外来生物法の罰則は懲役や罰金の対象で個人の飼育や運搬も

農業にも影響する外来生物法。違反すれば個人でも高額な罰金や懲役刑の対象になります。特定外来生物の運搬や飼育のルール、意外な落とし穴を理解していますか?

外来生物法の罰則

外来生物法違反のポイント
👮
個人の罰則

最大で懲役3年または罰金300万円と非常に重い

🏢
法人の罰則

業務に関する違反は最大で1億円以下の罰金

🚜
農業の注意点

駆除した個体の生きたままの運搬は違法になる可能性大

外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)は、日本の在来種や生態系を守るために制定された非常に強力な法律です。この法律は、単に珍しい生き物を規制するだけのものではありません。違反した場合のペナルティは、他の一般的な法令と比較しても極めて厳しく設定されています。

 

特に農業従事者や造園業者、あるいは一般の家庭菜園愛好家にとっても無関係ではありません。「知らなかった」では済まされない重い責任が伴うため、どのような行為が罰則の対象になるのかを正確に理解しておく必要があります。ここでは、条文に基づいた具体的な罰則内容と、生活や業務の中でうっかり犯してしまいがちな違反事例について深く掘り下げて解説します。

 

環境省:外来生物法の罰則規定に関する詳細はこちら
環境省_罰則について

外来生物法の罰則における個人の懲役と罰金の詳細

 

外来生物法における個人の違反に対する罰則は、その行為の重大性に応じて大きく2つのレベルに分類されています。これらは「軽い違反」と「重い違反」という単純な区分ではなく、どちらも刑事罰を含む重大な犯罪行為として扱われます。

 

まず、最も重い罰則が適用されるケースについて解説します。特定外来生物を無許可で販売したり、頒布(不特定多数への配布)したり、野外へ放出したりする行為は、生態系に壊滅的な被害を与える直接的な原因となり得ます。また、不正な手段で許可を受けたり、許可なく輸入したりした場合も同様です。これらの行為を行った個人に対しては、「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」、あるいはその両方が科されます。これは個人の犯罪としては非常に重い部類に入り、執行猶予がつかない実刑判決が下される可能性も否定できません。

 

次に、無許可での飼育(栽培・保管・運搬を含む)や、許可を受けた条件に違反して飼育した場合などのケースです。これらは直接的な放出や販売ほどではないものの、管理不備による逸出リスクがあるため厳しく規制されています。この場合の罰則は「1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金」、あるいはその両方となります。例えば、「ペットとして可愛かったから」「川で捕まえて家で飼っていた」といった軽い気持ちでの行為であっても、発覚すれば逮捕・送検される事例が実際に発生しています。

 

さらに、立ち入り検査を拒否したり、報告を怠ったりした場合にも罰金刑が設けられています。これらは行政処分の一環と思われがちですが、法律上の義務違反として30万円以下の罰金などが科される可能性があります。重要なのは、これらの罰則が「故意」である場合に適用されるのが原則ですが、外来生物法においては「知らなかった」という弁解が通用しにくい運用がなされている点です。特に特定外来生物として広く周知されている種(例えばアライグマやカミツキガメなど)に関しては、司法の場でも厳しい判断が下される傾向にあります。

 

外来生物法の罰則に関わる特定外来生物の飼育や運搬の禁止事項

この法律で最も注意すべき点は、禁止行為の範囲が非常に広いことです。単に「飼うこと」が禁止されているわけではなく、「飼養等」という言葉で広範囲な行為が規制されています。具体的にどのようなアクションが違法となるのか、細かく見ていきましょう。

 

  • 飼育(栽培)の禁止:

    愛玩目的(ペット)での新たな飼育は原則として認められません。以前から飼育していた個体について許可を得て継続する場合や、学術研究など公益上の必要がある場合に限り、非常に厳しい基準をクリアした施設でのみ許可されます。「逃げ出さないようにカゴに入れているから大丈夫」という個人の判断は通用しません。

     

  • 運搬の禁止:

    ここが最も誤解を生みやすいポイントです。
    「生きたまま」場所を移動させることは、原則としてすべて運搬にあたり、禁止されています。たとえ自宅の敷地内であっても、許可された施設外へ持ち出すことは違法となる可能性があります。例えば、釣りをしていて釣れた特定外来生物(オオクチバスなど)を、生きたままクーラーボックスに入れて車で持ち帰る行為は明白な法律違反(運搬の禁止違反)となり、検挙対象です。現場で締める(殺処分する)か、その場でリリース(キャッチアンドリリースは各都道府県の条例で禁止されている場合もありますが、外来生物法自体では防除の観点から即時リリースは規制外となるケースもあります。ただし、場所を移動しての放流は絶対禁止です)する必要があります。

