釉薬の作り方は簡単!農家の灰を活用した初心者レシピ

釉薬の作り方は簡単だと知っていますか?農家なら身近な灰を使って、長石と混ぜるだけの天然レシピで本格的な陶芸が楽しめます。100均材料での代用も解説。あなただけの釉薬を作りませんか?

釉薬の作り方は簡単

釉薬作りは難しくない!
🌾
農家の特権

身近な草木の灰が最高級の材料に

⚗️
混ぜるだけ

長石と灰の2つだけで作れる

💡
100均活用

身近な道具や材料で代用可能

農業に従事されている皆さん、日々の農作業で出る「稲わら」や「剪定した枝」、どうされていますか?実はこれらは、陶芸において最高級の「釉薬(ゆうやく)」の原料になります。「釉薬の作り方なんて難しそう」「化学の知識が必要なんでしょう?」と思われるかもしれませんが、実は「灰」と「石の粉(長石)」を混ぜるだけという、驚くほどシンプルな工程で作ることができます。

 

昔ながらの陶芸家は、自分たちで植物を燃やして灰を作り、それを釉薬にしていました。現代において、大量の天然灰を確保できるのは農家の方々の特権です。市販の釉薬は安定していますが、自分の畑で採れた植物から作った釉薬には、その土地ならではの「土の記憶」とも言える独特の風合いが宿ります。この記事では、専門的な化学式は一切使わず、農家の方だからこそ実践できる、最もシンプルで失敗のない釉薬の作り方を解説します。

 

農家必見!天然灰で作る釉薬の下処理

 

釉薬作りの第一歩は、主原料となる「灰」の準備です。農家の皆さんにとって、野焼きや薪ストーブで出る灰は日常的なものですが、陶芸用として使うには「水簸(すいひ)」によるアク抜きという重要な工程が必要です。この工程を飛ばすと、釉薬がブクブクと泡立ったり、手に強い刺激を与えるアルカリ成分が残ったりしてしまいます。

 

まず、灰の種類によって釉薬の性質が大きく変わることを知っておきましょう。

 

  • 土灰(雑木灰): 一般的な焚き火や薪ストーブの灰。鉄分を少し含み、薄い緑や黄色っぽいガラス質になります。
  • 藁灰(わらばい): 稲わらを燃やした灰。ケイ酸という成分が非常に多く、白く濁った独特の「藁白(わらじろ)」という表情を作ります。
  • 籾殻灰(もみがらばい): これもケイ酸の塊です。非常に耐火度が高く、マットな質感を出したい時に重宝します。

灰のアク抜き手順

  1. 灰をバケツに入れる: バケツの半分くらいまで灰を入れ、たっぷりの水を注ぎます。
  2. 撹拌して放置: よくかき混ぜてから一晩放置します。浮いてきた炭の燃えカスやゴミを丁寧に取り除きます。
  3. 上澄みを捨てる: 水が茶色く濁っているはずです。これがアク(アルカリ成分)です。この上澄みを捨て、新しい水を入れます。
  4. 繰り返す: この作業を、水が透明に近くなるまで1週間から10日ほど繰り返します。根気が必要ですが、ここが一番のポイントです。
  5. 乾燥: 最後に目の細かいフルイ(60目~100目程度)に通し、底に沈殿した灰を新聞紙などの上に広げて乾燥させます。

参考リンク:工房 草來舎 - 灰釉ができるまで(灰の水簸やアク抜きの詳細な工程写真があり、実際の作業イメージが掴みやすいです)
この「水簸」を終えた灰は、サラサラとした綺麗な粉末になり、驚くほど扱いやすくなります。この手間こそが、市販品にはない深い味わいを生み出すのです。農閑期の手仕事として、灰作りを楽しんでみてはいかがでしょうか。

 

釉薬の作り方は長石と灰を混ぜるだけ

灰の準備ができたら、いよいよ調合です。「調合」と聞くと難しそうですが、基本は「長石(ちょうせき)」と「灰」を混ぜるだけです。長石は、釉薬のベースとなる「溶ける石の粉」で、陶芸材料店やネット通販で簡単に手に入ります(「福島長石」や「平津長石」などが一般的です)。

 

黄金比率のレシピ
初心者が最初に試すべき、失敗の少ない配合比率は以下の通りです。

 

