農泊補助金で地域活性化を推進する施設整備と申請要件

農業従事者が農泊補助金を活用して収益向上を目指すには、どのような施設整備や申請要件を理解すべきでしょうか?

農泊補助金の制度概要と申請要件

この記事のポイント
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充実した補助金制度

農泊推進事業では最大500万円、施設整備では最大1億円の補助が受けられます

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地域協議会の設立が必須

自治体や観光協会を含む地域協議会を設立し、中核法人を位置づける必要があります

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事業期間と交付率

ソフト事業は定額補助、ハード事業は1/2補助で最大2年間の支援が受けられます

農泊補助金は、農林水産省が実施する「農山漁村振興交付金」の一環として提供される支援制度です。この制度は、地方への人の流れを加速化させつつ、持続的低密度社会を実現することを目的としており、農山漁村の活性化を図る重要な施策となっています。令和7年度の公募では、地域活性化型、農泊推進型、農福連携型の3つのタイプで支援が行われており、それぞれソフト事業とハード事業が用意されています。

 

参考)農泊で活用できる補助金「農山漁村振興交付金」とは?概要や活用…

農泊事業は平成29年度(2017年度)から本格的に開始され、令和5年3月時点で全国515地域が採択されるなど、着実に拡大を続けています。農山漁村に宿泊してその地域の自然や文化を体験する「農山漁村滞在型旅行」を推進することで、都市と農村の交流を促進し、農業従事者の新たな収入源確保につながる仕組みとなっています。

 

参考)https://www.nochubank.or.jp/efforts/report/newsletter/016/feature1/index.html

補助金制度の特徴として、推進体制の整備から施設整備まで幅広く支援する点が挙げられます。具体的には、観光コンテンツの開発、Wi-Fi等の環境整備、人材育成などのソフト事業に加え、古民家の改修や体験施設の整備などのハード事業も対象となります。この包括的な支援により、地域が一体となって農泊事業に取り組める環境が整備されています。

農泊補助金の交付率と上限額の詳細

農泊推進事業のソフト事業では、交付率が定額(100%)となっており、各年度の助成額上限は500万円に設定されています。事業期間は最大2年間となっているため、合計で最大1,000万円の支援を受けることが可能です。また、人材活用事業を活用する場合は、研修生で250万円、専門家招聘で650万円の上限が設定されています。

 

参考)ほどく行政書士事務所_令和7年度農泊補助金/農林水…

施設整備事業については、市町村・中核法人実施型と農家民泊経営者等実施型の2つの類型があります。市町村・中核法人実施型では、交付率が1/2で2カ年の助成額上限が2,500万円となっています。ただし、遊休資産を活用する場合で所定の条件を満たすと、上限が5,000万円または1億円に引き上げられる特例措置があります。

 

参考)農山漁村振興交付金(農泊推進対策(農泊推進事業、人材活用事業…

農家民泊経営者等実施型では、交付率が1/2で助成額の上限は5,000万円です。ただし、農家民泊経営者等の1名当たりの助成額上限は1,000万円に設定されています。中山間地域等において、地域の防災計画等と連携した避難所として農泊施設を活用する場合は、交付上限に200万円が加算される仕組みもあります。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/nouhakusuishin/pdf/nouhaku_jigyo_gaiyo.pdf

施設整備の対象となるのは、古民家等を活用した滞在施設、一棟貸し施設、体験・交流施設の整備などです。延べ床面積1平方メートルあたりの事業費上限は29万円と定められており、適切な事業規模の維持が求められています。

 

参考)https://www.soumu.go.jp/main_content/000729307.pdf

農林水産省の農山漁村振興交付金の公式ページでは、最新の交付率や上限額の詳細情報が確認できます

農泊補助金の申請に必要な地域協議会設立の条件

農泊補助金の申請には、地域協議会の設立が必須要件となっています。地域協議会とは、自治体や観光協会をはじめ、地域の様々な組織や団体が参画する協議体で、地域の意思統一を図りながら農泊事業を推進する役割を担います。この協議会の構成員として、農泊実施の中心的な役割を担う法人または当該法人になることが見込まれる団体を位置づけることが求められています。

 

参考)https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n2202re3.pdf

地域協議会の設立要件として、農業、林業、水産業の従事者に加え、観光事業者、宿泊施設運営者、地域住民、行政機関など多様な関係者の参画が必要です。これにより、農泊事業が地域全体の取り組みとして位置づけられ、各主体が連携しながら事業を進める体制が構築されます。

 

