生産方式革新実施計画 認定制度概要と税制金融支援等

スマート農業技術活用促進法に基づく生産方式革新実施計画の認定制度を整理し、申請手続きや税制・金融支援の実務的な活用方法を農業経営にどう生かせるか考えてみませんか?

生産方式革新実施計画 認定と概要

生産方式革新実施計画 認定の全体像
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スマート農業と新たな生産方式

生産方式革新実施計画は、スマート農業技術の活用と新たな生産方式の導入をセットで行い、農業生産性の向上を目指す認定制度です。

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税制・金融面の手厚い支援

認定を受けた計画では、特別償却などの投資促進税制や日本政策金融公庫による長期低利融資などの支援措置を活用できます。

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地域DXと持続可能な経営

データ活用や農業DXの取組と組み合わせることで、労働力不足への対応や環境負荷の低減、地域ブランド強化にもつなげられます。

生産方式革新実施計画 認定制度の概要と目的

生産方式革新実施計画は、「農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律(スマート農業技術活用促進法)」に基づく、農林水産大臣の認定を受ける計画制度です。
この制度では、スマート農業技術の導入と、これに合わせた新たな生産方式の導入を相当規模で同時に行うことが求められ、農業の労働生産性を大きく引き上げることが目的とされています。
同法にもとづく認定制度には、「生産方式革新実施計画」と「開発供給実施計画」という二つの枠組みがあり、前者は農業者等の現場での生産活動、後者は技術開発や普及を担う事業者向けに設計されています。

 

参考)スマート農業技術に適した生産方式への転換! 持続的な農業に向…

生産方式革新実施計画は、農業者やその団体(JAなど)が、自らのほ場や施設で行う事業活動を対象としており、スマート農業機械やICTツールの導入だけでなく、作業体系・栽培方式の抜本的な見直しまで含めて計画に落とし込む点が特徴です。

 

参考)スマート農業技術活用促進法の使い方ガイド 優遇税制と融資を活…

認定件数は制度開始直後から徐々に増加しており、最新の公表資料では全国で数十件規模の計画が認定されていることが確認できます。

 

参考)生産方式革新実施計画の認定状況について:農林水産省

一部の計画では、ロボットトラクタや自動給餌機の導入と合わせて、労務管理や販売データも一体でデジタル化するなど、単なる省力化にとどまらない経営改革の実証フィールドとして活用されている点も注目されています。

 

参考)https://www.maff.go.jp/tohoku/seisan/smart/attach/pdf/forum2024-5.pdf

制度の公式な位置付けや最新の認定状況を詳しく確認したい場合は、農林水産省の公表ページが最も網羅的です。

農林水産省「生産方式革新実施計画の認定状況について」

生産方式革新実施計画 認定基準と対象事業活動

生産方式革新事業活動として認定されるには、計画全体で農業の労働生産性(付加価値額を労働投入量で割った指標)が一定以上向上する目標を設定することが求められ、代表的には5%以上の向上が基準とされています。
また、スマート農業技術による省力化や精密管理の効果が数値で示され、計画期間内に無理のない投資回収が見込めることも重要な審査ポイントです。
対象となる事業活動は、露地野菜、果樹、水稲、畜産など幅広い分野に及びますが、「スマート農業技術の活用」と「新たな生産方式の導入」がセットで計画されていることが必須条件です。

 

参考)スマート農業 - 埼玉県

たとえば、圃場センサーや自動潅水システムの導入と同時に、作付け体系の見直しや夜間灌水への移行など、作業時間帯や作業頻度そのものの再設計まで踏み込んでいるかどうかが問われます。

 

参考)https://www.maff.go.jp/kyusyu/press/kankyo/attach/pdf/250619-6.pdf

特別償却などの投資促進税制の対象とする場合には、生産方式革新事業活動が経営全体の総作付面積または総売上高の概ね8割以上を占めることなど、追加の要件が定められています。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/houritsu-144.pdf

これにより、単発の機械導入だけでなく、事業全体を通じた生産方式の抜本的な転換が伴っているかどうかが税制上もチェックされる仕組みになっています。

 

参考)https://nn-tsushin.jp/wp/wp-content/uploads/2024/11/02_%E5%8F%82%E8%80%83%E8%B3%87%E6%96%99.pdf

代表的な認定基準と、そのチェック観点を整理すると次のようになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

