コンバインの仕組みを深く理解する上で、まず押さえておかなければならないのが「自脱型(じだつがた)」と「普通型(ふつうがた)」という構造の決定的な違いです。日本国内の稲作において主流である自脱型は、世界的に見ると非常にユニークな進化を遂げた機械であり、その構造を知ることは効率的な作業に直結します。
クボタ:稲穂から籾を分離する「脱穀」の基礎知識と自脱型のメリットについて
※上記リンクはクボタの公式サイトで、脱穀の基礎的な動きと機械の役割について図解入りで解説されています。
なぜ日本でこれほど「自脱型」が普及したのか、その背景には日本の稲作文化と気候があります。かつて藁(ワラ)は、縄や畳、草履などの材料として非常に重要な資源でした。そのため、「ワラを綺麗に残す」必要があったのです。また、収穫時期に雨が多く湿度が高い日本では、茎ごと脱穀すると水分で選別網が目詰まりを起こしやすくなります。これらの課題を解決するために、日本独自の技術として「穂先だけを脱穀する」という極めて精密な制御技術(扱深制御など)が発達しました。
| 特徴 | 自脱型(日本独自) | 普通型(世界標準) |
|---|---|---|
| 脱穀対象 | 穂先のみ | 作物全体(茎葉含む) |
| 選別精度 | 非常に高い(ゴミが少ない) | やや劣る(夾雑物が多い) |
| 汎用性 | 低い(稲・麦専用) | 高い(大豆・コーン等も可) |
| 走行部 | クローラ(履帯)が主流 | ホイールまたはクローラ |
| 処理速度 | 中程度 | 高速・大量処理が可能 |
コンバインの内部では、自動車のエンジンとは比較にならないほど複雑な「固形物の物理的な分離プロセス」が連続して行われています。ここでは、作物がどのように取り込まれ、籾(もみ)として分離されるのか、その構造と搬送のフローを詳細に見ていきます。
田んぼで倒れている稲がある場合、まず「引き起こしチェーン(タイン)」が回転し、寝ている稲を強制的に立たせます。これと同時に、先端の尖った「デバイダ」が条(列)を綺麗に分けます。根元にある「刈刃(バリカン)」が左右に高速往復運動し、スパッと茎を切断します。この切れ味が悪いと、根元が引き抜けてしまい、搬送チェーンに土が噛み込んで故障の原因になります。
刈り取られた稲は、縦搬送チェーンによって機体後方の脱穀部へ運ばれます。ここで重要なのが「扱深(こぎふか)制御」です。稲の背丈は一定ではありません。背が高い稲も低い稲も、穂先がちょうど脱穀胴(こぎ胴)の最適な位置に当たるように、センサーが茎の長さを感知し、チェーンの位置を自動で上下させています。これがズレると、脱穀されずに排出される「刈り残し」や、穂がちぎれてしまう「穂切れ」が発生します。
脱穀部には「こぎ胴」と呼ばれるドラムがあり、表面には無数の「こぎ歯」という金属の突起が付いています。これが毎分数百回転という高速で回り、搬送されてきた稲の穂先を叩き、しごくことで、籾を茎から外します。
ヤンマー:普通型コンバインの技術と構造的特徴についての技術解説
※ヤンマーの技術論文で、コンバインの内部構造や作物ごとの対応能力について専門的な視点で書かれています。
このプロセスにおいて、オペレーターが最も気にすべきは「流量」と「回転数」のバランスです。
作業を急いで車速を上げすぎると、こぎ胴の中に大量の稲が一気に入ってしまいます。すると、エンジンの回転が落ち、こぎ歯の遠心力が弱まり、籾を落としきれなくなります(=高損失)。逆に回転を上げすぎると、籾が割れたり(肌ずれ)、枝梗(しこう)が付いたままになったりして品質が下がります。
検索上位の記事では「風で飛ばして選別する」と簡単に説明されがちですが、コンバインの心臓部とも言えるこの選別機構は、実は流体力学と振動工学の塊です。なぜ、重たい籾だけを回収し、軽いワラ屑だけを捨てることができるのか?ここには「揺動(ようどう)」と「唐箕(とうみ)」の絶妙なコンビネーションが存在します。
