二塩基酸の滴定曲線の見方とpKa・当量点の計算方法

二塩基酸の滴定は、二段階の中和反応が特徴です。この記事では、滴定曲線の読み解き方から、重要な指標であるpKaや当量点の計算方法、さらには適切な指示薬の選び方までを詳しく解説します。複雑に見える二塩基酸の滴定を、あなたもマスターしてみませんか?

二塩基酸の滴定を完全に理解する

この記事でわかる!二塩基酸の滴定
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基本原理

二段階で進む中和反応の仕組みと、シュウ酸を例にした具体的な反応を解説します。

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滴定曲線

特徴的なS字カーブから、物質の性質を示すpKaや当量点を正確に読み解く方法を学びます。

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実践・応用

正確な当量点を見極める計算テクニックや、工業分野での意外な応用例まで紹介します。

二塩基酸の滴定とは?基本原理とシュウ酸を例にした解説

 

二塩基酸の滴定とは、1分子内にプロトン(H+)を2つ放出できる酸(二塩基酸)の濃度を、塩基の標準溶液を用いて決定する操作です 。最大の特徴は、中和反応が一度ではなく、二段階で進行することです 。
最も代表的な二塩基酸であるシュウ酸(H₂C₂O₄)を例に考えてみましょう。シュウ酸を水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液で滴定すると、以下のような二段階の反応が起こります。

  • 第一中和点まで: H₂C₂O₄ + NaOH → NaHC₂O₄ + H₂O
  • 第二中和点まで: NaHC₂O₄ + NaOH → Na₂C₂O₄ + H₂O

まず、1つ目のプロトンが中和されてシュウ酸水素ナトリウム(NaHC₂O₄)が生成します。この時点が「第一当量点」です。さらに水酸化ナトリウムを加えていくと、残ったもう1つのプロトンが中和され、シュウ酸ナトリウム(Na₂C₂O₄)が生成します。すべてのプロトンが中和されたこの時点が「第二当量点」となります。
このように、二塩基酸は2つの酸解離定数(pKa1, pKa2)を持つため、滴定曲線はS字カーブが2つ連なったような特徴的な形を描きます 。この曲線を正しく解析することが、二塩基酸の滴定を理解する上で非常に重要です。

二塩基酸の滴定曲線からpHとpKaの関係を読み解くコツ

二塩基酸の滴定曲線は、多くの情報を含んだ宝の山です。特に重要なのが、酸の強さを示す指標である「酸解離定数(pKa)」を読み解くことです 。
滴定曲線において、特定の点でpHとpKaは等しくなります。これは「ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式」から説明できます。滴定が進み、酸とその共役塩基の濃度が等しくなった点、すなわち各中和段階の半分の量を滴下した点(半当量点)で、pH = pKa の関係が成り立ちます 。
具体的には、以下の手順でpKaを求めることができます。

  1. 第一当量点(1回目のpHジャンプの中心)までに要した滴定量の1/2の点をグラフ上で見つけます。
  2. その点に対応するpHの値を読み取ります。この値がpKa1です。
  3. 同様に、第一当量点と第二当量点の中間の滴定量の点を見つけます。
  4. その点に対応するpHの値を読み取ります。この値がpKa2です。

このpKa1とpKa2の間隔が広いほど、第一当量点と第二当量点のpHジャンプが明瞭になり、滴定が容易になります。逆に間隔が狭いと、2つのpHジャンプが重なってしまい、正確な当量点の判断が難しくなります。
以下の参考リンクは、滴定によるpKa測定の原理と事例を解説しており、より深い理解に役立ちます。
滴定による酸解離定数(pKa)の測定|株式会社DNP科学分析センター

二塩基酸の滴定における第一・第二当量点の見極め方と計算

当量点とは、酸と塩基が化学量論的に過不足なく反応した点のことです 。二塩基酸の滴定では、この当量点が2つ(第一当量点、第二当量点)存在します 。滴定曲線におけるpHが急激に変化する「pHジャンプ」の中点が当量点に相当します。

当量点の見極め方

目視でpHジャンプの中点を判断するのは難しい場合があるため、より正確に見極める方法が用いられます。

  • 微分法: 滴定曲線を描画した後、滴下量(V)に対するpHの変化率(ΔpH/ΔV)を計算し、その値が最大になる点を当量点とします。グラフにすると鋭いピークとして現れるため、視覚的に判断しやすくなります。
  • グランプロット法: 滴定データを特定の式に当てはめてプロットすることで、直線の切片から当量点を求める方法です。特に終点が不明瞭な場合に有効です。

