プロバイダ責任制限法改正2022の開示請求手続きと特定や期間

農業でも深刻なネットの誹謗中傷。2022年の法改正で犯人特定の手続きはどう変わった?期間短縮や費用の変化、そして農家が直面する風評被害への具体的な対策とは何か、詳しく知りたくありませんか?

プロバイダ責任制限法改正2022

2022年改正の重要ポイント
⚖️
新たな裁判手続

非訟手続による「発信者情報開示命令」の創設で迅速化

📱
ログイン型への対応

SNS等のログイン時情報の開示範囲が拡大・明確化

🚜
被害救済の強化

期間短縮により農産物の風評被害などへの対応力が向上

インターネット上の誹謗中傷は、今や企業や芸能人に限らず、一般の農家や直売所にとっても無視できない深刻な経営リスクとなっています。「あそこの野菜で腹を壊した」「農薬を大量に使っている」といった根拠のない書き込み一つで、手塩にかけて育てた農産物が廃棄に追い込まれることもあります。こうした被害に対し、投稿者を特定するための法律が「プロバイダ責任制限法」であり、2022年(令和4年)10月1日に施行された改正法によって、その手続きは大きく変わりました。

 

改正前の法律では、被害者が投稿者を特定するまでに非常に長い時間と手間、そして高額な費用がかかっていました。特に、鮮度が命である農産物を扱う農業従事者にとって、裁判が終わるころには収穫シーズンが終了しているというスピード感の欠如は致命的な問題でした。今回の改正は、こうしたインターネットの特性に合わせた迅速な被害救済を目的としています。

 

この記事では、2022年の改正プロバイダ責任制限法が具体的にどのように変わり、私たち農業従事者が風評被害に遭った際にどのように役立つのか、その仕組みやメリット、注意点を詳細に解説していきます。法律用語は難解ですが、可能な限り噛み砕いて説明しますので、万が一の備えとして知識を深めておきましょう。

 

総務省による法改正の概要と新旧対照表が掲載されており、法律の条文レベルでの変更点を確認するのに役立ちます。

 

参考リンク:PDF プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律(概要) - 総務省

プロバイダ責任制限法改正2022で開示請求の手続きが迅速化

 

2022年の改正における最大の変更点は、投稿者を特定するための「発信者情報開示請求」の手続きが抜本的に見直され、迅速化されたことです。これまでの手続きがなぜ時間がかかっていたのか、そして新しい制度でどう変わったのかを比較しながら見ていきましょう。

 

従来の制度では、被害者は投稿者を特定するために、原則として「2回の裁判手続き」を行う必要がありました。

 

     

  • 📢 ステップ1:コンテンツプロバイダ(CP)への仮処分

    まず、X(旧Twitter)やGoogle、掲示板の運営者などの「コンテンツプロバイダ」に対して、IPアドレスの開示を求める仮処分を申し立てます。
  •  

  • 📡 ステップ2:アクセスプロバイダ(AP)への訴訟

    開示されたIPアドレスから、ドコモやソフトバンク、ニフティなどの通信事業者(アクセスプロバイダ)を割り出し、その事業者に対して契約者(投稿者)の氏名や住所の開示を求める「訴訟」を提起します。

この2段階の手続きには大きな問題がありました。ステップ1でIPアドレスを入手しても、ステップ2の訴訟準備をしている間に、通信事業者のログ保存期間(通常3ヶ月〜6ヶ月程度)が過ぎてしまい、情報が消えてしまうリスクがあったのです。また、2回の法的手続きを行うため、弁護士費用も二重にかかり、解決までに1年近くかかることも珍しくありませんでした。

 

改正法では、これらを一本化する「発信者情報開示命令事件」という新たな手続きが創設されました。これにより、1つの手続きの中で、コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダ双方に対する開示命令を同時に、あるいは連続して出すことが可能になりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

項目 改正前(従来) 改正後(2022年〜)
手続きの回数 基本的に2回(仮処分+訴訟) 1回の申立てで完結可能
ログ保存 別途、消去禁止の仮処分が必要な場合あり 開示命令申立てと同時に保全可能
心理的な負担 長期化によるストレスが大 早期解決により軽減

このように、手続きの構造自体がシンプルになったことで、被害回復までのスピードが格段に上がり、情報の消失リスクも低減されています。これは、インターネット上での風評があっという間に拡散してしまう現代において、非常に重要な改善点と言えます。

 

改正法のポイントを弁護士が解説しており、実務上の運用や旧法との違いについて専門的な視点から理解を深めることができます。

 

参考リンク:【2022年10月1日施行】 プロバイダ責任制限法改正とは? - 契約ウォッチ

プロバイダ責任制限法改正2022における新たな裁判所の手続き

改正法で導入された手続きは、専門的には「非訟手続(ひしょうてつづき)」と呼ばれます。これは、通常の裁判(訴訟)よりも簡易で柔軟な審理を行うための法的手続きです。

 

従来の「訴訟」は、原告と被告が法廷で厳格に争うスタイルでしたが、「非訟手続」では、裁判所が後見的な立場から証拠を調べ、迅速に判断を下すことができます。具体的には以下のような特徴があります。