認定基準の観点 具体的なチェック内容の例
労働生産性の向上 計画全体で労働生産性が5%以上向上する数値目標を設定し、その根拠となる作業時間削減や収量増加の試算を示しているか。
スマート農業技術の活用 自動操舵トラクタ、ドローン、防除ロボット、環境制御システムなどの導入内容が明記され、既存の作業体系とどう組み合わせるかが説明されているか。
新たな生産方式の導入 作付け体系の変更、栽培ベッドの高密度化、多段階出荷など、従来と異なる生産方式が導入され、その狙いと効果が整理されているか。
事業活動の規模と経営全体への波及 認定対象となる事業活動が総作付面積や総売上高の大部分を占め、経営全体の省力化・高収益化に波及すると説明できているか。

こうした基準を満たすためには、単に最新機械のカタログスペックを並べるだけでなく、現場のボトルネック(夜間作業の負担、繁忙期のピーク人員、出荷のバラツキなど)を洗い出し、技術導入との対応関係を丁寧に書き込むことが欠かせません。

 

参考)スマート農業について・実施事例【自治体事例の教科書】

結果として、認定を目指すプロセスそのものが、自農場の「見える化」と経営診断の機会になっているという声も出始めています。

生産方式革新実施計画 申請手続きと事前相談のポイント

生産方式革新実施計画の申請にあたっては、まず地方農政局などの相談・申請窓口に対して事前相談を行うことが推奨されています。
農林水産省が公表している申請フローでも、事前相談、認定申請、審査・認定、実施、フォローアップという一連のステップが整理されており、準備期間を含めて一定の時間的余裕を持ったスケジュールが求められます。
事前相談の段階では、計画書の素案や導入予定機械のリスト、労働生産性の向上見込みなどを持参し、基本方針と整合しているか、対象となるスマート農業技術に該当するかなどについて助言を受けることができます。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/houritsu/attach/pdf/241017-6.pdf

先行する他制度(先端設備等導入計画など)と同様に、事前相談でのすり合わせにより、後の申請書修正や手戻りを減らす効果が期待されています。

 

参考)https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/seisansei/01_gaiyou/1-1_03_qa.pdf

申請書提出時には、計画書本体に加え、経営の現状分析資料、投資計画・資金計画、導入機械のカタログや見積り、既存補助事業との関係整理など、多数の書類が必要になります。

 

参考)生産方式革新実施計画の申請・認定に関する情報(相談・申請窓口…

スマート農業技術を活用する補助事業の採択と合わせて申請されるケースもあり、その場合は補助事業の公募要領と計画認定基準の双方を満たすよう、記載内容の整合性を意識することが重要です。

 

参考)https://ipcsa.naro.go.jp/smart/uploads/2025/IPCSA_contents_01_202507.pdf

実務上のポイントとしては、次のような点が挙げられます。

 

     

  • 労働生産性などの指標は、現状値と将来目標値の算定方法を統一し、根拠となる計算シートを別添しておくと審査側の理解が得やすくなります。
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  • スマート農業技術の効果は、単位面積あたりの反収や作業時間、燃料消費など、複数の観点から整理することで、単なる人件費削減に偏らない説得力のある説明になります。
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  • 地域のスマート農業推進組織や普及指導センターと連携し、同地域の他事例と比較して過大・過小な前提になっていないかを客観的にチェックしてもらうと安心です。
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  • 税制特例や金融支援を併用する場合は、税理士や金融機関とも早めに情報共有し、償却計画や返済計画に無理がないか確認しておくことが肝心です。

こうした準備を丁寧に行うことで、審査側との認識のズレを減らし、結果として認定後のモニタリングや変更申請もスムーズに進めやすくなります。

 

参考)生産方式革新実施計画(各種様式など):農林水産省

とくに大規模投資を伴う計画では、認定取得の可否が資金調達全体の前提にもなるため、早い段階から関係者を巻き込んだ「チーム申請」を意識したいところです。

生産方式革新実施計画 認定による税制・金融支援のメリット

生産方式革新実施計画の認定を受ける大きなメリットの一つが、投資促進税制としての特別償却を活用できる点です。
農林水産省の資料では、生産方式革新事業活動に必要な機械等について、取得額の一定割合(機械等32%、建物等16%など)を特別償却として計上できる仕組みが示されており、償却前倒しによる節税効果が期待できます。
さらに、日本政策金融公庫が用意する「スマート農業技術活用促進資金」などの長期低利融資は、生産方式革新実施計画または開発供給実施計画の認定を受けた事業者を主な対象としています。

 