脱穀された直後の混合物(籾、わら屑、ホコリ)は、「揺動板(シーブ)」と呼ばれる何層もの網の上に落ちます。この板は、前後に激しく振動(揺動)しています。
お盆の上に砂と石を乗せて揺らすと、重い石は下に沈み、軽い砂は上に浮いてくる現象と同じ原理を利用しています。振動によって、重い「玄米・籾」は網の下の方へ沈み込み、軽い「ワラ屑」は表面に浮き上がってきます。
ここで下から上へ、そして前方から後方へ向けて、ファン(唐箕)による強い風が送り込まれます。
農研機構:コンバインの選別機構と脱穀性能に関する研究資料
※国立研究開発法人による資料で、脱穀・選別部の内部断面図や、風の流れ方が詳細に図解されています。
独自視点:チャフシーブとグレンシーブの調整
上級者がこだわるのが、この選別網(シーブ)の開度調整です。
最新の「スマート農機」と呼ばれるコンバインでは、収量センサーとロスセンサーがこれらを監視しており、後方へ排出されるゴミの中に籾が混じっていると、自動で「チャフシーブを閉じる」あるいは「風量を下げる」といった制御をミリ秒単位で行っています。これが、ベテラン農家の勘をデジタル化した現代のコンバインの真骨頂です。
コンバインの仕組みを理解した上で、最も避けたいトラブルが「詰まり」です。特にメンテナンス不足や悪条件での作業は、こぎ胴や搬送部をロックさせ、ベルトを焼き切る原因になります。ここでは、仕組みに基づいた具体的な対策とメンテナンスポイントを解説します。
1. こぎ胴の詰まり(ドラムロック)の原因
最大の原因は「水分過多」と「回転数不足」です。
朝露が残っている時間帯や、雨上がりの稲は、水分を含んで非常に粘り気があります。濡れたワラは摩擦係数が高く、こぎ胴の中でスムーズに流れず滞留します。そこに次々と新しい稲が入ってくるため、圧縮されたワラがブレーキシューのようにこぎ胴を締め付け、エンジンを停止させてしまいます。
2. ラジエータースクリーンとオーバーヒート
コンバインは、自身の刈り取ったワラ屑やホコリが舞う中で作業します。
エンジンの冷却ファンは空気を吸い込みますが、この吸気口にある「プレクリーナー」や「ラジエータースクリーン」がホコリで目詰まりすると、冷却ができずにオーバーヒートします。
3. カッター刃の摩耗と排出詰まり
排ワラカッターの刃が丸くなっていると、ワラが切れずに「押しつぶされる」形になります。切れないワラはカッター内部で絡まり、出口を塞ぎます。出口が塞がると、脱穀部からワラが出てこられなくなり、最終的にこぎ胴まで逆流して全停止します。
アグリ家:コンバインの日常点検と長く使うためのメンテナンス方法
※農機具専門店による解説記事で、具体的な清掃箇所や注油ポイント、オフシーズンの保管方法が実務的に書かれています。
メンテナンスチェックリスト
| 点検箇所 | 確認内容 | 放置した場合のリスク |
|---|---|---|
| こぎ歯(脱穀歯) | 摩耗、変形、欠落 | 脱穀残りが増える、選別が悪くなる |
| Vベルト | 亀裂、摩耗、緩み | 動力伝達不良、高負荷時のスリップ、詰まり |
| チェーン | 伸び、注油状態 | 外れる、スプロケットの異常摩耗 |
| カッター刃 | 切れ味、クリアランス | 排ワラ詰まり、機械全体への過負荷 |
| エアクリーナー | ホコリの蓄積 | エンジン出力低下、黒煙、燃費悪化 |
コンバインは「刃物」「風」「振動」「回転」の4要素が完璧に同期して初めて性能を発揮します。仕組みを知れば、「なぜここで詰まったのか?」「なぜ選別が悪いのか?」という原因が、機械の悲鳴(異音)から推測できるようになります。日々のメンテナンスは、単なる掃除ではなく、これら4要素のバランスを整えるチューニング作業なのです。