パーマ液の主役である「還元剤」は、髪の内部にあるシスチン結合(S-S結合)を切断する役割を持っています。この結合を切ることで髪の形を変える準備を整えるわけですが、使われる薬剤の種類によってその特性は大きく異なります。農業で言えば、土壌の性質に合わせて肥料を使い分けるのと全く同じです。ここでは主要な還元剤を一覧化し、それぞれの化学的な特徴を解説します。
これらの還元剤は単体で使われることもありますが、最近の薬剤はこれらをミックスして「ハイブリッド処方」にしているものが主流です。それぞれの弱点を補い合うためです。
参考:デミ コスメティクス - パーマのしくみ・基礎知識(還元剤の基本特性について)
参考)ケミカル講座 vol.2 パーマのしくみ・基礎知識(2):髪…
還元剤を選ぶ際、最も重要な指標となるのが「髪質」と「ダメージレベル」のマッチングです。農作物の栽培において、土壌の酸性度や保水力を見て肥料を決めるように、美容師も髪の状態(疎水性か親水性か、ダメージホールがあるか)を見て還元剤を決定します。
1. 健康毛・硬毛(撥水毛)の場合
水が弾かれるような健康な髪は、キューティクルが閉じており薬剤が浸透しにくい状態です。
2. カラー毛・ライトダメージ毛の場合
カラーリングを繰り返して少し乾燥している髪は、キューティクルが開き気味で薬剤を吸い込みやすくなっています。
3. ハイダメージ毛・ブリーチ毛の場合
髪の内部物質が流出し、スカスカになっている状態(ポーラス毛)です。アルカリ剤に触れるだけで髪が溶ける(過収縮)恐れがあります。
4. エイジング毛(加齢による細毛)の場合
年齢とともに髪は細くなり、ハリやコシが失われます。また、疎水化して薬剤を弾きやすくなっている場合もあります。
失敗しない選び方のコツは、髪の「余力」を見極めることです。余力が残っていればアルカリとチオでしっかりかける、余力がなければ酸性で優しくかける。この見極めを誤ると、ビビリ毛(チリチリの髪)を作る原因になります。
参考:パーマ塾 - パーマ還元剤の種類と特性まとめ(髪質別の適合性について詳述)
参考)【これだけ読めばいい】パーマ還元剤の種類/特性まとめ【202…
パーマのかかり具合や持続性、そしてダメージの質を左右する隠れたスペックが「分子量」です。分子量とは、その物質の粒の大きさのことです。粒が小さければ狭い隙間にも入っていけますし、大きければ入れません。これは土壌改良剤が土の深くまで染み込むか、表面に留まるかという話と似ています。
以下の表は、主要な還元剤の分子量を比較したものです。
| 還元剤の種類 | 分子量 | 主な作用場所 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| システアミン | 77 | 深部(ミクロフィブリル) | 最も小さく、髪の芯まで届く。 |
| チオグリコール酸 | 92 | 内部(コルテックス) | 標準サイズ。内部全体に作用。 |
| スピエラ | 118 | 内部~表面 | 油性のため浸透ルートが特殊。 |
| システイン | 121 | 表面(キューティクル付近) | 大きくて中に入りにくい。 |
| GMT | 166 | 内部(じっくり浸透) | サイズは大きいが親水・親油両性。 |
内部還元(コルテックスへの作用)
分子量が小さいシステアミンやチオグリコール酸は、髪の主成分であるコルテックス領域まで容易に到達します。ここでS-S結合を切ると、髪の芯から形状が変わるため、「持ちが良い」「弾力がある」パーマになります。しかし、内部のタンパク質を流出させるリスクも高まります。
表面還元(キューティクル付近への作用)
分子量が大きいシステインは、髪の奥深くまで入っていけません。そのため、髪の表面付近にあるS-S結合を中心に切断します。結果として、「手触りが良い」「ツヤが出る」という特徴が出ますが、ウェーブの持ちは悪くなり、だれやすくなります。
浸透のメカニズムと「ランチオニン結合」
分子量が小さい還元剤を使い、かつアルカリ度が高い状態で長時間放置すると、還元反応が進みすぎることがあります。すると、S-S結合が元に戻らない「ランチオニン結合」という不可逆な結合が生成されてしまいます。これがパーマによる深刻なダメージの正体の一つです。分子量の小さいシステアミンを使う際は、薬剤の残留もしやすいため、施術後の中間水洗(お湯で流す工程)を徹底し、余分な薬剤を洗い流すことが重要です。
参考:Beauty Vender - スピエラ・GMT酸性還元剤の分子量とチオ換算の知識
参考)スピエラ・GMT酸性還元剤を使いこなす必要な知識・チオ換算
近年、美容業界で革命を起こしているのが「酸性パーマ」や「酸性ストレート」と呼ばれる技術です。これらに使われる主役が、GMT(グリセリルモノチオグリコレート)とスピエラ(ブチロラクトンチオール)です。これらは従来のチオやシスとは全く異なる特性を持っています。
なぜ「酸性」が良いのか?
