ペットボトル水耕は、現場の資材調達が容易で、試作→改善の回転が速いのが利点です。特にせりは「根つきの株元」さえ確保できれば立ち上がりが早く、家庭菜園の域を超えて“小ロット検証”にも向きます。スーパー由来の根つき株を使える点も、導入障壁を下げます。
まず、容器設計の基本は「根を支える部材」と「培養液を溜める部材」を分けることです。一般的には、ペットボトル上部を逆さにして下部へ差し込む形にすると、苗(または株元)が固定しやすく、液面の観察もできます。透明であることは管理上のメリットですが、同時に藻のリスクが跳ね上がります。培養液に光が当たると藻が生えやすいので、ペットボトルカバーやアルミホイル等で遮光するのが定石です。遮光は見た目の問題だけでなく、生育への悪影響を避ける目的があります。
遮光のコツは「側面だけでなく底まで」です。窓辺やハウス内の反射光で底面に藻が出ることがあるため、底も含めて隙間なく覆う意識が必要です。アルミホイルは遮光できるだけでなく、反射で光量を植物側に戻す狙いも組めるので、コスト対効果が高い素材です。
作業の安全面も軽視できません。ペットボトル加工は刃物を使うので、農作業用手袋・カッターの方向・切り口のバリ処理(テープを巻く等)を標準手順に入れると、ケガによる作業停止を減らせます。小さな改善ですが、現場ほど効きます。
藻が出た場合の対処は「遮光の再徹底」と「容器・培養液の洗浄」が基本で、薬剤に頼る前に環境要因を潰します。藻は養分バランスを崩し、水質悪化や酸素不足につながり得るため、発生させない設計が結局いちばん安いです。
参考:藻が出る理由と遮光(アルミホイル等)の具体策(ペットボトル水耕の遮光)
https://madovege.com/for-beginners/hydroponics-plastic-bottles/
水耕トラブルの多くは「肥料」より先に「酸素不足」で起きます。特にせりは水辺性のイメージが強いので、水位を高くしがちですが、根が呼吸できない設計は失敗が早いです。
実務的な水位の目安は、根の半分~3分の2が浸かる程度で、根元は空気に触れるようにします。根元3cm程度は空気に触れるように、という考え方も提示されています。これは、根の一部を空気に触れさせて酸素供給を確保するためです。水温が上がるほど溶存酸素が減り、弱りやすくなる点も重要で、夏場ほど「水位を上げない・水を澱ませない」が効きます。
水替え頻度は、管理環境で変えます。基本として、培養液が濁ったら交換し、容器も洗うのが安全側です。定期交換の目安として、3日ごとに培養液を交換する運用例もあり、少なくとも初期立ち上げ(根が動き始めるまで)は“交換多め”のほうが事故率が下がります。
ここで意外に効くのが「根に光を当てない」ことです。透明容器は根が観察できて便利ですが、根域への光は藻だけでなく根の状態悪化にもつながりやすいので、観察用の窓を一部残す程度にして、基本は遮光します。
また、エアレーション(熱帯魚用エアポンプ等)は設備としては小さいですが、酸素供給の安定性を上げます。ペットボトル規模では必須ではないものの、夏場・高密度・交換頻度を下げたい運用では検討価値があります。
参考:せり水栽培の水位・水温と酸素の注意点(根元を空気に触れさせる、水替え)
https://www.noukaweb.com/water-dropwort-hydroponics/
せりの環境設計は、極端に言うと「暑さを避け、乾燥させない」です。生育温度は15~25℃が目安で、夏の高温・乾燥は苦手です。耐寒性はあるものの、10℃以下では成長が鈍るため、冬の生産性を上げたい場合は室内・簡易保温・置き場所の工夫が効きます。
置き場所は、直射日光を避けた“明るい日陰”が扱いやすいです。直射日光は水温上昇を招き、結果として溶存酸素低下→根の弱り、さらに藻の増殖条件まで揃います。水耕のペットボトルは小容量なので、温度のブレがそのまま根に来ます。夏に枯れる人が多いのは、根が悪いというより、容器の熱設計が悪いケースが目立ちます。
