免疫抑制剤一覧注射の種類と臓器移植の適応

免疫抑制剤の注射薬にはどのような種類があり、臓器移植や自己免疫疾患の治療にどう使われているのでしょうか。この記事では、タクロリムスやシクロスポリンなどの主要な免疫抑制剤の特徴、適応疾患、副作用について詳しく解説しています。農業現場で家畜の免疫管理に関わる方にも役立つ、注射薬の基礎知識をまとめました。

免疫抑制剤一覧注射の種類と適応

この記事のポイント
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カルシニューリン阻害薬

タクロリムス、シクロスポリンなどT細胞の活性化を抑制する主要な免疫抑制剤

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臓器移植と自己免疫疾患への適応

腎移植、肝移植、関節リウマチなど幅広い疾患に使用される注射薬の特徴

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副作用とモニタリング

感染症リスク、腎毒性、骨髄抑制など重要な副作用と血中濃度管理の必要性

免疫抑制剤注射の主要な種類と作用機序

免疫抑制剤の注射薬は、臓器移植後の拒絶反応を抑制したり、自己免疫疾患の治療に使用される重要な薬剤です。主な種類としては、カルシニューリン阻害薬であるタクロリムス(プログラフ注射液)とシクロスポリン(サンディミュン点滴静注用)があり、これらはT細胞の活性化を選択的に抑制する作用を持ちます。タクロリムスはシクロスポリンよりも強力な免疫抑制作用を示し、肝移植術後の拒絶反応抑制において現在最も使用されている免疫抑制剤となっています。

 

参考)https://pha.medicalonline.jp/index/category/from/tmenu/catkind/0/catid/1-11-89-514

IL-2レセプター抗体であるバシリキシマブ(シムレクト)は、手術直後と手術後4日目の2回点滴投与され、移植直後に強力に免疫を抑制して拒絶反応を防ぎます。また抗ヒト胸腺細胞ウマ免疫グロブリン(アトガム点滴静注液)などの生物学的製剤も、腎移植後の急性拒絶反応抑制に使用されます。これらの薬剤は作用機序が異なるため、通常は4~5種類を組み合わせた多剤免疫抑制療法が実施されます。

 

参考)免疫抑制薬の種類と作用機序

東京女子医科大学の免疫抑制薬ページでは各薬剤の詳細な副作用と適応が解説されています

免疫抑制剤注射の臓器移植における適応疾患

タクロリムス注射液は、腎移植、肝移植、心移植、肺移植、膵移植、小腸移植における拒絶反応の抑制、および骨髄移植における拒絶反応と移植片対宿主病の抑制に適応があります。シクロスポリンも同様に臓器移植後の拒絶反応抑制に使用されますが、タクロリムスと比較するとやや穏やかな作用とされています。

 

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00059403.pdf

臓器移植後は、ドナーとレシピエントの組織適合抗原の差に応じて拒絶反応の強さが異なるため、免疫抑制療法の内容は患者さんごとに調整されます。特に移植後6~12か月は強力に免疫を抑えるため、感染症発症のリスクが上昇する期間となります。移植後の免疫抑制薬は、経過とともに薬の量は減ってきますが、一部の臓器移植を除き一生涯飲み続ける必要があります。

 

参考)免疫抑制薬について|腎移植|泌尿器の病気と治療|長崎大学病院…

現在では免疫治療学の進歩により、免疫抑制剤を十分量服用し続ければ拒絶反応を抑えられる時代となり、移植の成績は飛躍的に向上しました。

 

参考)肝移植後の免疫抑制剤をゼロに オールジャパンで臨む医師主導治…

免疫抑制剤注射の副作用とモニタリング方法

免疫抑制剤注射の主な副作用として、タクロリムスでは腎毒性、心筋障害、神経毒性、血球減少、高血糖などが報告されています。シクロスポリンも同様に腎毒性のリスクがあり、両剤の併用により副作用が増強される可能性があるため注意が必要です。

 