参考)https://www.maff.go.jp/kyusyu/keikaku/nouhaku/attach/pdf/240724-10.pdf

中核法人の役割は特に重要で、地域協議会の運営だけでなく、農泊事業全体のマネジメントを担当します。政府は一定期間内で地域をまとめる中核法人等の設立を義務付けており、日本版DMOなど地域の観光を担う新たな法人組織が中核を担うケースも増えています。中核法人は、宿泊施設の運営、体験プログラムの企画、マーケティング活動など、農泊ビジネスの持続的な運営を主導する存在となります。

地域協議会には、事前に地域内での協議・調整の場を設けることが求められており、農泊実践地域における体制整備の第一歩として位置づけられています。この協議会を通じて、地域資源の活用方法、受入体制の整備、収益配分のルールなどが決定され、地域全体で一体感を持って農泊事業に取り組むことが可能になります。

農泊補助金の申請手続きと必要書類

農泊補助金の申請は、毎年2月頃に公募が開始されます。令和7年度の場合、農山漁村振興交付金の公募要項に基づき、提出期限は公募開始から約3週間程度と短期間に設定されているため、事前準備が重要です。

申請に必要な主要書類として、農山漁村振興交付金事業実施提案書の作成が求められます。この提案書には、賃金や旅費、委託料などの具体的な経費に関わる必要事項を詳細に記入する必要があります。さらに、提案書の協定内容を示す文書や予算・決算に関わる資料なども添付が必要となります。

書類の提出先は、応募者の事務所が所在する地域の農政局です。オンラインによる申請も可能となっており、農林水産省の専用システムを利用した電子申請の方法も整備されています。提出期限は厳格に管理されているため、必ず期日までに提出することが求められます。

 

参考)令和7年度農山漁村振興交付金(地域資源活用価値創出対策(農泊…

選定結果の通知を受けた後は、農山漁村振興推進計画および事業実施計画を事業承認者へ1カ月以内に申請し、その承認を受ける必要があります。また、振興推進計画などを承認するにあたり、対象経費を確認するための資料の添付も義務付けられています。

各地域の農政局では、申請書類の書き方や事業費の予算立案についてサポートを行っており、初めて申請する事業者でも相談しながら手続きを進めることができます。地域協議会によっては、申請手続きを代行または助言しているところもあるため、地域の支援体制を活用することも有効です。

 

参考)https://gifu-inaka.pref.gifu.lg.jp/material/files/group/4/11248.pdf

農泊補助金の対象事業と体験プログラム開発の重要性

農泊補助金の対象となるソフト事業には、地域の推進体制整備、観光コンテンツの開発、Wi-Fi等の環境整備、人材育成などが含まれます。中でも体験プログラムの開発は、農泊の魅力を高め、集客力を向上させる重要な要素として位置づけられています。

成功している農泊地域の事例を見ると、地域資源を活かした独自の体験プログラムが集客の鍵となっています。北海道八雲町では、農産物の収穫などの体験観光事業を実施し、2022年度の町内への宿泊数が1,000人を超える成果を上げました。宮城県登米市では、子どもが食品の生産過程を理解できる食農体験教室を開設し、教育旅行の受入にも成功しています。

 

参考)農泊の成功事例5選!農林水産省の資料をもとに具体的な取り組み…

体験プログラムの内容は多岐にわたり、農作業体験、収穫体験、郷土料理作り、伝統工芸体験、自然散策、農家での餅つきなど、地域の特性を活かした多様なメニューが展開されています。徳島県の2市2町では、農山村のサステナブルな暮らしを体験する観光を提供し、都市部の中高生への農作業体験と収穫物の共同調理を組み合わせたプログラムが好評を得ています。

 

参考)Re+ │ 地域と楽しむ、挑戦する。新しい農業のカタチをつく…

体験プログラムの開発では、地元食材や景観等を活用した観光コンテンツの磨き上げが重視されます。岐阜県恵那市の坂折棚田では、「日本の棚田百選」に認定された棚田を活用し、多様な体験プログラムに加えて地域の宿泊施設の開設や地元の米・野菜を使った食事提供を行うことで、旅行会社と連携しながら受入体制を整えています。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/budget/pdf/r6kettei_pr61.pdf

農泊の成功事例5選の記事では、具体的な体験プログラムの内容と成果が詳しく紹介されています

農泊補助金活用における安全管理と法的責任の理解

農泊事業を実施する際、安全管理面の配慮は最重要課題となります。農泊運営者は、宿泊者や参加者に対して法的責任を負う立場にあり、事故等が発生し注意義務に違反した場合には、損害賠償などの法的責任を負うことになります。

 