 

     

  • 🏛️ 審理の非公開

    原則として審理は非公開で行われるため、被害者や事業者のプライバシーや企業秘密が守られやすくなっています。
  •  

  • 柔軟な進行

    裁判官の裁量により、効率的に手続きを進めることができます。例えば、コンテンツプロバイダからアクセスプロバイダへの情報提供を命令する「提供命令」という仕組みも新たに導入されました。

この「提供命令」は非常に強力です。従来は、コンテンツプロバイダからIPアドレスが開示された後、被害者自身がそのIPアドレスを元にアクセスプロバイダを特定し、改めて訴えを起こす必要がありました。しかし、新しい制度では、裁判所がコンテンツプロバイダに対して、「投稿者のIPアドレスなどの情報を、被害者ではなく、直接アクセスプロバイダに提供しなさい」と命じることができます。

 

さらに、アクセスプロバイダに対しても、「その情報を使って契約者を特定し、氏名や住所を被害者に開示しなさい」と命令の流れをつなげることができるのです。

 

これにより、被害者が自力で技術的な調査を行う負担が減り、プロバイダ間での情報の受け渡しがスムーズになりました。農業経営で忙しい中、複雑なIT調査や法的手続きに時間を割くことは現実的ではありません。裁判所が主導して情報のバトンタッチを行わせてくれるこの仕組みは、被害者にとって大きなメリットとなります。

 

また、アクセスプロバイダ側が「契約者の意見を聞く(意見聴取)」手続きについても、期間が明確化されました。以前は回答をいつまでも待ってしまうケースがありましたが、迅速な手続きの中で適切に処理されるようになっています。

 

法改正の背景や、SNSでの誹謗中傷被害の実態に即した解説があり、なぜ非訟手続が導入されたのかという理由がよく分かります。

 

参考リンク:2022年に施行されたプロバイダ責任制限法改正とは? - マネーフォワード

プロバイダ責任制限法改正2022での投稿者の特定と期間

ここでは、実際に投稿者を「特定」するまでの期間と、SNSなどで特に問題となる「ログイン型」の投稿に関する変更点について深掘りします。

 

まず期間についてですが、改正前の手続きでは、投稿者の特定までに平均して9ヶ月から1年以上かかることが一般的でした。これは前述の通り、2段階の裁判を経る必要があったためです。しかし、2022年の改正による新手続き(発信者情報開示命令事件)を利用することで、スムーズに進めば数ヶ月から半年程度で特定に至るケースも出てきています。

 

もちろん、相手方のプロバイダが激しく争う場合や、海外法人が相手の場合などは依然として時間がかかることもありますが、制度設計としては大幅な短縮が図られています。

 

次に、重要なのが「ログイン型」サービスの投稿者特定です。

 

     

  • 💻 ログイン型サービスとは?

    Googleマップの口コミ、Twitter(X)、Instagram、Facebookなど、一度ログインした状態でサービスを利用し、投稿を行うタイプのものです。
  •  

  • 📝 従来の問題点

    これらのサービスでは、個別の投稿時にIPアドレスが保存されていないことが多くありました。ログインした時のIPアドレスは保存されていても、その後の「投稿ボタンを押した瞬間」のIPアドレスがないため、「投稿者を特定する通信記録(ログ)が存在しない」として、開示請求が認められない壁があったのです。

改正法では、この問題に対処するために「特定発信者情報」という概念を拡大しました。これにより、投稿そのものの通信ログがなくても、そのアカウントに「ログインした際の通信ログ」を開示の対象として認めることが条文上明確になりました。

 

これを「みなし規定」とも呼びますが、一定の条件(侵害情報送信との関連性など)を満たせば、ログイン時のIPアドレスを使って投稿者を特定することが可能になったのです。Googleマップで悪質な低評価をつけられたり、Twitterでデマを流されたりした場合、まさにこの「ログイン時情報」が犯人特定の鍵となります。

 

これまでは「Twitterはログイン時のログしか出さないから特定が難しい」と言われることもありましたが、改正によって法的な手当てがなされ、特定へのハードルが一段下がったと言えます。

 

ただし、ログイン情報の保存期間も有限であるため、「期間」との戦いであることに変わりはありません。被害を見つけたら、1日でも早くスクリーンショット等の証拠を保存し、弁護士へ相談することが重要です。

 

ログイン型投稿に関する「補充的明文規定」などの詳細な解説があり、SNS特有の開示請求の難しさがどう解消されたかが理解できます。

 

参考リンク:改正プロバイダ責任制限法とは?特定発信者情報についても解説 - BUSINESS LAWYERS

プロバイダ責任制限法改正2022を利用した農業の風評被害対策

このセクションでは、一般的な解説記事ではあまり触れられない、農業従事者ならではの視点から、この法改正をどう活用すべきかについて解説します。

 

農業におけるネット被害は、他の業種とは異なる「時間的制約」と「実害の広がり方」という特殊性があります。

 

