移植作業は、現場で分解すると「植え穴(溝)を作る → 苗を置く → 土を寄せる → 鎮圧する」という複数の工程の組み合わせです。実際に市販の簡易移植器では、溝切り(植え穴堀)・植え付け・土寄せ・鎮圧の4工程を同時に進める、という思想がはっきり示されています。参考になるのは「一度に全部を自動化しない」設計で、まずは“手作業で一番キツい工程”だけを機械化する方が完成しやすいです。
たとえば、チェーンポット+簡易移植器の例では、苗箱をセットして後方へ引く動作で一連の工程が進む構造になっています。ここから学べるのは、苗搬送や植え込みを複雑なリンクで作り込むよりも、「苗側の規格(苗の連結・トレー形状)を合わせて機械を単純化する」方が、故障が減って再現性が高い点です。自作で狙うなら、苗の供給方式(セル苗、紙筒連結苗、ポット苗)を先に固定すると、設計がブレません。
また、移植機は“苗を植える機械”であると同時に、“圃場の土を動かす機械”です。土質・水分・砕土状態で抵抗が変わり、同じ形の溝切りでも深さと幅が安定しないことがあります。結果として、植え付け深さが揃わず活着に差が出るので、機構を凝るより「深さを決める基準面(車輪やスキー板)を強くする」ほうが効く場面が多いです。
自作に踏み切る理由で多いのが「市販機が高い」「中古も見つからない」「自分の畝幅・株間に合わない」の3つです。実際、規模によっては移植機に200万円規模の投資が一般的、という言及もあり、個人経営が二の足を踏むのは自然です。そこで、まずは“投資しない省力化”として、軽量でシンプルな簡易移植器(10数万円程度という紹介もある)を基準にして、DIYでどこまで近づけるか考えると現実的です。
材料はホームセンター調達で揃えやすい反面、強度計算と耐久性は甘く見られがちです。野外で土に当たる部材(溝切り刃、培土板、鎮圧ローラー相当)は、摩耗・衝撃・泥詰まりの三重苦になるので、最初から「交換前提の消耗部品」と割り切ると破綻しにくいです。ボルトオンで交換できる形にしておくと、圃場で折れても“直して続行”ができます。
コストの考え方で意外に重要なのが「製作費」だけでなく「調整に潰れる時間」です。自作機は、実際の圃場で試して“詰まり・苗倒れ・植え深さのバラつき”を潰すのに時間がかかります。圃場のピーク(定植適期)に合わせるため、試作→改良→再試作の回数を減らす工夫として、最初は作業速度を欲張らず、1条・低速・人力牽引でも成立する仕様から入るのが安全です。
さらに、運用面のコストとして「共同所有・レンタル」の発想も参考になります。水田利用野菜の事例集では、移植機を部会内で共同所有したり、収穫期はJAからレンタルしたりして機械コストを抑える取り組みが紹介されています。自作が難航しそうなら、共同利用+“自作は補助具だけ”という組み合わせも現実解になります。
参考:水田利用野菜で「自作機械等を活用した低コスト機械化一貫体系」や、移植機の共同所有の考え方が書かれている(機械コストを抑える発想の部分)
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/539994_4475712_misc.pdf
最重要ポイントは、安全面で「改造禁止」が繰り返し明記されている事実です。農林水産省の「農作業安全のための指針」には共通事項として、加工・改造や目的外使用を行わないことが明確に書かれています。つまり、既存の農機(田植機や管理機)をベースに“移植機っぽく改造”する場合、事故リスクだけでなく、責任や保険、周囲への説明責任も重くなります。
加えて、市販の野菜移植機の取扱説明書でも「機械を改造しない」旨が安全項目として明確に注意されています。メーカーがここを強く書くのは、回転部・搬送部・挟み込み部があり、ほんの小さな形状変更でも危険源が増えるからです。自作する場合も同じで、特に注意すべきは「苗搬送(ベルトやローラー)」「鎮圧ローラー」「チェーン・スプロケット」「エンジン駆動部」の4つで、巻き込まれ・挟まれが起きやすい構造になります。
安全設計としては、以下を最低ラインにすると事故率が下がります。
参考:農作業安全の共通事項として「加工・改造や目的外使用を行わないこと」等がまとまっている(安全の基本方針)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_kikaika/anzen/attach/pdf/index-51.pdf
参考:野菜移植機の取扱説明書で「改造や使用目的以外の作業はしない」旨が明記されている(メーカーの安全注意の考え方)
https://agriculture.kubota.co.jp/after-support/userinfo/vegetable_equipment/archives/pdf/manual2.pdf
自作移植機で“急にうまくいかなくなる”典型は、圃場条件の変化です。特に水田転作や湿り気の残るほ場では、溝切り部に泥が付着して抵抗が増え、植え付け深さが乱れたり、鎮圧が効きすぎて根が窒息気味になったりします。岡山県の事例集でも、水田での野菜栽培は排水性が必須で、高畝形成や排水路接続、額縁明きょの設置などを重ねて改善した経過が紹介されています。
ここから自作機に落とし込める“意外に効く改善”は、機械側ではなく圃場側に少し投資する発想です。たとえば、同資料では穿孔暗きょ機(無資材で空洞を作る暗きょ)など、排水改善の具体策が紹介されています。移植機の性能を上げるために複雑な機構を足すより、排水が整ったほ場で作業した方が、植え姿が揃って欠株が減り、結果として省力になります。
また、走行安定のためには「畝肩を壊さない」「畝の高さを一定にする」ことが重要です。畝が波打つと、深さ基準の車輪が上下して、植え深さがバラつきます。自作機側でできる対策は、深さ決めの車輪を太めにして沈み込みを減らす、溝切り刃の角度を変えて土の逃げを作る、鎮圧をローラーだけに頼らず土寄せ板の形状で補う、などです。
参考:水田での排水対策(高畝、額縁明きょ、排水路接続)や、穿孔暗きょ機の特徴・注意点が書かれている(圃場側の改善の具体)
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/539994_4475712_misc.pdf
検索上位は「移植機そのものの自作」に意識が寄りがちですが、実は定植の省力化は“前工程”で決まる場面が多いです。具体的には、苗の規格を揃える(育苗トレーの統一、根鉢の硬さ、潅水のタイミング)だけで、移植時の倒れ・欠株が減り、結果として手直しの時間が激減します。これは機械の完成度ではなく、運用設計の勝ち筋です。
ヒントになるのが、チェーンポット+簡易移植器の考え方です。苗が数珠状に連なった紙製ポットという“苗の形”を揃えることで、機械側はシンプルでも高速に作業でき、実例では8aで2日かかった作業が30分~1時間になったという紹介もあります。自作で同じレベルを狙うのは難しくても、「苗の形を揃えると、機構を単純化できる」点は再現できます。
そこで独自視点としておすすめなのが、移植機本体を作る前に、次の“補助具”から作る順番です。移植機自作の難易度を下げつつ、実利が出やすいです。
移植機の自作はロマンもありますが、農繁期に必要なのは“止まらない仕組み”です。まず補助具で10〜30%の省力化を確実に取り、翌年以降に移植機の自作へ段階的に進めると、失敗しても経営へのダメージが小さくなります。
参考:溝切り・植え付け・土寄せ・鎮圧の同時作業という発想、チェーンポット+簡易移植器による省力化事例が書かれている(運用で機械を単純化するヒント)
https://agri.mynavi.jp/2024_07_31_274811/