釉薬の種類 長石 灰(水簸済み) 特徴
並釉(なみゆう) 70% 30% 最も基本的。透明感があり、少し緑がかった自然な色合い。
灰釉(はいゆう) 50% 50% 灰の個性が強く出る。流れやすく、器の底に溜まりができる景色が美しい。
マット釉 30% 70% ツヤが消え、ザラッとした土の風合いが残る渋い仕上がり。

作り方の手順

  1. 計量: 作りたい量に合わせて、上記の比率で粉末を計ります。例えば「並釉」を1kg作るなら、長石700g、灰300gです。
  2. 水合わせ: バケツに粉を入れ、水を少しずつ加えます。水量は、粉の重さに対して等倍(1:1)からスタートし、調整します。
  3. 撹拌(かくはん): 手や柄杓でよく混ぜます。ダマにならないように注意してください。
  4. 濃度調整: 素焼きのテストピースや、不要な素焼きの破片を浸してみます。引き上げた時、3秒~5秒くらいで乾く濃度がベストです。濃すぎるとひび割れの原因になり、薄すぎると色がつきません。

この「長石と灰だけ」の釉薬は、「土灰釉(どばいゆう)」と呼ばれ、日本の陶芸の原点です。化学薬品を使わないため、焼成後の器は料理を盛るのにも安心して使えます。もし、少し溶けにくいと感じる場合は、灰の比率を少し(5%程度)増やしてみてください。灰は「溶媒(ようばい)」としての働きがあるため、温度を下げる効果があります。

 

参考リンク:正山窯 - できるだけゼーゲル式を使わない釉薬の作り方(化学式を使わず、長石と灰の比率だけで調整する実践的なノウハウが詳述されています)

初心者向け釉薬の簡単色付けレシピ

基本の土灰釉(長石+灰)が作れるようになったら、次は色を楽しんでみましょう。実は、基本の釉薬に金属の粉をほんの少し混ぜるだけで、劇的な色の変化を楽しむことができます。ここでは、陶芸で最もポピュラーで失敗の少ない2つの色、「緑(織部)」と「茶(飴釉)」の作り方を紹介します。

 

色の素(着色剤)

  • 酸化銅(さんかどう): 緑色になります。伝統的な「織部焼(おりべやき)」の色です。
  • 弁柄(べんがら/酸化鉄): 茶色~黒色になります。量によって「飴釉(あめゆう)」や「黒釉(こくゆう)」になります。

色付けの簡単レシピ
ベースとなるのは、先ほど作った「長石70:灰30」の透明釉薬です。この液体100に対して、以下の割合で金属粉を添加します。

 

作りたい色 添加する材料 添加量(外割) ポイント
織部(緑) 酸化銅 3% ~ 5% 鮮やかな緑色。5%を超えると黒っぽく焦げたような色になります。
黄瀬戸(黄) 弁柄(酸化鉄 1% ~ 3% ほんのり黄色い、温かみのある色。
飴釉(茶) 弁柄(酸化鉄) 5% ~ 8% 濃厚なキャラメル色。鉄分が多いので少し流れやすくなります。

注意点とコツ

  • 外割(そとわり)とは?: 釉薬の液体(または乾燥重量)を100とした時、そこに「追加で」入れる計算方法です。例えば、釉薬100gに対して酸化銅3gを入れるのが3%の外割です。
  • よく混ぜる: 金属粉は比重が重く、すぐに底に沈んでしまいます。施釉(器を浸すこと)する直前に、必ず底からしっかりとかき混ぜてください。
  • テスト焼成: 窯の焼成雰囲気(酸化焼成か還元焼成か)によって色は激変します。例えば、酸化銅は酸化焼成なら緑ですが、還元焼成(酸素不足で焼く)だと赤く発色することがあります。まずはテストピースで試すのが鉄則です。

参考リンク:【薬剤師×陶芸】薪ストーブの灰で釉薬つくってみたよ!(実際に薪ストーブの灰を使った実験結果と、配合比率による色の変化が写真付きで解説されています)

100均の材料で釉薬を作る代用テクニック

「もっと手軽に、身近なもので釉薬を試したい」という方へ、少し裏技的なアプローチを紹介します。実は、100円ショップで売られているあるアイテムが、釉薬の代用として使えることをご存知でしょうか。これは本格的な作品作りには向きませんが、小物のアクセントや、子供との実験的な陶芸には最適です。

