中和滴定曲線 中和点 求め方:接線法と緩衝能で土壌診断

中和滴定曲線の中和点の求め方を知りたいですか?接線法などの作図テクニックから、農業現場で役立つ土壌の緩衝能と石灰要求量の算出まで、プロが徹底解説します。正確な読み取りで分析精度を上げましょう。
中和滴定曲線 中和点 求め方
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作図で決める

接線法や垂直二等分線を使って、グラフから正確な中和点を読み取ります。

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農業への応用

土壌の緩衝曲線を理解し、適切な石灰施用量を導き出すプロの技術です。

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pHジャンプ

急激なpH変化のメカニズムを知り、最適な指示薬を選定するコツを解説。

中和滴定曲線と中和点の求め方

中和滴定曲線から正確な中和点を見つけ出すことは、化学分析だけでなく、私たちの農業現場における土壌診断でも極めて重要なプロセスです 。一見すると単なるS字カーブに見えるグラフですが、そこには溶液や土壌の性質を示す多くの情報が詰まっています。特に、私たち農業従事者が土壌改良を行う際、ただ闇雲に石灰を撒くのではなく、土壌ごとの「酸に対する抵抗力(緩衝能)」を読み解くために、この曲線の理解が不可欠となります 。ここでは、基本的なグラフの読み取りから、現場で使える作図テクニック、そして少しマニアックな微分の活用までを深掘りしていきます。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/tuti13.pdf

pHジャンプと滴下量の関係

 

中和滴定曲線を読み解く上で、最初に理解しなければならない現象が「pHジャンプ」です。これは、中和点付近でごくわずかな滴下量の差によって、pHが急激に変化する現象を指します 。

 

参考)化学基礎ワンポイント学習法⑧|三条校

  • 急激な立ち上がり:滴定の初期段階では、滴下量が増えてもpHの変化は緩やかです。しかし、酸と塩基の物質量が釣り合う中和点に近づくと、グラフは垂直に近い角度で急上昇(または急降下)します 。

    参考)中和滴定まとめ(原理・実験レポート考察・器具や指示薬)

  • 読み取りのポイント:この垂直部分の真ん中付近が中和点となります。強酸と強塩基の滴定であればpH7付近でジャンプが起きますが、弱酸や弱塩基が関わる場合は、pHジャンプの範囲が狭くなり、中和点も酸性側や塩基性側に偏ります 。

    参考)https://www.rimse.or.jp/research/past/pdf/11th/work14.pdf

  • 現場での視点:農業用の簡易分析キットなどでは、このpHジャンプによる変色を目視で確認しますが、土壌分析室で精密なデータが必要な場合は、pHメーターを使って数値をプロットし、グラフの形状そのものを解析します。

pHジャンプの大きさは、酸や塩基の濃度や強さに依存します。濃度が薄すぎる場合や、非常に弱い酸・塩基の組み合わせでは、このジャンプが不明瞭になり、中和点の特定が難しくなることがあります 。そのため、実験を行う際は、予想される中和点付近で滴下量を細かく刻み(例:0.1mLずつなど)、データを密に取ることが正確な曲線を描くコツとなります。

 

参考)中和滴定曲線 - Wikipedia

接線法と垂直二等分線の作図

目視では判断しにくい、あるいはpHジャンプがなだらかな曲線の場合、正確な中和点を求めるために「接線法」という作図テクニックを用います。これは幾何学的に中和点を特定する信頼性の高い方法です 。

 

参考)http://gp.csj.jp/media/common/gp2012-2Q.pdf

以下の手順で作図を行います。

  1. 平行な接線を引く:滴定曲線のpHジャンプ(急激に変化している部分)の前後の、比較的傾きが緩やかで直線に近い部分に注目します。この「曲がりの前」と「曲がりの後」の2箇所に、互いに平行になるような接線を引きます 。定規をスライドさせて、最もグラフにフィットする角度を見つけましょう。

    参考)基礎実習レポート2

  2. 垂線を引く:引いた2本の平行な接線の間を結ぶように、垂直な線を引きます。この垂線は、2本の接線の距離が最短になるように引くのがポイントです。
  3. 垂直二等分線を作図する:先ほど引いた垂線のちょうど真ん中の点(中点)を取り、そこを通る「接線と平行な線(または垂線の二等分線)」を引きます。
  4. 交点を読み取る:この二等分線が、実際の滴定曲線と交わる点(クロスする点)こそが、求めるべき「中和点(変曲点)」です 。​

この方法は、グラフ用紙と定規さえあれば誰でも実施できるため、高価な解析ソフトがない現場でも非常に有効です。特に、弱酸・弱塩基の滴定でpHの変化がダラダラと続くようなケースでは、目分量で中点を決めるよりもはるかに再現性が高くなります 。作図を行う際は、プロットした点が滑らかな曲線で結ばれていることが前提となるため、手書きの場合は雲形定規などを使って丁寧に曲線を引くことが重要です。

 

参考)高3です!作図による中和当量点の決定について - 学校の授業…

緩衝曲線による石灰要求量の決定

これは一般の化学の教科書にはあまり載っていない、農業現場特有の視点です。農業では、純粋な化学反応の中和点(pH7)を求めることよりも、「目標とするpH(例えば6.5)にするために、どれだけの石灰が必要か」を知ることが重要です。このために作成されるのが「緩衝曲線」です 。

