農業用ホースで水を送る際、水源から末端に向かって圧力が徐々に低下する現象が「摩擦損失」です。身近な例では、蛇口から伸ばした長いホースの先端で水の勢いが弱くなることが挙げられます。この圧力低下は、ホース内面と水の間で生じる摩擦抵抗が主な原因です。
参考)ヤマホ工業株式会社 : ホースの抵抗による圧力損失について
ホース内を水が流れると、ホース内面の微細な凹凸と水分子の粘性によって抵抗が発生します。この抵抗により運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、結果として圧力が損失します。特に農業現場では、ポンプから遠い末端のスプリンクラーや点滴チューブで水圧不足が生じ、均一な散水ができなくなる問題が頻発します。
参考)配管の圧力損失はどう計算すればよいか
摩擦損失は配管内の流体輸送において避けられない物理現象ですが、適切な設計と対策により最小限に抑えることが可能です。ポンプ選定時には、必要な吐出圧力に加えてホースの摩擦損失分を上乗せした能力を確保する必要があります。
参考)ホースの流量と圧力低下の関係|ゴム製品の基礎|ゴムの豆知識|…
ヤマホ工業株式会社「ホースの抵抗による圧力損失について」
農業用噴霧器メーカーによる実験データに基づいた圧力損失表と計算式を掲載しており、ホース径別の具体的な損失値を確認できます。
ホースの内径は摩擦損失に最も大きく影響する要素の一つです。内径が細いほど、同じ流量でも水の流速が速くなり、内壁との摩擦が増大して圧力損失が大きくなります。例えば、φ8.5mmホースで流量10リットル/分の場合、100mあたり約1.07MPaの圧力損失が発生しますが、より太い内径のホースを使用すれば損失は大幅に減少します。
流量と圧力損失の関係は非線形で、流量が増えると損失は二乗に比例して増加する傾向があります。このため、大流量を必要とする灌水システムでは、ホース内径の選定が極めて重要です。配管設計では、本管(メインパイプ)を太く、分岐管(ラテラルパイプ)を細くする「口径差」をつけることで、全体の圧力分布を均一化できます。
参考)灌水チューブを自作する方法と畑の塩ビ管で安く散水
農研機構のマニュアルでは、灌水チューブにおける摩擦損失を詳細に分析し、チューブ長さと吐出量の関係を示しています。点滴灌水では、チューブ末端で水圧調整弁の作動圧力を確保できないと吐出量が極端に減少するため、圧力計による確認が不可欠です。
参考)https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/man_maru_web.pdf
| ホース内径 | 流量(L/分) | 100m当たり損失(MPa) |
|---|---|---|
| φ8.5mm | 10 | 約1.07 |
| φ9.5mm | 12 | 約0.3(30m換算で0.9) |
| φ13mm以上 | 20 | 大幅に減少 |
摩擦損失の計算には、実験値に基づく簡易計算式が実用的です。ヤマホ工業が提供する計算式では、圧力損失P(MPa)= 係数 × ホース長さL(m)× 流量Q(L/分)の関数として表されます。この式により、現場でホース長さと使用流量が分かれば、必要なポンプ能力を算出できます。
より理論的なアプローチでは、ダルシー・ワイズバッハの式が用いられます。この式は管摩擦係数λ、管長L、管内径D、流速vを用いて損失水頭を算出し、層流か乱流かをレイノルズ数で判断します。農業現場では通常乱流域となるため、コールブルック式による管摩擦係数の計算が必要です。
実務的には、メーカーが提供する圧力損失表を活用するのが最も確実です。例えばφ8.5ホースで動力噴霧機の圧力が3.0MPa、流量10L/分の場合、100m先では圧力損失1.07MPaを差し引いた1.93MPaになります。この実測データは、配管設計の基礎資料として非常に価値があります。
参考)https://www.itachibori.co.jp/wp-content/uploads/2014/11/2019-_Part43.pdf
MONO塾「配管の圧力損失はどう計算すればよいか」
レイノルズ数の判定から管摩擦係数の算出、ダルシー・ワイズバッハ式の適用まで、圧力損失計算の理論的背景を分かりやすく解説しています。
ホースの摩擦損失には、直管部分の損失に加えて、継手や曲がり部分で発生する「局所損失」も考慮する必要があります。継手の内径がホース本体より細い場合、その部分で流路が絞られて乱流が発生し、大きな圧力損失が生じます。
参考)https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukan/tyotei/kizyun/attach/pdf/yousui_hatake-8.pdf
一般的なタケノコホースニップルは、様々なホースに対応するため内径が小さく設計されており、これが圧力損失増大の原因となります。継手を最適化したトヨコネクタなどの製品では、内径を広げることで圧力損失を低減し、電力消費とCO₂排出量を約10%以上削減可能としています。
参考)ホース継手を変えるだけでCO₂削減!試験結果が示す圧力損失改…
配管系全体での局所損失は、直管部分の摩擦損失に比べて小さいため無視されることもありますが、継手が多い配管では無視できない影響があります。概算では摩擦損失水頭の1割程度を加算して見込むのが一般的です。特に水撃作用(ウォーターハンマー)対策として、急閉弁を避け、緩やかな開閉機構を持つ継手を選ぶことも重要です。
長距離散水では末端での圧力不足が深刻な問題となるため、複数の対策を組み合わせることが効果的です。第一の対策は、ホース内径の拡大です。主要配管を太くすることで摩擦抵抗を減らし、全体の圧力損失を大幅に低減できます。
参考)圧力損失と配管径の選定方法
第二の対策は、配管系統の分割です。一度に広範囲へ送水せず、バルブで区画を分けて順次灌水することで、各系統での圧力を確保します。この方法は設備投資を抑えつつ、既存ポンプ能力を最大限活用できる利点があります。
第三の対策は、中継ポンプの設置です。長距離配管の中間地点にブースターポンプを追加し、圧力を回復させる方法です。大規模圃場や起伏のある地形では、この方式が最も確実に均一散水を実現します。
参考)https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukan/tyotei/kizyun/attach/pdf/yousui_hatake-7.pdf
また、意外と知られていない対策として、配管の固定と直線化があります。ホースが蛇行したり暴れたりすると、その部分で追加的な抵抗が発生します。U字ピンなどで1〜2メートルおきに地面に固定し、できるだけ直線的な配管経路を確保することで、計算値に近い性能を引き出せます。
農業ざんまい「灌水チューブを自作する方法と畑の塩ビ管で安く散水」
摩擦損失による水圧ムラへの具体的対処法として、穴径の調整や末端処理、配管固定の重要性など、実践的なノウハウが詳しく紹介されています。

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