 

魔法の粉:「セスキ炭酸ソーダ」
掃除用品コーナーにある「セスキ炭酸ソーダ」です。これは化学的には「セスキ炭酸ナトリウム」であり、陶芸で言うところの「ソーダ釉」に近い働きをします。ナトリウム成分は、低い温度でも土の表面にあるケイ酸分と反応し、ガラス質を作り出します。

 

100均釉薬の作り方

  1. 飽和水溶液を作る: お湯にセスキ炭酸ソーダを溶けるだけ溶かします。溶け残りが底に出るくらい(飽和状態)が目安です。
  2. 塗る: 素焼きした作品に、この液体を筆で塗ります。または、霧吹きで吹き付けます。
  3. 焼成: 通常の本焼き(1200度~1230度)を行います。

仕上がりの特徴
この方法で焼くと、土の鉄分と反応して、赤茶色くテカテカとした独特の光沢が出ます。これは「自然釉(しぜんゆう)」がかかったような、野趣あふれる風合いになります。また、このセスキ水溶液に、同じく100均で売っている「墨汁(炭素)」や「水彩絵の具の顔料(成分に注意)」を少量混ぜてみるのも面白い実験です。

 

その他の100均活用術

  • 化粧用ブラシ: 釉薬を塗る筆として、100均のメイク用ブラシ(特にチークブラシ)は非常に優秀です。毛が柔らかく、釉薬をたっぷり含んでくれるため、塗りムラができにくいのです。
  • 料理用計量スプーン・秤: 厳密な0.1g単位の調合でなければ、キッチンスケールや計量スプーンで十分代用できます。

参考リンク:TC-Works - セスキ炭酸ソーダを釉薬の代わりに使うネタ(100均のセスキ炭酸ソーダを使った焼成実験の結果と、具体的な使用感が紹介されています)
ただし、これらはあくまで簡易的な代用です。セスキ炭酸ソーダは強アルカリ性なので、使用する際は必ずゴム手袋を着用し、目に入らないよう保護メガネをするなど、安全管理を徹底してください。

 

陶芸作業で釉薬を扱う際の安全対策

最後に、農家の方なら農薬の扱いで慣れていらっしゃるかと思いますが、釉薬作りにおける安全性について触れておきます。釉薬は「石の粉」や「金属」を扱います。健康被害を防ぐため、以下の対策は必ず守ってください。

 

1. 粉塵(ふんじん)対策
最も注意すべきは「粉を吸い込まないこと」です。長石や灰に含まれるシリカ(二酸化ケイ素)は、長期間大量に吸い込むと肺に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

  • マスクの着用: 調合で粉を扱う際は、必ず防塵マスク(N95規格などが望ましい)を着用してください。
  • 湿式作業: 掃除をする時は、ほうきで掃くと粉が舞い上がります。必ず濡れ雑巾で拭き取るか、水を撒いてから掃除するようにします。

2. 有害物質の誤飲防止
今回紹介した材料(長石、灰、酸化鉄、酸化銅)は比較的毒性が低いものですが、陶芸材料の中には「鉛(なまり)」「カドミウム」「バリウム」など、人体に有害なものも存在します。

 

  • 飲食禁止: 作業場での飲食は厳禁です。手についた釉薬が口に入るのを防ぎます。
  • 専用の道具: 釉薬調合に使ったボウルやスプーンを、家庭の料理用と共有するのは絶対にやめましょう。100均などで専用の道具を揃え、明確に区別してください。

3. 手荒れ対策
灰の成分(アルカリ)は、タンパク質を溶かす性質があります。素手で灰汁(あく)や釉薬を長時間触っていると、指紋が薄くなったり、皮膚が荒れたりします。

 

  • ゴム手袋: 撹拌や施釉の作業中は、薄手のゴム手袋を着用することをお勧めします。もし素手で作業した場合は、作業後にしっかりと手を洗い、ハンドクリームで保湿してください。

農家の皆さんは、自然の恵みと同時に、自然の厳しさや危険性もよく理解されているはずです。正しい知識と装備で身を守りながら、安全で楽しい陶芸ライフを送ってください。自分で作った野菜を、自分で作った釉薬の皿に盛る。そんな贅沢な食卓を目指して、まずは手元の灰を水洗いすることから始めてみませんか?

 

 


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