参考)農泊ビジネスの可能性と知っておきたい法的留意点、農泊版DMO…

体験サービス提供時の具体的な安全対策として、農機具や電気柵による事故を予防する措置、危険な動植物の被害対策、自然災害リスクへの配慮が必要です。宿泊施設や設備等の安全性を確保するため、定期的なメンテナンスの実施が求められます。また、事故防止に配慮した事前説明や案内、指導を十分に行うことで、参加者の理解を深める取り組みも重要です。

 

参考)農家民泊(農泊)のメリット・デメリットは?始める手順や注意点…

救急薬品および衛生材料の適切な備蓄、緊急時の連絡網の整備も必須となります。民泊受入においては、保健所の立ち入り検査を受け、衛生面に特に留意した運営が求められます。洗面所やトイレの手洗い所には手洗い用石けんを設置するなど、基本的な衛生管理の徹底も欠かせません。

 

参考)https://www.pref.miyagi.jp/documents/17779/734444_1.pdf

旅館業法に基づく簡易宿所の営業許可取得や、住宅宿泊事業法(民泊新法)に定める届出など、法的要件の遵守も重要です。農林漁業体験民宿業の登録を受けた場合は、宿泊施設の見やすい場所に標識を掲示することができます。新型コロナウイルス感染症対策として、身体的距離の確保、マスクの着用、手洗いの徹底、3密回避などの対策も継続的に必要となっています。

 

参考)農泊とは? 副業で農家民泊を始めるメリットや成功事例、手順を…

農泊ビジネスの収益向上と持続可能な運営モデル

農泊事業の収益性向上は、事業の持続可能性を確保する上で極めて重要な課題です。栃木県大田原市の事例では、1軒あたりの農泊の年間最高売上が400万円程度に達しており、着実に農家の収入増につながっています。ただし、地域ぐるみで取り組むのではなく、農家が個別に実施する場合は、なかなか大きな収入につながりにくいという課題も指摘されています。

 

参考)集客数と収益性 議論で自立化を ~「農泊」で目指す地域の姿と…

収益向上のためには、集客力の強化が不可欠です。SNSでの魅力的な投稿を増やす、口コミサイトでの評価を上げる努力、地元の観光協会とのタイアップなど、多角的なプロモーション戦略が効果的です。Instagram運用を1年間継続した農家では、収益の30%がSNS経由の直接販売になったという成功事例もあり、「顔の見える投稿」と「予約販売の仕組み化」が成功の秘訣とされています。

 

参考)【儲かる?】田舎の民泊経営で成功する5つの戦略

ダイナミックプライシングの導入も収益向上の有効な手段です。繁忙期の休日には料金を高く設定し、平日と休日で料金差をつけることで、需要に応じた柔軟な価格設定が可能になります。季節ごとの魅力を活かしたプランを用意すれば、年間を通して安定した集客が見込めます。

旅行会社との連携も重要な戦略です。JTBが実施する「地域の滞在プランコンテスト」などでは、食関連消費拡大につながる滞在プランの造成・販売に取り組む地域が表彰されており、大手旅行会社のネットワークを活用することで、より広範な顧客層へのアプローチが可能になります。地域の直売所やレストランとの連携により、農産物の販売チャネルを拡大することも収益向上につながります。

 

参考)訪日客を農泊に JTBが「地域の滞在プランコンテスト」 最優…

農泊事業の法人設立と組織運営の実務

農泊事業を本格的に展開するには、中核となる法人の設立が推奨されています。農業法人を設立する場合、定款の作成が第一歩となります。定款には商号や目的、所在地、役員構成などを明記し、法人の基本的なルールを定めます。

 

参考)農業法人を設立するために必要な要件とは?法人化の方法について…

定款が完成したら、公証役場での認証を受ける必要があります。定款の認証手続きには約92,000円の費用がかかり、認証後に資本金を銀行に預け入れることが求められます。法務局への登記申請では、登録免許税として「資本金×1,000分の7」が必要となり、最低でも150,000円を納付しなければなりません。

これらの費用を合わせると、農業法人の設立には公証役場と法務局に納付する法定費用として、最低でも242,000円が必要となります。農地を所有して農業を経営する場合は「農地所有適格法人」として、市町村の農業委員会から適格であるという許可を得る必要があります。

法人設立後の運営では、地域協議会との連携が重要です。地域協議会は、農泊事業の推進体制整備や観光コンテンツの開発、関係者間の調整などを担い、法人は実務面での中核的役割を果たします。蔵王農泊振興協議会の事例では、まちづくり、観光物産協会、福祉施設、移住相談室など他業種が参画し、空き別荘15棟を一棟貸し宿泊施設として活用する取り組みが展開されています。

 

参考)https://www.jtbbokun.jp/column/22021401

農林水産省の農泊推進ページでは、全国の農泊地域一覧や参考となる事例情報が提供されています