     

  • 保管の禁止:

    運搬と同様、生きた状態で一時的に保管することも禁止です。例えば、農業被害を出しているアライグマを捕獲した場合、処分施設へ持っていくまでの間、自宅の納屋で生きたまま檻に入れておく行為は「保管」にあたり、許可がなければ違法です。

     

  • 輸入・譲渡・引渡しの禁止:

    海外からの持ち込みはもちろん、国内での売買、無償での譲渡も禁止です。「友人に譲る」行為も処罰の対象です。

     

これらの禁止事項は、卵、種子、器官(植物の根など、それだけで再生可能な部分)にも適用されます。植物の場合、地上部を刈り取っても根が生きていれば、その根を含んだ土壌を移動させる行為が「運搬」とみなされるリスクがあります。

 

特定外来生物の一覧とその規制内容について
環境省_日本の外来種対策

外来生物法の罰則は法人や農業従事者にも適用されるのか

外来生物法には、違反行為を行った実行者だけでなく、その業務主体である法人や団体に対しても罰則を科す「両罰規定」が存在します。これは企業のコンプライアンス(法令順守)において非常に重要なリスク要因となります。

 

法人が業務に関して特定外来生物の輸入や販売、野外への放出などの重大な違反を行った場合、その法人に対して科される罰金の上限は「1億円以下」と極めて高額に設定されています。これは、企業活動による外来生物の拡散が、自然環境や農林水産業に与える経済的損失が甚大であることを反映しています。

 

農業従事者にとって、この規定は対岸の火事ではありません。例えば、農業法人として活動している組織が、以下のようなケースで摘発された場合、法人として巨額の罰金を請求される可能性があります。

 

  1. 除草目的での導入:

    過去に、除草効果や緑化を期待して導入された植物が、後に特定外来生物に指定されたケースがあります(例:オオキンケイギクなど)。これらを「きれいだから」「法面の保護になるから」といって、会社の敷地や管理する農地に意図的に植栽したり、株分けして増やしたりした場合、栽培の禁止違反に問われます。

     

  2. 廃棄物の不適切な処理:

    特定外来生物である植物(ナガエツルノゲイトウやオオハンゴンソウなど)が繁茂している農地で、残渣や土砂を搬出する際、適切な枯死処理をせずに別の場所に廃棄・移動させた場合、「放出」や「運搬」とみなされる恐れがあります。これが組織的な業務フローとして行われていた場合、法人の責任が問われます。

     

  3. 害獣駆除の不備:

    農業被害を防ぐためにアライグマやヌートリアを捕獲することは一般的ですが、これを法人が主導して行う際、捕獲従事者登録や防除計画の認定を受けずに、従業員に「捕まえて別の山に放してこい」と指示した場合、これは「放出の禁止」違反および「運搬の禁止」違反となり、指示した法人にも重い罰則が適用されます。

     

特に「1億円以下の罰金」という金額は、中小規模の農業法人であれば経営破綻に直結しかねない金額です。従業員一人ひとりが特定外来生物に対する正しい知識を持ち、現場判断で安易な移動や放出を行わないよう徹底した教育が必要です。

 

外来生物法の罰則とアメリカザリガニやアカミミガメの特例

2023年(令和5年)6月1日に施行された外来生物法の改正により、私たちに非常に身近な生き物である「アメリカザリガニ」と「アカミミガメ(ミシシッピアカミミガメ)」が、「条件付特定外来生物」という新しいカテゴリーに指定されました。これは従来の特定外来生物とは異なる特別な規制枠組みであり、罰則の適用範囲も一部異なります。

 

通常の特定外来生物であれば、一般個人の飼育は原則禁止されていますが、この2種に関しては、あまりにも飼育者が多く、一律に飼育を禁止すると大量の遺棄(野外放出)を招く恐れがあるため、「一般家庭での飼育」や「無償での譲渡」などは例外的に認められています。しかし、だからといって「何をしても良い」わけではありません。違反すれば当然、罰則の対象となります。

 

条件付特定外来生物に関する主な罰則対象行為:

  • 野外への放出(最も重い罪):

    「飼いきれなくなったから近くの池に逃がす」という行為は絶対に禁止です。これに違反した場合、通常の特定外来生物と同様に「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」(個人の場合)が科されます。この点が最も重要です。最後まで責任を持って飼うことが法的に義務付けられています。

     

