ビニールハウスが暑くなる根本原因は、太陽光が被覆材を透過し、骨材や土壌、作物体に吸収されて顕熱(温度上昇)と潜熱(蒸散・蒸発)へ変わることにあります。 外部に遮光剤を塗布すると、そもそもの入射エネルギーを反射・散乱させるため、内部まで届く熱が減り、温度上昇を直接抑えられます。
遮光剤の多くは白色系の顔料や炭酸カルシウムなどを含み、可視光と熱線を乱反射させることで、遮光率に比べて体感以上に明るさを残しつつ温度を下げられる設計になっています。 一部の製品は「光合成に有効な光(PAR)」はできるだけ透過させ、温度上昇の原因となる近赤外線を選択的に反射するタイプで、遮光率をあまり上げずに日中の室温を1〜2℃程度下げられると報告されています。
参考)遮光塗料
高温対策の観点では、「どこで」太陽光を止めるかも重要です。 外部遮光はハウスに入る前に光をカットするため、内部骨材やフィルム自体の温度上昇も抑えられ、内部遮光よりも昇温抑制効果が高いとされています。 一方で内部遮光は、ハウス内に一度入った光を途中で遮るため、外部ほどの温度低下は得られないものの、施工が簡単で開閉もしやすいという利点があります。
参考)https://www.takii.co.jp/material/sunshade/pdf/all_pages.pdf
ただし、遮光すればするほど良いわけではなく、曇天時や朝夕の弱い日射まで削ってしまうと、光合成が低下して生育が鈍るリスクがあります。 特に好光性の高いトマトなどでは、過度な遮光で収量や糖度が落ちるケースも指摘されており、温度だけでなく「必要光量」とのバランス設計が求められます。
参考)農業用遮光ネットの選び方!最適な遮光率と効果とは?
高温対策として遮光剤だけに頼らず、側窓や天窓の換気、ミスト冷却や循環扇などと組み合わせて「総合的な暑さ対策」として考えると、より安定した環境づくりが可能です。 遮光剤は「日射をどこまで減らすか」を担うパーツとして位置付け、換気や潅水と合わせて設計する視点が、近年の技術資料でも強調されています。
参考)https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/058/706/kouontaisaku.pdf
ハウスの高温対策の理屈や資材全般を体系的に整理した技術資料として、静岡県がまとめた技術集は遮光剤を含む複数の手法を比較しており、設計の参考になります。
施設園芸における高温対策技術集(静岡県)
農業用遮光資材のカタログや解説では、作物や用途ごとにおおよその遮光率の目安が示されています。 例えば、野菜類全般では20〜50%、鉢花・アスパラガス・イチゴでは30〜70%、観葉植物やキノコ類、かぶせ茶では50〜90%といった範囲が挙げられています。
より具体的には、トマトは光を多く必要とするため、遮光ネットを開閉できる場合は遮光率50%程度、開閉できない場合は30%未満が目安とされています。 一方、アスパラガスやイチゴ育苗では、光飽和点が低く日焼けしやすいため、遮光率40〜50%程度が推奨されるケースが多く、キュウリの夏どり栽培では35%前後の遮光が紹介されています。
代表的なハウス用遮光剤の例として、アキレスの「ファインシェード」は、水で約8倍に希釈し、1缶で800〜1000㎡程度に散布できる製品で、遮光率は20〜30%に設計されています。 イノチオグループのQシリーズやReduHeatなどの塗布材は、希釈率を変えることで遮光率を自由にコントロールでき、65%以上の強い遮光にも対応しつつ、光合成に有効な光を多く透過させるタイプもあります。
参考)遮光剤や誘引紐のことなら|遮光剤(温暖化高温対策として) 農…
以下のような目安表を作っておくと、遮光ネットと遮光剤を組み合わせる際の判断材料になります。
| 作物・用途 | 推奨遮光率の目安 | ポイント |
|---|---|---|
| トマト(夏場果菜) | 30〜50% | 開閉式なら50%程度、固定なら30%未満で強光を活かしつつ果実焼けを防ぐ。 |
| キュウリ(7〜8月栽培) | 35%前後 | 高温期の葉焼けを抑えつつ収量を落とさないバランス設定。 |
| イチゴ(育苗・夏場) | 40〜50% | 若い苗の焼け対策と病害リスクを考え、やや高めの遮光率が推奨される。 |
| 観葉植物・ラン類 | 50〜70% | 弱光性のため強い直射を避け、柔らかい乱反射光を確保する。 |
