臓器提供には臓器提供適応基準が定められており、心臓は50歳以下、肺・腎臓は70歳以下、膵臓・小腸は60歳以下が望ましいとされています。ただし、これらは絶対的な制限ではなく、医学的に提供が可能であれば基準年齢を超えた方からの臓器提供も実施されています。
参考)臓器提供に年齢の上限はありますか。|日本臓器移植ネットワーク
実際の提供事例では、心臓・肺・腎臓について70歳代の方からのご提供があり、膵臓でも60歳代の方からの提供実績があります。肝臓については望ましい年齢の記載はなく、70歳代の方から提供いただいた例もあります。特に眼球では100歳を超えた方からの提供事例も報告されており、臓器によって年齢の影響度が大きく異なることがわかります。
生体ドナーについては、施設により基準が異なりますが、肝臓の生体ドナーは原則20歳以上で上限は65歳とする施設が多数です。腎臓の生体ドナーは特に年齢制限はないものの、移植学会の指針では70歳以下の腎機能が良好な方が望ましいとされ、腎機能や持病の状態次第では70歳以上でもドナーとなる場合があります。
参考)適応|ドナー選定|流れがわかる肝移植|医療関係のみなさま|一…
臓器移植を受ける側(レシピエント)にも臓器ごとに年齢条件が設定されています。心臓移植は65歳未満が望ましく、肺移植は両肺移植で55歳未満、片肺移植で60歳未満が対象とされています。肝臓移植は脳死下臓器提供では65歳まで、生体ドナーからの移植は施設ごとに基準が異なります。
参考)臓器移植の対象となる臓器と主な条件|移植なび 臓器移植を知る…
膵臓移植のレシピエントは60歳以下が望ましいとされる一方、腎臓移植には明確な年齢制限がありません。小腸移植は65歳以下が望ましいとされています。レシピエント選択基準では年齢区分が優先順位に影響し、心臓移植の場合はドナーが18歳以上の場合、60歳未満のレシピエントが60歳以上より優先されます。
参考)レシピエント選択基準|日本の移植事情
脳死肝移植のレシピエントは最低齢が生後19日、最高齢が69歳であり、生体肝移植では最低齢が生後9日、最高齢が76歳という記録があります。レシピエントの年齢制限はおおむね70歳までが望ましいとされていますが、施設により基準が異なります。
参考)https://www.asas.or.jp/jst/pdf/factbook/factbook2021.pdf
臓器提供の意思表示は民法上の遺言可能年齢である15歳以上が法的に有効となります。実際の臓器提供については、本人の拒否の意思がない場合、15歳未満でも家族の承諾があれば提供が可能です。臓器を提供しない意思表示については年齢制限がなく、本人が拒否の意思表示をしていた場合は臓器提供は行われません。
参考)Q4. 臓器提供する場合、年齢の制限はありますか - 公益財…
意思表示の方法は、運転免許証、健康保険証、マイナンバーカード、意思表示カードに記載することができます。臓器提供については本人の意思が尊重されますが、家族の承諾がなければ臓器提供は実施されません。本人の意思が不明な場合は、家族が臓器提供をするかしないか決断することになります。
参考)臓器移植の仕組み(1)ルール、主な流れ、ドナー登録
家族は臓器移植コーディネーターから説明を受けた後、十分に話し合い、臓器を提供するかどうかを家族の総意として決めます。提供しないと判断しても不利益な扱いを受けることはありません。脳死下で臓器を提供する場合は、法律で定められた脳死判定により脳死であることが確認されると臓器提供が可能になります。
参考)臓器提供の流れ|日本臓器移植ネットワーク
日本臓器移植ネットワーク - 意思表示と年齢制限に関する詳細情報
高齢のレシピエントは若いレシピエントに比べて合併症が多くなる傾向があります。加齢に伴って増加する合併症として、がん、糖尿病、脂質異常症、脳血管障害、循環器疾患、認知症などが挙げられます。高齢の腎移植者は、食生活や運動不足に気をつけ、生活習慣病を予防し、定期的ながん検診を受診するなど、一般の高齢者以上に対策を行う必要があります。
参考)よくわかる基礎知識|高齢者の腎移植
臓器移植患者は一般の人よりがんの発症率が高く、移植後経過年数が長くなればなるほど発症率が高くなります。日本移植学会の調査では、2001年~2009年の腎移植レシピエントの死亡原因の上位は、感染症(19.4%)、悪性新生物(15.6%)、心疾患(14.7%)、脳血管障害(6.6%)でした。
参考)腎移植を受けることでどのようなリスクがありますか?:長期生着…
ただし、移植後は定期的に検査が行われることが多いため、がんは治療可能なうちに発見されており、全体の生存率には影響していないという報告もあります。高齢者の献腎移植では、移植腎機能を保持したまま亡くなる場合を除くと、移植腎の生着率は若年者と変わらず、腎移植直後1~2年以内の合併症を適切に管理できれば移植後の満足度も高くなることがわかっています。
参考)「高齢者の腎移植の限界と挑戦」 第50回日本移植学会総会報…
認知症や老年うつ病は骨折や脳梗塞によるねたきり状態と深く関連しており、これらの危険性があることは腎移植を行う時に予測し難い面があります。70歳を超えるような高齢の場合、移植直後の合併症が多いかどうかを予測することは難しく、単に年齢だけでは判断できない移植手術のリスクを術前に把握することが重要です。
臓器移植後の生存率は臓器によって異なりますが、全体的に高い水準を維持しています。移植後5年で移植者が生存している割合は、心臓、膵臓、腎臓で90%を超え、肝臓80%、肺、小腸は70%を超えます。これらの数値は医療技術の進歩により年々向上しています。
参考)臓器移植後の生存率(5年)|日本臓器移植ネットワーク
腎臓移植の生存率について、日本移植学会の統計によると、生体腎移植では5年目、10年目の生存率がそれぞれ97.2%と92.7%、献腎移植ではそれぞれ93.4%と80.8%となっています。1990年以前の生体腎移植の10年目の生存率は81.0%だったため、この20年間で生存率は10%以上も改善されました。腎移植後1年目の生存率は生体腎移植で99.1%、献腎移植では97.8%で、腎移植後すぐに亡くなることはほとんどないと言えます。
肝臓移植の成績も向上しており、東北大学の成績では病気によって異なるものの、肝臓移植を受けた方の80.8%が5年以上生存しています。脳死後の心臓移植において、50歳以上の高齢ドナーからの移植は、適切な選択がなされれば50歳未満のドナーからの移植と同等の生存率を示すことが研究で明らかになっています。
参考)肝臓移植
日本の透析医療の質は高いものの、透析導入年齢が高齢化しているため、透析導入から5年目、10年目の透析患者全体の生存率はそれぞれ60.8%、35.9%とかなり低くなっています。これと比較すると、腎移植の方が透析よりも生命予後が優れていることがわかります。
参考)教えて!ドクター|腎移植と透析、それぞれの治療成績(生存率)…
日本臓器移植ネットワーク - 臓器移植後の詳細な生存率データ