還元剤の一覧とパーマのチオやシスとスピエラの種類や特徴

美容室で使われるパーマ液の成分は実は農薬や肥料の配合計算と似ている部分があります。今回は還元剤の一覧を整理し、チオやシス、スピエラなどの特徴を深掘りします。なぜあなたの髪は傷むのか?

還元剤の一覧とパーマ

パーマ還元剤の基礎知識
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基本の還元剤

チオグリコール酸やシステインなど、アルカリ性で働く代表的な成分。

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酸性還元剤

GMTやスピエラなど、酸性領域でも髪の結合を切れる新しい成分。

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pHとpKa

薬剤の強さを決める指標。pHだけでなくpKaを知ることで真のパワーが見える。

還元剤のパーマでの種類とチオやシステアミンの特徴

 

パーマ液の主役である「還元剤」は、髪の内部にあるシスチン結合(S-S結合)を切断する役割を持っています。この結合を切ることで髪の形を変える準備を整えるわけですが、使われる薬剤の種類によってその特性は大きく異なります。農業で言えば、土壌の性質に合わせて肥料を使い分けるのと全く同じです。ここでは主要な還元剤を一覧化し、それぞれの化学的な特徴を解説します。

 

  • チオグリコール酸(Thio)
    • 特徴: 最も一般的で歴史のある還元剤です。分子量が小さく(約92)、髪の内部まで浸透しやすい性質があります。
    • メリット: ウェーブ形成力が非常に強く、硬い髪(撥水毛)やくせ毛もしっかり伸ばせます。アルカリ領域(pH9.0付近)で最も活発に働きます。
    • デメリット: パワーが強すぎるため、ハイダメージ毛に使うと髪がテロテロになる「過軟化」を引き起こすリスクがあります。
  • システイン(Cys)
    • 特徴: 髪の毛に含まれるアミノ酸に近い成分です。分子量が少し大きい(約121)ため、髪の深部までは浸透しにくく、表面付近で作用します。
    • メリット: 髪への負担が少なく、自然な仕上がりになります。独特の艶感が出るため、ダメージ毛に向いています。
    • デメリット: ウェーブ効率はチオの半分程度と弱く、健康毛や硬い髪にはかかりにくいです。また、酸化不足だと髪に残留し、独特の不快臭を発生させることがあります。
  • システアミン(Cysteamine)
    • 特徴: 化粧品登録のカーリング料として使われることが多い成分です。分子量が非常に小さい(約77)ため、髪の奥深くまで入り込みます。
    • メリット: チオとシステインの中間のような性質を持ち、pHが低くてもウェーブ形成力が高いです。質感は柔らかく、リッジ(カールの山)がきれいにでます。
    • デメリット: 「残臭」が最大の問題です。髪に残留しやすく、施術後数日間はポップコーンが焦げたような独特の臭いが取れないことがあります。
  • チオグリセリン
    • 特徴: グリセリンを含むため保湿性が高い還元剤です。中性~弱酸性領域でも比較的よく働きます。
    • メリット: しっとりとした質感に仕上がり、熱変性した髪(デジタルパーマや縮毛矯正の繰り返し)にも馴染みやすいです。

    これらの還元剤は単体で使われることもありますが、最近の薬剤はこれらをミックスして「ハイブリッド処方」にしているものが主流です。それぞれの弱点を補い合うためです。

     

    参考:デミ コスメティクス - パーマのしくみ・基礎知識(還元剤の基本特性について)

     

    参考)ケミカル講座 vol.2 パーマのしくみ・基礎知識(2):髪…

    還元剤のパーマでの選び方と髪質のダメージのレベル

    還元剤を選ぶ際、最も重要な指標となるのが「髪質」と「ダメージレベル」のマッチングです。農作物の栽培において、土壌の酸性度や保水力を見て肥料を決めるように、美容師も髪の状態(疎水性か親水性か、ダメージホールがあるか)を見て還元剤を決定します。

     

    1. 健康毛・硬毛(撥水毛)の場合
    水が弾かれるような健康な髪は、キューティクルが閉じており薬剤が浸透しにくい状態です。

     

    • 推奨: チオグリコール酸(高アルカリ・高濃度)
    • 理由: 分子が小さくパワーのあるチオを、アルカリの力でキューティクルをこじ開けて浸透させる必要があります。システインでは表面しか反応せず、すぐ取れてしまいます。

    2. カラー毛・ライトダメージ毛の場合
    カラーリングを繰り返して少し乾燥している髪は、キューティクルが開き気味で薬剤を吸い込みやすくなっています。

     

    • 推奨: システアミン または 低濃度のチオ
    • 理由: システアミンはアルカリ度が低くても還元力が強いため、必要以上にキューティクルを開かずにカールを作れます。ダメージ進行を抑えつつ、しっかりとしたウェーブが出せます。