  • 販売・頒布の禁止:

    ペットショップでの販売はもちろん、個人がオークションサイトやフリマアプリで売ることも禁止です。また、不特定多数の人に配る行為も違法です。これらに違反した場合も、販売目的の飼育等とみなされ、重い罰則が適用される可能性があります。

     

  • 生きたままの輸入:

    商業目的かどうかにかかわらず、海外から生きた個体を持ち込むことは原則禁止です。

     

一方で、一般の特定外来生物では禁止されている「飼育」「保管」「運搬」については、販売目的でない限り、許可なしで行うことができます。例えば、子供が近所の用水路でアメリカザリガニを捕まえて、家まで持って帰り(運搬)、水槽で飼う(飼育)ことは違法ではありません。また、引っ越しの際に一緒に連れて行くことも可能です。

 

しかし、ここで注意が必要なのは「業務用」の扱いです。例えば、食用として養殖する場合や、釣り餌として販売目的で保管・運搬する場合は、国の許可が必要となり、無許可で行えば処罰されます。この「条件付」という複雑な運用は、一般市民の善意とモラルに依存している部分が大きく、ルールを逸脱した放出行為などが横行すれば、将来的に規制が強化される可能性も十分にあります。

 

外来生物法の罰則を受ける前に知るべき意図しない移動のリスク

外来生物法の罰則規定において、多くの人が見落としがちなのが「意図しない移動(運搬・放出)」のリスクです。法律上、明確な「故意(わざとやった)」が立証されなければ刑事罰には至らないケースが多いですが、農業現場や建設現場などでは、業務上の過失が「未必の故意(違法になるかもしれないと分かっていながら行った)」とみなされる危険性があります。

 

ここでは、独自視点として、農業従事者や土地管理者が陥りやすい「見えない違反」のリスクについて解説します。

 

1. 土壌混入による植物の「運搬」と「放出」
特定外来生物である植物(ナガエツルノゲイトウ、オオキンケイギク、アレチウリなど)は、再生力が非常に強いのが特徴です。例えば、ナガエツルノゲイトウは、わずかな茎や根の断片からでも再生します。

 

農地整備や河川工事の際、これらの植物が含まれている土砂をトラックで別の場所に運び、盛土として利用した場合、これは法的には「特定外来生物の運搬」および「放出(植栽)」に該当する可能性があります。実際に、公共工事由来の土砂移動によって外来種が生息域を拡大させた事例は数多く報告されています。もし、事業者がその土地に特定外来生物が繁茂していることを認識していながら、漫然と土砂を移動させ、移動先で爆発的に繁殖させて被害を出した場合、法的責任や原状回復の社会的責任を問われることは避けられません。

 

2. 農業用水路や排水を通じた拡散
水田などでジャンボタニシ(スクミリンゴガイ:現在は特定外来生物には指定されていませんが、重点対策外来種です)やその他の外来水生生物が問題になっていますが、今後、新たな水生外来生物が特定指定された場合、水管理もリスク要因になります。特定外来生物が含まれている水を、ポンプアップして別の水系に排水したり、意図的に移動させたりする行為が規制対象になる議論も進んでいます。

 

3. 錯誤捕獲と「逃がす」場所
アライグマ用の罠に、誤って別の動物(例えば特定外来生物ではないが保護獣であるタヌキなど)がかかることもあれば、逆にヌートリアがかかることもあります。特定外来生物がかかった場合、その場で放すことは「放出」には当たりませんが(キャッチアンドリリースの即時性に準ずる解釈)、一度車に積んで移動してから「かわいそうだから山奥に放そう」とすると、これは明確な「運搬」および「放出」の違反となり、最も重い罰則(3年以下の懲役など)の対象となります。善意で行った行動が、最悪の結果を招く典型例です。

 

4. 堆肥化の落とし穴
刈り取った特定外来生物の植物を、完全に枯死させずに未熟な状態で堆肥化し、それを畑に撒く行為も危険です。種子や根が生きていれば、それは「栽培(増殖)」を助長する行為とみなされかねません。特定外来生物を処分する際は、現場で天日干しにして完全に枯死させるか、焼却処分場へ持ち込む際も飛散しないよう厳重に梱包する必要があります。

 

このように、外来生物法は「生きているものを意図的に扱う」場面だけでなく、土砂、資材、廃棄物の移動に伴う「付着・混入」に対しても、高い注意義務を求めているといえます。自分の管理する土地にどのような植物が生えているか、作業プロセスで生物の移動が発生していないかを常に確認することが、自身と環境を守るための防衛策となります。

 

 


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