タンナーゼとキッコーマンで茶の渋味分解と混濁防止の酵素加工

茶飲料の加工で渋味や混濁に困っていませんか?キッコーマンのタンナーゼは、麹菌由来の酵素で没食子酸を分解し、クリアな味と品質を実現します。農業の6次産業化にも役立つ技術とは?

タンナーゼとキッコーマンの酵素

タンナーゼとキッコーマンの酵素
🍵
渋味の分解と除去

カテキンと没食子酸のエステル結合を酵素で分解し、茶本来の旨味を残して渋味だけを低減します。

混濁防止と透明化

冷却時に発生するクリームダウン(白濁)を防ぎ、ボトル飲料としての品質と商品価値を高めます。

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6次産業化への活用

茶葉だけでなくヤーコンなどの地域特産品の加工にも応用でき、付加価値の高い商品開発を支援します。

農業従事者の皆様が、大切に育てた農作物を加工し、より高い付加価値をつけて販売する「6次産業化」が進む中で、加工段階での品質管理は非常に重要な課題となっています。特に茶葉や特定の果樹、野菜においては、加工後の「渋味」や、時間の経過とともに発生する「混濁(濁り)」が、商品化の大きな壁となることが少なくありません。こうした課題を解決する強力なツールとして、日本の醸造技術の粋を集めたキッコーマンの酵素製剤、特に「タンナーゼ」が食品加工の現場で広く活用されていることは、意外と知られていない事実かもしれません。


キッコーマンといえば醤油のイメージが強いですが、実はその発酵技術を応用した「キッコーマンバイオケミファ」という部門があり、食品加工用の機能性酵素の開発において世界的なリーダー企業の一つです。彼らが提供するタンナーゼ(タンニン分解酵素)は、茶飲料の製造工程には欠かせない存在となっており、私たちが日常的にコンビニエンスストアやスーパーマーケットで手にするクリアで美味しいペットボトルのお茶は、この酵素技術なしには実現しなかったと言っても過言ではありません。


この酵素の最大の特徴は、植物に含まれる複雑なポリフェノール成分に対して、ピンポイントで化学的な作用を及ぼす点にあります。農業生産者として、栽培だけでなく加工のメカニズムを知ることは、ご自身の作物の可能性を広げることにつながります。本記事では、このタンナーゼがどのように働き、どのように農産物の価値を高めるのか、その詳細なメカニズムと活用法について深掘りしていきます。


仕組み 渋味の分解と没食子酸の切り離し


なぜお茶や一部の植物性飲料は、時間が経つと渋味が強調されたり、嫌な雑味が出たりするのでしょうか。その原因の多くは、植物に含まれる「タンニン」と呼ばれる成分の構造にあります。特に茶葉に含まれるカテキン類の一部(エピガロカテキンガレートなど)は、分子内に「没食子酸(ぼっしょくしさん)」という成分が結合した「ガレート型カテキン」として存在しています。このガレート基がついているカテキンは、強い収れん味(舌が縮まるような渋味)や苦味の原因となります。


キッコーマンのタンナーゼは、この化学構造に対して非常に特異的な働きをします。専門的な用語で言うと、「デプシド結合」を加水分解する能力を持っています。


  • 酵素の作用点:カテキン分子と没食子酸をつないでいる結合部(エステル結合)のみを切断します。
  • 反応の結果:強い渋味を持つ「ガレート型カテキン」が、渋味の少ない「遊離型カテキン」と「没食子酸」に分かれます。
  • 味の変化:お茶本来の旨味や香気成分、そして覚醒作用のあるカフェインなどはそのまま残しつつ、不快な渋味だけが選択的に低減されます。

タンナーゼ | キッコーマンバイオケミファ
参考)
タンナーゼ

上記リンク先では、キッコーマンのタンナーゼ(KTFHR、KT05Rなど)がどのようにデプシド結合を分解するか、メーカーの公式スペックとして詳細に解説されています。


この「分解」というプロセスは、単に味を変えるだけではありません。物理的なろ過や吸着剤を使った処理では、渋味成分と一緒に大切な旨味や香りまで取り除いてしまうリスクがありますが、酵素による分解処理なら、必要な成分を残したまま、ターゲットとする渋味成分だけを構造的に変化させることができるのです。これは、こだわりの農産物を加工品にする際、素材の良さを殺さずに飲みやすくするための非常に合理的な手段と言えます。


効果 茶飲料のクリームダウンと混濁防止

農産加工、特に飲料化において避けて通れない問題の一つに「クリームダウン」があります。これは、温かい状態では透明だったお茶やハーブティーが、冷却されると白く濁ってしまう現象のことです。農業祭や直売所で自作のお茶を販売しようとした際、ボトリングしたお茶が白く濁ってしまい、見た目の品質が悪くなってしまった経験をお持ちの方もいるかもしれません。


クリームダウンの主な原因は、お茶に含まれる「カフェイン」と「ガレート型カテキン」が、冷えることで複合体を形成し、水に溶けきれなくなって析出することにあります。ここで再び、タンナーゼの分解能力が威力を発揮します。