| 短期育苗ハウス(夏場) | 40〜60% | 自然剥離型遮光剤で1か月程度の遮光を行い、その後は透光性を回復させる運用も可能。 |
遮光剤選びでは、単に「何%カットするか」だけでなく、「どの波長をどこまで透過・反射するか」が重要です。 熱線に相当する近赤外線はしっかりカットしつつ、光合成に効く可視域はなるべく残すタイプの遮熱・遮光剤なら、遮光率を抑えながらも日中の室温を下げられるため、果菜類の品質維持に有利です。
参考)https://inayoshi-seed.co.jp/pdf/engei_vol33_report.pdf
あまり知られていないタイプとして、晴天時は約58%遮光、雨天時は水滴のレンズ効果で透過率が高まり、実質遮光率が約18%まで下がる特殊な遮光剤があります。 このような製品は西日本のように日射が強く、かつ降雨が多い地域で採用されており、「晴れた日はしっかり守り、雨の日は光を通す」というメリハリの効いた運用ができるのが特徴です。
参考)農業資材の遮光剤とはどんなもの?特徴や遮光率について
遮光率を決める際は、地域の気象(夏の最高気温・日照時間)、栽培時期、品種の光要求度を整理し、必要なら試験ハウスや一部ベイだけ遮光率を変えて比較する「小さな実験」から始めると失敗リスクを下げられます。 同じ遮光率表示でも、白色系で乱反射の多い資材は、数字以上に明るく感じることが多い点も頭に入れておくと、導入後のギャップを減らせます。
参考)本質の高温対策とは?ハウスの暑さ対策について専門家に聞きまし…
遮光ネットや遮熱資材をカタログベースで比較したい場合、種苗会社の資料は作物別・遮光率別に一覧になっており、現場での目安作りに役立ちます。
遮光・遮熱/高温対策資材カタログ(タキイ種苗)
遮光剤は、ほとんどの製品が「水で数倍〜十数倍に希釈して、ハウス屋根の外面に均一に吹き付ける」使い方になっています。 例えばファインシェードは水で約8倍に希釈し、1缶で800〜1000㎡に散布できるとされており、動力噴霧機や専用の吹き付け機を用いて塗布します。
塗布前の下準備として、ハウスの被覆材表面の汚れをよく落とし、乾いた状態で施工することが各社共通の注意点として挙げられています。 新品フィルムは表面処理の影響で塗料が定着しにくいことがあり、数回の降雨で表面がなじんでから塗布した方がムラが出にくいとされるケースもあります。
参考)遮熱塗料が効果的!夏の暑さから農作物を守ろう
実際の散布作業に必要な道具は、次のようなものが中心になります。
散布条件としては、「風の弱い晴天日」を選ぶことが重要で、風が強いと飛散やムラの原因になり、乾きが悪いと垂れや流亡が増えてしまいます。 高温時に屋根に上がる作業は熱中症リスクもあるため、近年は地上からの散布や、ドローンによる空中散布の事例が増えてきました。
参考)スマート農業最前線:ドローンによる遮光・遮熱剤散布が切り開く…
ドローン散布対応の遮光剤としては、アキレスの「ファインシェードスカイ」など、ビニールハウス屋根に適した粘度と付着性を持つ製品が紹介されています。 1缶約9kgで約500㎡の吹き付けが可能とされており、中〜大規模ハウスの高所作業を省力化しつつ、作業者の安全性向上にもつながるとされています。
参考)遮光・遮熱塗料|ビニールハウス特集 – 農家のお店おてんとさ…
行政や研究機関の取り組みとして、農林水産省の事例集でも「ハウス屋根の遮光剤・洗浄剤をドローンで散布することで、高齢化や担い手不足への対策とする取り組み」が紹介されており、スマート農業の一環として位置付けられています。 こうした事例では、作業時間の削減だけでなく、散布ムラの低減や、危険な屋根上作業の削減といった効果も報告されています。
参考)SAc WEB
シーズンが終わり遮光が不要になった段階で、遮光剤をどのように除去するかは、翌シーズンの光環境を左右する大事なポイントです。 残った遮光膜や汚れを落とさないまま冬を迎えると、被覆材の透光性が大きく低下し、日照不足による生育不良を招くおそれがあります。
多くのメーカーは、自社遮光剤に対応した専用除去剤を用意しており、例えばQシリーズの遮光剤は「リムービット」という除去剤で簡単かつきれいに剥離できると説明されています。 アキレスの「ファインシェード除去剤」も、ファインシェードを被覆材から落とすための専用品であり、使用後は太陽光の透過性が吹き付け前に近い状態まで戻せるとされています。
