント: 医薬品医療機器等法・医薬品ネット販売関連法のすべてがわかる