農業従事者向けの現実解としては、遮光に加えて「置き場の熱源を避ける」が重要です。コンクリートの照り返し、機械室の熱気、窓際の直射、ハウスの南面など、熱だまりを避けます。ペットボトルを束ねて運用するなら、外周が熱を受けやすいので、外周列だけでも二重遮光するなどの“ムラ対策”が収量ムラを減らします。
なお、せりは乾燥が苦手である一方、空気が全く動かない環境もトラブル源になります。蒸れで病気が出やすくなるため、室内なら弱い送風・換気で湿度を維持しつつ空気を動かす設計が無難です(強風で乾かすのは逆効果)。
参考:せりの生育温度15~25℃、暑さと乾燥に弱い、直射日光は水温上昇・藻の原因(置き場所)
https://www.noukaweb.com/water-dropwort-hydroponics/
せりは土栽培では強健で、肥料が多くなくても成立しやすい一方、水耕では“水が土の代わり”なので、栄養がゼロだと長期収穫は伸びません。水耕栽培では土から栄養を取れないため、水耕用の液体肥料を使う必要がある、という整理が基本になります。
ただし、濃ければ良いわけではありません。水耕の濃度管理ではEC(肥料濃度の目安)とpH(吸収しやすさの目安)が重要で、pHは5.5~6.5の範囲が多くの作物で推奨される、といった一般論があります。ECも作物や生育段階で変わりますが、水道水でも0.2~0.5 mS/cm程度、栄養溶液は0.8~3.0 mS/cm程度というレンジの説明があり、まずは“薄めで回して観察する”のが事故が少ないです。
ペットボトル運用では、計測機器の導入コストがネックになりがちですが、ECメーターとpH試験紙(またはpHメーター)は投資対効果が高い部類です。理由は単純で、目視できない要因(薄すぎ・濃すぎ・pHのズレ)を早期に切り分けでき、原因不明の枯れを減らせるからです。
意外と見落とされるのが「水質」です。水道水の地域差、貯め水の劣化、夏場の温度上昇は、同じ肥料量でも体感として“濃すぎる・吸えない”を引き起こします。水替えの頻度を上げる、遮光と温度管理を優先する、肥料は規定より薄めから始める——この順で整えると、せりは安定しやすくなります。
参考:水耕でpHは5.5~6.5が重要(pHと吸収効率の基本)
https://www.nihonsupport.org/sumaishikaku/hydroponics/hydroponics-column07/
検索上位は「育て方の手順」中心になりがちですが、農業従事者の実益は“再収穫の設計”にあります。せりは株を残すと増えやすい性質があり、収穫時に親株を少し残しておくと親株から増えていく、という説明もあります。ペットボトルの小規模栽培でも、この考え方を入れると「一回収穫して終わり」から「何回か切って使う」へ移行し、コスト構造が変わります。
具体的には、最初から“全部を一斉に食べる前提”でなく、収穫後に再生する前提で株元を傷めない運用にします。株元7~8cm程度を残してカットして再生させる手順の考え方があり、これを守るだけで立ち上がりの安定性が上がります。根の白いものを選ぶ、根が茶色い個体は避ける、といった選別も再生成功率に効きます。
さらに、ペットボトル栽培は“均一化”が難しいので、複数ボトルで系統分けすると現場の判断が速くなります。例として、A群=肥料薄め+交換多め、B群=標準濃度、C群=遮光方法だけ違う、のように条件を分け、1~2週間で葉色・香り・根の張りを比較します。これにより、あなたの水質・置き場・季節に最適化された「勝ちパターン」が残ります。
最後に、衛生面の“意外な盲点”として、容器内壁のヌメリは根の異常より先に出ます。水替え時に容器を洗う運用が推奨されているので、これを省略しないことが、結果的に手間と廃棄を減らします。
参考:せりは株元を残すと増える、植え付け・収穫時期の考え方(再収穫のヒント)
https://tokyo-kotobukien.jp/blogs/magazine/74294