参考)ファインシェード除去剤
除去作業の基本的な流れは、次のようなステップが参考になります。
ドローンによる除去剤散布サービスを提供する事業者もあり、「残った遮光・遮熱剤やハウスの汚れをきれいに洗浄することで、冬季のハウスをより明るくできる」と紹介されています。 通年でビニールを張り替えないハウスでは、こうした洗浄を定期的に行うことで、被覆材寿命の延長や、病害の発生リスク低減にもつながると期待されています。
参考)https://www.maff.go.jp/kyusyu/miyazaki/attach/pdf/index-7.pdf
意外なポイントとして、除去剤や洗浄剤の散布そのものも「ハウス構造への負荷」となり得るため、水量や圧力を上げすぎるとフィルムや骨材へのダメージにつながることがあります。 特に老朽化した農ビでは、事前に小面積でテストし、問題がなければ全体施工に進むといった慎重な手順が推奨されます。
また、除去作業のタイミングも重要で、秋〜冬にかけて日照が不足しやすい地域では、できるだけ早めに遮光剤を落としておく方が、作物の光合成を確保しやすくなります。 一方で、秋口にまだ高温が続く地域では、遮光剤を一部だけ残して段階的に除去するなど、地域と作型に応じた柔軟な運用も検討できます。
ここ数年、ハウス内の温度・湿度・CO2濃度・照度などを一体で計測できる環境センサーユニットが普及しつつあり、スマート農業の入り口として導入する農家が増えています。 こうしたユニットは、センサーを遮光ボックスの中に収納し、ファンで強制通風しながら測定することで、直射日光の影響を避けつつ、より正確な温湿度データを取れる構造になっています。
環境制御システムでは、ハウス内の温度・照度・湿度・CO2濃度などをセンサーで取得し、そのデータをパソコンやインターネット経由でスマートフォンから確認しながら、天窓やカーテン、循環扇、CO2施用装置などを自動制御する仕組みが一般的です。 特にCO2制御では、換気窓の開度に応じて目標濃度を変える技術が実用化されており、換気によるCO2ロスを抑えながら光合成を効率的に高める運用が行われています。
参考)農業資材事業|日新商事株式会社
遮光剤と環境センサーを組み合わせると、「どの遮光率が最も収量と品質のバランスが良いか」をデータで検証できるのが大きなメリットです。 例えば、遮光剤を塗布したハウスと、塗布していないハウスで、日中の温度推移・葉温に近い気温・CO2濃度・照度を比較し、さらに収量と食味を記録することで、自分の地域と品種に合った最適な遮光率を見つけやすくなります。
参考)米を守る!高温障害対策で収量と品質をアップさせる方法 - ア…
現場レベルでも取り入れやすい工夫として、まずは安価なロガー型センサーを数台設置し、遮光剤の有無や希釈倍率を変えたベイで、「何度温度が下がり、どれくらい光が落ちたか」を1シーズン記録してみる方法があります。 その上で、効果が大きかったパターンを翌年以降の標準にしていけば、感覚頼みだった遮光調整を、徐々に「数字に基づいた設計」にシフトさせることができます。
参考)農家の皆様必見!ビニールハウスの暑さ対策 - 遮熱材「サーモ…
さらに進んだ事例では、ハウス内に設置したセンサーボックスでCO2濃度を常時モニタリングし、遮光剤で高温を抑えつつ、CO2施用によって光合成を最大化する制御システムも導入されています。 遮光で日射を一部カットしても、温度とCO2を適切に制御することで、結果的に収量アップにつなげるという発想は、これからのスマートグリーンハウス設計の一つの方向性と言えます。
参考)https://jgha.com/wp-content/uploads/2024/04/TM06-05-bessatsu2.pdf
スマートグリーンハウスの導入事例や、どの程度の規模・コスト感で環境センサーを入れられるかを知りたい場合、農林水産省や業界団体がまとめた手引きが参考になります。
参考)https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/hukyu/h_zirei/brand/attach/pdf/201023_3-40.pdf
スマートグリーンハウス転換の手引き(導入のポイントと優良事例)