メタン菌特徴と農業利用や生成条件

メタン菌は嫌気環境でメタンを生成する古細菌で、農業分野では水田やルーメンで重要な役割を果たします。その独特な特徴や生育条件、農業への影響について理解していますか?

メタン菌の特徴と生成条件

メタン菌の3つの重要ポイント
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古細菌の一種

約35億年の歴史を持つ嫌気性微生物で、酸素を必要としない

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最適温度27~35℃

pH6.5~7.5の中性環境を好み、温度依存性が高い

基質の多様性

水素・二酸化炭素、酢酸、メタノールなどからメタンを生成

メタン菌は嫌気条件でメタンを生成する古細菌の総称で、正確にはメタン生成古細菌と呼ばれます。約35億年もの歴史を持つ古細菌であり、偏性嫌気性菌として酸素が存在しない環境でのみ生育します。メタン菌の最大の特徴は、嫌気環境における有機物分解の最終段階を担っており、他の古細菌(高度好塩菌や好熱菌など)とは異なり、他の菌と共生あるいは基質の競合の中で生育している点です。


参考)メタン菌 - Wikipedia

メタン菌の生育に適した温度条件


メタン菌の活性は温度によって大きく変化し、最適な温度範囲は27~35℃とされています。20℃以下では活性が急速に低下し、ほとんど機能しなくなります。一方、40℃以上では菌が死滅する可能性が高まります。ただし、自然界には幅広い温度条件に適応したメタン菌が存在し、至適増殖温度は最低15℃から最高105℃まで多様です。中温菌は35~37℃、高温菌は50~60℃が最適温度域となっており、メタン発酵施設では菌の種類に応じて温度管理が重要です。


参考)嫌気処理装置に最適な環境づくり – 水処理教室

メタン菌が利用する基質の種類

メタン菌は利用できる基質(餌)によって大きく3種類に分類されます。第一に水素資化性メタン菌は、水素と二酸化炭素からメタンを生成します。第二に酢酸資化性メタン菌は酢酸からメタンを生成し、淡水堆積物では発生するメタンの約60%が酢酸由来です。第三にメチル化合物資化性メタン菌は、メタノール、メチルアミン、ジメチルスルフィドなどを利用します。興味深いことに、Methanosarcina属など多種のメタン菌は複数の基質を利用できる能力を持っています。また最近の研究では、石炭に含まれるメトキシ芳香族化合物を利用する新規メタン菌も発見されており、メタン菌の基質利用範囲は従来考えられていたよりも広いことが判明しています。


参考)メタン生成菌 - 光合成事典

メタン菌の生育に必要なpH条件

メタン菌はpH依存性が極めて高く、最適pHは6.5~7.5のほぼ中性付近です。良好に運転されているメタン発酵槽のpHは6.5~8.2の範囲に保たれています。pH6以下や8以上になると、メタン菌の活性は著しく低下します。このpH条件は、メタン菌が共生または競合する他の微生物群(発酵細菌、硫酸還元菌など)の活性にも影響を与えるため、メタン発酵プロセス全体の安定性を左右する重要な要因となっています。pHが適正範囲から外れると、メタン生成が阻害されるだけでなく、有害な硫化水素の発生増加などの問題も引き起こす可能性があります。


参考)https://www.jefma.or.jp/jefma/53/pdf/metan.pdf

水田土壌におけるメタン菌の生態

水田土壌はメタン菌の生育場所として理想的な環境です。水田に水を張ると土壌中の酸素が少なくなり、還元状態が進行してメタン菌が活性化します。淡水堆積物は発酵性真正細菌の働きが活発で硫酸イオンに乏しいため、有機物は二酸化炭素、ギ酸、酢酸にまで分解され、メタン菌にとって豊富な基質が供給されます。水田土壌から発生するメタンの約60%は酢酸由来、40%は水素・二酸化炭素由来です。近年の研究では、水田土壌に酸化鉄を添加することで鉄還元窒素固定菌が活性化し、酢酸がメタン菌よりも先に消費されることで、メタン生成を抑制できることが明らかになっています。この技術は窒素肥料低減とメタン排出削減を同時に実現する新たな農業技術として期待されています。


参考)鉄で土を肥やしメタンを減らす! - 東京大学大学院農学生命科…

東京大学の研究:水田土壌への酸化鉄添加によるメタン削減技術の詳細

ルーメンにおけるメタン菌の役割

反すう家畜のルーメン(第一胃)では、メタン菌が重要な役割を果たしています。ルーメン内で発酵によって生じる酢酸やプロピオン酸は腸によって吸収されるため、メタン菌が主に利用する基質は水素・二酸化炭素およびギ酸です。ルーメンで発生するメタンの80%は水素-二酸化炭素由来、20%はギ酸由来とされています。しかし、このメタン生成は飼料エネルギーの損失であり、牛1頭から排出されるメタンはCO2換算で自家用車1台分に相当するため、環境問題としても重視されています。メタン産生を抑制する取り組みとして、ルーメン微生物の発酵様式をプロピオン酸優先型にシフトさせる飼料添加剤の開発が進められています。


参考)牛の代謝、栄養、飼料等のトピックス(16)「ルーメン発酵とメ…

農研機構の研究:ルーメン微生物制御によるメタン削減技術
メタン菌は古細菌として独特の特徴を持ち、嫌気環境で多様な基質からメタンを生成します。農業分野では水田やルーメンで重要な役割を果たす一方、温室効果ガス排出源としても注目されており、その制御技術の開発が進められています。温度、pH、基質の種類といった生育条件を理解することで、メタン発酵の効率的な利用やメタン排出削減に向けた新たな農業技術の開発が可能になります。




禁断のメタン菌: バイオサイエンス小説