  1. 複合体の破壊:タンナーゼによってカテキンから没食子酸が切り離されると、カテキンの構造が変化します。
  2. 親和性の低下:構造が変わったカテキン(遊離型カテキン)は、カフェインと結合しにくくなります。
  3. 溶解性の維持:結果として、液温が下がっても成分同士が結びついて巨大な粒子になることがなく、液体の中に溶けた状態を維持できます。

これにより、冷蔵庫で冷やしても、あるいは氷を入れても、クリスタルのように透明な液色を保つことが可能になります。消費者は飲み物の「見た目」から清涼感や品質を判断する傾向が強いため、混濁を防止することは商品価値を決定づける重要な要素です。特に、高単価で販売したいプレミアムな茶飲料や、ガラス瓶に入れたギフト用の加工品においては、この透明度が商品の格を左右します。キッコーマンのタンナーゼを使用することで、大規模な工業プラントでなくとも、プロ品質の透明な飲料製造への道が開かれます。


独自活用 ヤーコンや地域特産品の加工で味質改善

ここまではお茶の話が中心でしたが、実はタンナーゼ(およびそれに関連する酵素活性)の活用は、お茶だけに留まりません。ここで検索上位の記事にはあまり書かれていない、農業生産者ならではの独自視点として、「ヤーコン」やその他の地域特産品の加工における味質改善について紹介します。


ヤーコンは「オリゴ糖の塊」とも呼ばれる健康野菜ですが、これをジュースやシロップに加工しようとすると、特有のえぐ味や黒ずみが課題になります。このえぐ味の原因の一つに「クロロゲン酸」などのポリフェノールがあります。実は、キッコーマンの酵素製剤(タンナーゼや関連するクロロゲン酸エステラーゼ)は、このクロロゲン酸の分解にも寄与することが研究で示唆されています。


  • 搾汁率の向上:酵素処理を行うことで、細胞壁や成分の結合が緩み、ジュースの搾れる量(搾汁率)が向上するケースがあります。
  • 機能性の維持:加熱処理だけでは失われがちなオリゴ糖などの機能性成分を保持したまま、不快な味だけを取り除くことができます。
  • 特産品開発への応用:ヤーコンに限らず、渋柿の加工や、アクの強い山菜、未利用の果実(摘果した青い果実など)を飲料化する際にも、タンニン分解酵素の技術は応用できる可能性があります。

ヤーコン搾汁液における酵素処理およびアルカリ加熱処理の影響
参考)https://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/seika/jyouhou/H21/yasai/H21yasai008.pdf

この研究レポートでは、キッコーマンの酵素製剤を使用することで、ヤーコン搾汁液の品質がどのように改善されるか、具体的なデータと共に解説されています。


このように、酵素を用いた処理は、単に「お茶を透明にする」だけでなく、これまで「味が悪い」「加工しにくい」として廃棄されていた農産物を、高付加価値な商品へと生まれ変わらせる鍵となる可能性を秘めています。これはまさに、農業の6次産業化を成功させるための「隠し味」ならぬ「隠し技術」と言えるでしょう。


特徴 麹菌由来のAspergillus酵素と安全性

最後に、食品に添加する酵素としての安全性とスペックについて触れておきます。農業生産者として、消費者に安心・安全なものを提供することは絶対条件です。キッコーマンのタンナーゼは、遺伝子組み換え微生物由来ではなく、古くから日本の醸造文化を支えてきた麹菌Aspergillus oryzae)の一種から生産されています。


醤油や味噌作りで何百年もの間、日本人が食してきた麹菌由来であるということは、消費者に対する大きな安心材料となります。さらに、現代の多様な食のニーズに対応するため、以下のような国際的な認証も取得しています。


  • Halal(ハラル)認証:イスラム教の戒律に則った食品であることを証明します。インバウンド需要や海外輸出を視野に入れた加工品開発にも対応可能です。
  • Kosher(コーシャー)認証:ユダヤ教の食事規定に適合していることを証明します(一部製品)。欧米市場では「安心・安全な食品」の代名詞としても認知されています。

また、酵素としての安定性も高く、pH4.5~6.5程度の弱酸性域(一般的な茶飲料や果汁のpH域)で最もよく働きます。温度帯も、極端な高温でなければ作用するため、既存の加工設備(タンクや加温機)を活用して導入しやすいというメリットもあります。


事例一覧 | キッコーマンバイオケミファ
参考)
事例一覧

実際にキッコーマンのバイオケミファ製品がどのような現場で使われているか、企業の導入事例を確認することができます。


農業の現場から生まれた作物を、化学合成添加物ではなく、自然由来の「酵素」の力で美味しくする。これは、環境負荷を低減しつつ、食の豊かさを追求する現代の農業スタイルに非常にマッチした手法です。「タンナーゼ」という聞き慣れない言葉の裏には、キッコーマンが培ってきた発酵技術と、農産物の可能性を広げる大きなチャンスが隠されています。




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