米の減反政策は、もともと戦後の過剰生産と価格暴落を防ぐために、国が水田面積を抑える仕組みとして1970年前後に本格導入されました。 その後も消費量減少に合わせて生産量を絞る方針が続き、「需要が毎年10万トン減る」という前提で作付けを制限してきたため、少しの不作や需要増でも米不足と価格急騰が起こりやすい需給構造になっています。
近年の「コメ不足」報道では、高温障害で精米歩留まりが落ちたことや、インバウンド増加、小麦高騰によるコメ回帰などが原因として挙げられますが、これらを合計しても需要全体の数%にすぎず、本質的には減反で余裕のない生産水準に抑えてきたことが根っこにあると専門家は指摘しています。
米不足なのに「なぜ増産しないのか」という疑問に対して、農水省は「需給は逼迫していない」と説明しつつ、備蓄米の放出など価格を押し下げる措置には慎重で、高米価の維持を優先していると報じられています。 つまり、表向きは需給管理と食料安定を掲げながら、実際には米価維持が強く意識されているため、「不足気味くらいがちょうどよい」というバイアスがかかっているのが、減反がなかなかやめられないからくりの一つです。
参考)「コメを作るな」価格高止まりでも減反を求める 農水省の「罪」…
減反政策が続く最大の理由の一つは、「誰が得をしているか」という利害関係にあります。 減反に協力した農家には補助金が支払われ、高い米価が維持されることで、コストの高い小規模・兼業農家でも経営を続けられる仕組みになってきました。
JA農協は、高米価によって多数の兼業農家が離農せず農地を握り続け、その農業所得に加えてサラリーマン収入や農地売却益がJAバンクに預けられることで、100兆円規模の巨大金融機関へと成長したと分析されています。
| 主体 | 減反政策で得たもの | 減反廃止で失う懸念 |
|---|---|---|
| 兼業農家 | 高米価と減反補助金で、効率が低くても水田を維持できる安定感。 | 米価下落で採算が合わず、離農や農地売却を迫られる可能性。 |
| JA農協 | 組合員農家の数と預金量の維持、高米価に連動した販売手数料収入。 | 兼業農家の離脱で預金・手数料・政治力が低下し、組織基盤が弱まる。 |
| 農水省・与党農林族 | 農家・JAへの政策的影響力や票・組織力を背景にした政治基盤。 | 価格支持から直接支払いへの転換で、既存の補助金配分スキームが見直されるリスク。 |
このように、減反を続けることで最も恩恵を受けてきたのは、零細兼業農家とJA農協、そしてその支持を受ける政治家・官僚であり、納税者や消費者の利益とは必ずしも一致していないという指摘があります。 欧米ではすでに高価格による保護から「直接支払い」方式に転換し、生産を抑えずに農家所得を補う制度へ移行したのに対し、日本では価格支持と減反に固執してきたのは、こうした利害構造が背景にあると解説されています。
参考)時代遅れな「減反政策」の代償
減反政策は1960年代末から試験的に始まり、1971年に本格実施されて以降、約50年にわたり日本のコメ政策の柱として継続してきました。 当初は食管制度下で増えすぎたコメの政府買い入れを減らし財政負担を抑えることが目的でしたが、1990年代以降は民間流通が主となる中で、米価維持の手段として生産調整が続けられるようになりました。
2018年度から「減反政策は廃止された」と政府が説明したものの、実態としては国から都道府県を通じて行っていた生産数量目標の「通知」をやめただけで、転作交付金など生産抑制に紐づいた補助金は拡充され、民間・JA主導で同様の調整が続いていると複数の研究者が指摘しています。 そのため、専門家の中には「廃止どころか、看板だけ掛け替えられた別の減反」と評する向きもあり、最近の米不足や価格高騰を受けて「コメの生産調整見直しをタブーなく議論する」といった発言がようやく政府内から出てきた段階です。
参考)【コメ高騰】小泉大臣「もう減反をやめるんだ」どうなるコメ政策…
こうした経緯を踏まえると、「減反政策はもう終わったのだから『なぜやめないのか』という問い自体がおかしい」という反論は、現場の仕組みや補助金の設計を十分に見ていない表層的な理解だと分かります。 名目上の「廃止」と、実質的な生産調整・高米価維持が続いている現実を分けて考えることが、米不足と減反の関係を議論するうえで欠かせません。
あまり知られていないポイントとして、長期にわたる減反が「単収向上のインセンティブ」を弱め、日本のコメ生産性の伸びを世界水準から大きく遅らせたという指摘があります。 水田面積の4割を意図的に遊ばせながら高米価を維持する政策の下では、単位面積あたりの収量を上げる品種改良や栽培技術の開発が、行政や研究機関にとって「タブー」に近い存在になりやすかったとされています。
実際、減反導入期には日本と同程度だったカリフォルニア米の単収が、現在では日本の約1.6倍に達し、かつて日本の半分ほどだった中国にも追い抜かれたというデータが紹介されています。 もし日本の水田全体でカリフォルニア並みの単収を達成できれば、長期的には1700万トン以上の生産も可能と試算されており、その一部を輸出に回せば、国内の需給変動があっても輸出量の調整で価格と自給率を安定させられる「攻めの食料安全保障」が実現し得ると論じられています。
参考)減反政策 - Wikipedia
このように、減反政策は単に「余ったコメを減らす仕組み」ではなく、日本の稲作技術の方向性や、世界市場でのポジション、さらには危機対応力にまで長期的な影響を与えてきました。 米不足のニュースだけを見ると短期の需給に目が行きがちですが、「なぜやめないのか」を考えるうえでは、こうした単収や輸出ポテンシャルへの影響も押さえておく価値があります。
参考)http://smk2001.com/img/jijyou/20231113-01.pdf
検索上位では、減反政策の問題点やJA・農水省の利害が多く語られる一方で、「では具体的にどうやめるのか」という実務的な設計までは踏み込んでいないケースも少なくありません。 欧米の事例や国内議論を踏まえると、減反を本当にやめるためには、高米価と生産抑制に依存した現行スキームから「主業農家への直接支払い+輸出・高付加価値化」に軸足を移す段階的なシナリオが現実的だと考えられます。
こうした方向性は、すでに一部の政策文書や有識者提言でも示唆されており、「減反をやめる=農家を見捨てる」ではなく、「減反に頼らず農家を支える」仕組みへの転換こそが日本農業の再生につながると論じられています。 米不足と価格高騰をきっかけに、減反政策を「やめない理由」を洗い出すだけでなく、「どうやめて次の稲作モデルを作るのか」という議論に踏み込めるかどうかが、これからの大きな分かれ道になるでしょう。
参考)コメの生産調整見直しも「タブーなく」 関係閣僚会議で議論 石…
減反政策の歴史的経緯と制度の中身を整理するうえで、日本の公的資料やシンクタンクの解説は非常に参考になります。
RIETI「令和のコメ騒動、根本的な原因を問う」:米不足と減反政策、JA・農水省の利害構造を詳しく解説しているコラムです。
参考)RIETI - 令和のコメ騒動、根本的な原因を問う