髪の等電点(最も安定するpH)はpH4.5~5.5の弱酸性です。従来のパーマ液はpH8~9のアルカリ性で、キューティクルを無理やり膨潤させて(開かせて)薬を入れていました。これは髪にとって手術のような負担がかかります。
一方、GMTやスピエラは酸性領域(pH4~6)でも還元力が働くという特殊な性質を持っています。つまり、キューティクルを閉じたまま、髪を膨潤させずに結合を切ることができるのです。
GMT(ジーエムティー)の特徴
スピエラ(ラクトンチオール)の特徴
pKa(酸解離定数)の重要性
専門的な話になりますが、還元剤には「最も働くpH」があります。これをpKaと言います。
この数値の違いが、なぜスピエラが酸性パーマに使われるのかの根拠です。pH6の酸性状態では、チオはほとんど眠っていますが、スピエラはフル稼働できるのです。これにより、ブリーチ毛のようなアルカリに耐えられない髪でも、安全にパーマをかけることが可能になりました。
参考:WECOBASE - 還元剤のpKaと-logPow一覧(化学的スペックの根拠)
参考)還元剤のpkaと-logPow 一覧 - WECOBASEW…
最後に、検索上位の記事にはあまり詳しく書かれていない、少しマニアックですが非常に重要な「S1・S2結合」と「ダブル還元」の独自視点について解説します。これは、なぜ「複数の還元剤を混ぜるのか」という疑問への究極の答えです。
髪の内部にあるS-S結合(シスチン結合)は、実はすべて同じではありません。存在する場所によって大きく2つのタイプに分類されます。
ダブル還元の理論:農地全体を耕す発想
従来のチオ系パーマでは、S1結合ばかりを切断していました。これだと表面的な形はつきますが、芯にあるS2結合が残っているため、すぐにパーマが落ちたり、硬い髪がかからなかったりしました。逆に、S2結合だけを切っても、全体の柔らかさが出ません。
そこで生まれたのが「ダブル還元」という手法です。
S1が得意な「チオ」と、S2が得意な「システアミン(またはGMT)」を同時に、あるいは順番に作用させることで、髪の内部の結合をムラなく均一に切断します。
独自視点:ミックスジスルフィドの弊害
しかし、これにはリスクもあります。「ミックスジスルフィド(Mix-S-S)」の問題です。システインなどの還元剤は、髪のS-S結合を切った後に、自分自身が髪のS(硫黄)にくっついてしまい、元に戻れなくなることがあります。これが蓄積すると髪がゴワゴワになり、後のカラーリングやパーマの邪魔をします。
ダブル還元を行う際は、還元剤の濃度管理(チオ換算濃度)を厳密に行い、処理剤(中間処理)でしっかりと還元反応を止めることが、農作物の収穫タイミングと同じくらいシビアに求められます。単に混ぜれば良いわけではなく、それぞれの還元剤が「どこを耕しているか」をイメージすることがプロの仕事です。
参考:パーマ還元剤の種類/特性まとめ(S1・S2結合とダブル還元の詳細)

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