    3. ハイダメージ毛・ブリーチ毛の場合
    髪の内部物質が流出し、スカスカになっている状態(ポーラス毛)です。アルカリ剤に触れるだけで髪が溶ける(過収縮)恐れがあります。

     

    • 推奨: 酸性チオ、またはGMT・スピエラ
    • 理由: ここでは「アルカリ」を徹底的に避ける必要があります。酸性領域で働く還元剤を使うことで、髪を膨潤させずに結合だけを切ることができます。

    4. エイジング毛(加齢による細毛)の場合
    年齢とともに髪は細くなり、ハリやコシが失われます。また、疎水化して薬剤を弾きやすくなっている場合もあります。

     

    • 推奨: システアミン + チオグリセリン
    • 理由: アルカリで攻めるとボリュームがなくなってしまいます。システアミンの浸透力で内部に働きかけ、チオグリセリンでしっとり感を補うのがベストです。

    失敗しない選び方のコツは、髪の「余力」を見極めることです。余力が残っていればアルカリとチオでしっかりかける、余力がなければ酸性で優しくかける。この見極めを誤ると、ビビリ毛(チリチリの髪)を作る原因になります。

     

    参考:パーマ塾 - パーマ還元剤の種類と特性まとめ(髪質別の適合性について詳述)

     

    参考)【これだけ読めばいい】パーマ還元剤の種類/特性まとめ【202…

    還元剤のパーマの分子量と内部還元と表面還元の違い

    パーマのかかり具合や持続性、そしてダメージの質を左右する隠れたスペックが「分子量」です。分子量とは、その物質の粒の大きさのことです。粒が小さければ狭い隙間にも入っていけますし、大きければ入れません。これは土壌改良剤が土の深くまで染み込むか、表面に留まるかという話と似ています。

     

    以下の表は、主要な還元剤の分子量を比較したものです。

     

    還元剤の種類 分子量 主な作用場所 特徴
    システアミン 77 深部(ミクロフィブリル) 最も小さく、髪の芯まで届く。
    チオグリコール酸 92 内部(コルテックス) 標準サイズ。内部全体に作用。
    スピエラ 118 内部~表面 油性のため浸透ルートが特殊。
    システイン 121 表面(キューティクル付近) 大きくて中に入りにくい。
    GMT 166 内部(じっくり浸透) サイズは大きいが親水・親油両性。

    内部還元(コルテックスへの作用)
    分子量が小さいシステアミンやチオグリコール酸は、髪の主成分であるコルテックス領域まで容易に到達します。ここでS-S結合を切ると、髪の芯から形状が変わるため、「持ちが良い」「弾力がある」パーマになります。しかし、内部のタンパク質を流出させるリスクも高まります。

     

    表面還元(キューティクル付近への作用)
    分子量が大きいシステインは、髪の奥深くまで入っていけません。そのため、髪の表面付近にあるS-S結合を中心に切断します。結果として、「手触りが良い」「ツヤが出る」という特徴が出ますが、ウェーブの持ちは悪くなり、だれやすくなります。

     

    浸透のメカニズムと「ランチオニン結合」
    分子量が小さい還元剤を使い、かつアルカリ度が高い状態で長時間放置すると、還元反応が進みすぎることがあります。すると、S-S結合が元に戻らない「ランチオニン結合」という不可逆な結合が生成されてしまいます。これがパーマによる深刻なダメージの正体の一つです。分子量の小さいシステアミンを使う際は、薬剤の残留もしやすいため、施術後の中間水洗(お湯で流す工程)を徹底し、余分な薬剤を洗い流すことが重要です。

     

    参考:Beauty Vender - スピエラ・GMT酸性還元剤の分子量とチオ換算の知識

     

    参考)スピエラ・GMT酸性還元剤を使いこなす必要な知識・チオ換算

    還元剤のパーマのGMTとスピエラの酸性のメリット

    近年、美容業界で革命を起こしているのが「酸性パーマ」や「酸性ストレート」と呼ばれる技術です。これらに使われる主役が、GMT(グリセリルモノチオグリコレート)スピエラ(ブチロラクトンチオール)です。これらは従来のチオやシスとは全く異なる特性を持っています。

     

    なぜ「酸性」が良いのか?
    髪の等電点(最も安定するpH)はpH4.5~5.5の弱酸性です。従来のパーマ液はpH8~9のアルカリ性で、キューティクルを無理やり膨潤させて(開かせて)薬を入れていました。これは髪にとって手術のような負担がかかります。

     

    一方、GMTやスピエラは酸性領域(pH4~6)でも還元力が働くという特殊な性質を持っています。つまり、キューティクルを閉じたまま、髪を膨潤させずに結合を切ることができるのです。