例えば、直売所のGoogleマップに「腐った野菜を売っていた」「店員の態度が最悪」と書かれた場合、あるいはSNSで「〇〇農園のイチゴは農薬まみれ」とデマを流された場合を想像してください。

 

     

  • 🍅 鮮度と時間の壁

    工業製品と違い、農産物は数日で傷みます。風評被害によって一週間客足が止まるだけで、その時期の収穫分がすべて廃棄ロスになる可能性があります。改正法による「迅速化」は、次のシーズンのブランドを守るだけでなく、現在の出荷を守るためにも極めて重要な意味を持ちます。
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  • 📍 Googleマップ口コミへの対応

    多くの農園や直売所が集客にGoogleビジネスプロフィールを利用していますが、身に覚えのない低評価レビューに悩まされるケースが急増しています。これらは「ログイン型」の投稿であるため、前述した改正法の恩恵(ログイン時情報の開示)を最も受けやすい領域です。「誰が書いたか分からないから泣き寝入り」ではなく、法的に特定できる可能性が高まったことを知っておくべきです。
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  • 🛡️ 抑止力としての「特定」

    地域社会に根差した農業では、実は投稿者が「近隣のライバル業者」や「過去にトラブルになった取引先」であるケースも少なくありません。改正法を使って一人でも悪質な投稿者を特定し、損害賠償請求を行ったという事実ができれば、それが強力な抑止力となり、地域内での陰湿な嫌がらせを止める効果が期待できます。

具体的な対策フロー:

     

  1. 証拠保全: 口コミや投稿のURL、内容、投稿日時が分かるようにスクリーンショットを撮る。(スマホではなくPC画面で、URLバーも含めて撮影するのがベスト)
  2.  

  3. 削除依頼の検討: フォームから削除依頼を出すのが第一歩ですが、削除されると「証拠」が消えるため、必ず保存してから行うこと。
  4.  

  5. 開示請求の判断: 営業妨害レベルであれば、改正法に基づき「開示命令申立て」を検討する。この時、農産物の廃棄損害額などをメモしておくことが、後の損害賠償請求で役立ちます。

農業は信頼産業です。改正された法律は、真面目に生産している農家が、顔の見えない悪意によって不当な損害を受けることを防ぐための強力な武器になります。

 

Googleマップの口コミ削除や開示請求に関する実務的な流れが解説されており、直売所などの実店舗を持つ農家にとって参考になります。

 

参考リンク:Googleマップの口コミは営業妨害?削除できる基準を解説

プロバイダ責任制限法改正2022に関する費用や注意点

最後に、改正法を利用する際にかかる費用と、注意すべき点について解説します。手続きが簡素化されたとはいえ、依然として一定のコストは発生します。

 

費用の目安:
改正前は2回の手続きが必要だったため、弁護士費用の着手金だけで合計60万円〜100万円程度かかることも珍しくありませんでした。

 

改正後は手続きが一本化されたことにより、弁護士費用も多少圧縮される傾向にあります。一般的な相場としては、着手金で30万円〜50万円程度、成功報酬で同程度といった価格設定が増えてきています。また、裁判所に納める印紙代などの実費も、手続き回数が減る分、数万円単位で節約できる可能性があります。

 

ただし、これはあくまで目安であり、事案の複雑さや相手方プロバイダ(海外法人など)の対応によって変動します。

 

重要な注意点:

     

  • ⚠️ 「投稿時」か「ログイン時」か

    改正法でログイン情報の開示が認められたとはいえ、すべてのケースでログが残っているわけではありません。ログの保存期間(3ヶ月〜6ヶ月)を過ぎていれば、どんなに優れた法律があっても特定は不可能です。発見から相談までのスピードが命であることに変わりはありません。
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  • ⚠️ 名誉毀損の成立要件

    「気に入らないことが書かれた」だけでは開示請求は通りません。「事実と異なることを書かれ、社会的評価が低下した(名誉毀損)」や「プライバシー侵害」など、法的な権利侵害が認められる必要があります。「トマトが美味しくなかった」という個人の感想(主観的な評価)は、通常は権利侵害になりにくいという壁があります。
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  • ⚠️ 費用の回収リスク

    犯人を特定できても、相手に支払い能力がなければ、かかった弁護士費用や損害賠償金を回収できないリスクがあります。「相手に社会的制裁を与えたい」のか、「金銭的な回収をしたい」のか、目的を明確にしてから手続きに踏み切ることが大切です。

法改正によって、以前よりは「戦いやすい」環境が整いましたが、それでも魔法の杖ではありません。コストと効果(得られる損害賠償額や、削除による信用の回復)のバランスを冷静に見極める必要があります。農協(JA)の顧問弁護士や、ネット問題に詳しい専門家に早めに相談することをお勧めします。

 

弁護士費用や手続きの全体像について、法改正後の相場観を含めて解説されており、コスト面での不安を解消するのに役立ちます。

 

参考リンク:プロバイダ責任制限法の改正で開示請求がスムーズに!ポイントを解説 - アディーレ法律事務所

 

 


第3版 プロバイダ責任制限法