濃度の計算

当量点が特定できれば、酸の濃度を計算できます。濃度をC (mol/L)、体積をV (mL)、酸の価数をa、塩基の情報をそれぞれ C', V', b とすると、以下の関係式が成り立ちます。

a × C × V = b × C' × V'

例えば、濃度不明のシュウ酸(二価の酸, a=2)10mLを、0.1 mol/Lの水酸化ナトリウム(一価の塩基, b=1)で滴定したとします。第二当量点までに20mLを要した場合、シュウ酸の濃度Cは以下のように計算できます。
2 × C × 10 = 1 × 0.1 × 20

20C = 2

C = 0.1 mol/L
この計算は、第一当量点のデータを使っても可能です。その場合、反応に関与するプロトンは1つなので、a=1として計算します。

【重要】二塩基酸の滴定で使う指示薬の正しい選び方と変色域

中和滴定の終点を視覚的に判断するために「指示薬」が使われます 。指示薬は特定のpH範囲(変色域)で色が変わる性質を持っており、この変色域が当量点のpHジャンプの範囲内に含まれているものを選ぶ必要があります 。
二塩基酸の滴定では当量点が2つあるため、どちらの当量点を検出したいかによって、使用する指示薬を使い分ける必要があります。
代表的な指示薬とその変色域は以下の通りです。

指示薬 変色域 (pH) 色の変化 (酸性→塩基性)
メチルオレンジ 3.1 – 4.4 赤 → 黄
フェノールフタレイン 8.2 – 9.8 無色 → 赤紫

例えば、炭酸ナトリウム(Na₂CO₃)を塩酸(HCl)で滴定する場合を考えてみましょう 。

  • 第一当量点: 炭酸ナトリウムが炭酸水素ナトリウムになる反応の終点です。この点のpHは約8.3で、pHジャンプは比較的小さいです。この終点を検出するには、変色域がpH8.2~9.8であるフェノールフタレインが適しています 。
  • 第二当量点: 炭酸水素ナトリウムが二酸化炭素(炭酸)になる反応の終点です。この点のpHは約3.9で、pHジャンプはより明瞭です。この終点を検出するには、変色域がpH3.1~4.4であるメチルオレンジが適しています。

このように、狙う当量点のpHに応じて適切な指示薬を選ばなければ、正確な滴定結果は得られません。第一当量点と第二当量点の両方を1回の滴定で検出する「二段滴定」では、まずフェノールフタレインを加えて第一当量点を測定し、その後メチルオレンジを加えて滴定を続け、第二当量点を測定します 。

【独自視点】二塩基酸としての炭酸ナトリウム滴定と工業的応用

二塩基酸の滴定は、学術的な実験室の中だけの話ではありません。実は、私たちの生活や産業と密接に関わる分野で広く応用されています。その代表例が、二塩基酸の塩である「炭酸ナトリウム(Na₂CO₃)」の滴定です。
炭酸ナトリウムは、塩酸のような強酸で滴定すると、二塩基酸が塩基で滴定されるのを逆にしたような二段階の反応を示します 。
この原理は、工業分野、特に水質分析の世界で非常に重要な役割を果たしています。

水の「アルカリ度」測定

河川水や工業用水などの水質を評価する指標の一つに「アルカリ度」があります。これは、水がどれだけ酸を中和する能力を持っているかを示す尺度で、主に水中に含まれる炭酸水素イオン(HCO₃⁻)や炭酸イオン(CO₃²⁻)の量によって決まります。
このアルカリ度を測定する際に、まさに炭酸ナトリウムの二段滴定の原理が応用されるのです。

  • フェノールフタレインアルカリ度(Pアルカリ度): 試料水にフェノールフタレインを指示薬として加え、塩酸標準溶液で滴定します。これにより、水酸化物イオンの全量と、炭酸イオンの半量を測定できます。
  • 総アルカリ度(Mアルカリ度): 次にメチルオレンジを指示薬として加え、さらに滴定を続けます。これにより、水中に含まれる全ての炭酸塩炭酸水素塩を中和するのに要した酸の総量がわかり、総アルカリ度が求められます。

このPアルカリ度とMアルカリ度の値の関係から、水中にどのアルカリ成分(水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩)がどのくらいの割合で含まれているかを推定することができます。これは、ボイラー用水の管理や、凝集剤の注入量の決定など、適切な水処理を行う上で不可欠な情報です。
このように、一見複雑な二塩基酸の滴定の知識は、水質管理という実用的な分野で「生きる化学」として活躍しています。
以下の参考資料は、大学の化学実験における炭酸ナトリウムの二段滴定について詳述しており、その操作や原理の理解を深めるのに役立ちます。
炭酸ナトリウム 塩酸の二段階滴定による濃度決定 - VCP-Team’s blog

 


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