農業に従事されている方は、農薬による接触皮膚炎や、特定の植物(サクラソウやウルシなど)による植物性皮膚炎、あるいは長時間の屋外作業による「日焼け」に伴う皮膚トラブルなど、日常的に皮膚のリスクにさらされています 。皮膚のかゆみや炎症を抑えるために「ステロイド外用薬」を使用する機会も多いかと思いますが、その「強さ」や「ランク」について正しく理解されているでしょうか。ステロイド外用薬は、その作用の強さに応じて厳格にランク分けされており、使用する部位や症状の重さによって最適なものを選ばなければ、効果が得られなかったり、逆に副作用のリスクを高めたりすることになります 。特に、農作業で皮膚が厚く硬化している場合と、顔や首などの薄い皮膚とでは、薬の効き方が劇的に異なります 。ここでは、ステロイド外用薬の強さのランク一覧と、農業従事者が知っておくべき選び方のポイントを詳しく解説します。
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日本において、ステロイド外用薬(副腎皮質ホルモン外用薬)は、その血管収縮作用の強さに基づいて、以下の5つのランクに分類されています 。このランク付けは、患者さんが自己判断で選ぶ際の目安になるだけでなく、医師が処方する際にも最も重視される基準です。
この一覧からも分かるように、市販で入手できるのは「ストロング(III群)」以下の強さに限られています。農業の現場で遭遇する激しい毛虫皮膚炎(チャドクガなど)や、農薬による重度のかぶれで、市販のストロングランクを使っても改善しない場合は、より上位のランク(I群・II群)が必要な可能性があるため、迷わず皮膚科を受診することが重要です 。
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ステロイド外用薬を使用する上で、最も見落とされがちで、かつ重要な知識が「経皮吸収率」の部位差です。同じ強さの薬を塗っても、体のどの場所に塗るかによって、吸収される薬剤の量は全く異なります 。この吸収率の差は、主に角層(皮膚のバリア機能を持つ一番外側の層)の厚さに由来します 。
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アメリカの研究者フェルドマンらが示したデータ(ヒドロコルチゾンの吸収率比較)によると、前腕(腕の内側)の吸収率を「1」とした場合、各部位の吸収率は以下のようになります 。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/special_feature/6779
| 部位 | 吸収率の目安(腕の内側=1) | 注意点 |
|---|---|---|
| 陰嚢(陰部) | 42倍 | 非常に吸収されやすく副作用が出やすい。強いランクの使用は避ける。 |
| 下あご | 13倍 | 顔面は全般に吸収率が高い。原則ミディアム以下を選択する。 |
| 頬 | 13倍 | ステロイド酒さ(赤ら顔)などの副作用に注意が必要。 |
| 頭皮 | 3.5倍 | 比較的吸収が良いが、毛髪があるためローションタイプが好まれる。 |
| わき | 3.6倍 | 皮膚同士が擦れ合うため、薬剤が浸透しやすい。 |
| 背中 | 1.7倍 | 腕よりやや高い程度。 |
| 前腕 | 1.0倍 | 基準となる部位。 |
| 手のひら | 0.83倍 | 角層が厚く、薬が効きにくい。 |
| 足首 | 0.42倍 | 手のひらよりさらに吸収が悪い傾向がある。 |
| 足の裏 | 0.14倍 | 最も角層が厚い。強力なランクでないと効果が出にくい場合がある。 |
副作用のリスクについては、吸収率が高い部位ほど高まります。例えば、顔面にストロング以上の強いステロイドを長期間塗り続けると、皮膚が薄くなる(皮膚萎縮)、毛細血管が拡張して赤くなる、ニキビができやすくなる、といった局所的な副作用が現れやすくなります 。逆に、手や足の裏などは吸収率が極端に低いため、弱いランクの薬を塗ってもほとんど効果が得られないことがあります 。
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農業従事者の場合、特に注意が必要なのは「首元」や「顔」です。タオルを巻いたり、日焼け止めを塗ったりする部位ですが、汗で蒸れやすく、皮膚も薄いため薬が吸収されすぎることがあります。一方で、土や農具を扱う「手」は非常に皮膚が厚くなっており、ここには十分な強さの薬が必要です。このように、「部位に合わせて薬のランクを変える」あるいは「同じ薬なら塗る量や回数を調整する」といった工夫が求められます 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/58/5/58_KJ00005648261/_pdf
ドラッグストアや配置薬でステロイド外用薬を購入する際、パッケージを見ても「強さ」が分かりにくいことがあります。市販薬を選ぶ際は、成分名を確認し、前述のランクと照らし合わせるのが確実です。
市販薬選びのフローチャート。
ステロイド外用薬に対する「怖い」というイメージの多くは、不適切な「長期連用」による副作用から来ています。しかし、用法用量を守れば、炎症を抑える最も優れた薬の一つです。適切な使用期間と回数の目安を知っておきましょう。
ここからは、一般的な検索結果にはあまり詳しく書かれていない、農業従事者特有の視点で解説します。長年の農作業によって、特に手のひらや指先、足の裏の皮膚が厚く、硬くなっている(角化している)方は多いのではないでしょうか。
前述の通り、正常な足の裏や手のひらでも、腕の内側の1/10〜1/7程度しか薬剤を吸収しません 。農作業でタコができたり、皮が厚くなったりしている「肥厚した皮膚」では、さらに吸収率が低下しています。
「ステロイドを塗った箇所を日光に当てると黒くなる(色素沈着する)」という噂を聞いたことがあるかもしれません。しかし、これは医学的には誤解です 。
参考)ステロイドを塗った後、日に当たるのはOK?【ベスタの小児科医…
農薬散布時や肥料を扱う際に、皮膚にトラブルが起きることがあります。この「農薬皮膚炎」には、アレルギー性と刺激性の2種類があります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm1952/35/1/35_1_16/_pdf
農業は体が資本です。たかが手荒れ、たかが湿疹と放置せず、ご自身の皮膚の厚さや作業環境に合った「適切な強さ」のステロイドを選び、短期間でしっかりと治すことが、長く現役を続ける秘訣と言えるでしょう。

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