参考)スマート農業技術活用促進法による新たな支援制度 - 埼玉県

据置期間や償還期間が通常より長めに設定されているため、大型機械やITインフラへの投資負担を平準化し、キャッシュフローを安定させながら経営改善を図ることができます。

また、行政手続きのワンストップ化や、関連補助事業での加点・優遇、地方公共団体による上乗せ支援など、認定を「共通の入口」として各種支援策を束ねる運用も検討・実施されています。

 

参考)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai34/shiryou16-12.pdf

これにより、個別に情報収集していたころに比べ、農業者側の事務負担や制度理解のコストが抑えられ、結果として投資判断を行いやすい環境が整いつつあります。

税制・金融・その他支援を整理すると、主な内容は次のようにまとめられます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

支援の種類 主な内容
税制優遇 生産方式革新事業活動に必要な機械・建物等に対する特別償却などの投資促進税制を適用可能(適用期限や割合は告示等で指定)。
金融支援 日本政策金融公庫のスマート農業技術活用促進資金など、長期低利融資の利用が可能で、据置期間・償還期間も柔軟に設定されている。
補助事業での優遇 スマート農業関連の補助事業で、認定計画に基づく取り組みが加点対象や重点採択対象となる場合がある。
行政手続きの簡素化 相談・申請窓口の集約やワンストップ化により、複数制度の申請・報告を一体的に進められるよう工夫されている。

こうした支援メニューをフル活用するためには、「どの投資にどの税制・金融措置が使えるのか」を早い段階で一覧表にしておき、投資金額と償却・返済スケジュールをシミュレーションしておくことが実務上は有効です。

経営改善計画や中期の設備更新計画と結びつけて検討することで、単年度の補助金頼みではない、持続的なスマート農業投資の筋道が描きやすくなります。

生産方式革新実施計画 スマート農業技術活用と地域DXの実践例

生産方式革新実施計画の中身を見ると、自動操舵トラクタやドローン散布、ハウスの遠隔環境制御など、典型的なスマート農業技術に加え、クラウド型営農管理システムやAIを活用した病害虫診断ツールなども組み合わせた事例が増えています。
こうした技術群を一体的に導入することで、作業の省力化だけでなく、作付け計画や施肥設計、出荷調整などの意思決定をデータにもとづいて行う「経営のDX」が進んでいます。
自治体レベルでは、スマート農業推進方針や農業DX戦略を掲げ、実証ほ場や共同利用型のデータ基盤を整備しながら、生産方式革新実施計画の認定取得を後押しする動きも見られます。

 

参考)栃木県/とちぎのスマート農業・農業DX

たとえば、センサーやカメラから集約したデータを地域全体で共有し、気象変動リスクへの対応や災害時の早期復旧に役立てるなど、「地域インフラ」としての役割をスマート農業技術に持たせている事例も報告されています。

地域DXの観点で興味深いのは、生産方式革新実施計画の認定をきっかけに、流通や観光、福祉分野との連携が広がるケースです。

 

参考)農業DXとは?現状や課題、スマート農業との違いなどを解説

生産現場で得られたデータを活用し、地域ブランド野菜のストーリーづくりや、フードロス削減を意識した受注生産型の仕組みを構築するなど、従来は分断されていたプレーヤー同士の協働が進んでいます。

独自の視点としては、生産方式革新実施計画を「人材育成プログラム」として位置づける発想が挙げられます。

 

スマート農業機械の操作研修やデータ分析の実践を、計画のKPIに組み込むことで、現場スタッフや地域の若手農業者にとっての「学びの場」として活用し、農業DX人材の育成と定着に結びつけることが可能です。

 

参考)農業DXで未来を耕そう!スマート農業の可能性を徹底解説 - …

その際には、次のような工夫を盛り込むと効果的です。

 

     

  • 生産方式革新実施計画の中に、操作研修回数やデータ活用ミーティングの実施頻度など、人材育成に関する具体的な指標をあらかじめ設定する。
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  • 地域の高校や専門学校、農業大学校と連携し、認定計画のほ場をインターンシップや実習のフィールドとして開放することで、次世代人材との接点を増やす。
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  • DXやスマート農業の成果を地域内で共有する報告会を定期開催し、行政・JA・民間企業など多様な関係者を巻き込んだ「学び合いの場」を設ける。

こうした取り組みを重ねることで、生産方式革新実施計画の認定は単なる補助金・税制活用の入口にとどまらず、地域全体の農業DXと人材循環を促すための中核的なプラットフォームとして機能していくことが期待されます。