     

    GMT(ジーエムティー)の特徴

    • 性状: 油のような液体で、使う直前に用事調整(混ぜて作る)が必要です。
    • pKa: 約7.8。
    • メリット: アルカリがなくてもしっかりかかります。仕上がりは「柔らかい」質感になります。
    • 注意点: 親水基と疎水基の両方を持つため、髪の中に入り込みやすいですが、反応制御が難しく、過剰反応するとビビリ毛になることもあります。

    スピエラ(ラクトンチオール)の特徴

    • 性状: こちらも用事調整タイプ。
    • pKa: 約6.9。GMTよりもさらに酸性側で活発に働きます。
    • メリット: 酸性域での還元力が最強クラスです。仕上がりは「ハリ・コシ」が出て、軽い質感になります。ハイダメージ毛でも弾力を取り戻したかのような仕上がりになります。
    • 最大のデメリット: 臭いです。非常に独特な臭気があり、サロン内やお客様の髪に数日間残ることがあります。

    pKa(酸解離定数)の重要性
    専門的な話になりますが、還元剤には「最も働くpH」があります。これをpKaと言います。

     

    • チオのpKa:10.4(アルカリ性でないと働かない)
    • スピエラのpKa:6.9(中性~弱酸性で全力を出す)

      この数値の違いが、なぜスピエラが酸性パーマに使われるのかの根拠です。pH6の酸性状態では、チオはほとんど眠っていますが、スピエラはフル稼働できるのです。これにより、ブリーチ毛のようなアルカリに耐えられない髪でも、安全にパーマをかけることが可能になりました。

       

    参考:WECOBASE - 還元剤のpKaと-logPow一覧(化学的スペックの根拠)

     

    参考)還元剤のpkaと-logPow 一覧 - WECOBASEW…

    還元剤のパーマのS1とS2の結合とダブル還元の理論

    最後に、検索上位の記事にはあまり詳しく書かれていない、少しマニアックですが非常に重要な「S1・S2結合」と「ダブル還元」の独自視点について解説します。これは、なぜ「複数の還元剤を混ぜるのか」という疑問への究極の答えです。

     

    髪の内部にあるS-S結合(シスチン結合)は、実はすべて同じではありません。存在する場所によって大きく2つのタイプに分類されます。

     

    1. S1結合(親水性領域の結合)
      • 場所: 髪の柔らかい部分(マトリックスなど)に多く存在します。
      • 特徴: 水に馴染みやすく、アルカリ性の薬剤に反応しやすい。
      • ターゲット: チオグリコール酸、システインが得意とする領域です。
      • 役割: ウェーブの「大きさ」や「全体的な形」を作ります。
    2. S2結合(疎水性領域の結合)
      • 場所: 髪の硬い芯の部分(フィブリルなど)や、水を弾く部分に多く存在します。
      • 特徴: 水やアルカリを弾くため、従来の薬剤では切りにくい。
      • ターゲット: システアミン、GMT、スピエラが得意とする領域です。
      • 役割: カールの「強さ」「弾力」「持ち」を作ります。

    ダブル還元の理論:農地全体を耕す発想
    従来のチオ系パーマでは、S1結合ばかりを切断していました。これだと表面的な形はつきますが、芯にあるS2結合が残っているため、すぐにパーマが落ちたり、硬い髪がかからなかったりしました。逆に、S2結合だけを切っても、全体の柔らかさが出ません。

     

    そこで生まれたのが「ダブル還元」という手法です。

     

    S1が得意な「チオ」と、S2が得意な「システアミン(またはGMT)」を同時に、あるいは順番に作用させることで、髪の内部の結合をムラなく均一に切断します。

     

    • : システアミン配合のカーリング料でS2を攻めつつ、少量のチオでS1も緩める。
    • 効果: 驚くほど低いダメージで、かつてないほど弾力のあるカールが形成されます。

    独自視点:ミックスジスルフィドの弊害
    しかし、これにはリスクもあります。「ミックスジスルフィド(Mix-S-S)」の問題です。システインなどの還元剤は、髪のS-S結合を切った後に、自分自身が髪のS(硫黄)にくっついてしまい、元に戻れなくなることがあります。これが蓄積すると髪がゴワゴワになり、後のカラーリングやパーマの邪魔をします。

     

    ダブル還元を行う際は、還元剤の濃度管理(チオ換算濃度)を厳密に行い、処理剤(中間処理)でしっかりと還元反応を止めることが、農作物の収穫タイミングと同じくらいシビアに求められます。単に混ぜれば良いわけではなく、それぞれの還元剤が「どこを耕しているか」をイメージすることがプロの仕事です。

     

    参考:パーマ還元剤の種類/特性まとめ(S1・S2結合とダブル還元の詳細)

     

     


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