 

参考)カルシウム資材の施用による草地の土壌pH調整

土壌には「緩衝能」という、酸やアルカリを加えてもpHを変えさせまいとする働きがあります 。粘土や腐植(有機物)が多い土ほどこの緩衝能が高く、pHを1上げるために大量の石灰が必要になります。逆に砂質の土壌は緩衝能が低く、少しの石灰でpHが跳ね上がってしまいます。これを正確に把握するために、以下の手順で緩衝曲線を作成します。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/37/6/37_KJ00003508240/_pdf/-char/ja

  • 土壌サンプルの準備:採取した土壌に水を加え、懸濁液を作ります。
  • アルカリの段階添加:ここに炭酸カルシウム(炭カル)や水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液を段階的に加えていきます 。​
  • プロットと読み取り:横軸に「加えたアルカリ量」、縦軸に「pH」をとってグラフを描きます。これが土壌の緩衝曲線です。
  • 必要量の算出:この曲線上で、目標とするpH(例:6.5)の目盛りから横軸に線を下ろし、その交点の「アルカリ添加量」を読み取ります。これを実際の圃場の面積(10アールあたりなど)に換算することで、正確な「石灰要求量」が算出されます 。

    参考)https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/027/218/23.pdf

参考リンク:カルシウム資材の施用による草地の土壌pH調整 - ニッテン配合飼料(緩衝曲線法による石灰施用量の具体的な計算手順が解説されています)
この手法を使えば、「中和点」という一点を目指すのではなく、作物の生育に最適なpHゾーンへ土壌酸度をコントロールすることが可能になります。これは「土壌の個性」をグラフ化する作業とも言えるでしょう。

 

変曲点を微分で探す方法

より高度な分析や、コンピュータを使った自動計測を行う場合、中和点は数学的な「変曲点」として定義されます 。グラフの傾きが最大になる点が中和点であるという性質を利用します。

 

参考)滴定微分曲線をグラフに書いたのですが - この微分曲線を書く…

  • 一次微分曲線(dpH/dV):縦軸にpHの変化率(傾き)、横軸に滴下量をとってグラフにします。中和点ではpHの変化が最も急激になるため、一次微分曲線は鋭い「山(ピーク)」を描きます。このピークの頂点が指す滴下量が、中和点に相当します 。

    参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunsekikagaku1952/15/1/15_1_20/_pdf/-char/ja

  • 二次微分曲線(d²pH/dV²):さらにこれを微分すると、中和点の手前ではプラス、通過後はマイナスの値をとり、ちょうど中和点で「ゼロ」を横切ります 。この「ゼロになる点」を数値的に求めることで、グラフを目視するよりも客観的かつ高精度に中和点を決定できます。

    参考)変曲点の意味といろいろな例

最近の高機能な自動滴定装置(オートタイトレーター)は、この微分処理を内部で自動的に行い、終点を判定しています 。私たち人間がグラフ用紙に作図するのと原理は同じですが、微分を用いることで、例えば「pHジャンプが2回起こる多段階の中和(二塩基酸など)」の場合でも、それぞれの段階の終点を明確に分離して検出することが可能になります 。

 

参考)https://seika.ssh.kobe-hs.org/media/common/RisuuKagaku/2012-1nen/04pH%E6%9B%B2%E7%B7%9A.PDF

緩衝能と指示薬の選び方

中和滴定曲線の形状は、使用する酸・塩基の強さだけでなく、その溶液(あるいは土壌)が持つ「緩衝能」によって大きく変わります。緩衝能が高い領域では曲線が平坦になり、緩衝能が切れた瞬間にpHジャンプが起こります 。この曲線の「形」を事前に予測し、適切な変色域を持つ「指示薬」を選ぶことが、滴定成功の鍵を握ります。

酸・塩基の組み合わせ pHジャンプの範囲 適切な指示薬の例 備考
強酸 × 強塩基 pH 3 ~ 11 メチルオレンジ, フェノールフタレイン どちらでも可 ​
弱酸 × 強塩基 pH 7 ~ 11 フェノールフタレイン 酸性側で変色する指示薬は不可
強酸 × 弱塩基 pH 3 ~ 7 メチルオレンジ アルカリ側で変色する指示薬は不可

緩衝能が強く働く土壌分析や、弱酸・弱塩基の滴定では、pHジャンプの「垂直部分」が短くなります。例えば、酢酸のような弱酸を滴定する場合、中和点はアルカリ性側に偏るため、変色域が酸性側にあるメチルオレンジを使ってしまうと、中和点のはるか手前で色が変わり始めてしまい、正しい終点を見誤ることになります 。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjfe/9/1/9_KJ00006917845/_pdf/-char/ja

逆に、土壌診断において「あえて緩衝能の強い領域(pHの変化が鈍い領域)」を詳しく調べたい場合は、変色域の広い混合指示薬を使ったり、pHメーターで連続測定を行ったりする必要があります。グラフの「平らな部分」こそが、その物質が酸やアルカリに対してどれだけ抵抗力を持っているか(バッファーとしての能力)を示しているからです。この平坦部と垂直部(中和点)の関係性を正しく理解することで、データの信頼性は格段に向上します。

 

 


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