参考)医療用医薬品 : タクロリムス (タクロリムスカプセル0.5…

免疫抑制作用により全体的な感染症のリスクが高まるため、特に免疫抑制療法中の患者では弱毒生ワクチンの接種が原則禁忌とされています。水痘などのウイルス感染症は免疫抑制状態では内臓臓器障害を起こし、多臓器不全を合併することがあるため、厳重な管理が求められます。

 

参考)免疫抑制薬内服中患者への弱毒生ワクチン接種、全国実態調査を開…

血中濃度モニタリングは免疫抑制剤の安全な使用に不可欠であり、タクロリムスでは投与12時間後の血中濃度が20ng/mLを超える期間が長い場合に副作用が発現しやすいとされています。臓器移植領域では、3剤あるいは4剤の免疫抑制剤を組み合わせた多剤免疫抑制療法を行う場合、初期投与量を低く設定することで副作用のリスクを軽減できます。

 

参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2005/P200500009/80012600_20800AMZ00693_X122_3.pdf

厚生労働省の免疫抑制剤使用上の注意改訂通知では、投与時の重要な注意事項が記載されています

免疫抑制剤注射のリウマチ治療への応用

関節リウマチの治療においても、免疫抑制剤注射は重要な役割を果たしています。タクロリムスは日本で開発された免疫抑制剤であり、関節リウマチに使用する量では比較的副作用の少ない薬剤として評価されています。

 

参考)関節リウマチの治療

生物学的製剤として、TNF阻害薬であるインフリキシマブ(レミケード)、アダリムマブ、ゴリムマブ(シンポニー)などが点滴静注や皮下注射で投与されます。これらの薬剤はTNFという炎症性サイトカインを直接抑える作用があり、関節症状を抑えるだけでなく骨や軟骨破壊の予防効果も認められています。

 

参考)生物学的製剤|関節リウマチ

IL-6阻害薬であるトシリズマブ(アクテムラ点滴静注)やサリルマブ(ケブザラ皮下注シリンジ)も使用され、投与方法は点滴から皮下注射へと移行してきています。皮下注射のメリットは投与の簡便さですが、体格が大きい方では体重に応じて用量調整ができる点滴製剤の方が効果的とされています。

 

参考)第280回 TNF阻害薬の進化

免疫抑制剤注射の農業・獣医領域での応用と展望

免疫抑制剤の概念は人医療だけでなく、獣医領域や農業分野においても重要な意義を持ちます。北海道大学大学院獣医学研究院では、牛白血病に対する免疫チェックポイント阻害薬の開発に成功しています。

 

参考)牛難治性疾病の制御に応用できる免疫チェックポイント阻害薬(抗…

抗ウシPD-1ラットモノクローナル抗体を用いた研究では、疲弊化した抗ウイルス免疫応答を再活性化できることが明らかになり、実際に牛白血病ウイルスに感染したウシへ投与すると抗ウイルス免疫応答が増強され、ウイルス量が減少しました。この技術は牛白血病をはじめとした牛難治性疾病の新規制御法として応用が期待されています。

家畜におけるワクチン接種と免疫抑制の関係も重要です。動物用ワクチン利用の手引きでは、ワクチン間の干渉作用により効果が抑制される可能性が指摘されており、適切な接種間隔の設定が推奨されています。また幼若な動物にワクチンを投与する場合、母子免疫の影響を受けてワクチン効果が抑制されることがあるため、投与時期の調整が必要です。

 

参考)https://jvpa.jp/jvpa/wp-content/uploads/2022/03/vaccine_guidance_0403_01.pdf

家畜共済診療においても、免疫抑制剤は点滴注射に準じた消耗品管理が求められ、抗凝固剤や抗ヒスタミン剤と同様に適切な使用が求められています。黒毛和種肥育牛の導入後の除角など、疼痛ストレスから免疫機能に影響を及ぼす処置については、末梢血免疫細胞数への影響を考慮した時期の選定が重要となります。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kyosai/kachiku/h281121/attach/pdf/index-33.pdf

AMEDの研究成果では、獣医領域における免疫チェックポイント阻害薬の開発について詳細が公開されています