家畜ふん尿を適切に処理しないと、年間数十万円の廃棄物処分費が農家の手元から消えていきます。
亜臨界水処理とは、水を密閉容器に入れて100℃〜374℃・0.1MPa〜22.1MPaの高温高圧状態にし、有機物を高速で加水分解する技術です。 水の臨界点(374℃・22.1MPa)を超えると「超臨界水」になりますが、その手前の領域が「亜臨界水」です。 普通の水では溶けない油脂や植物繊維も、亜臨界状態では分解・抽出が可能になります。
これは農業分野にとって革命的な変化です。
参考)https://lin.alic.go.jp/alic/month/dome/2004/sep/chousa-1.htm
250℃付近が加水分解力のピークで、タンパク質はアミノ酸に、デンプンはブドウ糖に、脂肪は低級脂肪酸に、セルロースはグルコースへと変換されます。 つまり、農場から出る有機廃棄物が「植物に即吸収される栄養素」に変わるということです。
参考)https://gwaterjapan.com/writings/160329uwj.pdf
1バッチあたりの処理時間は約80分(投入・昇温昇圧・処理反応・減圧・取り出しを含む)が目安です。 超臨界水処理と比べ装置の耐久性要件が低く、コスト面で農業・食品分野で実用化が先行しています。maff+1
農林水産省が整理した資料では、亜臨界水処理技術の「入口(原料)」として食品廃棄物・家畜排せつ物・木質バイオマスなどが挙げられています。 そして「出口(製造物)」として飼肥料製造・原料の無害化・メタン発酵用原料の高品質化が示されています。 農場視点で言えば「捨てるはずのもの」が「買わなくて済む資材」に変わる仕組みです。
参考)https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/attach/pdf/arinkai-27.pdf
食品廃棄物を亜臨界水処理すると、肉や魚のアラが分解されてアミノ酸が溶出し、植物が吸収しやすい即効性の高い液肥素材が製造できます。
これは単なる堆肥とは異なります。
参考)https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/attach/pdf/arinkai-13.pdf
畜産農家にとって特に重要なのは家畜排せつ物の処理です。加圧亜臨界水処理技術を使うと、約1〜2時間の処理後に臭気がなくなり、1週間ほど大気にさらすだけで高品質熟成肥料が完成します。
参考)https://autorem.websepi.co.jp/agri/
| 入口(原料) | 出口(主な製造物) | 農業上のメリット |
|---|---|---|
| 食品廃棄物・生ごみ | 即効性液肥・アミノ酸素材 | 化学肥料の購入費を削減 |
| 家畜排せつ物 | 高品質熟成肥料・液肥 | 廃棄物処分費の削減 |
| 木質バイオマス(白樺など) | 粗飼料・TMR原料 | 輸入飼料費の削減 |
| 漁業残さ・下水汚泥 | メタン発酵原料・エネルギー | エネルギーコストの削減 |
農林水産省の検討資料によると、亜臨界水処理施設の導入イニシャルコストは事業規模により5〜24億円程度の増加が見込まれます。 数字だけ見ると大きいですが、それを上回る効果が出ます。
参考)https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/attach/pdf/arinkai-24.pdf
事業規模12t/日以上であれば、亜臨界水処理装置の導入効果が明確に得られます。 20年間のランニングコスト縮減は2〜11億円程度とされており、固形発酵残さの処分費が大きく下がることが主な要因です。 12t/日というのはトラック積載量(4t)の3台分に相当する処理量です。身近な規模感で捉えると、中規模の畜産農場や食品工場との共同利用で十分に届く数字です。
ランニングコストの単価は年間処理量×3.5千円/tが基準とされています。 大規模施設ほど固形残さの処分費削減効果が大きくなり、事業規模25t/日以上では明確にランニングコストが下がります。
これはコスト削減が主目的です。
亜臨界水処理後の生成物は、単なる堆肥に留まりません。タンパク質が分解されてアミノ酸として遊離するため、家畜が吸収しやすくなり即効性が高まります。 肥料として使えば植物の吸収率が向上し、飼料として使えば家畜の消化効率が上がります。
参考)https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/attach/pdf/arinkai-4.pdf
北海道北見市では白樺などの未利用木質材を亜臨界水処理技術で粗飼料に変える実証実験が行われました。 この処理で製造した粗飼料が、従来の国産稲わらや輸入する外国産稲わらの代替として使えることが確認されています。 外国産稲わらや乾草の輸入価格はトン当たり約500ドル(約7万5,000円)ですが、地場の未利用木質材で代替できれば大幅なコスト削減につながります。
また、亜臨界水処理は230℃以上・20〜30気圧の高温高圧蒸気分解処理であるため、クリプトスポリジウムなどの病原菌・寄生虫が死滅します。 病原菌への感染リスクを抑えた安全・安心な農業資材を地場産で作れる点は、輸入資材に依存するリスクへの備えにもなります。maff+1
亜臨界水処理後の生成物を放線菌で発酵させることで、土壌中の病害菌抑止効果を持つ機能性堆肥に仕上がることも確認されています。
これは有機農業にも有効な技術です。
農林水産省の研究会資料(肥料化の可能性・機能性)
農林水産省食料産業局「製造物の肥料原料利用に係る安全性・機能性・事業性評価」(亜臨界水処理による液肥素材の即効性・アミノ酸溶出の詳細記載あり)
亜臨界水処理を「自農場だけで使う設備投資」と捉えると、初期コスト5〜24億円が壁になります。しかし農林水産省が示す方向性は、地域内複数事業者による共同利用モデルです。
発想を変えれば壁は壁ではなくなります。
明治大学の研究では、亜臨界水処理で生成した有機液肥を地域の農業生産に活用する「地域内有機資源循環型農業」モデルが検証されています。 近隣の食品工場・畜産農家・耕種農家が連携し、廃棄物を持ち寄って処理コストを分担しながら液肥・堆肥を共同利用する形です。台湾・宜蘭県ではこの資源循環産業モデルが農業県として実際に機能しています。meiji+1
農場単独では「廃棄物処理の負担」だったものが、地域連携の枠組みでは「地域ブランド農産物の生産基盤」に変わります。
これは使えそうです。
具体的な連携の組み方として、まず農林水産省食料産業局が公開している亜臨界水処理技術の研究会資料(下記リンク)を確認し、自地域の廃棄物量と事業規模の試算から始めることが実践的な第一歩です。
農林水産省・亜臨界水処理技術研究会の資料(技術概要・先行事例・コスト試算が一覧できる)
農林水産省食料産業局「食品等のリサイクルの新たな展開を目指す亜臨界水処理技術」(先行事例・入口出口の整理・費用対効果の詳細あり)
農林水産省・メタン発酵施設への亜臨界水処理導入コスト試算
農林水産省食料産業局「メタン発酵施設における亜臨界水処理技術の導入検討」(イニシャルコスト・ランニングコスト・費用対効果の数値が具体的に示されている)