麦角アルカロイドは、麦類などの穀物に寄生する麦角菌(Claviceps purpureaなど)が産生する「かび毒」の一群で、穂が感染すると穀粒の代わりに黒紫色で角のような硬い菌核(麦角)を形成し、そこに蓄積します。
特にライ麦で汚染が多いことが知られており、飼料用に穀粒や牧草が利用される現場では「収穫物に混ざる菌核」が入口になりやすい点が要注意です。
さらに厄介なのは、収穫後に粉砕・圧ぺん・混合すると、菌核が“見えなくなる”ことです。目視での選別は今でも基本ですが、ロットの偏り(サンプルに菌核が入る/入らない)が起きやすく、見た目で「今回は大丈夫」と結論を急ぐのは危険です。
現場の一次チェックとしては、次のように「麦角菌核が混ざりやすい条件」をセットで疑ってください。
参考)http://www.famic.go.jp/public_relations_magazine/kouhoushi/back_number/201810-54.pdf
参考)https://www.naro.affrc.go.jp/org/narc/diseases/contents/d8.htm
麦角アルカロイドは循環器系・神経系に毒性を示し、特に血管収縮を引き起こすことが知られています。
血管収縮が続くと末端(耳・尾・四肢など)で血流が落ち、重い場合は壊死に至ることがあるため、畜産現場では「原因が分からない末端トラブル」を見たら飼料由来の可能性も疑う価値があります。
また、麦角アルカロイドの一部成分(例:エルゴタミン等)は医薬品としても利用されるほど強い薬理作用(血管収縮など)を持つ一方、心血管系の副作用があることも整理されています。
疑い時の現場対応は、原因究明より先に「被害拡大を止める」順番が重要です。
麦角アルカロイドは熱に強い「かび毒」が多く、いったん汚染されると通常の調理や加工で十分に除去・分解できないという前提で管理する必要があります。
国内では、麦類(小麦・大麦・ライ麦)について全国的な含有実態を把握する目的で、農林水産省がリスク管理を進める有害化学物質の一つとして調査を行う流れが示されています。
分析面では、粉砕して均質化した試料から溶媒で抽出し、不要成分を精製で除去したうえで、LC-MS/MSでppb(10億分の1)単位まで測定する手順が紹介されており、現場の「目視だけ」から「濃度管理」への移行が国際的に検討されている点が重要です。
「検査に出す」判断を早くするコツは、症状が出てから慌てて探すのではなく、次のトリガーを決めておくことです。
参考:麦角アルカロイドの概要・国内での分析体制(抽出〜LC-MS/MS、ppb測定)
FAMIC 広報誌(2018年秋号)「麦類の麦角アルカロイドを分析する」
麦角菌は胞子が飛散して麦類の穂に付着することで感染し、感染後に菌核を形成して麦角アルカロイドが蓄積する、という「畑→収穫物→飼料」の流れを断つのが基本戦略です。
また、汚染防止対策として目視で汚染粒(菌核)を除去する方法が用いられてきた一方、近年は化学分析で濃度を管理する方法への移行が国際的に検討されているとされています。
つまり、農場としては「①畑での発生を減らす」「②収穫物で混入を減らす」「③受入時に弾く」「④給餌前に気づく」「⑤疑い時に止める」を一本のルールにしておくと、事故が“起きても大事故になりにくい”設計になります。
実務で効く予防策(やる順が大事)
麦角アルカロイドは「毒性がある」だけでなく、成分によってはアドレナリン・セロトニン・ドパミン受容体に作用し、血管収縮作用を利用して片頭痛治療薬として使われた例があるなど、“薬として成立するほど作用が強い”物質群です。
この事実は現場の注意喚起に役立ちます。つまり、麦角アルカロイド汚染は「お腹を壊す」タイプのトラブルだけではなく、血流・神経・繁殖など、体の制御系に影響しうる“作用機序がはっきりしたリスク”として説明できるからです。
さらに、強い幻覚作用を持つ誘導体(LSDなど)にもつながる化学系統である点が整理されており、「少量でも影響が出得る」イメージを共有しやすいのも、教育資料としての強みになります。
現場教育に落とし込むなら、次の言い回しが効きます。
参考:麦角アルカロイドの作用(受容体作用、血管収縮、医薬品利用などの整理)
日本薬学会「麦角アルカロイド」薬学用語解説